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自分でバトルストーリーを書いてみようVol.24

1 :気軽な参加をお待ちしております。:2006/12/29(金) 09:09:11 ID:???
銀河系の遥か彼方、地球から6万光年の距離に惑星Ziと呼ばれる星がある。
長い戦いの歴史を持つこの星であったが、その戦乱も終わり、平和な時代が訪れた。
しかし、その星に住む人と、巨大なメカ生体ゾイドのおりなすドラマはまだまだ続く。

平和な時代を記した物語。過去の戦争の時代を記した物語。そして未来の物語。
そこには数々のバトルストーリーが確かに存在した。
歴史の狭間に消えた物語達が本当にあった事なのか、確かめる術はないに等しい。
されど語り部達はただ語るのみ。
故に、真実か否かはこれを読む貴方が決める事である。

過去に埋没した物語達や、ルールは>>2-7辺りに記される。


2 :気軽な参加をお待ちしております。:2006/12/29(金) 09:11:53 ID:???
・題材について
 ゾイドに関係する物語なら、アニメや漫画、バトスト等何を題材にしても結構です。
 時間軸及び世界情勢に制約は有りません。自由で柔軟な発想の作品をお待ちしています。
 過剰な性的表現・暴力表現を主体とした作品の投稿は御遠慮下さい。

・次スレの用意
1.長文を書き込むスレッドの性格上、1000レス消化するより先に、
  スレッドの容量が512KBに達して書き込み不可能となります。
  そのため容量が【450〜470Kb】位に達したのを確認したら、
  まずは運営スレまで御連絡下さい。書き込みを希望する方を確認します。

"自分でバトルストーリーを書いてみよう"運営スレその2(現行)
http://hobby8.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1161403612/l50

2.一週間書き込みが確認できない、又はスレッドが書き込み不可能になった場合、
  次のスレを用意して下さい。又、その時には以下を実行して下さい。

  a.旧スレにて新スレへの誘導を行なって下さい。(URL記入必須!)
  b.運営スレにて新スレを用意したことを告知して下さい。
  c.下記スレにて倉庫格納依頼を行なって下さい。
★ 倉庫格納 ★   (現行)
http://qb5.2ch.net/test/read.cgi/saku/1047244816/l50

・定期ageについて
 投稿作品が人の目に触れ易くするため、新規スレッドが立ち上がってから一ヶ月ごとのageを推奨します。
 投稿作品がある場合は投稿時にageて下さい。ない場合は「定期age」を書き込んだ上でageて下さい。

3 :気軽な参加をお待ちしております。:2006/12/29(金) 09:14:05 ID:???
・書式
 一行の文字数は最高四十字前後に納めて下さい。

・書き込み量の制限と再開
 スレッド一本の書き込み量は一人につき最大100kb前後です(四百字詰め原稿用紙約128枚相当)。
 100kb前後に達し、更に書き込みを希望される方は、スレッドが最終書き込み日時から
 三日間放置された時、運営スレッドでその旨を御報告下さい。
 この時、トリップを使用した三人の同意のレスがあれば書き込みを再開できます。(※)
 又、三人に満たなくとも三日間経過した場合は黙認と看做し、書き込みを再開できます。
 再開時の最大書き込み量は25KBです。
 反対のレスがあった場合は理由を確認し、協議して下さい。異議申し立ても可能です。

※ 騙り対策のため、作品投稿経験のある方は定期的なチェックをよろしくお願いします。 

・作品の完結とまとめ
 投稿作品はスレッド一本での完結を推奨します。
 続き物はなるべく区切りの良いところで終わらせて下さい。
 複数のスレッドに跨がって書き込む人は「まとめサイト」の自作を推奨します。

・その他、禁止事項
 誤字など修正のみの書き込みは原則禁止です。但し貼り順ミスの説明のみ例外とします。

投稿された物語の感想等は運営スレにてお待ちしております。
スレのルール等もこの運営スレで随時検討中ですので、よろしければお立ち寄りください。

4 :気軽な参加をお待ちしております。:2006/12/29(金) 09:15:47 ID:???
Q&Aです。作品投稿の際に御役立てください。

Q.自作品の容量はどう調べればいいの?
A.全角一文字につき2バイト、改行一回につき1バイト消費します。
  一行を四十字とすると、最大81バイト消費します。
  そのため自作品の行数×81で概算は導き出せます。

Q.一回の書き込みは何バイトできるの?
A.2KB、2048バイトです。
  又、最大32行書き込むことができます。

Q.書き込み時に容量が水増しされてるみたいだけど…?
A.レス番号・名前・書き込み日時・ID・メール欄、書き込まれた文章の各行頭に追加された
  空白部分などによって容量が水増しされているようです。
  当スレではこの数値は無視し、書き込まれる方の自己申告を尊重するものとします。

Q.トリップはどうやってつけるの?
A.名前の後に#(半角で)、任意の文字列でトリップができます。
  1#マイバト擦れ123abc
  …とすると、#以降がトリップ表記に変化します。尚、名前は省略可能です。

5 :気軽な参加をお待ちしております。:2006/12/29(金) 09:17:37 ID:???
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.23(前スレ)
http://hobby8.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1151260535/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.22
http://hobby8.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1133444671/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.21
http://hobby8.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1124705407/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.20
http://hobby8.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1116769985/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.19
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1106959409/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.18
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1104481409/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.17
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1101864643/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.16
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1099232806/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.15
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1097215306/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.14
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1094509409/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.13
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1092163301/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.12
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1089854742/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.11
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1086517669/
自分でバトルスト^リーを書いてみようVol.10
http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1082898104/

6 :気軽な参加をお待ちしております。:2006/12/29(金) 09:20:28 ID:???
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.9
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1079611268/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.8
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1074016593/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.7
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1067667185/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.5 (実質Vol.6)
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1063986867/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.5
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1059948751/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.4
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1054241657/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.3
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1008860930/
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.2
http://salad.2ch.net/zoid/kako/998/998659963.html
自分でバトルストーリーを書いてみよう!!
http://salad.2ch.net/zoid/kako/976/976898587.html

・作品保管所
名無し獣弐氏の過去ログ保管場所
http://sak2-1.tok2.com/home/undecidedness/storage/story.html(現在更新停止中)
にくちゃんねる過去ログ
http://makimo.to/cgi-bin/search/search.cgi?q=%8E%A9%95%AA%82%C5%83o%83g%83%8B%83X%83g%81%5B%83%8A%81%5B&G=%8E%EF%96%A1&sf=2&H=ikenai&andor=and


7 :気軽な参加をお待ちしております。:2006/12/29(金) 09:21:35 ID:???
・お役立ちリンク
2ちゃんねる 初心者が安心して質問できるスレッドガイダンス
(初心者の質問板 http://etc3.2ch.net/qa/ 派生サイト)
ttp://ansitu.xrea.jp/guidance/

スレッドの各種設定について。
ttp://ansitu.xrea.jp/guidance/?cmd=read&page=FAQ1#content_1_10
スレッドの圧縮について。
ttp://ansitu.xrea.jp/guidance/?pastlog

書き込み規制を喰らった時のための書き込み代行スレッドについて。
ttp://info.2ch.net/wiki/pukiwiki.php?%B5%AC%C0%A9%C3%E6%A4%C7%A4%E2%BD%F1%A4%B1%A4%EB%C8%C4#Writing_is_requested

・まとめサイト
各作者氏のまとめサイトです。既に落ちてしまったスレの代わり等にどうぞ。

◆.X9.4WzziA氏
ttp://masouryu.hp.infoseek.co.jp/index.html
鉄獣28号氏
ttp://www1.bbiq.jp/tetukemono/
三虎氏
ttp://www.geocities.jp/torataiger/


8 :狸と狼 [放狼記]:2006/12/29(金) 09:40:54 ID:???
 私はユーリ。理由あってコマンドウルフの中にいます。相棒のアーくんと旅をしています。
 いつものように旅をしていると、道の傍の並木に、男の人がロープで吊り下げられてい
ます。この地方の風習でしょうか、乱暴ですね。可愛想なので降ろしてあげます。
「助かりました。ありがとうございます」
疲労して息も絶え絶えに、男の人がお礼を言いました。
「一体、何があったんです」
「私はこの先にある村の者です。となり町に所用があって行ったところ、帰り道で追い剥ぎ
にあって荷物やゾイドを取り上げられ、ご覧のありさまです。
 あなたがたは命の恩人です。どうか私の家でお礼をさせてください。私の村はこの先です
から」
 アーくんは黙ったまま男の人の話を聞いていましたが、
「ユーリ、もっと話しやすいようにしてやれ」
と言ってきました。私も男の人の脳波がときどき乱れるのが気になってたんですよね。新
皮質にちょっと刺激を与えてみましょう。えい!これで抑制が利かなくなって話したいこ
と話したくないこと関係なくしゃべっちゃいますよ。
「うちの村は貧しいから、この街道を通りかかった旅人を誘い込んで、荷物を奪って生計
を立ててるのさ。油断してるところを村に入ったところで一斉射撃!どんな強い奴でもイ
チコロよ。こうやってぶら下がってると話を信じてついてくる馬鹿がいるからやめられね
ぇ。つり下げられ役の俺は大変だけどな、って、何で俺はこんなにべらべら喋ってるんだ!」
 それから人数や待ち伏せてるゾイドの数や種類や布陣や一切合財、どうでもいいこと含
めて勝手に喋ってくれました。
 喋るのを止めようとしても無駄ですよ。というか喋るまいとするために強く意識するか
ら、余計に喋っちゃうんですよね。
 アーくん、その唇を片方だけ上げる笑顔は悪人ぽいからやめましょうよ。
「いいねぇ。せっかくだからお言葉に甘えようじゃねぇか」


9 :狸と狼:2006/12/29(金) 13:55:01 ID:???
「ひええぇぇぇぇぇぇぇ!」
 猛ダッシュで村に突入すると、建物の影に隠れたゾイドを片っぱしから叩き切っていき
ます。既にどこに何が隠れているは知ってますから、私達にとっては大根を切るのと大差
ありません。
「そっちに行ったぞ、囲め」「いや、そっちだ」「うわ、助け・・・」「頭を押さえろ」
村人たちも混乱してます。
 5分と経たずに全てのゾイドを破壊し、見せしめのために建物もいくつか破壊します。
さっきまで木に吊られていた男の人は、今は私の鼻先に縛りつけられてます。人質の効果
はあったみたいで、村人はあまり攻撃してきません。
 あ、最初の悲鳴は縛り付けられてる男の人の悲鳴です。

「ごめんなさい。もうしません。これで勘弁してください」
土下座する村人達。その前にお金と宝石が山積みされています。
「なめてんのかてめぇら。これっぽっちで納得すると思ってんのか」
更に横の建物を破壊します。慌てて別の村人がお金と宝石を持ってきました。

「じゃあな。もう二度と悪さをするんじゃねえぞ」
結局、お金と宝石の山を最初に出してきた量の二倍にして、私達は村をあとにしました。
「あれだけやっとけば、もう旅人に悪さをすることはないだろう」
「そうだね、いいことした後は気持ちいいね」

 二人の旅はまだまだ続きます。


10 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:14:25 ID:???
☆☆ 魔装竜外伝第十話「引き摺られるギルガメス」 ☆☆

【前回まで】

 不可解な理由でゾイドウォリアーへの道を閉ざされた少年、ギルガメス(ギル)。再起
の旅の途中、伝説の魔装竜ジェノブレイカーと一太刀交えたことが切っ掛けで、額に得体
の知れぬ「刻印」が浮かぶようになった。謎の美女エステルを加え、二人と一匹で旅を再
開する。
 新人王戦に挑んだギル。果てしなく続くバトルロイヤルには狼機小隊・三の牙ザリグ、
四の牙マーガも紛れ込んでいた。死闘の末彼らを倒し、並みいる競合チームをも粉砕した
時、チーム・ギルガメスは優勝した。初めて手にした栄冠。勝利の美酒は、涙の味だ。

 夢破れた少年がいた。
 愛を亡くした魔女がいた。
 友に飢えた竜がいた。
 大事なものを取り戻すため、結集した彼らの名はチーム・ギルガメス!

【第一章】

 物語は二十日程前に遡る。絶望に打ちひしがれるより他なかった筈の少年が、身に余る
栄光を手にしたあの日。それより二十日程前の出来事…。

 双児の月は今晩も、山脈を覆う木々の連なりをぼんやりと照らしていた。仲の良い姉妹
の女神は惑星Ziの勤勉なる者に対し、平等に恩恵を授ける。それが例え一個人の誅殺を
目的としているのに過ぎないとしてもだ。
 だから薄闇夜の静けさを、衣裂くような音を上げてかき乱す輩さえ存在し得る。ひとた
び響き渡ればたちまち空気が軋み、地の底を揺らす。それがもう何度繰り返されたことだ
ろう。

11 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:15:47 ID:???
 音の続く先には竹林が広がっていた。緩やかな傾斜は、叩き伏せられた幾本もの青竹に
より一歩踏み入れることさえ危うい。その先で、傍若無人の振る舞いを黙々とこなすのは
弁髪の巨漢。長刀を両手で握り締め一本、又一本と竹を薙いでいく。まるまる肥えた図体
の持ち主なれど、その剣技には僅かなよどみも見受けられない。よれよれのパイロットス
ーツを傍らに打ち捨て、上着は黄ばみ汗で濡れたシャツ一枚のみ。その上からは蒸気が立
ち篭めている。
 人ならば死屍累々と形容すべきだろう、青竹の残骸を太い足で踏み付けやがてふと動き
を止めた巨漢。細く鋭い眼差しの向こうにそびえる竹は一際太く、青い。巨漢は生来の宿
敵に見立てるかのごとく長刀を最上段に構える。
 雲が風に流され、月明かりを隠すがそれも十数秒。再び月が顔を表わし、竹林を青く浮
かび上がらせるや否や巨漢は毬のごとく大地に踊った。
 着地と、袈裟掛けの一刀両断はほぼ同時に起きた。だが巨漢の動きは止まらない。首を
ぐいとひねる。長い弁髪が伸びたかと思えば先端に結び付けられたるは鋭利な刃物。弧を
描いて竹の幹に襲い掛かる。それと同時に巨漢の右腕は長刀から離れ、腰から短刀を引き
抜いていた。
 二本の刃物が続けざまに竹の幹に斬り付けられる。瞬きする程度の時間を経たその脇で、
辺りが軽く揺れた。最初に両断された竹の片割れが、ようやく大地に伏せたのだ。弁髪を、
短刀を引き抜き鞘に戻す巨漢。長刀を構え直すとしばしの残心。身じろぎせず吐いた息吹
で夜の帳がひとしきり震えた後、ようやく辺りは静寂に包まれた。
「群狼剣、お見事」
 巨漢の後方から聞こえた嗄れ声。しかしながら巨漢は何ら驚きの表情を見せない。
「ジャゼン、奥義の盗み見は感心しないな」
 影が伸びるように姿を表わしたのは、パイロットスーツの襟を立てて顔半分を覆い隠す
奇怪な男。猫背の上に両腕が極端に長く、腰には鞭二本を釣り下げている。狼機小隊五の
牙・ジャゼンの登場は誠に神出鬼没。
「デンガン、うぬの剣技を真似できる者などそうはおらぬだろう?」
 ジャゼンにそう呼ばれた弁髪の巨漢はゆっくり長刀を腰の鞘に戻した。狼機小隊一の牙
とも別称される男は背後より聞こえる褒め言葉にも何ら満足した様子を見せない。

12 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:16:36 ID:???
「剣技は、な。だがゾイド戦は如何せん、パワーが足りん」
 歯ぎしりの鈍い音さえ闇夜に響く。チーム・ギルガメス抹殺の密命を帯びた狼機小隊は、
正体不明の鋼の猿(ましら)主従に妨害された。デンガンは生身で、そしてゾイド戦で立
ち合ったが前者はともかく、後者では結局破れ去った(第八話「裏切りの、刃」参照)。
彼は言葉を続ける。
「我ら狼機小隊が乗りこなす狼型ゾイドは機体も軽く、長旅に適している。それがあの時、
裏目に出た。せめて当たり負けせぬパワーを我が相棒が備えていれば、クナイを死なせず
に済んだかも知れぬ…」
 デンガンの細長い瞳が赤い。この弁髪の巨漢、暗殺稼業を営みはするがもともとは気の
優しい好漢なのかも知れない。
 ふと右脇から差し伸べられた長い腕。赤い瞳で掌に掴まれたものを見つめるや否や、彼
は血相を変えて振り向いた。左腕だけの、長く白い手袋。甲の部分全体を覆うように、緑
色に輝く円形の計器が埋め込まれている。
「Ziコンガントレット! こんなものを何故うぬが…!?」
「野暮なことを聞くな。うぬの剣技と同じだろう?」
 剣の達人デンガンは奥義を盗み見られることによって弱点が解明されることを嫌った。
ジャゼンも又特殊な武器(二人の会話を聞く限りそうらしい)の出所が万が一敵に漏れる
可能性を恐れたのだ。もっとも両者の関係に根本的な問題があるとはデンガンと言えど知
る由もない。
「折角手にはしたが、儂の相棒には使い道がない。売り払おうかとも思っていたが、状況
が変わった。儂は万が一を恐れる」
 この時点で三の牙ザリグ、四の牙マーガの双児の戦士はチーム・ギルガメスを打倒すべ
く新人王戦の選手として試合会場に潜入したところだ。彼らが破れたら残る戦士で総攻撃
を敢行せざるを得ないだろう。その時のためにジャゼンは仲間であるデンガンにこそ使い
道のある武器を託した…表向きの理由はそんなところだ。
「かたじけない、恩に切るぞ」
 託された白手袋を握りしめると剣の達人は深々と一礼した。



13 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:18:28 ID:???
 月光を浴びた狼は歓喜の雄叫びを上げた。勿論この狼も金属生命体ゾイドの一種。体躯
は民家二軒分にも達し、黒い体皮の上に鮮明な赤色の鎧を纏った姿は乾いた光沢が眩しい。
背中には奇妙な箱を背負い、その左右には自身の身長程もある長刀と四肢の長さにも匹敵
する短刀の二本が括り付けられている。人呼んで剣狼ソードウルフ。やはり厳重に覆いか
ぶせられた兜の内、額にだけは広がる橙色のキャノピー。覗いてみれば内部にはあの弁髪
の巨漢が鎮座し、レバーを握っているのが伺える。勿論左腕にはあの白手袋…「Ziコン
ガントレット」なるものがしっかり装着されていた。甲を覆う緑色の計器に浮かび上がる
は無数の光点。それらが徐々に右往左往していく。
「アルパ、気持ちはわかるが落ち着け。うぬの体に適合したゾイドはこの通り、一杯おる」
 デンガンは相棒の名を呼びなだめた。彼自身、レバーを握る両腕が少々震えている。ひ
ょんなことから生まれた勝算。勿論確かなものにするため今一度奮闘が必要だが、それで
もつい先程までの絶望感がこうもあっさりと晴れ渡るとは彼自身、想定外のことだ。
 かくて、赤色鎧の狼は山道を駆ける。一方、その勇姿を山頂からじっと見つめる別の狼
の姿があった。鮮明な浅葱色。体格は先程の赤色狼より下回るがそれでも頭部にコクピッ
トを備え付ける程度には大きい。だが何より特徴的なのがその腹部だ。胸の側に車輪が一
枚、下腹部の側にもう一枚、計二枚抱えている。人呼んで重騎狼グラビティウルフ。
 この浅葱色の狼の頭部は鼻先から目の部分まで青いキャノピーに覆われている。内部に
はあの襟を立てた猫背の男・ジャゼンが鎮座していた。
「上手すぎる話しにはもっと注意しておくべきだな」
 ジャゼンは呟くとレバーを握る。それを合図に浅葱色の狼は踵を返した。



14 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:19:19 ID:???
 さて時間は再び物語の現在時間に戻る。
 湯気が立ち篭める狭い室内。シャワーより噴出する湯の暖かさに、さしものエステルも
特大の溜め息をついた。それだけで今日の疲れが吐き出されたが、湯を浴びる内にここ半
年近くの苦労までもが徐々に抜けていくのを実感する。新人王戦の激闘は、直接試合に参
戦できない彼女をも十分に疲労させた。何しろ試合時間中、彼女の愛弟子は常に直接目の
届かぬところにいたのだから無理もない。その上表向き、平静を装わなければいけない立
場だ。愛弟子と連絡を取る時も、周囲と接触を計る時もそう簡単には崩れない女教師。だ
がその裏で、蓄積する疲労は相当なものがある。
 肩にも届かぬ黒髪が、濡れて道標を指し示す。後を追うように湯水が彼女の背中を、胸
元を這い、流れ落ちていく。だが彼女は心地よいシャワーの愛撫に身を委ねつつも、決し
て切れ長の蒼い瞳の輝きまでも濁らせたりはしない。美貌の女教師は汗を流す間も沈思黙
考を決して忘れないのだ。

 一方、やたらと天井が高く体育館のように広い部屋では不肖の生徒がうめき声を漏らし
ている。
「あ〜そこ、そこ。うん、気持ち良いよ。もっと強く…」
 室内の一角にはふかふかのカーペットが十数畳に渡って広げられている。その上では背
の低い少年が上半身裸でうつ伏せに寝転んでおり、その傍らではパジャマを着た背の高い
美少年が正座して少年の背中をまさぐっている。二人とも湯上がりなのだろう、ボサボサ
の黒髪も赤茶けた髪もしっとりと濡れ、全身から湯気が絶えない。
「ギル兄ぃ、この辺はどうよ?」
 徐々に両手を腰の方へと下げていく美少年。彼にその名前を呼ばれたボサ髪の少年は、
その度うめき声を発している。
「うん。そこも結構、効く。はぁ…」
 恍惚の表情を浮かべるギルガメスの向こうで、不粋な金属音が響いてきた。全身に深紅
の鎧を纏った竜がうずくまっている。民家二軒分程もある体格の生き物が、その長い尻尾
を丸めつつも先端のみしこたま床に叩き付けているのだ。それによく耳を済ませば、口元
から風切るような高い音が切れ切れに聞こえてくる。どうやら声を上げて鳴きたいのを抑
えているようだ。

15 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:20:45 ID:???
「ああもうブレイカー、君はしばらく安静にしてるように先生にも言われてるだろう?
 少しは我慢しなよ」
 そう若き主人に注意され、深紅の竜はふて腐れた様子で四肢や尻尾、背中に生えた六本
の鶏冠や二枚の翼を一層丸め込んだ。これでもかつては魔装竜ジェノブレイカーと呼ばれ
畏怖の対象とされたゾイドではある。
「おやぁブレイカーさん、やきもちっすかぁ? ギル兄ぃも中々隅におけませんねぇ」
「フェイ、余りからかわないで…あひゃひゃひゃ!」
 悲鳴ともつかぬ笑い声を耳にして、深紅の竜は首と上半身を持ち上げた。視線の向こう
で展開される光景に堪え切れずピィピィと、抗議の鳴き声を上げる。
 フェイと呼んだ美少年に脇の下をくすぐられ、悶えるギル。それにしてもこの美少年は
顔芸が上手い。甘いマスクの持ち主ではあるが、今まさに浮かべる笑みは婦女子に悪戯す
る中年男性のそれと大差ない。
「や、止めろってばフェイ…ひゃん! ブレイカー、君も静かに…きゃあ!」
 若き主人の注意は全く説得力がない。彼自身が一番楽しんでいるように見える。冗談じ
ゃあないと深紅の竜はもう一方に視線を投げかけた。そこには竜よりもひと回り体格の大
きな鋼の猿(ましら)が胡座をかいている。赤銅色した皮膚の上に纏うは鋼鉄色の鎧。常
ならば右肩に乗せる筈の大砲や、背中に背負い込むミサイルが二本刺さった得体の知れぬ
鉄の箱を足下に置き、その上に長い両腕をだらりと下げ被せている。人呼んで鉄猩(てっ
しょう)アイアンコング。

16 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:22:15 ID:???
 美少年フェイを主人と仰ぎ、彼に「ガイエン」と呼ばれるこのゾイドに対し、深紅の竜
は抗議と同意を求める視線を必死に浴びせかけた。だがこの人によく似たゾイドは意に介
する様子を全く見せない。それどころか大砲を抱えると鉄の箱を枕にしてゴロリと横にな
ってしまった。非常に多くのゾイドにとって、Zi人の営みなど関心のないことだ。だが
このしぐさは少数派である深紅の竜をひどく失望させた。絶対安静を命じられた竜からす
れば、この鋼の猿(ましら)が不埒な美少年に嫉妬し引き離しでもしてくれなければ当分
彼の主人といちゃついているに違いない。竜はますますふて腐れてうずくまり、前肢の長
い爪で鉄の床に「の」の字を書き連ねた。勿論本気で力を込めたら生理的嫌悪感を発する
金属音で主人に又叱られるので相当手加減する辺り、誠にいじらしい。
「みんな、お待たせ」
 少年二人を越えた一角から聞こえた女性の声に、深紅の竜は最後の助け舟がやってきた
とばかりに歓喜で鳴いた。竜の予想通りだ。フェイは立ち上がって恐縮し、ギルは慌てて
上半身を持ち上げTシャツを着始める。
 エステルだ。美貌の女教師は上下を地味な灰色のジャージで包み、まだ乾き切らぬ黒い
短髪をタオルで拭っている。しかし他人なら何とも生活臭溢れる格好でも、姿勢を崩さず
長い両足で軽やかにモデル歩きをやってのけるのが彼女だ。どんな格好でも美女は美女。
「フェイ君、ありがとう。ギルのマッサージまでしてくれるなんて助かるわ」
「いやぁ、大したことないですよ。今日はエステルさんもリラックスして下さい」
 一方ギルは、Tシャツから首半分まで出しながらじっと二人の会話を見つめていた。湯
上がりの女教師は艶やかだ。その上フェイと合流するまでは湯上がりでも素っ裸のまま平
気でキャンプ内を歩いていた彼女が、今は普通に衣服を着ている。やはり彼としては、気
になる女性はそれなりに慎ましやかであって欲しい。そして願わくば、目前の美少年がこ
なしているようにごくごく自然に気持ちを伝えたいものだ。そう、自然に…。
 ふと、後頭部をつつかれたギル。慌てて振り向けば、深紅の竜が長い指を伸ばしていた。
少しは妬ける気持ちがわかったかとでも言いたげだ。ばつが悪そうに、少年は頭を掻いた。



17 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:23:04 ID:???
「さあ、お味はどうよ?」
 フェイの自信満々な問いかけ。師弟は返事する時間さえ惜しいとばかりにパンをかじり、
シチューをすすっている。沈黙こそ、この美少年が披露した料理の腕前に対する確固たる
賞賛の証だ。
「やるじゃない、フェイ君。私なんかより全然…」
「いやぁ、そんなことないっすよ〜」
 もう半年以上も女教師の料理を味わっているギルは、彼女がお世辞など一言も発してい
ないことに気付いていた。驚くべきはバゲットの硬さだ。幸いにして虫歯のない少年は皮
のより硬いパンを好む。女教師が少年の好みを何度も確認して覚えた焼き加減を、この美
少年はいともあっさりコピーしてきた。味わいながらも彼は、美少年に料理の腕前だけで
ない何かが見え隠れしてならない。それはゾイドウォリアーとして、いや広くゾイド乗り
として必要な何かだ。
 ところでゾイドまでも含めた彼らが落ち着くこの無闇に広い部屋は、新人王戦の開催さ
れたアンチブルの、とあるホテルの一室だ。それもゾイド乗り限定だが「スウィートルー
ム」と呼べるレベルの代物である。新人王戦にチーム・ギルガメスが見事優勝を遂げたの
は読者の皆さんも御存知のことだろう。普段不肖の生徒を厳しく叱責する女教師も流石に
鬼ではない。この日の晩はゾイドも雨風に晒さず落ち着いて戦いの疲れを癒すこととなっ
た。ギル達のくつろぐ一角には絨毯が敷かれ、テーブルとベット三つが並べられている。
反対の一角ではゾイドが真っ平の鉄の床で寝転ぶことができる。三人が夕食を続ける一方、
深紅の竜はと言えば二、三畳程もある盆上に煮えたぎる鉄塊を美味しそうにすすっていた。
これは人で言うところの粥に等しい。絶対安静を告げられている以上、自慢の顎で小型ゾ
イドを噛み砕き、喉の消化器官で溶かす…などの芸当は控えねばならない(所謂ジェノザ
ウラーの亜種とされるゾイドで良く見られる荷電粒子砲のことだ)。一方鋼の猿(ましら)
は口を開け、人の数倍程もあるタンクにチューブを差して吸っている。ゾイドの種類が違
えば食生活も全く異なるのだ。
 談笑しながら食事を進める三人。それも終焉を迎えた時、最初に会話を始めたのは女教
師だった。もっとも聡明な彼女らしく、用件は二言三言で済んだのだが。

18 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:24:52 ID:???
「ごちそうさま。フェイ君、今日は本当にありがとうね」
「いえ、こちらこそ。気に入って頂けて光栄です。又いつでも作りますよ」
「期待してるわ。…ギル」
「あっ、は、はいっエステル先生」
「落ち着いたらテラスに上がりましょう。話したいことがあるの」

 ギルはTシャツの上にパーカーという試合直前と同じ格好でテラスに上がった。それ位
身を固めていても、冬の夜は風呂上がりの体を瞬く間に冷やしていく。背後の窓から下方
を覗き込めば深紅の竜が全身の力を抜き、横たわっている。ごく自然に両者の視線が重な
ると、少年は軽く手を振り、竜は愛想良く尻尾を振った。
「ギル、今日は本当にお疲れ様。そして…」
 傍らで手すりによっ掛かっていたエステル。彼女もジャージの上からコートを羽織って
いる。左手には缶ビールが、右手にはギルが蒸留水をつめる水筒が握られていた。すっと
右手を差し出して告げる。
「おめでとう」
 言いながら缶の底を持ち、ギルの目前に差し出す。少年は女教師の真意を理解すると、
彼自身も水筒の口を缶に近付ける。満天の星空に響く金属音は乾杯の合図だ。勢い良くビ
ールを飲み干していく女教師に対し、少年は少しずつ暖かい蒸留水を呑んでいく。
 それにしても、星空が綺麗だ。天球に思い馳せつつ、手すりにもたれ掛かる師弟。只生
徒の方は、頭一つ以上も負けている身長差が少々悔しい。
「…さて、ギル。呼んだのは他でもないわ」
 女教師の一声は、少年の背筋に電気を走らせた。
「嫌ね、そんな難しい顔しなさんな。怒ったりしないから。
 話しっていうのはね…今後の進路よ。ギル、一度貴方の故郷…アーミタに、戻ってみな
い?」
 目を丸くした少年。今日の試合以上に強烈な不意打ちだ。

19 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:26:02 ID:???
「ジュニアトライアウトを不可解な理由で不合格にされた貴方は、リゼリアのトライアウ
トでは見事合格した。その上、ここアンチブルで開催された新人王戦では優勝までした。
ジュニアトライアウトの汚名など十分返上できたわ。
 だからギル、凱旋しましょう。戻って親御さんや友達に報告したら、ひとまずジュニア
ハイスクールの授業を全うさせましょう」
 ああ成る程と、ギルは理解した。彼は順当に行けば来年の春でジュニアハイスクール卒
業なのだ。今のままだと義務教育を履修し切らずに卒業年齢に達してしまう危険がある。
しかしと、ギルは口籠る。
「帰り…辛いな。何を言われるか…」
 エステルは苦笑し、ギルの肩を軽く叩いた。
「大丈夫。私もついて行くわ。行ってきっちり説明する」
 女教師の眼差しは暖かく、そして頼もしい。常ならば全てを凍てつかせかねない眼光を
放つ切れ長の蒼き瞳が、今は慈愛に満ちあふれている。気が付けば彼女の瞳の奥底にまで
見入っていた少年。二人の間を流れる時間はほんの少しだが、停止していた。
「あ、そうだ。フェイなんですけど…」
 瞳を少々丸くした女教師。
「ああ、そうね。彼にはまだ説明してなかったわ」
「できれば一緒についてきて欲しい。…駄目でしょうか?」
「私にプロポーズする気、満々よ?」
「それは困ります!」
 少々声が大きくなり、少年は誤魔化すように蒸留水を一口含む。
「そうね、やっぱり練習相手は欲しいわよね。じゃあ彼には私が…」
「ぼ、僕から話してみます。これは自分のわがままですから…」
 言うなりもたれ掛かっていた手すりから両手を離す。ぐいと残りの蒸留水を飲み干すと、
小走りにテラスを駆けていく。思い付いたら即実行とは積極的になったなと、女教師は満
足げだ。元々、夢を叶えるために家出までした根性のある少年だから、これが本来の姿な
のだろう。そう言えば心無しか、ひと回り体格が大きくなったような気がすると、彼の背
中を目で追ったその時。

20 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:27:09 ID:???
 不意に、少年の纏うパーカーが揺らいで見えた。思わず数度、瞬きした女教師。最後の
瞬きを終えたその時、彼女は息を呑んだ。
 少年の背中に、重なって見えたそれはもう一つの人影。彼女は凍り付いた。沸き上がる
感情。自ら刻む時間が今、完全に停止している。
 しかし幻は、それを背負った少年の一声でかき消された。
「早速話してみます!」
 再び刻まれ始めた時間。階段を駆け降りていく少年の姿を軽く手を振り、見送る。床を
踏み鳴らす音が遠く離れていくのを確認してから、彼女は缶ビールを握る左手をまじまじ
と見つめた。震えが止まらない。それでも意を決して口に近付けるが、今度は別の箇所が
ほころびた。切れ長の蒼き瞳が見る間に充血していく。臨界に達するのを恐れるかのよう
に胸ポケットからサングラスを取り出し、早々に掛け直す。その上で缶ビールの残りを一
気に飲み干した時、彼女の頬を伝っていったそれは一筋の涙。缶を口元から話すとサング
ラスの中央部を抑え、独り呟く。
「馬鹿ね、エステル。ギルは、ギルよ」
 緩む彼女の口元は、自嘲の微笑みで歪んでいた。

「フェイ! ちょっといい?」
 ギルが室内に戻った時、絨毯の上に美少年の姿は確認できなかった。だが声は、傍らで
胡座をかく鋼の猿(ましら)の方から聞こえてきた。
「どうしたんだよ兄ぃ、そんな大声で…」
 蓋が開くように持ち上がった猿(ましら)の兜。中から顔を覗かせてきた美少年。見れ
ば鼻水がひどいのか、ちり紙を丸めて鼻に詰めている。早速ギルは猿(ましら)の元へ駆
け寄ると大声で女教師の提案、それに自身の意志を伝えた。聞きながら相棒の差し出す掌
に乗って降りてきたフェイは、しばらく腕を組み押し黙っていたがそれも数秒。
「うん、わかったよ兄ぃ。一緒に行こう」
「本当!?」
(これでエステルさんとの愛をより一層深められると言うものだな)
「…何か言った?」
「いやいや、こちらのこと」

21 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:27:49 ID:???
 からかわれているのかそれとも本当によこしまなのかわからないが、ほぼ理想的な返事
が聞けて少年は満足した。だが、美少年の返事はそれで終わらなかった。
「それでさ、兄ぃ。その代わりっていうんじゃあないけどさ、会って欲しい人がいるんだ」
「…どういう人?」
「僕の命の恩人ってところかな。できれば今晩中に会いたいって言ってきてる」
「うん、わかった。どうせ夜が明けたらここを引き払うのだから、すぐに会うよ。それじ
ゃあエステル先生にも…」
「あ、エステルさんには内緒にしておいて」
「えーっ、何でさ?」
「兄ぃの大ファンなんだってさ。だから個人的に会いたいんだって」
 たちまち頬が弛んだギル。彼もまだ年端行かぬ。ファンと言われて嬉しいのは当然だ。
「わかった。それじゃあ会えるようになったら声を掛けてよ」
 少年は又小走りに絨毯の方へと駆けていった。途中、大あくびしていた深紅の竜にはお
休みのキスをちゃんと済ませてから。
 その様子をじっと眺めていた美少年。浮かべた笑みが不意に、悲し気なものに変わって
いたことに彼自身は気付いていなかった。
                                (第一章ここまで)

22 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:29:33 ID:???
【第二章】

 銃神ブロンコの眉間の皺は相変わらず深いが、確固たる自信を見出せつつもある。棺桶
よりは余裕のあるコクピット内、着席する彼の正面一杯に広がる巨大なモニター。写し出
された幾つものシルエット。彼らはこのテンガロンハットを被った中年男性が放つ鋭い眼
光にも、全く臆することなく会話を続けている。
「あいわかったブロンコ殿。して我らは何処に待機すべきか?」
「待機は難しい。日中は大規模なゾイドバトルの興行が催されたのだ。キャンプに滞在す
る選手を警護する名目でゾイドが一帯にひしめいている。当然、獣勇士も暗躍していると
考えられる」
「ならば『集結』でございますな」
「そうだ。警備ゾイドとの接触を避け、ひたすらチーム・ギルガメス抹殺のみを目指す」
「集結時刻は?」
「キャンプの閉門時刻が二十一時だ。夜行性のゾイドは早ければ大概二十二時以降に活発
化する。獣勇士はこの間に作戦を展開するに違いない。
 よって諸君らは、この時間内に集結できるよう調整して欲しい。交戦状態に入り次第、
我らが照明弾を放って現在位置を知らせよう。他に質問はあるか?」
 一名、挙手するシルエットがある。
「例の切り札は、使わないのですか?」
「水の総大将様は既に手を打ってくれた。最悪の事態になれば使おう。他には?」
 今ここで出た「切り札」という語に注意して欲しい。水の軍団の首領・水の総大将が動
いて獲得したというその正体は、本編最後までには明らかになる。
 シルエットは沈黙した。ブロンコは奇麗に切り揃えた鼻鬚や顎鬚を軽く指でなでた。
「なければこれにて解散だ。諸君らの協力に感謝する。惑星Ziの!」
「『平和のために!」
 五月雨のように消えていくシルエット。モニター上にはブロンコ同様狭苦しいコクピッ
ト内に鎮座する猛者二人の姿が写し出された。弁髪の巨漢と猫背の男はいずれもくたびれ
たパイロットスーツに身を固めている。対するブロンコも又いつも通り、長袖のシャツと
ベスト、ジーンズといった出立ちだ。

23 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:30:37 ID:???
「ブロンコ様、無念でございます…」
 最初に呟いたジャゼンの唇は立てた襟に隠され伺えないが、表情とは裏腹な心情の吐露
は残る二人を少々驚かせた。デンガン、そしてブロンコは共に頷くが、自らにも言い聞か
せるように言い放つ。
「仕方がない、ジャゼン。任務遂行のためには我らの誇りなど無意味だ」
「そういうことだ。チーム・ギルガメスは疲労し切っている。千載一遇の機会だ。しかし
獣勇士が加勢するという。ならば彼奴らを封じ込める戦力があれば良い…それだけのこと」
 既に「魔装竜外伝」を何度も御覧の方はおわかりだろう。水の軍団・暗殺ゾイド部隊の
面々は様々な秘術を会得しており、単騎で通常のゾイド部隊の何倍にも匹敵する実力者揃
いだ。そんな彼らだからこそ単騎で仕留められなかった場合の悔しさは計り知れない筈。
だが彼らは今や誇りなどかなぐり捨てて挑もうとしている。テンガロンハットのつばを軽
く持ち上げ、会話を続けるブロンコ。
「幸いなことに、ガイロス公国はともかく『某国』に動きは見られない。今ここでチーム
・ギルガメスを抹殺すれば『B計画』は実行不可能だ。彼らも当分の間動けなくなる。
『某国』さえ封じ込めればガイロスなど蠅のようなもの。いつでも始末できよう。
 だがここでチーム・ギルガメス抹殺に失敗した場合、彼らがガイロスの手に渡る可能性
が限り無く高まる。外交の切り札を手にした彼らが『某国』と手を握ったら…」
 頷く一同。今回彼らの敗北は即、重大な局面に繋がる。それだけは阻止せねばなるまい。
 真夜中の荒野を三匹の狼が駆ける。いずれも双児の月に照らされ金属の光沢を纏ったゾ
イドの一種だ。先行する純白の狼は王狼ケーニッヒウルフ。緑色の瞳をよく凝らして見つ
めれば、主人のテンガロンハットを被ったシルエットがくっきりと浮かんでいるのがわか
る。首の後ろに倒したスコープは有事の際には頭部全面に被さり、もともと優れた視力を
極限まで高めるもの。又、背中には自らの胴体程もある大砲二門が折り畳まれており、両
肩にはミサイルポッドと何とも物々しい出立ち。その上この純白の狼はかの魔装竜ジェノ
ブレイカーと互角の体格を有するのだ。

24 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:31:42 ID:???
 純白の狼の後を鮮明な赤色の狼と、浅葱色した狼が続く。剣狼ソードウルフと重騎狼グ
ラビティウルフだ。両者の瞳を覗き見ればデンガン、ジャゼンの個性的な顔立ちがくっき
り浮かんでいる。
 三匹の後方に伸びる影の尾。足跡と土煙が簡素な装飾を施し、着々と刻まれていくそれ
は地獄への道程だ。

 深紅の竜は顎が外れそうな大あくびをした。若干上半身を持ち上げ十数秒。終わると少
々重い溜め息を漏らす。部屋の片隅のベッドの上に、布団には入らず大の字になっていた
ギルは相棒の眠た気な様子が流石に気に掛かった。
「ブレイカー、大丈夫? 時差ボケ、ひどいの?」
 竜は軽く嘶き、同情を誘った。非常に多くのゾイドは夜行性だ。狩りに都合が良いから
なのだが、Zi人と共に暮らす上でしばしばネックになるのは言うまでもあるまい。その
上新人王戦では早朝から夕方まで戦い続けた。この相棒がいくら伝説的な存在だろうが少
々だらしなく振る舞うのは仕方ないことである。勿論、若き主人もそれは十分承知のこと。
「それじゃあ一緒に寝ようか?」
 望外の戦果だ。竜は小気味良く鳴き尻尾を振った。
 すたすたと近付くギル。小躍りして全身持ち上げようとした深紅の竜だが、主人に「こ
らこら」とたしなめられると改めてうつ伏せ、首と尻尾を行儀良く丸めた。少年もこの相
棒が添い寝を希望する箇所はよく承知している。鼻先に立つと、鉄の床に尻をつけつつも
たれ掛かる。
 少年は胸を、頬を密着させた。鋼の皮膚は冷たいが、しばらくの辛抱だ。
 竜の吐息が、次第に落ちついていく。もしこのゾイドが食べ物以上の好物を挙げるとす
るなら主人の体温であり心臓の鼓動だ。それを鼻先一杯に感じることによって、竜は日中
の戦果以上の満足感を味わっていた。子守唄のリズムで鋼の肌を優しく叩く若き主人。吐
息が、徐々に寝息に変わっていく。
 鋼の皮膚が十分温まった時、少年は身を起こした。巨大なる相棒の寝息は緩く、穏やか
だ。実際のところ完全に寝入っているわけではないが(うつ伏せで寝れば有事には咄嗟に
身を起こせる)、安心振りは灼熱の眼差しから灯火を消してしまえる程だ。

25 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:32:40 ID:???
 その一部始終を、エステルはテラスへと続く階段の上から眺めていた。本当に、良いコ
ンビになったと思う。まだまだ彼女の手助けは必要だが、それでも日常生活ではすっかり
仲良しだ。
「あっ、エステル先生」
 気付いた少年は早速小走りに近付いていく。そう言えば彼女は何故か、星空とはいえ暗
い夜中にサングラスを掛けているが…。
「夜風が目にしみたのよ。それより…そう、それは良かった」
 階段から絨毯へと降り立つ女教師は、テーブルに向かいながら少年の話しに耳を傾ける。
「私からもお礼を言うわ。フェイ君! フェイ君!?」
 足取り軽やかに、鋼の猿(ましら)の方へ向かうが、開かれたままの頭部ハッチから主
人の返事はない。何処に消えたのかと師弟は首をひねる。
「おかしいな、さっきまでガイエンのことを見ていたのに…」
「まあ、いいわ。見かけたら私に教えてね」
 言いながら女教師は気付いていた。鋼の猿(ましら)の様子がおかしい。まるで仮死状
態であるかのように静まり、ぴくりとも動かない。
(装置の大半をオフにしている。こんな夜中にメンテナンス? それとも…)
 嫌な予感が脳裏をよぎる。だが彼女は首を横に振った。
(いくらできる子だからって、それはないわ。エステル、考え過ぎよ)
 一方ギルはギルで、あの美少年は面会を希望する人物を早速連れに行ったのではないか
と推理していた。柄にもなく男と男の約束などと考えていた彼は、自分の考えを女教師に
伝えはしなかった。その判断を責めるのは少々酷なことかも知れない。
 エステルは美少年を待つことにした。テーブルには缶ビールをもう一本、載せている。
祝杯は一本のみと決めていた筈だが、少々自棄に走りたくなっていた。
「ギル、貴方は寝る支度、しておきなさいね」
 少年は生返事しつつ、手洗いに向かう。女教師は新聞をテーブルに広げた。この部屋の
マガジンラックにあらかじめ用意されていた今日の朝刊。当然、日中の試合結果は報じら
れていない。スポーツ面の一角を占める「明日、新人王戦」の見出しを眺めつつ、明日位
は記念に買ってきても良いかもね…と、彼女が何となく考えていたその時。
 ふと、広げた新聞紙の灰色が、橙色に彩られた。



26 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:35:29 ID:???
 普段手を滑らせそうにない完璧な女性が、開封した缶ビールがテーブルに落とした。麦
色の液体と白い泡がぶちまけられ、新聞紙に染み込み、端を伝って零れ落ちる。
 激しい頭痛。エステルは両の掌で頭を抱えざるを得ない。まるで鈍器で殴られたようだ。
 それと同時に、大人しく眠りについていた筈の深紅の竜までもが首をもたげた。急にそ
わそわと周囲を見渡すが、それすら終わらぬ内に女教師同様、頭部を無理矢理丸め込む。
か細い悲鳴を上げつつ耳の辺りを懸命に塞ごうとしているようだ。
 蛍光灯が輝きを失い常夜灯のみで彩られた広い室内に、魔女と竜のうめき声が響く。
「ブレイカー、貴方にも聞こえているのね…」
 女教師は不覚を悟った。古代ゾイド人の五感はゾイドにも匹敵する。だがそれ故に、常
人には聞き取り得ない高周波を耳にしてしまうことだってあるのだ。恐るべきことに今、
彼女と深紅の竜が耳にしているそれは生物を深い眠りに誘う代物。
「催眠音波! 何の、つも、り…」
 蒼き瞳を血走らせ、睡魔を懸命に打ち払おうとする。これは何者かによる奇襲だ。彼女
達が無理矢理眠らされたら残る少年達に太刀打ちできるわけがない。
 愛弟子は何処。そして何故か私を慕うハンサムボーイは。朦朧とする意識を堪え、周囲
を見渡した時、彼女の脳裏によぎった、大胆な仮説。…しかしそれは、愛弟子が猜疑心の
塊になるのを恐れ、彼女自身が頑なに拒んでみせた見解でもある。
 容疑者に抗議と弁明の要求もできず、女教師の上半身はテーブル上に倒れた。直前、投
げかけていた視線の向こうに鎮座するのはあの鋼の猿(ましら)だ。

 足早に戻った不肖の生徒は、滅多に見ない光景を目の当たりにした。悶絶する相棒。全
身を震わせ、短かめの両腕で頭を抱えて必死の形相を見せる。それが得体の知れない睡魔
に抵抗する姿だと若き主人が気付くには、経験がまだまだ浅い。
「ブレイカー!?」
 慌てて相棒の鼻先に駆け寄る。馴染み深い格好と体温を察知し、それだけで深紅の竜は
痛みが和らいだような気がした。健気な相棒は、だから懸命に首をもたげ、若き主人に注
意を促す。己以上に危機的な状態にある女性がいることを伝えなければいけない。

27 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:36:29 ID:???
 しかし竜は、辛うじて傾けた鼻先の向こうを見て凍り付いた。だるい五体を駆使して何
とかして鳴きわめこうとするまで、ものの数秒も掛からない。
 ビール缶が転がり、濡れた新聞紙が広げられたテーブルのみがそこにはあった。少年が
敬愛して止まぬ女性がさっきまでそこにいた筈だ。
「ブレイカー、エステル先生は!?」
「審判団から呼び出されたって」
 たった数秒の間に二度も鼓動が高まった。ギルの背後より忍び寄った声は、もう大分聞
き慣れているが不意打ちとしては十分だ。ばつが悪そうな表情で少年は向き直す。
「フェイ、脅かさないでよ…。それより、審判団?」
「うん、昼間の試合について色々確認したいんだって。迷惑な話しだよな…」
 そう言い掛けたところで深紅の竜が甲高く鳴いた。警笛を吹くような小刻みの響きは断
固たる抗議の意思表示。なれど若き主人はそこに思い当たろう筈がない。
「うるさいよ、ブレイカー。水の軍団の件だよな、やっぱり…だからうるさいってば!」
 若き主人に怒鳴られて、竜はしぶしぶ押し黙った。落胆しているようにも見えるが、主
人は主人で何をそんなにこだわっているのだろうと首を捻る。
「泡喰って出て行ったのかな…仕方ない、テーブルは僕が片付けよう。ああ、ところで
『会って欲しい人』は?」
 ふと背中に感じた微風はギルの問い掛けに応えるかのようだ。彼は背筋をこわばらせた。
さっきまで正面だった方角には誰もいなかった筈なのだ。と、同時に絡み付いてきたそれ
は石鹸の甘い香り。いたいけな少年の心を虜にしかねない誘惑の鎖に、彼は溜まらず背後
を向き直す。
 黒髪を破天荒に結い上げた美女。背丈は少年より拳一つ程高い。少々ふっくらとした顔
立ちに、施された化粧は何とも艶やか。白地に金銀の模様を施した豪勢な着物を纏い、ス
リットから見える太腿は漣(さざなみ)のごとき緩やかな曲線で描かれている。その風貌、
古代の絵画より浮かび上がった天女のごとしと言うべきか。
 ギルは今や敬愛する女性以外の存在が原因で鼓動を高まらせているが、それをを自覚す
るには経験がなさ過ぎた。そんなことだから目前の相手が、拘束具の形状に宝石をちりば
めた首飾りをつけて大事な部分を覆い隠していること自体、気付くわけがなかった。

28 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:37:54 ID:???
 しかし竜は、辛うじて傾けた鼻先の向こうを見て凍り付いた。だるい五体を駆使して何
とかして鳴きわめこうとするまで、ものの数秒も掛からない。
 ビール缶が転がり、濡れた新聞紙が広げられたテーブルのみがそこにはあった。少年が
敬愛して止まぬ女性がさっきまでそこにいた筈だ。
「ブレイカー、エステル先生は!?」
「審判団から呼び出されたって」
 たった数秒の間に二度も鼓動が高まった。ギルの背後より忍び寄った声は、もう大分聞
き慣れているが不意打ちとしては十分だ。ばつが悪そうな表情で少年は向き直す。
「フェイ、脅かさないでよ…。それより、審判団?」
「うん、昼間の試合について色々確認したいんだって。迷惑な話しだよな…」
 そう言い掛けたところで深紅の竜が甲高く鳴いた。警笛を吹くような小刻みの響きは断
固たる抗議の意思表示。なれど若き主人はそこに思い当たろう筈がない。
「うるさいよ、ブレイカー。水の軍団の件だよな、やっぱり…だからうるさいってば!」
 若き主人に怒鳴られて、竜はしぶしぶ押し黙った。落胆しているようにも見えるが、主
人は主人で何をそんなにこだわっているのだろうと首を捻る。
「泡喰って出て行ったのかな…仕方ない、テーブルは僕が片付けよう。ああ、ところで
『会って欲しい人』は?」
 ふと背中に感じた微風はギルの問い掛けに応えるかのようだ。彼は背筋をこわばらせた。
さっきまで正面だった方角には誰もいなかった筈なのだ。と、同時に絡み付いてきたそれ
は石鹸の甘い香り。いたいけな少年の心を虜にしかねない誘惑の鎖に、彼は溜まらず背後
を向き直す。
 黒髪を破天荒に結い上げた美女。背丈は少年より拳一つ程高い。少々ふっくらとした顔
立ちに、施された化粧は何とも艶やか。白地に金銀の模様を施した豪勢な着物を纏い、ス
リットから見える太腿は漣(さざなみ)のごとき緩やかな曲線で描かれている。その風貌、
古代の絵画より浮かび上がった天女のごとしと言うべきか。
 ギルは今や敬愛する女性以外の存在が原因で鼓動を高まらせているが、それをを自覚す
るには経験がなさ過ぎた。そんなことだから目前の相手が、拘束具の形状に宝石をちりば
めた首飾りをつけて大事な部分を覆い隠していること自体、気付くわけがなかった。

29 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:39:21 ID:???
「私が案内して差し上げるわ、ギルガメス君」
 天女の声はやけに低く、野太い。だがこの状況下では、ギルの心臓に十分、響いた。そ
して彼の心に余裕を与えないように、フェイが肩をポンと叩く。
「マリヤード姐さんだ。俺の先輩」
「え、この人もゾイドウォリアー?」
 声の低い天女は応えて囁く。
「そう。私達は貴方に是非、会って欲しい人がいるの。よろしくて?」
 にっこり返す微笑みに少年は吸い込まれそうだ。敬愛する女性とはタイプが少々異なる
が、彼女と少年を隔てる師弟という障壁に相当するものが目前の天女には、ない。それが
彼の心を一層千々に乱そうとしている。
 と、少年は不意に身が軽くなるのを体感した。深紅の竜が無言の内に彼の体を摘まみ上
げたのだ。この若き主人が抗議の言葉を口にするまでにはさっさと胸部コクピット内に突
っ込んでしまう。胸元で喚き散らす主人をハッチ越しに一瞥すると、いかにも血圧の低そ
うな溜め息をつく。その後四肢で身を軽く起こしつつ天女と美少年に向けて顎をしゃくる
のは、さっさと「会って欲しい人」のところへ連れていけという無言の意思表示だ。
「こらっ! ブレイカー、マリヤードさんに失礼だろう!」
「ふふっ、気にしなくていいわ。ギルガメス君、行きましょう。貴方の可愛いゾイドの足
ならここから五分も掛からないわ」
 かくして、この広い一室に星屑の輝きが差し込んできた。ゾイド達が集まる側の壁が、
左右に開いていく。見る間に入り込む冷気にフェイとマリヤードは少々身震いした。
「エステルさんには何とか誤魔化しておくから!」
 背後で友人の声を耳にしたギルは、フェイはそうは言ってくれるけどさてどう誤魔化し
たものかと考えていた。まあ、早めに用件を済ませばどうとでもなるかといい加減な気分
でいたのを後に深く反省することになるのだが。
 天女は夜空に漂うかのように軽い足取りで歩を進める。重い足取りで追随する深紅の竜。
依然胡座を掻いたままの鋼の猿(ましら)の前を通過しようとした時、竜は八つ当たりで
もするかのように尻尾の先端を叩き付けた。黙りこくったままの猿(ましら)は銅鐸のよ
うな鈍い音を立てるに留まる。

30 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:40:44 ID:???
「ブレイカー、どうしたんだ、何やってるんだ。フェイ、ごめん! 僕が厳しく…」
 スピーカー越しに聞こえる声に対し、美少年は何故か返事せず、手を振り見送る。彼ら
の姿はすぐに見えなくなったが、美少年はそれを確認するや否や広い室内に響く程大きな
舌打ちをし、相棒の元に駆け寄った。…そうしなければいけなかった。やはりあの深紅の
竜は歴戦の強者で、守るべき優先順位の最も高い人物の身柄を確保したあと、二番目に該
当する人物を取り戻すべくささやかながら手を打ったのだ。
 鋼の猿(ましら)は何故か、主人が接近しても身振りさえ返さない。美少年の方もそれ
が当然とばかりに相棒の腕を、肩を巧みな体術で飛び乗っていき、瞬く間に頭部まで近付
いた。腕に締めた端末を弄るとようやく猿(ましら)の兜が持ち上がる。
 中身を覗き込んだ美少年はホッと胸を撫で下ろした。…彼の友人が心を奪われつつある
女性は、座席にもたれ、激しい頭痛に苛まれたまま悪夢を見続けている。蒼き瞳の魔女と
まで呼ばれ、恐れられてきたその眼差しを自らの意志で開くことさえできないまま。この
少々とうの立った姫君を目覚めさせるのが己の使命であり、久しく描いてきた夢でもある。

 星空の下、荒野を歩む二匹の行軍は中々奇異な光景だ。先頭は言わずと知れた魔装竜ジ
ェノブレイカー…いや、今は只のブレイカー。そして後に続くのは全身紫色に彩られた石
竜(※とかげのこと)。四つん這いの姿勢故に全高だけ見れば人の数倍程度に過ぎない。
しかし背中には黒光りした巨大な帆が何本も立ち上がり、威風を倍増させている。加えて
この帆に施された精細な意匠。これが風に揺れる様子を眺めていたら夢幻の世界に引き摺
り込まれてしまうだろう。人呼んで「幻扇石竜」ディメトロドン。非ヘリック系地域では
魔獣デスザウラーと並び、至る所で英雄譚が伝えられる伝説的なゾイドだ。…ギルは通っ
ていたジュニアハイスクールで、アイアンコングらと並び絶滅危惧種だと教わっている。
「ガイエンと言い、最近珍しいゾイドによく会うよな…」

31 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:41:28 ID:???
 ぽつりと呟く。と、頭上で歯車が軋む音が聞こえてきた。現在ギルは、刻印を発動して
いない。彼がそれを、己自身で発動できないのは再三述べてきたことだ。だから彼はシン
クロにより相棒と心を通わせることができない。しかし流石に、相棒の苛立ちがピークに
達しつつあるのは気付いていた。軋む音の正体が歯軋りだということ位、彼は察している。
「ブレイカー、ごめん…」
 取り敢えず、謝ってみる。深紅の竜はようやく気持ちが伝わったのかと軽く尻尾を立て
たが、喜びはものの数秒で裏切られた。
「その…眠いところを起こしちゃって…」
 両手位余裕で広げられるコクピット内に金属音が谺した。竜は余程主人の鈍感振りが頭
に来たのか、両の親指で胸部ハッチを突つきまくる。少年は溜まらず耳を抑えた。
「ち、違うのか…。ブレイカー、いい加減教えてくれよ。本当にわからないんだ」
 胸元のハッチを覗き込むと、竜は寂し気に溜め息をついた。
 コクピット内を取り囲む全方位スクリーン。その右手の辺りで開いたウインドウにギル
は首を傾げた。無理もない、そこに写し出された映像は映りの悪いテレビ同様、嵐のよう
なノイズが走っている。
「ブレイカー、これじゃあわからないよ…」
 主人に言われ、竜は一声悲しく嘶く。あの得体の知れない音波のお陰で、竜は一時的で
はあるが視力にさえダメージを負っていた。
(でも…何かあったのは確かだ。こんなにムキになるんだものな)
 ギルはレバーをしっかり握った。シンクロできない今、これだけが相棒と一体となる唯
一のカギだ。
「よーしブレイカー、用件を済ませたら早く帰ろう」
 言われて竜は不安ながらも気丈に鳴いて、応えてみせた。背後をちらり、一瞥。今はと
にかく、用件が済み次第ホテルのスイートルームが見えるところまで戻りたい。
 それにしても、殺風景が続く。五分程しか経過していないが、辺り一体は見渡す限りの
荒野だ。もっとも、時速二百キロ程度の脚力でも五分で16キロは歩く計算になるから妥
当な状況ではある。それに案内役の紫色した石竜は既に竜の遥か後方にある。体調が優れ
なくともそれ位の健脚は発揮できた。

32 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:42:13 ID:???
「優しいのね」
 不意に、あの天女が映像伝いに囁いてくる。少年は虚を突かれ、たじろいだ。
「友達ですから」
「そう。…ああ、そろそろよ」
 主従は目を凝らし、前方を睨む。民家一軒程度にも満たないゾイドが一匹、星明かりを
背にして仁王立ちしているようだ。
「ギルガメス君。あの先にゾイドが一匹、見えるでしょう?」
「ああ、はい」
「会って欲しいのはあのゾイドのパイロットよ。それじゃあ悪いけれど、私はこれで…」
 言うなり小刻みな動きで進行方向を反転させる紫色の石竜。ギルは驚いて声を掛けるが。
「一対一でお話しがしたいんですって。だからごめんね」
 きびきびと歩を進め、石竜は遠ざかっていく。ギルは首を捻ったが、ここまで来て会わ
ないわけには行くまい。意を決し、星空の向こうへと歩を進めていく。
 夜のホリゾントは星屑に彩られ寧ろ青白いが、その中央には黒い影がくっきりと浮かび
上がっていた。深紅の竜は近付くにつれ、全身を強張らせる。星明かりの加減でようやく
浮かび上がってきた影の正体は、小豆色した二足竜。深紅の竜に極めて良く似たT字バラ
ンスの姿勢なれど、小柄な体躯はその半分程もない。しかしその風格その異様は全くの互
角だ。頭半分を無機質な兜で覆い、下から覗かせたるは緑色の瞳。両腕の三本爪は、うち
二本が包丁のように幅広い。両足には鉤爪のごとく異常発達した親指。そして背中には、
死神の鎌をも連想させる三日月状の刃が二本、左右に広がり翼ともつかぬ形状を為す。
 全身研ぎ澄まされた刃で身を固めたこの小豆色した二足竜。ギルは既視感こそあるもの
の、どこで見たのかとなると答えようもない。と、相棒が全方位スクリーンを介して教え
てくれた。「喪門小竜」レブラプター(喪門は地獄、喪門神は死神の意味)。その名前を
目にした時、ギルは合点がいった。ジュニアハイスクールの教科書にこんな奴がいた。確
かガイロス公国の伝統的なゾイドだが、これも絶滅危惧種の一種ではなかったか。
 深紅と小豆色、二色の竜が今まさに対峙を果たした。
 ギルは自らが搭乗する相棒がひどく緊張していると、肌で感じていた。シンクロしてい
なくとも、感じ取る材料は十分にある。この広いコクピット内の至る所から伝わってくる
軋みは最早、歯軋りのみに留まらないからだ。

33 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:43:50 ID:???
 それ故、次に彼が取るべき行動の選択肢は限られていた。コントロールパネルに口を近
付けると軽く咳払い。
「えー、安全のため、コクピットを開けぬ無礼をお許し下さい。ギルガメスと申します」
 声に応じたのか、全方位スクリーンの真正面に、ウインドウを開いて良いか打診するグ
ラフィックが描かれる。手動操作でウインドウを開いたギルはノイズの激しさに顔をしか
めつつも、フェイ達が「会って欲しい」という人物の正体を見極めんとじっと目を凝らす。
 相手のコクピット内と思われる室内は、やけに暗い。…いや、これは本当にコクピット
なのか。例え電気をつけなくとも計器類やモニターなどの発する光が咲き乱れる筈だ。そ
してそんな明るさの失われた室内であるにも関わらず、中央で腕を組む男は目を細めるこ
ともなく余裕綽々とこちらを見つめている。その表情を一目見た時、ギルは何故映像の向
こうがあれ程薄暗いのか何となく理解した。全身黒尽くめ、程よく頬がこけ、散髪や鬚の
手入れも行き届いた優男の唯一奇妙な造作はその眼差し。これだけは青や緑といった様々
な色に変化する上に、瞬きすらせずこちら目掛けて刮目を続けている。少年は義眼という
ものを初めて見た。
「いやいや、私もいきなり呼び出しして申し訳なかった。
 お初にお目にかかるよ、ギルガメス君。まずは新人王戦、優勝おめでとう」
 深々と一礼した義眼の男。ギルは相手も意外な物腰の柔らかさに驚きを隠せない。
「あ、ありがとうございます! それより、貴方は一体…」
 義眼の男は笑みを絶やさぬ表情を浮かべ、語り始めた。
「私はレガック・ミステル。ファーム・ワイバーンのオーナーだ」
 ギルは息を呑んだ。ファーム・ワイバーンの名前を知らぬ者などゾイドバトルの世界で
はモグリと言える。ファーム・デュカリオン、ファーム・ニューヘリックらと並ぶ名門中
の名門。今や惑星Ziの至る所に強豪チームを派遣し、一大勢力を誇っている。
「な…何故ワイバーンのオーナーが僕なんかと…」
 映像越しに見える義眼の男は少々目を丸くした。
「ははは、ギルガメス君。君はもう少し自信を持った方が良い。
 私はフェイのオーナーでもあるんだ。彼も私がスカウトした」
 その一言に、ギルの脈拍が上がっていく。直感が彼を身じろぎさせた。

34 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:47:07 ID:???
「単刀直入に言おうか。ギルガメス君、君をファーム・ワイバーンにスカウトしたい」
 密閉された室内であるにも関わらず、ギルの全身を冷気が襲った。冷や汗とも言う。

 星空は少年の宿敵に対しても平等に道標を与えた。荒野を失踪する狼、三匹。舞い上が
る土煙は小山を、丘を駆け登る度、時折飛行機雲のように鋭い軌道を描く。
 モニターに展開された的確なナビゲーションは、次の山を越えれば宿敵の拠点まで目前
と知らせた。意気上がる三匹とその主人。しかし試練が下されるのも平等だ。最初に銃神
のコクピットが、次いで残る二人のコクピットが振り子のごとく、揺れた。訝しみはした
が動揺することなくブレーキを入れる三人。 ここまで全力疾走してきた三匹は、停止の
際も全力だ。前肢を揃え、滑り込めば横薙ぎの土煙が虚空へと突き上がる。百メートルも
滑っただろうか。並みのゾイドなら制御など聞かず数百メートルも滑り込んだ挙げ句、転
倒でもしそうなところ。
「デンガン、ジャゼン、お前達もか?」
 銃神が左右を振り向けば。
「制御系統に急激な負荷が掛かっています…ほらアルパ、しっかりしろ!」
 相棒を叱咤するデンガンだが、主人の意に反してぴくりとも動かない。彼の相棒のみな
らず、水の軍団が誇る狼型ゾイド三匹が皆一様に、腹這いになったまま動作を拒んでいる。
…いや、彼らの四肢が左右に震え、爪が地面を傷つけているから動作する意志があるのは
間違いない。
「こっちもだ、デンガン。急に何故…むぅ、これは」

35 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:48:54 ID:???
 首を捻るジャゼンの目前、ナビゲーションの示す地図には本拠地を示す赤い光点の付近
に紫色した光点がぼんやり、浮かび上がっている。
「成る程、電子戦ゾイドだ」
 眉間に皺を寄せる三人。目下、彼らの宿敵の下には所謂決戦ゾイド一匹と汎用性に優れ
た大型ゾイドが一匹、控えているのみの筈だ。
 勿論、それしきで動じる彼らでもない。
「そういうことならこちらにも考えがある。デンガン、ジャゼン。…、…」
 部下に指示を送るや否や、不思議なことが起こった。十秒か、二十秒か、経過した後突
如、立ち上がった三匹。早速失踪を再開するが、奇妙なのは先程までとは動作があまりに
ぎこちないこと。この種類のゾイドならではの優美な動きがいつの間にか失われているが、
思いのほかしっかりとした足取りで大地を踏み締めてもいる。この状況を読者の皆さんも
しっかり目に焼きつけておいて欲しい。たった今、かの魔装竜ジェノブレイカーを持って
しても防ぎ切れなかった妖し気な術が、彼らによっていとも簡単に破られたのだ。
「獣勇士め、味な真似を。だが猿知恵の代償は自分で購え!」
 三方に別れ行く狼、三匹。お膳立てが整うのは時間の問題だ。
                                (第二章ここまで)

36 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:50:20 ID:???
【第三章】

 栗色髪の若者が、溜め息を続けている。成人したかどうか微妙な位、幼い顔立ち。なれ
どしかめ面の中に見える瞳の輝きは穏やかに過ぎ、それが外見以上の強靱な意志と豊富な
経験を感じさせてならない。
 若者はゆったりとした民族衣装を纏い、腕組みしつつ広いソファに着席している。衣装
の袖は誠に広く、振れば翼のようにも見えよう。だから互いの腕を袖の中に入れ交差させ
ている。その姿勢のまま時折前後に体を揺らす。ゾイド将棋の次の一手に悩むかのようだ。
「あのー、申し訳ないんですがー」
 周囲をぐるりと見渡す。誰もいない…どころの話しではない。この広く清潔な一室、よ
く観察してみればドアというものがないのだ。見渡す限り純白の壁、壁。一応手洗いは存
在するが、室内の隅に切り開かれたそのスペースにはドアがない。その上天井だけはやけ
に高く、吹き抜けのような構造になっている。見上げてみれば、天井付近の外周は完全な
ガラス張り。それなりの体術を駆使でもしない限りこの部屋から脱出は不可能だ。勿論、
張り巡らされたガラス内には何本もの針金が通されているため、叩き割って簡単に脱出で
きるようなレベルでもない。
「テレビ、見たいんですよー。今日は新人王戦ですから、せめてスポーツニュース位…駄
目ですかー?」
 情けない声を上げているようには見えるが、彼が正体を隠そうとしているのは懸命な読
者の皆さんなら御存知だろう。それはこの男もお見通しだ。
「新人王戦の結果は君の期待通りの結果に終わったよ、ヴォルケン・シュバルツ君」
 声の主は頭上の窓ガラスからぬっと、上半身だけ覗かせた。全身水色の軍服・マント、
そしてベレー帽に身を固めた男。馬面と形容できる長い顔。短く刈り揃えた頭髪は誠に精
悍。その上頬はこけ、落ち窪んだ瞳は守宮(やもり)のように大きく、禍々しいまでの覇
気や才気をほとばしらせている。
 ヴォルケンと呼ばれた若者は頭上を見上げ、圧倒的な威圧感を発する男の声に耳を傾け
たが、すぐに不満げな表情に変わった。

37 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:51:06 ID:???
「ちょっと待って下さいよ、『水の総大将』さーん! 開口一番結果をばらすなんてあん
まりじゃあないですかー」
「連続テロ事件首謀者の嫌疑が掛かった君に、必要以上の情報を与えるわけにはいかん」
 異相の男は若者の調子に合わせるつもりなど微塵も伺えない。若者がついた溜め息は呻
き声に近い。
「いやー、それも濡れ衣ですよー。大体、幾ら僕がシュバルツ家の生まれだからと言って、
そんな無意味な争い事を引き起こしたりなんか…」
「しないだろうな。私もそう、思う」
 異相の男の切り返しに若者は初めて、目を見張った。
「テロリズムごときで世界を混乱に陥れることはできよう。だが、その先にある筈の恒久
的な平和には、辿り着くことなどできまい。テロは、どこまでもテロでしかない…それが
君の持論である筈。お陰で他の留学生諸君には相当嫌われていたそうじゃあないか」
 若者は乾いた笑いを浮かべた。この御仁との会話は、心の潤いなどあっさり枯れ果てる。
「カリスマ失格、動機不十分な僕を捕らえたわけですか…」
「そしてあと数日もすれば、釈放される。君は無実を訴えるのかも知れない。それによっ
て法務大臣が赤恥を掻くかも知れない。だがそんなことは、どうでも良いのだ。
 名より実を重んじる君に、あれを渡すわけにはいかないからな!」
 異相の男は守宮のような瞳を一層大きく見開いた。飄々とした若者も流石にそれを軽く
いなすには至らず、冷や汗を苦笑で誤魔化すに留まった。

「ぼ、僕を…ファーム・ワイバーンに…」
 ギルガメスは武者震いを体感し、思わず右手で左胸を抑えた。
 過去にも度々登場したこの「ファーム」という語について解説しておこう。直訳すれば
「牧場」。その多くが零細・個人事業であるゾイドバトルチームの内、特に見込みのある
者をスカウトし、集めた巨大な企業体のことを指す。

38 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:53:10 ID:???
 全てのゾイドウォリアーは資格を獲得したら即、ゾイドウォリアーギルド(第四話など
参照)に入会し、試合を斡旋してもらうことができる。但しギルドは組合の一種であり、
全ての所属選手に対し、なるべく平等にチャンスを与え、平等に拒否権を与える(例えば
極端なミスマッチを受ける必要はない!)。そのため限られた人間が莫大な利益をあげた
り大損したりすることは少ない。これがファームだと、優秀な選手には過剰なまでにチャ
ンスや拒否権を与えられることとなる。つまり平等主義がギルドであり実力主義がファー
ムだ。但し行き過ぎた実力主義はしばしばひどい商業主義となる。芸能活動や「広告模様
のゾイド」、果ては八百長など、ファームがゾイドバトルを歪めてしまう例も少なくない。
 さてギルがスカウトされたということは、彼に優秀な選手であるとの評価が下されたこ
とを意味する。田舎町でゾイドウォリアーを目指した挙げ句、一度は挫折した少年にとっ
てそれは望外の栄誉だ。
「契約金だが百万ムーロア(1ムーロア=百円程度)用意しよう。年俸も百万。締めて二
百万ムーロアの三年契約でどうだろう」
「ちょちょ、ちょっと待って下さい! そんな、いきなり言われても…」
 義眼の男が事も無げに述べていくものだからギルはすっかり慌ててしまった。大体、日
中行われた新人王戦の優勝賞金が約五万ムーロアだ(内一万程は深紅の竜が「食べた」)。
あれ程厳しい戦いに勝ち残ってもこれ位しか貰えない。それにこうして獲得した賞金の大
半がゾイドの維持費に消えてしまうことは間違いないのだから、義眼の男が提示した金額
は破格も良いところである。
 だが、彼の提示した契約内容はこれには留まらなかった。
「…それだけじゃあない。フェイから聞いたが、今まで君は練習相手を探すのさえ苦労し
ていたそうじゃあないか。ならば契約期間中はパートナーとして彼をつけよう」
「えっ、フェイもファーム・ワイバーン所属なんですか?」
「そうだ。彼以外にも我がファームには若く優秀な選手が沢山所属し、各地に派遣されて
いる。君は今後、対戦相手の傾向に応じて練習相手を変えることができる。…何より沢山
の友人が、できる」

39 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:54:11 ID:???
 ギルは目を白黒させた。パニック状態とも言える。この半年に感じた悲壮なまでの孤独
感が嘘のようだ。彼はにわかに全身が軽くなり、フワフワと飛んでいくような感触を覚え
始め、一抹の不安さえ抱きつつある。…だがそれでも、心の片隅では(話しが上手すぎる
だろう!)とちゃんと言い聞かせる自分がいた。
 そんな少年の円らな瞳を覗き見たのか、一息入れた優男は義眼を増々妖しく輝かせる。
しっかりした口調は切り札を使う自信そのもの。
「そして何より、君の名誉を回復させたい。
 聞くところによれば、君は不可解な理由でジュニアトライアウトを不合格に処されたそ
うじゃあないか。実戦テストで三戦全て一本勝ち、筆記ほぼ満点、健康に異常なし。文句
の付けようがない成績を上げたのにも関わらず君は不合格となり、しかも理由は全く説明
されずじまいだとか。
 そういうことならファーム・ワイバーンのオーナーである私が直接ゾイドバトル連盟に
働きかけようじゃあないか。君が望むなら法廷に持ち込んでも良い。君に擦り付けられた
人生の汚点を、私が拭い去ってみせる」
 最後の一言に、ギルは生唾を呑み込んだ。押さえられたTシャツの左胸がくしゃくしゃ
になっていく。その付近に決して癒されることのない精神的外傷が刻まれているのかも知
れない。
 もし少年がジュニアトライアウトを不合格に処されてさえいなければ、今日までの修羅
場をくぐり抜けることはなかった筈だ。あの事件は人生を百八十度変えた。彼の名誉はは
く奪され、金銭に恵まれることもなく只ひたすら負け犬としての人生を全うする以外に選
択肢を与えられなかった。絶望を乗り越えるために彼がどれだけの努力をし、又さらなる
苦難に見舞われたか「魔装竜外伝」を御覧の読者ならばおわかりであろう。

40 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:55:30 ID:???
 ギルの息遣いが、荒い。今や彼の脳裏は雪色にかき消されてしまい、決断も覚束ない。
そんな中、頼んでもいないのに思い浮かんだ一場面。…自分の部屋の片隅に、叩き付けた
不合格通知。布団に包まって一晩中泣きわめき、それでもジュニアハイスクールに登校し
なければいけなかった夏のあの日。目の下一杯に隈を浮かべた少年が通り過ぎる時、誰も
が押し黙った。ひそひそ話しする必要さえなかったのだ。彼の努力は並々ならぬのかも知
れない。だがその過程でいつしか高くなった天狗の鼻がものの見事に叩き折られ、それが
傍目にはどうにも治しようがないと発覚した時、周囲は一斉に嘲りの眼差しを投げかけた。
あの瞬間が、皮膚感が、ついさっきの出来事のように思い出されていく。少年は鷲掴みし
た胸に爪を立て、痛みを代価に記憶の復活を阻止しようとするが、その程度では止む気配
を見せない。
 だがその奥底に、それでも相棒の囁きは届いた。…思わず天井を見上げたギル。全方位
スクリーンに囲まれたコクピット内に相棒の姿は映らない。だがその声は確かに聞こえて
きた。深紅の竜はいつしか胸部ハッチを不安げに凝視し、何度も首を傾げる。現在若き主
人とはシンクロしていないが、それでも彼がすっかり息を乱していること位、容易に理解
できることだ。ピィピィと、囁くように鳴いて主人を気遣う。堪え切れず苦笑した彼は、
我に返ったことを自覚した。
「レガックさん、すみません。この話し、なかったことにして頂けませんか」

 マリヤードが浮かべる笑みは、みだりに手を触れれば火傷する小悪魔のような可愛らし
さがある。この天女は二足竜の主人二人のやり取りを、遠方で耳を澄ましながら聞いてい
た。もっとも耳代わりは彼女(彼)の相棒である、紫色の石竜が背負った稲穂のごとく揺
れる扇が務めているのだが。幻扇石竜ディメトロドン「バショウ」は会談を邪魔する者を
早急に察知すべく電波の網を一帯に巡らしているところだ。
「ふふふ、レガック。初心なガキは金や名誉じゃあ案外釣られないものよ?」

41 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 17:56:20 ID:???
 同僚が迎えつつある意外な窮地さえ、この天女にとっては娯楽でしかない。だが耳を済
ませる一方で、モニターや各種コントロールパネルへの注意を怠ることはない。そんな彼
女の表情が一変した。察知した状況の急変に対し、極めて男性的に瞠目する。
「バショウ、何よこの熱源は!? 一体いつの間に…」
 今まで映し出されることのなかった赤い光点がモニターに描かれている。会談する二人
のすぐ近くだ。すぐ後に表示された分析結果を見て、天女は気色ばんだ。
「何てこと…! レガック、レガック!」

「ちょ…ちょっと待ってくれ、ギルガメス君。私は君に対し、十分満足して頂ける条件を
提示したつもりだ。金銭面だけではない、精神面でも凡そ考え得る妥当なものを用意して
みせたと自負している。君の誇りを取り戻すことさえ誓ってみせたではないか。
 一体、何が不服だと言うのか? 教えてくれ」
 義眼の男の冷静な表情に、初めて動揺が垣間見えた。だが少年にしてみればそんなこと
は察知していないし、したところでどうでも良いことだ。彼は彼なりに誠実な回答をする
こと以外、考えていない。
「不服とか、そういうんじゃあないです。その…上手く言えないんですけど、僕には大事
な仲間がいます。彼らとは地獄さえ分かち合いました。
 気が付けば僕は、彼らに報いるために戦っていました。この気持ちだけは譲れない。…
レガックさん、半年前、ジュニアトライアウトを不合格にされた僕をもし見かけたら、無
条件でスカウトしてくれましたか?」
「そ、それは…勿論だ! 今の君の実力を考えれば、片鱗を感じられない筈が…」
「でも、貴方と出会うことはなかったんです。こればっかりはイブの配剤とでも言うしか
ありません。申し訳ありません、本当に…」
 ギルがスクリーン越しに深々と頭を垂れたその時、事態は風雲急を告げた。今やはっき
りと苦悶の表情を浮かべたレガック。彼を一層苛立たせたのは、義眼に描かれた映像の左
下に、割り込むように展開されたウインドウだ。
「ちょっとすまない、ギルガメス君…どうしたマリヤード!」
「やたら小さな熱源が、そっちに向かっているわ。ちょ…ちょっとこれ速過ぎる!」

42 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:02:01 ID:???
 義眼を剥いたレガック。映像の右下にウインドウが開かれたのはほぼ同時だ。普段なら
ゾイドに匹敵し得ない小動物として割り切ってしまいそうなその熱源を凝視した時、彼の
経験が正体を見抜いた。
 銃声が数発、響いたのと「伏せたまえ、ギルガメス君!」と義眼の男が叫んだのはほぼ
同時だ。
 ギルは一発目の銃声を耳にした時、彼のゾイドバトルのキャリアでも中々経験したこと
のない異変に見舞われた。突如輝きを失った全方位スクリーン。少年が眼を開いた時、星
屑の煌めきが薄暗いコクピット内に入り込んできた。にわかには理解しがたい状況を、追
い掛けるがごとくこの暖かな室内に飛び込んできたのは鋭い冷気。彼は事態をようやく理
解した。コクピットハッチが、勝手に開かれ内部を晒そうとしている!
 慌てて両腕を伸ばす少年。その勢いに圧倒的な重力が上乗せされる。拘束具で上半身を
完全固定されたギルだが圧迫感の厳しさには歯を食いしばるより他ない。
 不意のアクシデントをどうにか防ぎ止めたのはやはり深紅の竜であった。短かめな両腕
と首でコクピットを覆いつつ、荒野に倒れ込む。竜の頬を、肘や二の腕を尚も数発の銃声
が襲い掛かるが、更にその前に竜の翼が覆い被さり、ひとまず奇襲は防ぎ止めた。ギルは
必死で息を整えようと肩で息する。それと同時に半開したハッチはどうにか閉まり、全方
位スクリーンが輝きを取り戻した。少々ノイズがひどいのはやむを得まい。
「ブ、ブレイカー、大丈夫?」
 主人の声に応じて開かれたウインドウ。内容を見た時、彼は奇襲の仕掛人を直感した。
相棒の胸部や腕部に刻まれた小さな、しかし鋭い傷はAZ(アンチゾイド)マグナムの正
確な銃撃によるものだ。深紅の竜は胸部を凝視して主人の無事に安堵し、次いで銃撃の方
角を睨み付けた。その動きに合わせるかのように、小豆色した二足竜も視線を投げかける。
 星空を背にした銃神が、ゾイド数匹分も離れた位置で立ち塞がった。マグネッサージャ
ケットを羽織り(第八話「裏切りの戦士」参照。背中にマグネッサードライブが埋め込ま
れており短時間ながら高速飛行可能)、自慢のテンガロンハットを被り直す余裕を見せる。
「じゅ、銃神…ブロンコ!」
「不用心だな、坊主。まさかゾイドの中なら安心だとでも思ったのか?」

43 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:03:00 ID:???
 正直なところ、彼は内心少々悔しい。一瞬ではあるが使命達成の好機は確かに掴みかけ
ていたのだから。だが本番はこれからだと心中で言い聞かせると、慣れた手つきでAZマ
グナムのシリンダを開け、空薬莢の排出と弾込めを計る。
 一方レガックは記憶の糸を辿り、あの鬚面への見覚えを自覚していた。所謂ブラックリ
ストを彼らも当然まとめていたのだ。その上で、舌打ちし掛かった口元を押さえると一般
人を装おうと努める。
「ブロンコだと? 水の軍団の暗殺者か! 私達に何の…」
「茶番はその程度にしたらどうだ、ファーム・ワイバーンのオーナー・レガック。
 いや…シュバルツセイバー獣勇士筆頭、レガック・ミステル!」
 銃神の吐いた言葉に義眼の男は唇を噛み、少年は後頭部を殴られたような衝撃を受けた。
シュバルツセイバーと言ったらかつて民主主義の御旗の下に各地を侵略して回ったヘリッ
ク共和国に対し、最後まで抵抗したガイロス帝国(当時)が誇った精鋭部隊の名前ではな
いか。既に歴史の教科書中にしか存在しない筈のものなのだから、日常会話で耳にしたら
当然鼻で笑うところだ。しかしこの言葉を用いた本人は、幾度となく少年を窮地に立たせ
た水の軍団・暗殺ゾイド部隊の刺客なのだ。それ故に宿敵の言葉は異様な説得力がある。
 だから少年は、問い掛ける相手を選んだ。
「…レガックさん、これはどういうことですか」
「い、言い掛かりも甚だしい! ファーム・ワイバーンはゾイドバトル連盟に正規の認可
を頂いた組織だ。シュバルツセイバーだとか、お伽話みたいなことを…!」
 銃神はAZマグナムを握った右手の甲で鬚を撫でると鼻で笑った。
「そうだな。貴様らは正規認可を受けたファームとして勧誘した。
 しかしその真の狙いは、チーム・ギルガメスの拉致だ!」

 民族衣装を纏った若者は、努めて無表情に頭上をの窓ガラスを眺める姿勢を維持してい
た。今はとにかく、情報が欲しい。たとえそれが宿敵の言葉であろうとも。
 窓ガラスの向こうでは、馬面した異相の男が若者に劣らぬ不動の姿勢で覗き込んでいる。
やがて彼は、とうとうと語り始めた。意外にも神妙な表情からは何らの思惑も感じ得ない。

44 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:03:48 ID:???
「シュバルツ家と言えばガイロスの名門じゃあないか。三男坊とは言え帝王学を学んで当
然の者が、ヘリック共和国が誇るゾイドアカデミーに敢えて留学した。私は君の履歴に感
動さえ覚えていたよ。母国に不足しているものを本当によく理解している。
 敗戦後、民主化の名の下に弱体化したガイロス公国において、ファームが結成されるこ
とをゾイドバトル連盟は…ひいてはヘリック共和国は容認した。かくして結成されたファ
ーム・ワイバーンは優秀なゾイドバトルチームを幾つも輩出し、母国に外貨獲得や兵士育
成の機会を与えた」
 若者は諸手を左右に広げ、苦笑と溜め息で応えた。
「いやだな…それを言ったら共和国にも他の民族自治区にもファームは沢山あります。有
事には真っ先に徴兵対象になる彼らの存在を、貴方達はいずれも黙認しているではありま
せんか」
 異相の男は若者の挑発的な姿勢などさして気にも止めない。
「それで事足りるから、黙認しているのだ。
 諸君らには、技術がない。何しろ『最後の大戦』のガイロスはじめ敗戦国は、共和国軍
にゾイド技術の大半を接収されたのだからな。中でもガイロスが抱えていたオーガノイド
システムは垂涎だ。ゾイドの繁殖・改良に至るまで、共和国が二千年に渡っても尚到達で
きなかったレベルに諸君らは千年前、既に到達していたと言うではないか。もっとも我々
は、その延長上で発覚した某国のB計画を恐れ、オーガノイドシステムの封印を決断した」
「へえ、B計画はオーガノイドシステムと関係あるのですね?」
 若者は再び腕を組み、感心した風を装ってみせた。半ば本心だ。頭上に見える異相の男
…水の総大将は余りにも事情に精通し過ぎている。それ自体は収穫だが、相応の覚悟はし
た方がよさそうだ。
「何を今更。トップレベルのゾイド工学者ならドクター・ビヨーの悪魔の研究を知ってい
るだろう。
 話しを戻そう。諸君らはB計画以前の問題としてゾイド技術が慢性的に足りない。そん
な時、現れたのがチーム・ギルガメスだ。あの少年が駆る魔装竜ジェノブレイカーこそは
オーガノイドシステムをもっとも体現したゾイドだ。これ以上はない最高のサンプルを、
諸君らが手にしようと思わない筈がない」



45 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:05:06 ID:???
 戦慄くギルガメス。唇の震えが止まらない。憤りと悲しみがない交ぜとなり、それらが
融合して爆発するのを抑えるべく必死で拳を握り締めて堪えているが、遂に意を決した。
 土砂舞い上がらせた深紅の竜。勢いのまま旋回、踵を返すと瞬く間に翼を広げ、背負い
し鶏冠から蒼炎を吐き出す。主人の堅い意志に従うこの相棒は、背後の宿敵も客人も顧み
ようとはしない。まずは第一段階成功とばかりに不敵な笑みを浮かべる銃神。反対に義眼
の男は予想を越えた展開に苛立ちを露にする。
「ど、どこへ行くのだギルガメス君!」
 少年は全方位スクリーンでのみちらり、横目で見ると吐き捨てるように呟いた。
「決まっているでしょう、貴方達より余程信頼できる人のいるところです!」
 言い放つとレバーを引き絞る。竜が数歩、地を蹴り舞い上がらせるだけでスクリーン上
に表示される走行速度は時速三百キロに達した。急激な重力を全身に叩き込まれ、少年は
身を反り返し歯を食いしばる。刻印を発動していないがために、相棒がこの程度の速度を
発揮しても主人には相当な負担が掛かるのだ。だから気休めとわかっていはいるが、竜は
両腕で胸元をひしと抱き締める。今、このゾイドにできることは相棒の心に刻まれかけた
傷口を塞ぐべく、ホテルに戻って真相を確認することだけだ。
 ほくそ笑む銃神。だが危機を察知するや否や、腰のベルトに手を当てる。埋め込まれた
スイッチに反応し、ジャケットの背中に埋め込まれたアコーディオン状のパーツが光の粒
を噴出開始。その場に叩き込まれた鉈状の巨大な爪を軽やかに飛び跳ね、回避する。
 爪の正体は無論、小豆色した二足竜・レヴラプターのもの。頭部コクピット内で主人が
吠える。
「折角の商談をよくも滅茶苦茶にしてくれたな…!」
「商談? そんなものが御破算になろうが拉致はできよう。準備も整えてきたのではない
か?…しかし!」
 AZマグナムの銃口を天に向ける銃神。解き放たれた銃声は思いのほか軽いが、直後一
帯を包み込んだ閃光に義眼の男は歯ぎしりすることしきり。これは照明弾だ。と、同時に
辺り一帯に叩き込まれた銃弾、砲弾。西方からは王狼ケーニッヒウルフ「テムジン」が、
東方からは剣狼ソードウルフ「アルパ」そして重騎狼グラビティウルフ「ゼルタ」が疾駆
の開始。

46 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:05:58 ID:???
 ところで先程ディメトロドン「バショウ」による秘術により半ば操縦不能に陥っていた
彼らだが、どうやって危機を脱したのだろうか。
 コクピット内で滅多矢鱈にレバーを弄り、ボタンを連打する巨漢デンガン。だがその手
つきは明らかに正確さを維持している。
「高周波金縛りの術にはマニュアル操作で返すのが定跡だな!」
 奇怪なる男ジャゼンも鮮やかな手つきは同様に、襟の下で不気味な笑みを浮かべる。
「我ら暗殺ゾイド部隊相手に仕掛けたのが運のつきよ」
 電子戦ゾイドが不気味な秘術で敵を窮地に陥れるのは、ゾイド自身がZi人を遥かに越
えた超感覚を備えているからである。例えば耳の良いゾイドはそれにしか聞こえない催眠
音波に翻弄されるわけだ。こうした秘術を封じるには、パイロットがゾイドの操縦を殆ど
引き受けてしまえば良い。モニターも介さず裸眼で戦況を見つめ、己が耳で敵の足音を察
知する。如何なる敵の動きにも自らのレバー裁きで決着をつける。「マニュアル操作」で
電子戦ゾイドの秘術は相当、破ることができるのである。だがこれが如何に危険な技術か、
読者の皆さんも御理解できよう。作戦を実行するためにはゾイドが操縦の権限の殆どをパ
イロットに委任しなければいけない。言わば仮死状態に陥るわけで、ゾイドとパイロット
の絶対的な信頼感系がなければ実現不可能である。更に、実現できたとしてもゾイドに任
せてきた要素をパイロットが一手に引き受けるため、負担は尋常ならざるものとなる。ま
さに秘術は秘術をもってでこそ、初めて破れるのだ。
 二足竜のいる辺りを瞬く間に爆炎が包む。流石に極限までのマニュアル操作で正確な射
撃が望めないのは前述の通り。だがそれで良い。彼らの真の目的は…!
「見えるか、ジャゼン!?」
 頭部ハッチを開き、怒鳴るデンガン。応じてジャゼンもハッチを開ける。弁髪が、立て
た襟が突風になびき倒れる。
「無論だ! あの邪悪なシルエット、まさしく魔装竜ジェノブレイカー!」
 義眼の男も負けてはいない。舌打ちすると義眼を禍々しく点灯させる。
「マリヤード、第一段階は失敗だ!」
 ノイズのひどい映像が天女のモニターにも届く。
「仕方ないわね」

47 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:06:45 ID:???
 唇を噛み締めた天女は義眼の男の求めに応じ、コントロールパネルの操作に踏み切った。
途端に石竜が四肢を踏ん張り、身構える。背負いし黒帆がゆらゆらとはためき、紋様をな
ぞるように青白く明滅。
 相方の様子を上半身をもたげて確認するや否や、弓のごとく舞い上がった二足竜。蠅の
ごとく動き回る銃神目掛けて両腕振り上げ、襲い掛かる。たちまち大地に刃が刻み込まれ、
土砂が跳ねる。
 最早、言うまでもないだろう。義眼の男も怒濤の勢いでレバーを捌き、コントロールパ
ネルを叩いている。相方の秘術は彼ら主従も少なからず損害を被るため、あらかじめマニ
ュアル操作していたのだ。だがその軽やかな身のこなしは、明らかに従来のマニュアル操
作とは一線を画すもの。対する銃神も羽毛が舞うがごとく際どい動きで振り降ろされる爪
をかわす。
「成る程、貴様が義眼である理由、噂通りだな。オーガノイドシステムのシンクロ技術を
復活させるべく自ら実験台になるとは敵ながら見上げた根性!」
 二足竜の背中を砲撃が襲う。爆風に銃神は左方に、二足竜は右方に吹き飛ばされるがい
ずれも心乱すことなく立ち上がる。
 遂に容易に視認できる距離にまで達した白き狼。立ち止まると二足竜の影を踏むように
ジリジリと回り込み、狙撃の開始。こちらはマニュアル操作どころか、完全な自動操縦だ。
明らかに動きは鈍く、これだけの近距離であるにも関わらず狙撃精度が甘いが、それも主
人を回収するまでだ。銃神は待ってましたとばかりに相棒への接近を急ぐ。しかしその目
前で、又しても飛び散る土砂。マグネッサージャケットの光の粒がたちまち弧を描く。
 黒光りする機体が星屑に照らされ、浮かび上がった。石竜が短かめな四肢を大地に踏み
締める。卵やピーナツを彷佛とさせる楕円形の頭部はそれ自体が半透明のパーツであり、
その下から血走った瞳を浮かび上がらせる。背中には短かめの銃器を背負い、又その周囲
には臓器にも似たチューブが自らを拘束するように至る所へと走っている。まるで解剖図
のようなグロテスクな五体から、長剣のように細く真直ぐな尻尾が伸びるこの異様。人呼
んで「骸頭石竜(がいとうせきりゅう)」ヘルディガンナー。これでもれっきとしたガイ
ロス原産であり、もっとも一般的なゾイドだ。

48 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:07:32 ID:???
 半透明の頭部中央にはパイロットスーツを着た若者が鎮座している。深紅の竜の主人よ
り更に年長なのは、スーツ一杯に膨らみ発達した筋肉から伺える。伸び放題の長髪を悪鬼
のごとく振り乱し、右の瞼から頬に掛けて縦に割るような刀傷が刻まれている。
「レガック兄ぃ、待たせたな」
「グラントゥ! 済まないな、手を煩わせる」
 悪鬼はらしからぬ笑みを満面に浮かべた。彼自身は今この場に参戦する条件がギルガメ
スの勧誘失敗だとハッキリ理解しているようだ。
「所詮、魔装竜の主人とは住む世界が違ったってことさ」
「ふん、これから同じ空気を吸わせてやる」
「勿論だ。…姐さん、作戦は次の段階だろう!? 術を掛けたまま後退してくれ!」
「グラントゥ・トーイ、頼んだわ」
 骸骨頭の黒蜥蜴が帆を背負った石竜と入れ代わっていく。低い姿勢で滑るように地を這
う黒蜥蜴。視線の彼方に見えるは樹に乗じて合流を果たした銃神主従の姿。
 駒のように旋回する黒蜥蜴。長剣のごとき尻尾は己が身長以上はある。周囲を丸ごと薙
ぎ払うような尻尾の一撃に対し、白き狼は間一髪跳躍して難を逃れた。
 黒蜥蜴の脇に、小豆色の二足竜が並び立つ。これで二対一だ。
「さすがは獣勇士、あとからあとから精鋭が湧いて出てくる」
 身構えるや否や始めた疾走。王狼ケーニッヒウルフ最大の武器であるデュアルスナイパ
ーライフルは敵との間合いを離してこそ威力を発揮するからだ。そうは行くかと小豆色し
た二足竜が、黒蜥蜴が地を駆け、追随を計る。

 紫色に腫れた唇。苦々しい気持ちで一杯のギルガメスはそれでも、一縷の望みを託して
レバーを引き絞った。ゾイドでの移動故、徒歩ならば何十分も掛かる距離が瞬く間に縮ま
っていく。既に街の灯は見えていた。あの少々派手なネオンが自分達の滞在するホテルに
間違いない。

49 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:08:42 ID:???
 だが視界は、いともあっさり塞がれた。赤と緑、二匹の狼が宿敵との再会に歓喜の雄叫
びを上げる。
「現れたな、ギルガメス! ここで会ったが百年目!」
 吠える弁髪の巨漢。声に応じ、跳躍した赤色狼。深紅の竜はそれを確認してようやく長
い両足を地面に突き立て、両の翼を頭上に掲げる。シンクロも果たせず、さりとて極限ま
でのマニュアル操作ができるわけでもない少年の、円らな瞳が赤い。些細なことが原因で
置かれた余りの劣勢に、彼の心が折れ砕かれようとしている。
 赤色狼が放った前肢の一撃を、辛うじて受け止めた深紅の竜。胸部コクピット内は凄ま
じい振動で揺れるばかり。肩を強張らせて受け止めたギルは、だが揺れが収まった直後不
覚をとった。はらり、溢れた一筋の涙。
『ギル、結果は問わないわ。明日は一度も泣かずに試合を終えなさい』
 少年の胸の内に、聞こえぬ筈の声が谺した。
『強い心がなければ戦い続けることはできないわ』
 新人王戦の前日、敬愛する女生徒に約束したではないか。少年は唇噛み締め片手で拭う
や否や、己を鼓舞すべく腹の底から雄叫びを上げる。意外な主人の反応が、相棒は嬉しか
った。今一度両手で胸部を握り締めると掲げていた翼を左右に広げ、中腰で身構える。
「ほう! シンクロ不可能、マニュアル不可能でこれだけの覇気をまき散らすか」
 奇怪なる男が襟の下で驚きの声を上げる。それは弁髪の巨漢も同じだ。
「そうでなければつまらぬわ。今まで破れた同志を弔うためにも、貴様らには本気の力を
出してもらう。もっとも高周波金縛りの術を受けてそれができるとは思えぬがな!」
 二匹の狼が疾駆の再開。たちまち間合いを離した後、急接近の狙いは左右からの挟撃。
深紅の竜は短かめの首を左右にちらりちらりと動かし様子を伺う。
                                (第三章ここまで)

50 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:15:17 ID:???
【第四章】

 狭く、暗い室内には一瞬、橙色の輝きが差し込んだかに見えたがそれも又すぐ止み、暗
闇を維持した。
 闇の中には魔女が座席に横たわり、眠りについている。…いや、彼女が睡眠を強制され
ていることは時折眉間に浮かべる深い皺で明らかだ。悪夢にうなされ、時折脱出を計るが
それには至らず、又もとの闇に引き摺り戻されることの繰り返し。
 赤茶けた髪の美少年は、憮然とした表情で座席に覆い被さった。これから眠り姫を目覚
めさせる王子の役を演じるのだ。だがしかし、と彼は拳を握り締める。所詮、役柄に過ぎ
ない。卑劣な自分の本性に当てつけるがごとく力込めた両腕を震わせる。
 彼がどんなに己を責めようが、それでも視界には、魔女の肢体が入り込んだ。地味なジ
ャージの隙間より生白い肌が、へそが露になっている。美少年は不覚にも生唾を呑み込み、
又も発覚した己が本性に一層不機嫌な表情を浮かべた。
 十才の頃には、彼の身長は170センチを越えていた。十三才にして180だ。恵まれ
た体格故にシュバルツセイバーに買われた美少年は、激しい訓練を乗り越え獣勇士に抜擢
された。それは彼が必要以上に「大人として」振る舞うことを強制されたことを意味する。
秘められし己が性を自覚し、嫌悪感を抱く余裕さえあるのがその証左ではないか。
 だからこそ彼は一層研鑽を重ねた。真に受け入れてくれる存在を得るために。
 さて美少年は、魔女を文字通りの眠り姫として手中に収めた。しかし彼女は熟睡には程
遠い。それもその筈、ゾイドの動きをも封じる幻扇石竜ディメトロドンの高周波を、彼女
は古代ゾイド人ならではの超感覚を使ってまともに聞いてしまったのだ。彼女は今や、深
い催眠状態に陥っている。暗示にかけることも十分に可能だ。例えば己の愛すべき存在を
すり変えることも…。

51 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:16:15 ID:???
 所詮これが自分の運命かと、フェイはやるせない気持ちで一杯だ。ギルガメスという存
在はこの眠り姫エステルの中では余りにも大きい。ゾイドの操縦技術から何から鼻で笑っ
てしまう程劣るあの少年を、彼女は何故か必死で守り、育て続けた。逆に何もかも優る美
少年に対しては、だからこそと言うべきか、それ程の干渉はしてこなかった。愛を求める
ために磨いた己が秘術の数々が、かえって己の首を締めたとしたら何とも皮肉だ。彼は結
局、最も卑劣な手段をもって任務達成と己が光明の獲得を目指すより他なかった。
 不意に、軽く寝返りを打ちかけた眠り姫。美少年は思わず覆い被さった両腕を伸ばし、
その身を離す。そのままの姿勢で、彼女の肢体をまざまざと凝視。…改めて観察するまで
もない。地味な灰色のジャージは柔らかな皺をくっきりと浮かび上がらせている。彼と眠
り姫とを隔てる要素は、布切れ只一枚だ。
 息を潜め、ジャージの裾に手をかける。めくり上げれば、あとは既に何度も体験してき
たことではないか。
 そう言い聞かせ、美少年が意を決したその時。彼は呪文を耳にした。決して、聞いては
ならない呪文。…その言葉は眠り姫の乾いた唇からぽつり、溢れ落ちた。
 硬直した美少年の両腕。釘付けとなった眼差し。たった二文字の呪文は時間さえ止めた。
「…さん、エステルさん! しっかりして下さい!」
 裾に掛けていた両腕は、気がつけば彼女の肩を揺さぶっていた。苦悶の表情を浮かべつ
つ、瞼を持ち上げた眠り姫。鋭利に過ぎた蒼き瞳が暗い室内を照らす。
「あれ、フェイ君。ここは…痛っ!」
「すみません、ひどくうなされていましたから…」
 エステルは両掌で頭を抱えながら、如何にもばつが悪そうに苦笑した。
「ありがとう、フェイ君。…ギルは?」
「ギル兄ぃは用事があるからって、ブレイカーと外に出ました」
 酔いが覚めたかのごとく瞳を見開いた魔女。バネのごとく上半身を持ち上げるが全身を
得体の知れない激痛が襲う。
「ああっ、まだ安静にして」
「そうも言っていられないわ。ブレイカーも今頃、ひどく体調を崩している筈よ。どこか
らか…ゾイドの耳にしか聞こえない強力な催眠音波が流れている。水の軍団かも知れない」
 彼女が発した最後の一言に、美少年はこの上ない罪悪感を覚えた。

52 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:17:03 ID:???
「わかりました、それじゃあ…」
 言いながら、真後ろに手を伸ばす。本来の搭乗時なら真正面に見える筈のコントロール
パネルに指を伸ばし、軽快に叩く。一息つく程の間を空けた後、室内に橙色の輝きが差し
込んできた。
 美少年の後方に、近付いてきた鋼の掌は絨毯一枚程もある。魔女の視界にも入り込んで
きたその時、彼女が体感した宙に舞うような感覚。周囲を見渡した時、実は余り経験した
ことのない状況に軽い当惑を覚えていた。美少年の右腕に彼女の背中が、左腕に膝がすっ
ぽりと収まっている。姫君を抱きかかえるような格好のまま、彼はコクピットを降り、掌
へと伝う。
 無機質な動きで、地面へと降りる鋼の掌。その間、魔女を抱えた美少年の両腕は微動だ
にしない。魔女は内心、舌を巻いた。背の高過ぎる彼女を抱きかかえられる男性などそう
はおるまい。それに、白状するなら今の彼女の体重は60キロを越えている(身長180
センチ以上あるのだからどんなに身体を絞ろうがそれ位にはなる)。それだけの重量を抱
え上げる美少年に驚きの表情を隠せない。だが流石に、その身がソファの方角に向かおう
とした時、彼女は我に返った。
「ああ、ビークルの方に。お願い」
「だ、駄目ですよ、まだ安静にしていなくちゃ…」
 魔女は意外にも頷いてみせた。
「うん、落ち着いたらすぐに行くわ。フェイ君、悪いけれどあの子達を…ガイエンは、大
丈夫なんでしょう?」
 無言で、頷きを返す。
 朦朧たる意識を懸命に跳ね返し、魔女はビークルに着席した。だがその次のステップに、
いつ移行できるのか。座席にもたれ掛かるや脳裏に襲い掛かる激痛。負けじと頭を抑え、
身を起こし、手を伸ばした先には操縦桿が待っていた。だが震える手でそれを握ろうとし
ても、するりと彼女の長い指から逃げてしまい、そのままコントロールパネルに倒れ伏せ
る。乱れる呼吸、玉のように流れ落ちる汗。それでも彼女は両腕を精一杯に広げ、倒れ込
んだ上半身を持ち上げようと計る。この苦境にあってさえ、蒼く輝く魔女の瞳。

53 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:18:28 ID:???
 奮闘を尻目に、再び相棒のコクピットに乗り込んだ美少年。芝居がかった動きで両腕を
交差させるとピアノを演奏するがごとく、レバー捌きとパネル弄りに転じた。最早説明す
るまでもあるまい。彼はまだ年端も行かぬが、それでも獣勇士なのだ。マニュアル操作な
どできて当然である。
 極めて機械的な動きで、歩行に転じた鋼の猿(ましら)。ゆっくりと開くシャッター。
冷気の侵入に室内の絨毯がなびき、空き缶が転がっていく。星空の彼方に時折見えるのは
眩い閃光。破裂音も耳に届き始めてきた。スウィートルームの向こうに広がる荒野は既に
戦場と化していた。

 狼二匹と深紅の竜との激突は、後者が圧倒的劣勢のまま佳境を迎えつつある。
 振り降ろされた大剣を、左の翼で覆い受け止める。軋む空気、飛び散る火花。渾身の力
比べは、しかし少年主従に分が悪い。両足一杯に踏ん張る深紅の竜。ちらり盗み見た弁髪
の巨漢、不敵な笑みを浮かべるや否やあっさり緩めた左右のレバー。たちまち覆い被さっ
た大剣が持ち上がり、反動で深紅の竜は上半身をまるまる持ち上げてしまう。赤色狼はす
かさず前肢の爪で竜の胸部を横殴り。両腕を縦に構え、辛うじて防戦する深紅の竜だがた
ちまち姿勢はふらついた。
 姿勢を戻そうとしたところを今度は右方から迫る地響き。浅葱色した狼の戦法は、腹部
に抱えた車輪二枚を広げ、二輪車のごとき走行によって突撃するという代物。だがこの戦
法の真骨頂は、一足一刀の間合いに入る瞬間。…突如持ち上がった上半身。前輪を掲げ、
後輪のみでの疾走に関わらず姿勢は崩れない。土砂まき散らし、このままの姿勢でふらつ
く深紅の竜目掛けて一気の接近。このまま前輪を回転ノコギリのごとく叩き付けるか、そ
れとも宙を舞い、竜を飛び越し幻惑するか。判断に苦しむ竜の主人。しかし迷いは既に術
中にはまった証。竜の頭部に前輪、直撃。
 もんどりうって倒れ込んだ深紅の竜。何度も横転した挙げ句、ようやく地面に突き立て
た四肢。うつ伏せの姿勢を懸命に維持。これならば若き主人が即死する危険は圧倒的に少
ないが、それ位の劣勢である証とも言える。取り敢えず両翼は左右に広げ、背負いし六本
の鶏冠と長い尻尾は極力伏せた。この場を脱出するためにはこれらの爆発力を温存せねば
なるまい。

54 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:20:21 ID:???
 中々やるなと、弁髪の巨漢は内心舌を巻いた。こちらが優勢なのは明らかだが、敵の主
従は実に諦めが悪い。シュバルツセイバーのお膳立ては結果としてこの少年達の切り札で
ある刻印を封じた。にもかかわらず彼らは一向に敗北を覚悟する素振りも見せない。
 巨漢は己が左腕を見遣る。あの白手袋…「Ziコンガントレット」の、甲を覆う緑色の
計器を徐々に光点が横切っていく。自然と溢れた笑みは不敵だ。
 颯爽と地を駆ける赤色狼。背負いし大剣を前方に倒した突撃体勢はシンプルだが、それ
故に深紅の竜はうつ伏せから反撃に転じる余裕もない。左腕を上げ掛かったが躊躇し、結
局二枚の翼で前方を覆う。
 がっちりと受け止められた狼の大剣。轟音と火花がほとばしる様を見るや否や奇怪なる
男とその相棒が加勢しようとするが、それを止めたのは意外にも巨漢の側だ。
「ジャゼン、上から来るぞ!」
 一瞬発生した奇妙な「間」を竜の主人も察知した。どこからか、予想だにしない方角か
ら攻撃されるのではないか? もしそれがあるとすれば…。
 翳していた両翼を払った深紅の竜。つっかえを失った赤色狼だが元々この展開を想定し
ていたのか、前のめりにはならず軽やかに後方へ跳ね下がる。巨体を横転させる深紅の竜。
主人の予想は適中した。さっきまで竜が身を伏せていた辺りに叩き付けられた物体。土砂
が撒かれ、空気が淀む。回転して逃れながら、少年は横目で彼らの死角…上空から攻め込
んできた物体を観察する。竜の胴体程度の鉄塊。小さな翼を備えている辺りゾイドの一種
らしい。しかし目を凝らした少年は慄然した。本来ある筈の頭部や胴体が全く無い、単な
る装甲と武装の塊。それがうねるように荒野に突き刺さった身体を引き抜く。
「翼刀獣サビンガの成れの果てよ。我が相棒にはゾイドコアは馳走となり、残る部位は武
装として役に立ってくれた。見よ、『ゆにぞんの術』!」
 鉄塊、四散。身を伏せる深紅の竜。飛び交う鉄塊は、しかし竜を飛び越えその先にいる
赤色狼のもとへと群がった。何が起こるのかと首捻る少年だが、すぐさま喝破した相棒が
異変を知らせてくれた。全方位スクリーンの左方に小さく広がるウインドウ。凄まじい数
値の高まり、これは竜が普段滑空する時に発揮する力と同種のものだ。

55 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:21:10 ID:???
「そうか、これはマグネッサー出力!」
 中腰で踏ん張ろうとする竜。後肢の爪を一杯に開き、かかとの爪まで降ろし。左の翼を
前方に翳し、隙間から覗いた先に見えるのは、変貌を遂げていく赤色狼の姿。鉄塊は狼の
四肢を、胴体を固めていく。奇怪なのは背中にナイフを何本も逆立てたような小さな翼が
生えたこと、そして何より太々しくなった容貌。最早狼の類いではない、凶器の塊だ。
 今度は別の数値がウインドウで弾き出された。凶器の塊が発する体温の上昇は凄まじい。
相棒の低いうなりを耳にし、シンクロを果たせぬ若き主人はこのゾイドが相当な不快感を
感じているのを理解した。ゾイドは一概に、熱を嫌う。
 背中のナイフを逆立て、凶器が跳躍を開始。風船のごとく長い浮遊が、唐突に熱弾の速
さへと転じた。深紅の竜は大袈裟に跳躍しこれを回避。戦う気があるなら間合いの維持を
考えるところだが、元々そういう目的でこの場にいるわけではない上に、この異常な高体
温だ。しかし退避の糸口は、一層門を閉ざそうとしている。
「素晴らしい、これなら魔装竜ジェノブレイカーとも対等に渡り合える!」
 ほくそ笑む弁髪の巨漢。ふと白手袋に嵌めた緑色の計器が無数の光点を描き出した。豪
放磊落に巨漢は笑った。既に勝利を確信したかのようだ。
「ジャゼン、我らが同志が近付いてきておる。この距離なら十分後だ!
 魔装竜ジェノブレイカーも獣勇士も、我ら水の軍団が葬り去ってくれる!」
 声に応じ、依然ノイズが止まないモニター越しに頷いた奇怪なる男。しかし立てた襟の
下で浮かべた笑みは如何なる種類のものだったのだろう。

 野を越え山を越え、至る所から共和国製ゾイドが疾走していく。小暴君ゴドスが、神機
狼コマンドウルフが、鬣獣シールドライガーが、あるいは名も知られぬゾイド達が。彼ら
は徐々に荒野へと集結、支流は太い濁流へと姿を変えていった。彼らも又水の軍団・暗殺
ゾイド部隊の面々である。銃神ブロンコの出撃要請を受け、ここアンチブルの隣国リゼリ
アを始め、各地から集まってきた。全てはチーム・ギルガメス打倒のために、B計画阻止
のために。そして獣勇士粉砕のために。

56 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:22:08 ID:???
「『韋駄天ウィーダ』、久し振りだな」
「『切り刻みのセンゾウ』うぬも元気そうで何よりじゃ」
「各々方、これは同窓会ではないぞ」
「おお、これは『鉄壁のドバ』」
「我らの決起、全ては水の総大将様の悲願のため。
 チーム・ギルガメスも獣勇士もここで葬り去れば、この星は又少し、平和になる!」
「そうだったな。では皆の衆、いざ往かん! 惑星Ziの!」
「『平和のために!』」
 集結したゾイド達が一斉に咆哮を開始。星空に照らされた荒野が今やもうもうと砂塵で
包まれていく。しかしこの状況下でも、彼らを直接招いた照明弾はくっきりと見えていた。
「見よ、ブロンコ殿の合図だ。急げ!」

 振り降ろされる鋼の爪。翼広げて受け止めようとする深紅の竜。落下の角度に合わせて
全身で踏ん張ろうとするが、それよりも速く爪は叩き込まれた。竜は潰れた空き缶のよう
に姿勢を崩す。すぐさま両腕をつき、T字バランスの姿勢に戻そうとするが、凶器の塊と
化した狼は真正面から体当たり。背負いし無数の刃が前方に逆立つ。
 膝をつき受け止めた竜。主人はスクリーン越しに敵の表情を伺う。探るは力振り絞って
跳ね返す好機。だが凶器の塊となった狼は唸ることもなく、今度は背中に折り畳んだ大剣
を振りかざした。敵の背後から伸びる刃に、反応した竜の次の一手は仰向けに転ぶこと。
今はそれしかないのだ、相手の圧力は先程までとは比較にならない。刻印の力が使えない
ことが原因で、よもやここまでの劣勢になるとは。焦る少年。今や赤色狼だった強敵は相
棒の上にのしかかり、圧殺せんと目論んでいる。それに、この異常な高体温。相棒の、深
紅の装甲に覆われていない部分が煤け始めている。
 とにかく今はここを脱出しないと。少年は念じ、相棒は翼を、尻尾を地面に叩き付ける。
強敵の馬乗りには今まで何度もこれで跳ね返してきたが、それを許す相手でもない。残る
浅葱色した狼が翼に噛み付く。背中の鶏冠を点火しようと徐々に広げてみれば、今度は前
足で踏み付けてきた。
「まさか今までの戦闘データを顧みないとでも思っていたか!」

57 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:22:52 ID:???
 してやったりと、弁髪の巨漢は笑みを浮かべる。このままのしかかり、竜の刃や爪で切
り刻むも良し、同志に食いちぎらせるのも良し、だ。
 徐々に勝利を確信しつつある巨漢。このままレバーを振り絞ろうとしたその時。
 数発の砲声。標的二匹に命中。横転する己が巨体同様、狼達の勝利はするりと手から溢
れ、深紅の竜はどうにか姿勢を中腰に戻した。
「ギル兄ぃ…お待たせ!」
 鋼の猿(ましら)だ。右肩に背負いし大砲が硝煙を上げている。砲身に添えられた左腕
を離すや否や、背を屈めつつ両腕を前足のごとく地面に打ち付け竜の元へと接近開始。
 よろめき立ち上がろうとする竜の元に、猿(ましら)の右腕は差し伸べられた。一瞬躊
躇した竜。その心情は寧ろパイロットである若き主人の方に根強い。
 疑心暗鬼に陥りかけた少年。だが我に返ると自らの頬を両手で張った。…以前、この美
少年を疑った挙げ句、彼の心を深く傷付けてしまったではないか(第八話参照)。違うよ、
違う。きっとあのレガックとかいう男と知り合いだったとしても、何か大きな行き違いが
あったに違いないんだ。
「…どうしたの、兄ぃ?」
「ありがとう、フェイ。その、ほっとした…」
 自分にそう、言い聞かせるのが本心だった。レバーを押し込み、相棒に腕を伸ばすよう
促す。よろめきつつも、竜の姿勢はようやく回復。
 かくて実現した両雄の並び立ちも、長くは続かない。電光のごとく、二匹の間を突き抜
ける浅葱色の狼。着地もそこそこに反転し、狙い定めた標的に飛び掛かった。鋼の猿(ま
しら)の方だ。もつれ合い、転び合う猿(ましら)と狼。
「デンガン、この小僧は儂に任せよ! うぬはチーム・ギルガメスを、同志の仇を…!」
 奇怪なる男の一声に、弁髪の巨漢は俄然の奮起。荒々しく咆哮、そして刮目。
「かたじけない、ジャゼン。チーム・ギルガメスよ、ここが貴様らの墓場だ!
 機獣殺法『群狼剣』、受けてみよ!」
 凶器の塊が身構える。本来の姿である狼の荒々しさを越えた狂気が、にじり寄る足下に
も唸り声にも垣間見える。



58 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:25:37 ID:???
「畜生、離せ! 離せっての!」
 フェイの怒声は駄々っ子のようにも聞こえる。
 声のままに、浅葱色の狼と鋼の猿(ましら)は組み合いながら転がっていく。竜達の決
闘とどんどん離れていく距離。
「…獣勇士の坊主、うぬらもジェノブレイカーが欲しいのだろう?」
 襟に隠れて見えないジャゼンの笑みは不敵さを増している。反対にフェイは息を呑んだ。
「ちょ、ちょっと待てよ。水の軍団はギル兄ぃ達を始末したいんじゃあなかったのかよ!」
「要らぬなら何も言うまい。欲しいなら儂らと組み合え」
 言いながら、浅葱色の狼は顎でしゃくり上げた。…星空の向こう。意味するものがわか
らず猿(ましら)の主人は首を捻ったが、ふと気付いた異変に口をつぐんだ。それが場合
によっては殺害も辞さぬ相手と戦いを「演じた」理由だ。

 この咆哮、この爆音、この明滅。銃神ブロンコが召集した暗殺ゾイド部隊の面々は皆一
様に死闘を確信し、戦友の勝利を信じた。砂塵を一層高く巻き上げながら、彼らは戦場へ
と急ぐ。
 彼らの背負う星空の彼方で、星が流れた。一条、二条、そして三条。
「おい、ブロンコ殿は空戦ゾイドの使い手を召集したか?」
「聞いていないぞ…まさか!」
 流れた筈の星は、乾いた光沢を皆一様に浮かび上がらせていた。三匹はいずれも灰色の
体皮。うち二匹は骨のような翼竜。残る一匹は深紅の竜の翼面積にも対抗し得る猛禽。
 流れ星が百鬼夜行の上空を通過した後、その場に広がるは阿鼻叫喚の地獄絵図。足踏み
鳴らして生み出していた砂塵は、油に引火して発生したどす黒い煙に変わった。先程まで
殺気みなぎらせていた集団はことごとく鉄塊に変わり、動くものさえいない。

 吠える狼。身構える深紅の竜。裂帛の気合いに対する用心は、この時ばかりは気合い負
けに繋がる。
 凶器の塊がまず放ったのは背中の大剣。身構えてさえいなければ軽やかに回避を試みる
ところだろうがそれは不可能だ。深紅の竜は翼を十字に交差させる。爆音と共に受け止め
られた大剣。しかしマグネッサーシステムの力により射出された大剣の圧力は凄まじい。
一歩、又一歩とよろめき、後ずさり。

59 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:26:33 ID:???
 この絶好機を逃さぬデンガンではない。凶器の塊、肩を怒らせて突進。背中に生え揃っ
た無数の刃を前方に逆立てる。
 目を剥いたギル。圧力に屈してはならぬと力振り絞る。主人の助勢を得て大剣を吹き飛
ばした深紅の竜。だがその瞬間、出来た隙目掛けて突き立てられた無数の刃。仰向けに転
倒した竜、覆い被さった凶器の塊。透かさず前肢で竜の翼を押さえ付け、後肢で足を押さ
え付ける。無数の刃が竜の両腕に突き立てられれば、残る首で狙うはたった一ケ所だ。
 胸部コクピットハッチを噛み砕かんと狼の顎が迫る、牙が触れる。払い除けんと両腕を
伸ばそうとするが、突き立てられた刃が食い込み、僅かながら弾くに留まる。
 ふと竜の主人は己が不自然なまでに汗ばんでいることに気付いた。…相棒とのシンクロ
中でも普通に汗は掻くが、それとは明らかに種類が異なる。…これは、外気がゾイドの空
調を脅かす程熱いからだ! 全方位スクリーンの至る所に目を配った挙げ句、少年が抱い
ていた不倒の決意は追い詰められた。相棒の皮膚は至る所が焼けただれ始めている。勿論
それは彼を守るコクピットハッチの装甲とて同じだ。つまり逆転の好機を探るようでは彼
ら主従は確実に、死ぬ。
「冗談じゃない、ようやく道が開けてきたっていうのに! え…」
 敬愛する者の名を口にしかけ、思わず少年は唇を噛んだ。このままくたばって、合わせ
る顔があるかと己が両の腿に拳を打ち付ける。
「ブレイカー、魔装剣!」
 全方位スクリーンの前面に、開かれたウインドウは半透明。それは無理との相棒の意思
表示だが。
「今は奥義が使えないってことくらい僕でもわかる。でも、シンクロしなければ只の飾り
ってわけでもないだろう?」
 意を決した深紅の竜。頭頂部から背中に渡って生えた鶏冠の一本が前方に展開。鋭い短
剣を振りかざし、のしかかる狼の首目掛けて何度も何度も突き立てる。シンクロ時に発動
した魔装剣の破壊力は読者の皆さんも御存知だろうが、現状ではあれ程の効果を望めない。
それでも、竜は短剣を突き立てる。
 弁髪の巨漢は苛立った。敵の主従はこの絶望的な状況下でもまるっきり、諦める素振り
を見せない。
「ふざけるな糞餓鬼! アルパ、このままコクピットを噛み砕け!」



60 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:27:19 ID:???
 只一匹、激闘に背を向ける石竜がいた。滑るように駆けるこのゾイドが黒帆を背負って
いるとお察しの方も多いだろう。
「バージェスの勇者よ、バージェスの勇者よ。こちらマリヤード、作戦は残念ながら第二
段階に移った。至急応答されたし」
 天女が鎮座する目前のモニターだけは、ノイズなど混じらぬ鮮明な代物。流石は電子戦
の雄ディメトロドン、自ら発した高周波に侵されるようなことはない。故に送信先の広々
とした室内も計器類が埋め込まれた壁も目を凝らすまでもなくくっきりと見えた。
「こちらバージェスの勇者。どうした姐さん、よもやレガック兄ぃが不覚か?」
「可愛い英雄は意外と、擦れてなかったってことよ。私は、さっきグラントゥと代わった。
フェイ達の機影も確認してる。作戦は大詰めよ、急いで。
 それとね、南方より大量の熱源が集まってきたわ」
 警戒を促そうとした天女は自らもモニター上に別のウインドウを開き、様子をじっと凝
視。この石竜の目を介するなら、それ程の遠目も効く。…だからこそ、状況の急変をも理
解した彼女。ウインドウに広がる映像は怒濤の砂塵が一瞬にして火柱と硝煙に変貌する様
子を見せた。
「ああ、こちらでも確認してる。畜生、まるっきりの正反対だ…おい姐さん?」
「…訂正するわ。暗殺ゾイド部隊の援軍が、全滅した。
 何よあの熱源。誰が呼び寄せたの!? それとも…」

 鬱陶しい。怒りを露にした弁髪の巨漢。己が相棒の首に何度も突き立てられた短剣は、
それだけなら小型ゾイドの蹴り一撃にすら匹敵し得ない。だがそれが、しつこい位繰り返
される。…彼はしかし冷静に、対策を考えた。少し相棒の身を持ち上げて躱せば良い。突
っ返が取れてしまえば相手の首は伸び切ってしまう。そこを噛み切ってしまえば唯一の切
り札は失われよう。
「小賢しい奴。小細工には…!」
 上半身を浮かせた凶器の塊。空振った鶏冠の短剣。少年は息を呑んだ。
 この瞬間、密着していた両者は若干だが離れた。仰向けのまま首だけ伸ばした竜。巨体
に跨がり、上半身を反り上げた凶器の塊、或いはさっきまで狼だったゾイド。その頭部コ
クピット内で、一瞬開けた視界に飛び込んできた異物を見て巨漢は絶叫した。

61 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:28:27 ID:???
 吹き飛ばされた凶器の塊。何度も横転し、その度全身を覆う武器や鎧、銃砲が飛び散っ
ていく。その挙げ句、ようやく立ち上がった姿を竜の目を通じて見た少年は不条理に破れ
た敗者の末路を見た。狼だったゾイドは今一度、元の狼への変貌を余儀無くされた。だが
それは燃え盛る炎のシルエットによる。赤色狼は炎に焼けただれた狼となり、一歩、又一
歩。再度の飛翔を目指すがそれは叶わず、やがて音を上げて崩れ落ちた。体液である油が
引火し、爆発・炎上を続けている。
 生き長らえた主従は仰向けのまま、しばし惚けていた。星空をキャンパスに、弧を描い
てみせる者達がいる。空戦ゾイド三匹。彼らが弁髪の巨漢・狼機小隊一の牙デンガンと剣
狼ソードウルフ「アルパ」に地獄の業火を浴びせたのだ。
 疲れ切った巨体を今一度起こした深紅の竜。助けられたのかと少年は首傾げるが、そう
ではないとすぐに確信した。何故ならあの空戦ゾイド三匹はそのまま星空を泳ぎ、禿鷹の
ごとくこちらの様子を伺っている。助けたというのならこのノイズ混じりの状況でも通信
位入れてくる筈だ。
 主従はお揃いで、押し殺すような溜め息をついた。疲れてはいるが、それを自覚せぬ程
度にお互い力を抜き、こちらは本当に助けてくれた友を探すべく首を振る。

 もつれ合うことを繰り返していた浅葱色の狼と鋼の猿(ましら)。だが赤色狼と深紅の
竜との激突が終焉を迎えた時、同時に間合いを離した。
 奇怪なる男は戦いの最中でも襟に手を添え、笑みを押し殺そうとしている。謀略は、そ
れ程までに図星の成功を収めた。
「愚かなりデンガン。あれ程の高熱を発していたらずっと遠くからでも狙える…」
 一方、猿(ましら)の主人は肩で息をしていた。相手の言い分が信用ならない以上、気
は抜けない。だが半信半疑の中、結局は五分に及ぶ戦いを「演じた」。
「どういうつもりだ…」
 堪え切れず、切り出した美少年。奇怪なる男は、応えない。
「どういうつもりなんだよ! あんた、仲間を見殺しにしたんだぞ!?」
「うぬもジェノブレイカー欲しさに儂と謀っただろう」

62 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:29:11 ID:???
 美少年は歯ぎしりした。この数分間、危機に陥っていたあの主従の危機に対し傍観して
いたのは事実だ。しかし、それでも最悪の事態には相棒の肩に背負いし大砲で援護しよう
と様子を伺っていた。それだけは、認めたくない。
「違う、その方が有利と考えただけだ!」
「まあ良いわ。獣勇士は小僧といえども腹黒い。よくわかった…」
 身を翻す浅葱色の狼。片腕を伸ばして制止しようとする鋼の猿(ましら)。
「待て、待てよ! オッサン、何を考えて…」
「B計画」
 手を伸ばした姿勢のまま、猿(ましら)は凍り付いた。浅葱色した狼は腹部に畳んだ車
輪を広げ、この場を離れていく。
 呆然と、見守っていたこの主従はやがて意を決したかのごとく、踵を返した。視線の向
こうには彼らを探す深紅の竜がいる。

「フェイ、フェイ! ありがとう、助かった。君が来てくれなければ…」
 息せき切って、駆け寄る竜。胸部に身を潜める主人も全力疾走後のような息切れが止ま
ない。主従を、美少年は黙って迎えた。
「さあ、急いで帰ろう。エステル先生に怒られる前に…」
 主人の声に合わせるように、進路を転換した深紅の竜。その短かめの首の向こうに、街
の灯が見える。すっかりくたびれていた両の翼も心持ち軽くなったのか、どうにか水平の
姿勢を取り戻した。とぼとぼと、疲れ切った足取りながら、それでもさっきよりはずっと
余裕もある。
 ギルは…軽率さを反省した少年は、彼ら主従の後に友人主従がついてくるものだとばか
り思っていた。彼らは一向に踵を返そうとはせず、制止を決め込んだまま。
 深紅の竜と鋼の猿(ましら)はお互い、背を向けたまま立ち止まった。頭上を流れ星が
哭いたことさえ彼らは気付かない。
「…何も、聞かないの?」
 美少年の呟き。ギルはコントロールパネルを叩きかけたが、何やらバツが悪そうに苦笑
いを浮かべると音声だけの通信に留めた。
「後にしとく」
「聞いてよ」
「だから、後だってば。落ち着いてからゆっくり…」
「今聞いてくれないと、困るんだよ!」

63 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:30:10 ID:???
 鋼の猿(ましら)は背負った箱に突き立てたミサイルによく似た二本の棒を引き抜いた。
「大根ヌンチャク」と美少年が戯けて命名した棒は勢いよく引き抜かれ、真後ろの竜の首
目掛けて絡み付く。両端を繋いだ鎖が食い込み、竜は苦悶の鳴き声を上げた。
「な、何をするんだ、フェイ! 離せ、離せってば!」
「聞けよ! 『何で僕らを拉致しようとしたか』って! そう怒鳴ってなじれよ! 裏切
り者って罵れよ!」
「な、何か事情があるんだろう? お互い様じゃあ…」
「家出少年と獣勇士を同列で語るな!」
 鋼の猿(ましら)の何たる剛腕! 竜の首を鎖で縛り上げたまま、釣り竿を投げるよう
な姿勢で肩越しに引っ張る。脳天から叩き落とされた竜。地面に突き立てられた首を基点
に、うつ伏せに倒れ込んだ。通常のゾイド戦なら今の一撃で失神、最悪パイロットごと死
亡するだろう。しかし相手は魔装竜ジェノブレイカーだ。四肢をピクピクと痙攣させつつ
も、懸命に起き上がろうともがく。
 そんな隙は鋼の猿(ましら)が許さなかった。透かさずヌンチャクを背中に挿し戻すと
竜の側に駆け寄り、両腕でひょいと担ぎ上げる。
「コング・ブリーカー!」
 担ぎ上げた竜の胴体を、そのまま背中の棒目掛けて突き立てる。それだけで貫通してし
まう程竜の装甲は柔らかくないが、次の極悪な攻撃を貰うことを考えたら貫通した方がマ
シとも言えた。背負いし箱に差し込まれた棒が、そこを基点にたちまちの高速回転。耳を
つんざく金属音、そして衝撃。悶える深紅の竜。少年は口を抑えるが、激しい振動は立ち
所に目眩を起こし、そして嘔吐を余儀無くされた。
 数秒担いだ後、猿(ましら)は竜を荒野に降ろした。その動作だけは大事な者を労るか
のごとく穏やかだ。足下で竜はぐったりしている。それでも僅かながら全身を使ってうご
めいてはいるが、失神は時間の問題と言えた。何故ならこのゾイドの生きる理由はその胸
元で、一足先に意識が遠のいていたからだ。



64 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:31:00 ID:???
 銃神ブロンコと獣勇士二名との激突は終わる糸口が見えない。
 跳躍する小豆色の二足竜。小刻みに身体を左右に揺さぶるその姿勢に、白き狼は一瞬釘
付けにならざるを得ない。理由はこのゾイドが落下地点に達するまでに明らかになる。背
中より翼のごとく伸びた鎌。それが果たして右から来るのか、左から来るのか。僅かな揺
さぶりの大きさを判断材料に、白き狼は地面を蹴り込む。鮮やかな幻惑攻撃は、しかしそ
の後に続く黒蜥蜴の狙撃の前触れに過ぎない。それにしてもこのヘルディガンナーなるゾ
イド、素早さとは駆け離れた体躯であるにも関わらず現実に発揮する俊敏な動きは脅威だ。
おそらくはあの地面にへばりつくような低い姿勢と、あらゆる角度をフォローする半透明
の頭蓋骨にあるのだろう(いやゾイド解剖学的にはあれこそが巨大な目玉なのかも知れな
い)。あらゆる角度に回り込もうが、振り向くよりも速く狙撃を敢行し、或いはあの棒の
ような長い尻尾で足払いを仕掛ける。体格では圧倒的に優る白き狼も、小型ゾイドとは言
え獣勇士の精鋭二名が相手では分が悪い。
(だが、それで良いのだ。こやつらをこの場で釘付けにすればチーム・ギルガメスは一対
二での戦闘を余儀無くされる)
 銃神ブロンコの狙いは、しかし思わぬ展開により崩壊の認識を迫られた。何度目かの連
携を計る獣勇士。向い来る二足竜の一撃を躱し、次に来るであろう黒蜥蜴の攻撃を見抜か
んと目を凝らした時、それが徒労に終わったことを理解した。黒蜥蜴目掛けて飛び掛かっ
た浅葱色の狼。振り切ろうとする黒蜥蜴。懸命に牙で食らい付いた狼だが、流石に相手の
尻尾の長さは脅威だ。胴を打ち、背中を打ち、そして足払い。ひとまず噛み付きを解き、
間合いを離した浅葱色の狼。
「ジャゼン、デンガンはどうした! チーム・ギルガメスは…」
「デンガンは破れました」
「何ぃ!」
「しかし、チーム・ギルガメスも今頃意識を失ってございます」
 二人の会話を余所に、暗殺ゾイド部隊と獣勇士、精鋭二匹同士が睨み合う。ゾイド戦で
はお互いの視線もさることながら、踏み込みを探るのが極めて重要だ。異なるプロポーシ
ョンを持つ者同士の戦いとなれば、動作の予兆は全く異なるからだ。
「それに、何故援軍は来ない…むぅ?」

65 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:31:59 ID:???
 上空を、あの得体の知れぬ空戦ゾイド三匹が弧を描いて飛び交っている。ブロンコは煮
え返るはらわたをどうにか抑えて言い放った。
「獣勇士よ。随分の多勢だな。恐れ入るぞ」
「何を言うのか、水の軍団。あれは、貴様らの同士ではないのか?」
 怪訝そうに、返事した義眼の男。
 お互いが、不気味な事実を直感した。チーム・ギルガメスを巡って水の軍団でもシュバ
ルツセイバーでもない、別の勢力が暗躍している。
 そこに、砂塵挙げて駆け付けてきたのはほかならぬ、鋼の猿(ましら)だ。疾走と言う
には程遠い。だが十分驚嘆に値した。何しろこのゾイドは深紅の竜を肩で担ぎ、この場に
走ってきたのだから。
 我先に第一声を上げたのは、意外にも黒蜥蜴の主人だ。
「よう、フェイ。やるじゃん。見直したぜ。誑し込んだ女の面ぁ、見せて…」
「うるさい!」
 下品な笑いを浮かべていた悪鬼は一転、両耳を抑える。フェイは二枚目が跡形もない位
憮然としている。
「フェイ、古代ゾイド人の女を人質にする話しでは…?」
「してませんよ、レガック兄ぃ。
 過程がどうあれ、チーム・ギルガメスを捕らえれば結構とお聞きしましたが?」
「仲間割れはそれ位にしてもらおうか」
 二匹の狼が、獣勇士の面々に割り込んできた。
「まさか担いでお持ち帰りとは恐れ入った。そのためのアイアンコングか?
 しかしどこまで連れていくつもりかね?」
 白き狼は身構えた。背中の砲身が鈍い音を上げ、猿(ましら)の担ぐ竜へ向けて照準を
定める。彼としては、別にその身が地獄の業火に灼かれても良いのだ。チーム・ギルガメ
スさえ葬り去ることができれば。
「勿論、対策は用意してある」
 そう義眼の男が言い放った頃、彼が操る小豆色した二足竜の背後で爆音が聞こえ始めた。
雷雲の襲来にも似た爆音の足取りは思いのほか、速い。



66 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:33:25 ID:???
 ビークルの機上で只一人、蒼き瞳の魔女は端正な顔立ちを歪めていた。取り敢えずあの
灰色のジャージの上にコートを引っ掛けサンダル履きという凡そ追撃には似つかわしくな
い格好だが、なり振り構ってなどいられない事態であるのは間違いない。あの激し過ぎる
頭痛はさっきよりは落ち着いてきた。恐らくは仕掛けてきたゾイドが遠ざかったからだろ
う。だが苦しいことに変わりはない。それでもと、唇を真一文字に閉ざし操縦桿を握り締
める。愛弟子とその相棒、そして彼らの友人の足跡だけはくっきりと荒野に刻まれている。
それが彼女の堅い決意を後押しし、自然とビークルも加速していく。
 朦朧とした眼差しでふと星空の彼方を睨んだ魔女は、はたと声を失った。地平線の向こ
うより、黒いシミが近付いてくる。いや、肉眼でシミと例えられる程の大きさということ
がどういうことなのか、不調を極める彼女でもすぐ理解できた。これは空中を浮遊する輸
送ゾイドだ。更に目を凝らした彼女はシルエットと己の記憶が合致し、思わず上半身を持
ち上げた。
「アノマロカリス! まさか、ギル達は…!」
 ビークルのエンジンを吹かす。そして歪む己が頬を二度、三度、すうっと撫でる。徐々
に平静を取り戻す面長の美貌。腫れた頬は冷やされ、氷細工のような厳しさが垣間見えて
きた。それが魔女本来の表情。他人に恐れられるのを気にしてはいるが、愛すべき者を守
るためにイブより授かった彼女の切り札でもある。

 空中を浮遊する輸送ゾイドは一概に胴体が長い。星空の彼方に現れたそれも同様だが、
このゾイドはそれに加え、奇妙な意匠を備えていた。頭部と思しき先頭より長く伸びた二
本の牙。それに、格納口は先頭ではなく頭部の真下にヒマワリのような形で据え付けられ
ている。加えて、長い胴体はことごとく蛇腹。人呼んで「具足王虫」アノマロカリス。ガ
イロス公国が暗黒大陸の険しい山脈を回避するため伝統的に育て上げた輸送ゾイドである。
 アノマロカリスの機影を背負うに至り、獣勇士の三名は勝利を確信したかに見えた。だ
がそれで諦める銃神ブロンコでもない。
「それが貴様らの切り札か。ならばこちらも切り札を使おう」
「何だと…?」
「そろそろ、二十三時だ。どんなに貧乏な国でもニュース位、流すぞ?」

67 :魔装竜外伝第十話 ◆.X9.4WzziA :2006/12/31(日) 18:36:38 ID:???
 義眼の男は銃神の発した言葉の意味を予想できていたのか、舌打ちしつつスイッチを入
れた。美少年と悪鬼は半ば首を捻っていたが、スイッチを入れた瞬間一様に硬直した。
「共和国軍広報部は先程、今日までにヴォルケン・シュバルツ氏を連続テロ事件の首謀者
として逮捕し尋問中であると発表しました。シュバルツ氏はガイロス公国からの国費留学
生であり、一連のテロ事件を始め様々な学生運動との繋がりも噂されております。
 一部学生や市民の間では抗議の声が広がっており、再び暴動の可能性も…」
「水の総大将様による、この日のためのお膳立てだ。
 さて、どうする獣勇士。技術を選ぶか、それとも次代の頭脳を選ぶか?」
 睨み合う五匹はいずれも相手の出足を伺っている。
 それを余所に、彼方から向かってくるアノマロカリス、そしてビークル。
 蒼き瞳を閉じる魔女。やがて額を、頬を玉の汗が伝い、そして浮かんだ額の刻印。眩い
輝きは凍える表情の裏に隠れた闘志とも見て取れた。…女の、闘志だ。
「待っていなさい。ギル、ブレイカー、フェイ君!」
 魔装竜ジェノブレイカーを、翻弄される少年ギルガメスをその手で受け止めるのは誰か。
そして謎の空戦ゾイドの正体は? 待て次回!
                                      (了)

【次回予告】

「ギルガメスは容赦なき大義を認めはしないのかも知れない。
 気をつけろ、ギル! 銃神は、決着を願っている。
 次回、魔装竜外伝第十一話『魔女の小指で、たぐる糸』 ギルガメス、覚悟!」

魔装竜外伝第十話の書き込みレス番号は以下の通りです。
(第一章)10-21 (第二章)22-27,29-35 (第三章)36-49 (第四章)50-67
魔装竜外伝まとめサイトはこちら ttp://masouryu.hp.infoseek.co.jp/

68 :Zゴースト 1 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/02(火) 21:38:20 ID:???
草木も眠る丑三つ時、月明かりさえ雲に隠れた深き闇を一機のライガーゼロが進んでいた。
そしてライガーゼロが怪しげな電波を突如キャッチした時にそれは起こった。
                 『あそぼ』
「ん?何だこれは?一体何処のどいつだ?」
コックピットディスプレイに表示された怪しげな文字にライガーゼロのパイロットが首を
傾げていたその時、突如としてメインカメラから捉えられる映像を映し出すコックピット
スクリーンのあちこちに『あそぼ』の三文字が多数表示されたではないか。
「なななな何だこれは!?」
『あそぼ。あそぼ・・・。』
今度は文字の表示だけではない、何処から聞こえるかも分からぬ得体の知れぬ声と共に
正面の闇の奥から何かがゼロに近寄って来ていた。
『あそぼ。あそぼ・・・。』
「わわわわわ・・・うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「で、何故こんな病院なんかに呼び出しますかね?」
世界を旅する人の心を持つ機械“SBHI−04 ミスリル”はあくる日、知り合いの
名前も風貌も見れば分かる程にまで怪しい謎の覆面怪人“覆面X”からその国の中央病院
のとある廊下に呼び出されていた。
「実はな、君に依頼したい事があってな?」
「じゃあ何故こんな病院なんかに?私は別に怪我なんてしてないと言う以前にロボット
ですから人間用の病院に行く必要は無いのですけどね?」
ミスリルが不本意な顔をしていたが、覆面Xが病院に呼んだのは理由があるようだった。
「所でミスリル君。ゴージャ山と言う山を知っているかな?あそこ・・・出るらしいんだ。」
「出るって・・・まさか下ネタと言う意味の出るじゃないでしょうね?」
「違う!幽霊だよ幽霊!幽霊が出るらしいんだよ!」
「幽霊?」
ミスリルは呆れた。しかし覆面Xは真剣な顔で続けた。

69 :Zゴースト 2 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/02(火) 21:39:37 ID:???
「詳細はまだ完全に明らかになってはいないのだが、最近になってゴージャ山を通ると
突如不思議な通信と共に謎のゾイドが襲い掛かってくると言う事件が多発しているのだ。
しかも凄腕のゾイド乗りばかりに対して。」
「って事は通り魔って事ですか?」
「うむ。ただの行商だったり、三流のゾイド乗りが通っても何も起こらないと言う事も
あるのだが、確かに考えようによっては通り魔に近いな。だが、何の前触れも無く現れ、
何の前触れも無く去っていくと言うまるで幽霊の様にさえ思わせてしまう行為の為、その
謎の通り魔ゾイドはいつしか“Zゴースト”と呼ばれるようになった。」
「Zゴースト?」
「そうだ。この事件の不可解な点はそこなのだ。ただ強いだけの通り魔ならそこまでは
言われない。まあ私が説明するよりも実際に見てみれば分かるだろう。」
と、覆面Xはある部屋の扉を開き、ミスリルに中を見せた。すると・・・
「うわぁぁぁぁぁ!恐い!恐い!」
「お化けが!お化けゾイドがくるうぅぅぅぅ!」
「助けてくれ!助けてくれ!うわぁぁぁ!」
「やめてくれ!俺を地獄に連れて行かないでくれぇぇぇ!」
ミスリルは唖然とした。その部屋に置かれた多数のベッドにそれぞれ男達が寝ており、
まるで見てはいけない物を見てしまったかのような顔でうめき声を上げ続けていたのだ。
「こ・・・これは・・・。」
「Zゴーストに襲われた凄腕ゾイド乗り達の成れの果てだよ。皆選りすぐりの強者
なのに・・・ただ強いだけの奴が彼らにこれほどまでのトラウマを与えられるとお思いか?」
「そ・・・それはそうだけど・・・。」
「一応Zゴーストに襲われても人間、ゾイド共に誰一人死者は出ていない。だが、皆この
ようになってしまったのだ。はっきり言って得体が知れぬ。」
「で、まさか私にそれを調べて来いって言うんじゃありません?」
「もう君しかいないんだよ!君なら問題なくZゴーストにも会えるだろうし!な!?」
覆面Xはミスリルの肩を掴んで頼み込むが、ミスリルは首を超高速で左右に振った。
「恐い恐いですって!ただ強いだけの相手ならともかく、そんな得体の知れない相手に
私まであそこの人達みたいになったらどうするんですか!?」
「君なら大丈夫だ!以前妖怪退治をした事があったろう!?な?な?報酬弾むからさ!」
「う・・・。」

70 :Zゴースト 3 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/02(火) 21:41:22 ID:???
ミスリルは仕事の依頼をOKするしか無かった。覆面Xの言う通り、彼女は以前にも
この手の仕事で不可解な敵と戦った事があったのである。

こうなってしまった以上しょうがないので、ミスリルは報酬を通常より割高にして
もらう事を条件に覆面Xの依頼を受けた。そして彼女は愛機であるギルドラゴン
“大龍神”と共にゴージャ山へ飛んだ。
「さて、果たして本当にZゴーストってのは出てくるのでしょうかね〜。」
大龍神は陸路に切り替えてゴージャ山中を進む。すると40機くらいはあると
思われるレオブレイズの軍団と遭遇した。それらは普通に目に見えるし、レーダーにも
反応している為、Zゴーストとは無関係とミスリルは直ぐに悟り、無視して探索を
続けようとした。が、レオブレイズの軍団が不敵にもミスリルと大龍神にちょっかいを
かけて来たのである。
「おいそこの馬鹿でかいの!お前は何故この山にいる?」
「何って、私はこの山に用があるだけですよ。そっちこそ一体何なんですか?」
「我等は麓の村の僧兵団だ!この山に巣食う悪霊を退治する為に参ったのだ!」
彼らの言う通り、コクピットキャノピーから覗く彼らの姿は見るからに仏僧であり、
また僧兵と名乗るだけあって体も相当に鍛えられている様子であった。
「この山は悪霊が巣食う呪われた山だ!この間も街のゾイド乗りが何人もその悪霊に
襲われて病院に送られた!貴様もそうなりたくなければさっさと立ち去るのだ!」
「そうは行きませんよ。私もこの山に用事があるのです。」
「おろかな。ただデカイだけで悪霊を倒せると思うか?」
「でも貴方方くらいなら楽に倒せる自信はありますよ?」
ミスリルの大龍神、そして僧兵団のレオブレイズ軍団の睨みあいが始まった。まさに
一触即発と、その時だった・・・
                 『あそぼ』
「え!?」
大龍神のコクピットディスプレイに例の三文字が表示された。そこからさらに
コクピットスクリーン全面に『あそぼ』の三文字があちこちに表示され始めたでは無いか。
しかし何処からかハッキングを受けたような形跡は一切無く、原因不明だった。
続けて謎の声まで聞こえてくる始末。

71 :超ぼうず大戦 ◆5QD88rLPDw :2007/01/04(木) 23:00:42 ID:???
「よし…やっぱり餌釣りは楽で良い!」
巨大なウルトラザウルスの尾の付け根付近…
俺は何時もの様に晩飯を釣り上げている。野菜と肉と穀物が恋しいが…
今は如何にもならない。壊血病へのタイムリミットが気になる今日この頃だ。
甲板の上では俺の相棒が今日も空をボ〜っと眺めている。
タイヤキモドキを釣り上げた俺は素早く針を外し魚篭へ放り込むと、
また餌のゴカイカブリを針に刺し竿を振る。
「ロ〜〜〜〜〜フェンさ〜〜〜〜〜〜ん?もう直ぐ日が沈みますよ〜〜〜?」
甲板の方から声がする。俺の名前を呼ぶ少女はカリン。
元々このウルトラザウルスの甲板に在った集落の出身。
だがもうその集落は無く瓦礫も格納庫に片付けたためにその痕跡は殆ど無い。
「おい!なんで私はまだ1尾も釣れないんだ!?」
隣りで俺より年上の女性がブツクサ言いながら針を垂らしている。
彼女はシープ(偽名)。ソラシティの住人であったが仲間に恵まれず…
今は地を這いずる俺達の仲間だ。そんな俺達も洋上に孤立して一ヶ月は経つ。
「不愉快だ。今日は止める。」
結局”あわせ”を今日もマスターできなかった彼女は、
プンスカしながら俺の魚篭を持って行く…。せめてお前の魚篭を置いて行って欲しかった。
「この引きは…逃げろ!ウオディックだ!」
何でウオディックがかかったかは聞かないで欲しい…世界七不思議の一つだから。

ー 超ぼうず大戦! ザイリンVSロウフェン ー

「しかし…流石に晩飯には成らんな。ウオディック…。」
俺の相棒に気絶させられた野良ウオディックはやっと目を覚まし甲板から海へ帰って行く。
しかし相棒のおかげで今日も晩飯にありつけるのは非常にありがたい。
「そう言えば…ロウフェンさん?さっき餌釣りは楽で良いって言ってましたよね?
アレってどういう意味なんですか?当り前だと思うんですけど…。」
カリンがそう言うのも仕方がない。普通釣りと言えば餌釣りだ。百歩譲ってルアー釣り。
「そう言えばそうだな。私も気になる。」
俺が釣ったギガントカレイの丸焼きをつつきながらシープもそう言う。
「聞きたいのか?あの退屈で毒にも薬にもならなかったあの話を…?」

72 :超ぼうず大戦 ◆5QD88rLPDw :2007/01/04(木) 23:26:29 ID:???
あんな話は本来したくない。だが…
猫科の動物が極上の餌を目の前に目を輝かせ体を振るかの様な2人の姿。
話さなかったら一生根に持たれそうだ。そして…
聞いた後もがっかりすることだろう。そう!もう俺には何方に転んでも失望される。
それしか道は無いらしい…。
「「は〜なせ!そら!はっなっせ!(以下エンドレス)」」
2人の話せコールがウザク成らない内に話す事にした。

ー 5ヶ月程前 ー

「ここにもラカンが現れたと言う話は無さそうだな…。」
俺は相棒を森に放しディガルド武国の駐屯地で情報収集をしていた。
俺はハウンドの許可証を持っているのでディガルド領では自由な行動が許される。
相手も俺の事をしっていた様で直に本題に入れた…
「ザイリン少将が最近遭遇したらいから遭遇した地域を聞いてみたらどうだ?」
その一言で俺は来た道を戻る羽目になったのである。

「謎のライガーに負けたザイリン少将はいらっしゃいますか〜?」
「年ばのいかない少年に煮え湯を呑まされたザイリン少将はいらっしゃいますか〜?」
我ながら無礼極まる言動で件の少将を探しているのだが一向に見付からない。
…と言うか人影そのもが無い。
在るのは…川。そしてこっちの言葉に委細無視を決め込んでいる釣り人1人。
「ちぇ…今回も外したか。もう少し早く動ければ追い縋れたのかもな?…ん?」
ふとその釣り人の糸の先…針に餌が付いて居ない事に俺は気付く。
「よう?釣り人さん?針に餌が付いていないんじゃないか?
それじゃあ何時まで経っても魚は掛からないぜ。ここはフタゴマスが多い。
餌さえ付ければ直に釣れるんじゃないか?」
その俺に…
「いや…今は餌無しで釣る方法を考えていてね。このザイリン少将も結構忙しいんだよ。
ハウンドのロウフェン君。」
居た。しかしこの状況では話を聞きだせはしないだろう…間違い無く根に持っている!
「ここは一つ。勝負しないかい?縋り付けずのロウフェン君?」

73 :超ぼうず大戦 ◆5QD88rLPDw :2007/01/04(木) 23:53:52 ID:???
その時…俺達の中で何かの糸が切れた。両者に火花が奔った。
そして…それはこれから始まる苦行と無意味に充ちた5日間の始まりを告げる鐘。

「よっこいせっと…条件は…餌無しだな?」
「そうだ。ついでに疑似餌も禁止だ。」
「了解!」
2人並んで釣り糸を垂らす…目の前に広がる川の水面近くは、
ディガルド領にしては透明度が非常に高く…餌の付いていない針に失望したかの様に、
フタゴマスやらツバヒロドジョウやらが去って行くのが見える。
しょうが無いので俺はザイリンと違う所を見せてやると…
スナップを利かせて針を適度に動かす。

そうすると…直にフタゴマスの餌に良く使われる雑魚。
コナマズモドキが集まってくる。この時確かに俺は開始早々勝負は貰った!
と息を巻いていたのだが…
「おわぁっ!?貴様等!よるな!しっし!」
コナマズモドキに釣られてフタゴマスが集まり出し…あっと言う間にコナマズモドキの群は全滅。
「くっくっくっくっく…それなら私も初日に試してみたさ。でもこれが現実だ。」
横でザイリンがおかしくて溜まらない!と言う顔で俺を見る。微妙ににやけていてムカつく。
「…と言うことはあんたも一度やったってことだな?プフ〜。」
まけじとザイリンを煽っては見るが無反応。ちょっと悲しいし非常に虚しい…。

試行錯誤する俺の一日目はそうして幕を閉じる。
飯が無いと明日を生きられないのでノーカカウントの餌釣りで飯を釣り上げ焼く。
「あんたもどうだ?」
「貰おう。明日は…私が釣るさ。」
この言葉は端から長期戦だと言うことを物語っている。確か…
このザイリンと言う男は神童とか言われていた気がするのだが?
それが長丁場を想定するって一体如何言う事なんだろう?と疑問が残る。
だが…次の日にはその疑問の答えが解るのである。
はっきり言ってノーサンキューな状況が待っているとは俺は勿論、
ザイリンも思っても見なかったに違い無い。

74 :超ぼうず大戦 ◆5QD88rLPDw :2007/01/05(金) 00:15:13 ID:???
ー 2日目 ー

「嘘だ!」
「逃げるぞ!」
俺達は…何故か針に勝手にかかり怒り心頭のウオディックから逃げている。
「あんた!メガラプトルを持ってるんじゃないのか!?」
「すまん…ルージ君に潰された。」
もし…この時巡回中のバイオラプター小隊が居なかったら…
俺達は2人とも地面の染みに成っていたことだろう。

「…おい。アレってどう見ても川の深さより背が高いじゃないか!」
「そう言えば…この地方は川底が泥濘んでいる場所が多くそう言う所に居るそうだ。」
「ウオディックがか!?」
「しかし現実を見ただろう?ロウフェン君?つまり私達は…
如何にしてウオディックを釣り上げずに”普通”の魚を釣り上げられるか?
と言う状態になった訳だ。」
「人事のように言うな!ヘタレ少将!」
そんなこんなで…2日目は幕を閉じるのである。当然釣果は無し。

ー 3日目 ー

「「…。」」
目の前には…川べりには…1ダース程のウオディックが横たわっている。
この日の釣果は当然ウオディックのみ。釣り勝負の事が駐屯地に知られて、
バイオラプター隊が交代で警護に付く様になったのだ。
「なあ?」
「何だロウフェン君?」
「嫌がらせでも受けているのか?俺達?」
「かも知れないな…幾ら何でもこれは無いだろう…。」
しかし食事のための餌釣りには直に普通の魚が簡単にかかる。
寧ろ網を投げれば全部取れてしまいそうな密集体型を執っている魚の群が恨めしい。
其方を極力見ない事にして寝る事にした…横たわるウオディックを見ながら…。

75 :超ぼうず大戦 ◆5QD88rLPDw :2007/01/05(金) 00:59:23 ID:???
ー 4日目 ー

今度は場所をかえてみたのだが…結果は同じ。
ウオディックの横たわる姿を見ながら…
「俺達って…呪われてる?」
「か…かもしれん…。」
今日は…自棄になって網を2人して投げ、
大量の魚を腹一杯喰らった上で酒を飲み明かしグダグダな日を過ごした。

ー 5日目 ー

完全に二日酔いの状態で視界も定まらないまま俺達は川の前に居る。
「うおえぇぇぇ…今日こそは…!」
「けりをつけぇぇぇるぞ。ロォォォォオウフェンくぬふう…。」
ゲェゲェ言いながら針を垂らすのだが…今回はウオディックもかからない。
「やっと…ウオディックを釣り尽くしたのか?」
「そうだと良いんだがな…。」
そろそろ勘の良い者なら解るのだろう…明かに川べりの様子がおかしい。
そして…運命の針が投げ込まれる。

「かかったぞ!大物だ!」
「もう如何でも良い!ロウフェン君!そいつを釣り上げて終わりにするぞ!」
「応よ!」
この時の後に俺達はそれを釣ろうとした事を後悔して止まない目に遭うのである。
確かに川の水位以上に泥濘が深いという話は聞いたが…。

ー 数分後 ー

「いや…幾ら何だもおかしいだろ!夢だってもっと現実的だ!」
「とは言え…現実だ!悪夢が夢の境を抜けて跳び出してきたとしか言えんぞ!」
「取り敢えずは…。」
「逃げるぞ!ロウフェン君!」

76 :超ぼうず大戦 ◆5QD88rLPDw :2007/01/06(土) 04:03:04 ID:???
俺達は必死でそれから逃げる。
既に護衛のラプターはそいつに潰されて地面の染みと化していた。
そして…其奴は事もあろうかお魚タイプの風体で空を飛んで追って来る!
後に俺は相棒の記憶からそのゾイドがホエールキングと言う者だと知るが、
今は関係無い。と言うか逃げるのに必死だ。
俺達は必死に走り森へと逃げ込む。だが…その直前まではこうだった。

ー 2分程前 ー

「うわああああああああああ!?鼻から巨大鼻糞出しやがった!!!」
「なんという巨大さ!そして意思のあるかのような撥ね具合!
正に悪夢としか言い様が無い!」
何とか紙一重で着弾地点を躱している俺とザイリンだがふと後ろを見ると…
あの忌々しい巨大鼻糞の落ちた場所には大きな穴ができている。
その上、上空からまだ巨大鼻糞を落としてくるのだからたまったものではない!
着弾毎に俺達は1〜2m程宙を舞い前転からそのまま起き上がり逃げる。
しかし…あの時何故かディガルド領地に入り込んでいた彼等が居なかった?
確実にお陀仏だっただろう。
当然彼等もボロクソに蹂躙されてしまっていた。ゾイドは無事そうだが…。
「馬鹿な…エレファンダー遊撃隊がまた全滅?悪夢だも見ているのか?
俺は…!?ガクッ…。」
そう。音に聞く剛の者の集団エレファンダー遊撃隊でも手も足も出なかった。
飛んでる奴はそれだけで強い。そう言う事である…。

「はあ…はあ…はあ…はあ…はあ…なんなんだ!?あのデカブツは?」
「…そう言えばこの地方には伝説が在ってな。
無下に魚を釣る者には空から天罰が下ると言う話が在ったそうだ。
実話だとは思わなかったがな。」
「…とことん役立たずな少将だな。とは言えその前まで世話に成ってるから、
人の事は言えないがな。はっはっはっは……。虚しい…。」
「確かに虚しいなロウフェン君。結局我々はあの川に敗北したことになる。
自然とはとかく雄大な存在だ…迂闊だったな。」

77 :超ぼうず大戦 ◆5QD88rLPDw :2007/01/06(土) 05:50:02 ID:???
森の木々の合間に隠れ件の空飛ぶ魚が諦めてくれるのを待つ。
と言うか…俺達にはそれしか残された手段が無い。
そんな時目の前には…
「お前いい加減にしろよ?」
と言う風な感じで相棒が寝そべりながらこっちを見ていた…。
「おう!良い所に…って感じじゃないな。流石にあのデカブツは無理臭い。」
俺は相棒とデカブツを見比べてがっくりと肩を落とす。
奴は特大鼻糞の他にも…
ディガルトが作った城塞にも装備されていないような巨大な砲塔を持っている。
アレの直撃は相棒はおろかラプター共でも鼻糞攻撃同様の結果が待っている。
しかし当の相棒の方はと言うと…
「ワオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!」
やる気満々。そして…俺を咥えるとコクピットに放り込み駈け出す。
「…野良ゾイドを御する傭兵か。大したものだ。」
置いてけぼりを喰らったザイリンは素直な感想を述べるに留まっている。
その姿は直に木々の合間に消え俺達は平原へと跳び出した。

当然巨大鼻糞の攻撃を受けるのだが今は相棒と一緒。
コマンドウルフクラスの大きさと足が在ればすいすい避けられる。
更に通常発見されるコマンドウルフと違い背には相棒の言う4連装インパクトカノン。
1度に4つの目標を同時に攻撃できるコイツが在れば…
「そらよ!」
一気に俺と相棒を包囲しようとしていた巨大鼻糞が砕け散る。
反乱分子の襲撃に紛れてディグの倉庫からかっぱらった価値は充分に有る代物だ。
「よくもまあディグで盗った装備を堂々と使うな…ロウフェン君。
だがあれはバイオゾイドは勿論殆どのゾイドが受け付けなかった代物だ。
もしかしたらアレは元々あの固体専用だったのかも知れない。
だが…?良くジーンが見逃したものだ。いや?見逃してはいないな。」
良く良く考えてみれば…結局はディガルドの戦力である彼等。
埃被りの武器が使える様に成るなら問題は無いしそれをデータベースにすれば…
新たなバイオゾイドの装備に技術が転用できるかもしれないと言う所だろう。
何方に転んでも損が無いから”見逃した”が正解である。

78 :超ぼうず大戦 ◆5QD88rLPDw :2007/01/06(土) 07:24:56 ID:???
「ちっ…彼奴どれだけ鼻が詰まっていやがるんだ?
俺だってそんなに掻き出したら今頃鼻の中が血の海だってのに…。」
明かに過剰な数の鼻糞を撃たれて俺は思い切り引いていた。
確かにゾイドは戦闘用に改造されれば完全な野生の状態とは違い…
光の球やらを吐ける砲を持ったりもできる。
なので奴の腹の中に鼻糞が大量に入っていてもおかしくは無いのだが…
見ている方は非常に気分が悪い。最早鼻糞では無く本物の…
それ以上は考えたくも無かった。

しかし流石にネタが切れたのか急に魚は高度を下げ始めた。
「やばい!砲撃が来るっ!」
逃げ出したのが一瞬でも遅れれば今頃消し炭だったかもしれない…
砲撃の着弾後はキラキラと輝く半球状の穴に変わっていた。
強烈なビーム砲だ幾ら強烈とは言えこの威力は冗談では済まされない。
色々な物質が混ざり合っている地面を抉るだけではなくその表面がガラス化。
周囲の温度も心なしか高く成った気がする。
こんな物を数門持っている相手…交叉砲撃の交叉点で喰らおうものなら蒸発。
危ない何て話で留まる問題は無い状況に達してしまっている。
その他の火器も冗談では済まされない威力をしている事だろう…。

案の定俺達が避けた後は綺麗さっぱり元の姿を失っている。
立て続けに撃ち込まれる砲撃を唯々逃げるのみの俺達だが…
まだ諦めた訳では無い。
相手は砲撃が当たりにくいと判断する度に高度を調整するため降下している。
「っ!?ロウフェン君!もっと避け続けるんだ!奴は射撃の精度を上げる為降下する。
避け続ければ此方からの攻撃がし易くなるはずだっ!」
「そうか!解ったぜ!少将さん!」
何か微妙に俺とザイリンは相性が良くなっている気がする…
だが今はそんな事を考えている暇は無い。とりあえず動く!
風より速く逃げ続ける!それが俺達が勝てる見込みを与えてくれるからだ。
「今に見てろよ…デカブツめ。鼻糞のお礼は千倍返しだ…。」
逃げ続けるストレスを発散できるその時を俺達は逃げて待つ…。

79 :Zゴースト 4 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/07(日) 21:56:04 ID:???
『あそぼ、私とあそぼ・・・。』
「うわぁ!覆面Xさんから話には聞いてたけど実際やられると恐いよぉ!」
ミスリルはもう泣き出しそうになっており、大龍神共々に狼狽していたが、僧兵団は
何が起こっているのかさっぱり分からないと言った様子だった。
「おい?どうしたんだ?」
「どうしたって・・・貴方方はなんとも無いんですか!?」
「別になんとも無いけど・・・何かあったのか!?」
「(やっぱり・・・これも覆面Xさんの言っていた通りだ・・・。)」
大龍神にのみに表示される謎の『あそぼ』の文字、そして僧兵団のレオブレイズ達には
何の変化も見られない事。もしそれが本当にZゴーストと呼ばれる存在の仕業である
ならばミスリルと大龍神は思い切りその策にはまってしまった事になる。
「と言う事は・・・あの人達はやっぱり大した事無いって事ですね。仕方ない・・・もうこう
なった以上逃げる事など不可能でしょう。なら腹をくくってかかってやりますよ。」
『あそぼ、あそぼ、大きな白い龍のお姉ちゃん?私と一緒に遊びましょう・・・。』
その時だった。突如として大龍神が僧兵団の目の前で忽然と姿を消したのは・・・
「きっ消えた!」
「悪霊じゃ!悪霊の仕業じゃ!」
「あわれ白い龍の女は悪霊に遠くの世界に連れて行かれてしまった。」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・。」

大龍神は薄暗く、紫色の霧の流れる不思議な空間の中に立っていた。
上空に見える太陽は黒い光を放っており、明らかに普通ではない。
「ここは・・・ワープする際の亜空間や超空間の類とも違いますね・・・。もっと異質な・・・。」
違和感を感じたのはミスリルだけではない。大龍神も何か得体の知れぬ気配を感じ取って
いた。確かに周囲には誰もいないし、レーダーやセンサーの類にも何の反応も示さない。
だが何かがいる。目にも探知機にも反応しない何かがあちこちに漂っている様に思えた。
「(気配も何も無いと言うのにこんなにも人の意思が感じられるなんて・・・。これはかなり
以前にディガルドとやりあった時以来ですよ。機械兵士の中に捕らえられていた多くの
人達の霊・・・。でもこの場にいるのはそれとも違う・・・あえて言うなら怨念とでも言うべき
でしょうか・・・。いずれにせよあの人達が発狂してしまうのも無理はありませんね・・・。)」

80 :Zゴースト 5 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/07(日) 21:59:30 ID:???
周囲に漂う嫌な雰囲気にやや青ざめながらも、ミスリルは注意深く周囲を見ていたが、
その時、正面に突如一つの気配を感じた。
『遊びましょう遊びましょう。一緒に楽しく遊びましょう。』
「!?」
まだ聞こえて来た謎の声。一応声色だけで考えるなら小さな少女の物と思える不思議な
声は正面に突如現れた一体のゾイドから聞こえて来た。そして深い霧の奥から現れた
それは“LBアイアンコング”だった。
「LBアイアンコング・・・。これがZゴーストの正体ですか・・・。」
LBアイアンコング。アイアンコングをネオブロックスタイプのゾイドとしてダウン
サイジングして作られたゾイドである。サイズこそハンマーロックなどとそう差は無いが、
コアはアイアンコングと同じ物が使われている為戦闘力は侮れない。むしろ強力なパワー
を維持したまま小さくなっている分、サイズ比としての力は通常のアイアンコングを
上回っていると言っても良く、ちまい見た目に釣られた敵を血祭りに上げられる恐ろしい
ゾイドである。と言っても大龍神からすれば恐ろしい存在ではない。もっとも目の前の
それが普通のLBアイアンコングであれば・・・の話であるが。
『あそぼ。あそぼ。私と楽しく遊びましょう・・・。』
LBアイアンコング=Zゴーストは一歩一歩大龍神に向けて歩を進める。
「エネルギー反応ゼロ・・・嘘でしょ?なのに動くって・・・もしかしてこれが霊力って
奴なの!?」
ミスリルはコクピットディスプレイに表示されたエネルギー計測器を見て唖然とした。
確かに目の前にZゴーストが存在するが、エネルギー反応が一切無いのである。
機械、生物に関係なく行動する際には何かしらのエネルギー反応が出るのが普通である。
しかし目の前のZゴーストにはそれが無く、またジャマーの類が出ている様子も無かった。
『あそぼ。あそぼ。大きな大きな白い龍のお姉ちゃん・・・。』
「いっ!?」

81 :Zゴースト 6 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/07(日) 22:01:20 ID:???
Zゴーストの眼部ゴーグルの向こうに存在するパイロットの姿がかすかに見えた瞬間、
ミスリルの顔は恐怖に歪み、青ざめた。何と人形が動かしているのである。Zゴーストを・・・。
人形と言ってもミスリルの様なロボットの類ではない。あえて説明するならばゾイドの
コクピットにいる事自体が場違いなドレスに身を包んだ可愛らしい顔をしたアンティーク
ドールの様な人形である。それが一体どの様な原理で動いているのかはミスリルには
一切分からず、こちらも霊力が作用していると考えるしかなかった。
『あそびましょう。あそびましょう。私と楽しくあそびましょう・・・。』
「ヒィっ!」
Zゴーストに乗る少女人形は、ミスリルと目が合った瞬間ニッコリと微笑んだ。それは
極めて不気味な光景であり、思わずミスリルと大龍神は後ずさりしていた。
『あそぼ。あそぼ。私とあそぼ。』
「うわぁ!くっくるなぁ!」
恐怖の余り普段のですます口調さえ忘れたミスリルはとっさにプラズマ粒子砲発射ボタン
を押し、次の瞬間四門の砲塔から放たれた超高出力のプラズマ粒子がZゴーストを消し
飛ばしていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ええ!?」
一安心しようとしたその時、ミスリルは驚愕する。完全に消し去ったと思われた
Zゴーストがその場で再構成し、瞬時に元通りになっていたのである。これはもう
再生とかそう言う次元の問題ではない。完全に消し去ったのにも関わらず元に戻るなど
普通ならあり得ない事なのだから。だが、相手が相手故に仕方の無い事だとも思えた。
そもそも相手は霊の類であり、その様な相手に物理法則など通用するはずが無いのだ。

82 :Zゴースト 7 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/07(日) 22:04:53 ID:???
『今度はこっちから行っちゃうよ〜。それっ。』
今度はZゴーストが右肩に背負うミサイルを発射した。これが普通のゾイドの攻撃で
あるならば別にどうと言う事はない。だが、Zゴーストの放つそれは普通では無かった。
これも霊力が作用しているのだろう。あり得ない程の弾速でミスリルの見切りを持って
しても回避できず、しかも幾多の強力ゾイドの攻撃に耐えて来た大龍神の強固な
ボディーを揺らがせていたのである。
『わぁ!すごいすごい!これに耐えたのはお姉ちゃんの龍が初めてだよ。今日は
とっても楽しい日になりそう!』
Zゴーストを操る少女人形はまるで子供のように喜んでいたが、ミスリルの精神は
“恐怖”の2文字に支配され、本来の力が発揮できなかった。相手がただ強いと言うの
ならばミスリルは余程の事が無い限り恐怖は感じない。だが、Zゴーストは違う。
本来この世には存在してはならない“霊”と言う存在である為なのか、どうしても
恐ろしいと言う感情を抱いてしまう。そしてこれこそがミスリルのような人間型
ロボットが超高度な科学技術を誇った先史文明においても一般化しなかった最大の理由で
ある。人間並の感情があると言う事は同時に恐怖と言う機械として見た場合非効率な
感情まで再現されてしまうのである。まっとうな頭を持つ人間なら、少なくとも軍事用に
そういう物を研究したりはしない。
「うわぁぁ!嫌ぁ!恐い!こんな仕事受けなきゃよかったぁ!」
もはや恐怖の余りミスリルの心は折られる寸前にまで来ていた。それによって大龍神も
本来の力を発揮する事が出来ず、Zゴーストの猛攻の前になすがままにされていた。
『どうしたの?どうしたの?もっともっと楽しくあそぼうよ。』
大龍神よりも遥かに小さいと言うのにZゴーストは大龍神を容易く持ち上げ、投げ飛ばす
程の恐ろしい力を見せた。もはやこの空間において我々の常識は通用しないのである。

83 :Zゴースト 8 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/09(火) 09:38:12 ID:???
「嫌ぁ・・・おねがい・・・もう・・・やめて・・・。」
このままミスリルの心が完全に折れ、Zゴーストの新たな犠牲者となる・・・かに思えた
その時だった。突如ミスリルの頭脳であるAIに何かの映像が飛び込んで来たかの様な
感触を感じた。だがハッキングやコンピューターウィルス攻撃などの様な不快感は無い。
それはミスリルにとって今まで無かった不思議な感覚だった。

「私ね、ゾイド乗りになるのが夢なの・・・。」
何処かの病院の小さな病室のベッドに一人の少女の姿があった。少女はゾイド乗りに
憧れ、自らもゾイド乗りになる事を夢見ていた。しかし、先天的に病弱な体が
それを許さなかった。既に少女は難病を患い、その体は生きているのが不思議な程に
までやつれてしまっていた。そして間も無く少女は10にも満たぬ若さで天に召される・・・
かに思えた。少女は天に召される事は無かった。
「ゾイド乗りになりたい・・・。」
この強い想いが少女をこの世に繋ぎ止めたのである。少女の強い想いは他の不成仏霊まで
取り込む程にまで強大な物となり、それが戦場となって滅んだある街のガレキの中に
埋まっていた一つのアンティークドールに憑依し、さらにゴージャ山中に投棄されていた
LBアイアンコングをも蘇らせ・・・

            少女はZゴーストへと変貌した・・・

「そ・・・そういう事だったんだ・・・。」
何故そういう映像がミスリルのAI内に投影されたのかは分からない。だが、Zゴースト
の気持ちを初めて理解する事が出来た。Zゴーストがやりたい事は破壊でも殺戮でも無い。
ただ単純にゾイド戦闘を楽しみたいだけなのだ。現にZゴーストは凄腕のゾイド乗りに
しか挑戦しなかったし、命も取らなかった。もしかするならば、先程の映像はZゴースト
の中に残る元は人間の少女だった頃の心がミスリルに語り掛けた物だったのかもしれない。
「なるほどね・・・ならもう仕方ないじゃないですか・・・。」
ミスリルはかすかに微笑んだ。既に彼女から恐怖と言う二文字は消し去っており、何か
吹っ切ったような雰囲気が感じられた。

84 :Zゴースト 9 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/09(火) 09:40:16 ID:???
「確かに私の力では貴女を倒す事は出来ないかもしれない。でも、貴女が満足行くまで
戦ってあげる事は出来ると思います!」
相手は霊が本体である以上物理的な破壊は何の意味も成さない。ならば、Zゴーストが
満足して自分から成仏するようになるまで相手をしてやる。それが最もベストな方法だと
ミスリルは考えていた。そして彼女は力一杯に大龍神のコクピットレバーを掴んだ。
「もう恐れない!貴女が私と遊びたいと言うのなら、目一杯に遊んであげます!」
ミスリルの復活に歓喜の叫びを上げた大龍神はZゴーストへ向け飛んだ。
本気を出した大龍神の強さは凄まじかった。対象の分子結合そのものを破壊する超高圧
電流ビーム砲“ドラゴンサンダー”、強化型プラズマ粒子砲“ドラゴニックプラズマ砲”、
超強力ミサイル“ドラゴンミサイル”、超強力ナパーム弾“ドラゴンナパーム”、
人工マイクロブラックホールを撃ち出す事で対象を空間ごと消滅させる“四連縮退消滅砲”、
内部に搭載された超大型プラズマ砲“ジャイアントドラゴンカノン”、全てを破壊する
超合金製の破壊爪“ドラゴンクロー”、そしてドラゴンクローから直接超高圧電流を敵に
向けて流し込む荒技“プラズマクラッシャー”、口腔部から発射する超高熱火炎弾
“ドラゴンファイヤー“、大龍神そのもの、及びミスリルの叫び声を増幅して発射する
音波砲“ドラゴンサウンダー”、鋭い切断翼“ドラゴンウィングカッター”、強力な尾
“ドラゴンクラッシャーテイル“、強化型ビームスマッシャー”超斬鋼光輪ドラゴン
スマッシャー“、などなど、小国相手なら単機で十分滅ぼせる程の恐ろしい超兵器が
次々にZゴーストを周囲ごと吹き飛ばし、薙ぎ払い、消し飛ばした。だがZゴーストに
物理的破壊は意味を成さず、直ぐに復活してしまう。しかしそれはミスリルにとっても
良く分かっており、ひたすらにミスリルと大龍神は徹底的にZゴーストを破壊し続けた。

85 :Zゴースト 10 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/11(木) 21:31:44 ID:???
その後も激戦が続くが、次第に大龍神が押され始めていた。確かに大龍神は何度も
Zゴーストを粉砕した。しかし、霊が本体であるZゴーストに物理的破壊は無意味に近い。
何度破壊してもその度に蘇ってくる。それに対し大龍神のエネルギーも弾薬も限りがある。
当然ダメージは蓄積するし、弾薬やエネルギーも使った分だけ消耗していった。
「エネルギーも弾薬も残り少ない・・・後どれくらい戦えるかしら・・・。」
ミスリルはZゴーストの方に目を向けながら苦笑いした。が、その時異変が起きた。
『楽しい。楽しいよ。もっと遊ぼう?沢山遊ぼうよ。』
一見今までとなんら変わらないZゴーストの言葉。しかし、Zゴーストの体からは
何かが次々に抜けて行っている様な感じがした。本来それは目には見えない物なのだろう。
だがこの空間に漂う力波のせいなのか、それが何なのかミスリルにも確認できた。
「これは以前見た事が・・・、そう・・・確かこれが人間の魂・・・。」
『もっと遊ぼう。遊ぼうよ〜。』
Zゴーストは再度大龍神に突撃をかけるがその動きは次第に鈍くなって来ていた。
Zゴーストが取り込み、己の力と変えた数多くの不成仏霊。それが次々に抜け出ていた
からである。それすなわち、Zゴーストは満足し始めていたのだ。口ではああ言っては
いても、実際に霊が抜けている事が何よりの証拠であった。しかしZゴーストは止まらず
大龍神に飛びかかった。
『遊ぼう!遊ぼう!もっといっぱい遊ぼうよぉ!』
「でも、もうここで終わりにしましょう・・・。終わらない物なんて存在しないのだから・・・。」
大龍神の頭部の角がスパークを開始し、先端がZゴーストへ向けられた。
「ドラゴォォォォン!!サンダァァァァァ!!」
『遊ぼう!遊ぼう!ああああああああ!』
大龍神から放たれた龍の雷は今度こそ完全にZゴーストを消し去った。そして、力の源に
していた多くの不成仏霊を失ったZゴーストに再度復活する力は残っていなかった・・・。

86 :Zゴースト 11 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/11(木) 21:32:54 ID:???
Zゴーストが物質的に完全消滅した後、つい先程までそれがいた場所から小さな輝きが
発せられた。それが次第に一人の少女の姿を形作って行く。それこそミスリルが見た
ゾイド乗りになりたいと言う夢を持ちながらも夢を叶えられずに死後Zゴーストとなった
少女の霊だった。そして少女の霊は天へと昇って行く。全てを満足したのだろう。
少女の顔は満たされた笑みに溢れていた。
「さようなら。願わくは次また生まれ変わった時に貴女が本当のゾイド乗りに
なれますように・・・。でも、魂って言うのはあの後一体何処に行くのでしょう・・・。」
これだけはミスリルにはどうも理解出来なかった。ロボットであるミスリルには
もしかすると永遠に分からないのかもしれない。
「さようなら・・・。」
ミスリルは大龍神のキャノピーを開き、少女の霊に向けて手を振った。
Zゴーストには本当に苦しめられたものだが、終わってみると清々しい物だった。
と、その時だ。突如天へ昇りかけた少女の霊が途中で止まったのだ。
『ちょっと待ってよ!このまま天国へ行っちゃったらもうゾイドに乗る事も
出来なくなるんじゃないかしら!?そっそんなの嫌だよ!もっと楽しみたい!』
「ええ!?」
何とまあ少女の霊は成仏する事なくこの世に留まってしまいましたとさ。
もう感動のシーンが台無しである。

一方、ゴージャ山に残された僧兵団達はミスリルと大龍神が死んでしまったと勘違いし
その場でお経を捧げていた。だが、その正面空間に突如裂け目が生じ、中から大龍神が
姿を現したのだった。
「うわぁ!悪霊にさらわれた姉ちゃんが帰ってきた!」
「ああ何と言う事だ。まだこの世に未練があると言うのか。迷わず成仏してくれい。」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。」
「貴方方・・・ぶっ殺しましょうか?」
僧兵団はまたもミスリルと大龍神に向けてお経を唱えており、ミスリルも呆れていた。
「何だ生きてるのか。いきなり目の前で消えるからどうなるかと思ったじゃないか。
で、悪霊はどうなったんだ?」
「それならもう心配はありませんよ。それに、本当は悪霊なんかじゃ無かったんですよ。
彼女は・・・。」
「え?彼女・・・?」

87 :超ぼうず大戦 ◆5QD88rLPDw :2007/01/12(金) 00:28:33 ID:???
「しかし…ここで指を咥えているのも…暇だ。」
そんな惚けた事をザイリンが呟いている目の前に見えるのは…
ラプターの姿。総勢12機程の3〜4小隊である。
「しめた!近付くと駄目ならば…よし!今から作戦を説明する!各自期待しているぞ!」
森の木々がへし折られラプター達は一心不乱に何かを作り始めた。

「おわあっ!?危ない危ない…本当に着弾点が近付いてきていやがる。
全く…奴の腹の中は底なしかよ!」
そうして俺の相棒が一際高くジャンプして攻撃を避けるとデカブツの背中が見えたのだ。
「しめた!もう少しで…奴にきつい1発をお見舞いしてやれる。相棒?アレの準備だ。」
相棒は直に何をするかを悟りそれと共に相棒の内側から力の沸りを感じる。
「ロウフェン君!後1分で此方が先にしかける。後を頼むぞ!」
「後!?了解!きついの打ちかましちゃるっ!!!」
やる気が起きたのか良かったのか?それとも相棒との一体感がそうさせたのか?
もう俺達には砲撃の着弾音すら聞えない程集中していた。

「撃て!デカブツの砲門にコイツを刺し込んでやれ!」
「ディガ!」
ラプターは太い弦のような物を切り裂く。すると…森から丸太の杭が大挙して空を飛ぶ。
「!?始まった!準備は良いか?ストライクレーザークロー発動っ!!!」
相棒の体中のサーボモーターが激しく回り始め電光を放ち四肢の爪が激しく輝き出す。
相棒は元の姿が一緒でも其処らのコマンドウルフとは全く違う内部機構を持つらしい。
それによって発動するのがこのストライクレーザークロー。
本来はもっと大型のゾイドでしか扱えない大出力集束による必殺の一撃だ。
杭は殆どが撃ち落とされていたがたった一本が砲門に吸い込まれると…
一際巨大な火柱が立ち杭の吸い込まれた砲塔が消滅。デカブツも地面に突っ伏す。
もう逃げ場は無い!さっきよりも遥に低い位置に居るデカブツには何でも届く位置に居る。
「喰らいやがれ!さっきまでのお返しと…5日間の俺の憤りの全てを持って行け!
ストラアアアアアイイクッレエエエエエザアアアアアアクゥゥウウロオオオオオオウウウウ!」
何時もより過剰な程に多く叫んでおります!
強力な一撃は何一つ遮るもの無くデカブツを襲いその動きを完全に止めた。
多分全てが終わった瞬間だった…。

88 :超ぼうず大戦 ◆5QD88rLPDw :2007/01/12(金) 00:50:45 ID:???
そこからは良く覚えていない…
何しろその後俺達はそのデカブツの処理に右往左往した…
と言う話だったのだから…。
当然しばらくの間は釣竿を握る事もままならなかったのは言うまでも無い。

ー お話終了 ー

「…うん。おもしろかたよ。」
「そうですねぇ〜…。」
二人の感想は非常に聞くんじゃなかったと言う表情と共に良く解る。
だから俺は嫌だったんだよ!話したくなかったんだよ!うわあああああん!

次の日…
「やっぱり餌釣りは良いわあ…。」
この言葉を沁み沁み言う俺を見て2人はヒソヒソと話している。
「本当にショックだったんでしょうね。」
「ああ…私ならとっくに発狂しているかもしれん…。」
いや…聞えてるから…止めて…その…可哀想な小動物を見る優しい眼差しは…
「げぇっ!?この引きは…ちょっと待てええええええええええええええええええええ!!!」
何が出て来たかは想像にお任せしよう…。

ー おちまい ー

89 :Zゴースト 12 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/13(土) 21:26:20 ID:???
「で、コイツがZゴーストの正体か?」
僧兵団に別れを告げ、ゴージャ山を後にしたミスリルと大龍神は、後から付いて来た
元Zゴーストの少女の霊を覆面Xに見せた。恐らくこれも霊力が作用しているのだろう、
少女の霊は半透明であるが肉眼でも見る事が出来た。だが、やはり霊だけあって物理的に
触れる事は出来ないようで、覆面Xが触ろうとしてもすり抜けるだけだった。
「まさかこんな少女の霊がZゴースト事件の犯人だったとはな・・・。まあいい。とりあえず
この仕事はこれで完了だ。後は君の口座に報酬を振り込んでおくよ。」
「ちょっと待ってください。この子はどうしたらいいんですか?」
「そんな事言われてもこっちが困る。と言うか幽霊なんてどうしろって言うのかね?
確かにその子のせいで多くの人が迷惑こうむっていたが、幽霊を罰する事の出来る法律
など何処の国にも存在しないし、罰すると言う事自体が神様でも無い限り無理だ。」
「う〜ん・・・。」
ミスリルは腕組みして悩みこんでしまい、元Zゴーストの少女も心配そうにミスリルを
見詰めていた。
「あ〜もう分かった!分かりました!本当に貴女が成仏する気になるまで私が
面倒見てあげますって!」
少女がZゴーストとなっていたのは、他の不成仏霊を取り込んで強大な力を手にしていた
からであり、今の彼女にそこまでの事は出来ないとミスリルは判断し、同時に一人ぼっち
にさせるのが少し可哀想に感じられた為にミスリルは少女を引き取った。それには
少女も喜んでいる様子だった。
「あ・・・ありがとう。私ティア、ティア=ロレンス!」
「ロボットと幽霊か・・・。こりゃ凄い組み合わせだなまったく。」
加えて覆面Xも笑っていた。

こうしてミスリルは元Zゴーストの少女、すなわち“ティア=ロレンス”を引き取る事と
なった。Zゴーストに襲われて心に大きなトラウマを植え付けられたゾイド乗り達の容態
もZゴーストとしてのティアが消滅した事によって徐々に回復しつつあるらしい。
ただ、一応ティアに謝らせに行った時に皆が恐怖の余り心臓が止まりかけて大変だった
のだが・・・。

90 :Zゴースト 13 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/13(土) 21:28:16 ID:???
「とにかく、貴女の面倒見ると言ったからには徹底的にやらせてもらいますからね!」
ミスリルは霊体であるティアがこの世で活動する際にどうしても必要となる体として
新品の少女型ドールを与え、ティアは幽霊から呪いの人形となり、あろう事か
同じく新品のLBアイアンコング、しかも武装強化され、本体の性能も向上している
MK−U型まで買い与えた。
「とりあえず言っておくけど、ティアちゃん。私と一緒に行くからには色々危険が
付きまとうけど、覚悟は出来てるかな?」
「うん!頑張る!」
「・・・。」
即答するティアにやや呆れるものの、ミスリルはさらに続ける。
「んじゃぁこのLBアイアンコングMK−Uだけど、何か名付けたい名前ってある?
こういうのは他の同型機と差別化する為にどうしても必要となるけど。」
「じゃあじゃあ、Zゴーストで。」
「実は結構気に入ってたでしょ?その呼ばれ方。」
ティア自身はそのLBアイアンコングMK−UにもZゴーストと命名したかった様だが、
Zゴーストの被害にあった人達の事を配慮して、“ゴーストン”と若干異なる名を付けた。

ティア=ロレンスとゴーストンを仲間に加え、ミスリルと大龍神は新たな気持ちで
スタートを切った。そして大龍神はゴーストンを背に乗せて飛び立ち、再び旅立つ。
そしてこの時が機械人形と呪い人形と言う凄い組み合わせの何でも屋“ドールチーム”
誕生の瞬間でもあった。
                  おわり

91 :Full metal president のあらすじ ◆5QD88rLPDw :2007/01/14(日) 06:26:18 ID:???
嘗て戦争の時代が有った。それはたった2人の行き違いから生まれ、
結果として100年以上もの間デルポイ、ニクス、エウロペ。
この大陸を含む周辺を長期に渡り不安定とした来た。
そんな時代が終わってそろそろ50年程過ぎた頃…
ヘリック共和国はネオゼネバス帝国側からの融和条約を結び、
ヘリック共和国内にネオゼネバス帝国が有ると言うデルポイ統一状態を作り出す。
しかし…それを気に食わない者が多かったが為にクーデターが発生した。

元老院派は全ての軍事拠点を制圧。大統領官邸を占拠するも、
最重要人物。この話の主人公であるピアース=マクレガー大統領(37)を取り逃がす。
彼等はそのまま海上へ逃走しとある島へ逃げ延びる事に成功。
その裏で幾つも起こる物理法則を無視して繰り広げられる戦闘。
東方大陸に存在するZOITECの大統領側への援助声名。
世界はまた二つに割れて争う形を形成していく…。

その裏に存在する闇を知らずに。

そして…大統領側では今正に大変な状況になっている。

92 :Full metal president177 ◆5QD88rLPDw :2007/01/14(日) 06:50:43 ID:???
「…彼奴め。また妾を口寄せなんぞで呼び出そうとしおったな。
だが…妾の隣りに彼奴が居たとは思いもしなかっただろう。くくく…。」
女性は紅茶を啜りティーカップを皿に戻す。
「…ベルウッドさん?貴方は鬼ですか?」
テーブルの向かいには元老院に所属する議員のローブを纏った巨塊。
「ゲンジクよ少しは落ち着いたらどうだ?
流石に50年前の使い込みなんぞ奴は根に持って居らんぞ。だいたい…
根に持っていたのならとっくに其方の首は跳ね飛ばされておるわ。」
「いや…そう言う意味じゃなくて。龍の居る檻に虎を投げ込んでどうするのかと?」
「おお!其方か!大丈夫だ。今回はあの孫のお守りを呼んだのだろうから。」
ベルウッドは別段何も気にする事無くお茶を楽しんでいた。

「…じぬがどおぼっだ。」
頭を抑えながらファインは呟く。真逆こんな化物が出て来るとは思っても見なかった。
エリーゼの方も空いた口が塞がらない。
しかしエクステラは別段気にした要すも無くザクサルに話しかけている。
「あの〜…そのドーザークロー格好良いですね!」
「そうか?機械のお嬢さん?良ければ技術者を紹介しよう。スペアにでも使うか?」
「ああ!それ良いですねぇ〜。」
何と言うか別の空間が出来上がってしまっている。
「あの〜…ザクサルさん?ちょっと宜しいですか?」
「なんだ?口寄せを失敗した耄碌魔術師?」
「ちょっと2人を頼みます。特にニューフェイスの方は確りここでやっておかないと。」
「ええっ!?ちょっと待って!何でこの人に私を押し付けるの!?」
「この人呼ばわりとは随分と大きく出たな…口寄せを失敗した耄碌魔術師の孫よ…。」
「ひぃ!?」
「そこは外さないのでありますか…とほほ…。」
流石に4人が密集ではきつい物が有る。

「そうか貴様はあの大統領の方をサポートしに行くか。解った。
この娘…立派に仕上げてみせよう!泥船に乗った機分で居てくれて良いぞ!」
何か不安が有るが急ぎファインはベルゼンラーヴェを跳び出した。

93 :Full metal president178 ◆5QD88rLPDw :2007/01/14(日) 08:27:46 ID:???
まあ…跳び出したは良いが当然回りは何も無い空中。
しかし口寄せに失敗した耄碌魔術師とは言えどこの状態は気にする事でも無い。
「ラインクノッヘン!其は翼!其はロケットエンジン!今こそその力を示せ!」
そんな言葉を吐くと背より針状で跳び出した無数のラインクノッヘン(真なる骨)は、
素早くその姿を翼に変えロケットエンジンを搭載しているが如き加速を生む。
それを使いファインは素早くバハムートに取り付くと内部へ入って行った。

「さて…これから実戦訓練に入る。貴様はあの化物を倒す。
これが最初の実戦訓練だ。健闘を祈る。」
「ちょいと待ていっ!!!なんも教えてないじゃないか!」
エリーゼは流石に抗議の声を上げるが…
「必要になるときまで講義は無しだ。それともそれを聞かないと動けないと?
息を巻いて奴のゾイドを奪っておいてそれは無いのではないか?」
事実上パイロットの居るべき場所を占拠してしまった以上エリーゼには弁解の余地なし。
更に追い撃ちとして…
「必要な技能は何ができるのかが解ってからだ。それが解らない内に無駄な事を教える…
それは愚か者か役立たずを生産する手段でしかない。俺には欠陥品を作る趣味は無い。」
衝撃。月の獣からの攻撃だ。無防備な状態のベルゼンラーヴェは海面へ落下して行く。
「くっ!」
エリーゼは海面すれすれで態勢を立て直しそのまま海中へベルゼンラーヴェを沈める。
「何も言い返せないのが頭にくるわ。なら!何ができるかは…
あなたで試させてもらおうかしら?」
何かを諦めた途端に何かが動き始めた気がするエリーゼ。
それを見ているザクサルの目はにやけていた。何かが見られそうな期待に充ちて。

「あらあら?貴方は突然噛ませ犬に格下げかしら?」
メリーはスタッグドレイクに向かって言い放つ。形勢は完全に逆転している。
今まで底が知れなかった存在。だが今回は戦闘が目的では無かったのだろう…
明かに戦闘力が不足しているのだ。つまり今回のスタッグドレイクは、
対丘鯨用。そもそもギルベイダーの改造機等と闘う準備など有る筈が無い。
「ちっ…残念だが”爪”は今回諦めるしかないようだが?」
ゼクトールにはまだ奥の手が幾つか存在する。それを使う時が来た。

94 :Full metal president179 ◆5QD88rLPDw :2007/01/14(日) 10:07:37 ID:???
「”爪”?何か探し物だったのね?それでは…。私にはもう用が無いわ。」
メリーはそう言うとギルマリナーを回頭させる。
「…見逃してくれるか。感謝する。」
ゼクトールはスタッグドレイクを同じく回頭させる。両者とも大人だ。
用のないことをする程時間に余裕が無いと判断したのだろう…。
しかし時間が無いゼクトールは結局それを使う事は避けられなかった。
「消えた…搭乗ゾイド毎舜身の術なんて。しかも術なんか使った形跡が無い。」
これが奥の手の一つ術式等の魔術的アプローチをすっ飛ばしての効果の発動。
”この世界”には存在しない技術だ。

「全く…何から何までシットな状況だ。」
マクレガーは漸くホムンクルスの体から舵輪を引き抜きそれの有るべき場所へ。
そして舵輪を突き刺し何とかバハムートの動きを止めた訳だが…
それで終わりではなかった。
「急げ!早くしないとアレがまた来る!パープルオーガに急がないと…」
マクレガーは元来た道を急ぎ戻る。だが直に足止めを喰らう事になるのである。

「あいたたたた…今日は厄日でありましょうか?」
「厄日はこっちです…マスター。」
「おやっ?大統領?まだこんな所に…。急がないと沈みますよ?このゾイド。」
「何ですって!?」
「とりあえず急ぎましょうか?ホムンクルスの相手は任せてください。」
ファインに押し潰されたマクレガーだったがそれ以降は極端にスムーズとなる。
ファイン自体は略相手に近付くことなく相手を攻撃できる。
昔から飛び道具に関しては抜かりが無い或る意味チキン王者な男。
時間の経過は持ち物を変えている事も意味し何時の間にか手に握られているのは杖。
それを振るうと振るった軌道から9mm抗術弾がホムンクルスに降り注ぐ。
あっと言う間に蜂の巣にされ術式の効果を無効化されれば再生行為も封じられる。
元々魔術的存在のホムンクルスにとっては致命傷その物。
更にはミサイルやらロケット弾まで連続発射できるので面制圧も簡単とくる。
「このガンナーロッドの前では中型ゾイドまで役には立ちませんよ。」
こんな物まで使用された過去は一体?とマクレガーには想像も付かない状況だった…。

95 :伝統と誇りと [放狼記]:2007/01/16(火) 21:37:15 ID:???
 こんにちは。ユーリです。ゾイドファイターのアーくんと旅をしています。
今日はちょっとなつかしい話をします。

 ある日、中央大陸の東部を移動していた時、街道を外れてある村に通りかかりました。
木材やトタンで作った粗末な(失礼!)建物が多いです。
 一段高くなったところに瓦礫の山があり、大勢の人たちが働いています。
 私達は近づいて、何をしているのか尋ねました。
「旅人さんは知らないと思うけど、ここには以前、領主さんの住んでいた立派な館があっ
たんだよ」
と言って、現場監督らしいおじさんが一枚の写真を見せてくれました。その写真には、
白塗りの壁の美しい、独特の立派な建物が映っていました。
「建築方法がこの地方特有で珍しくてね、首都のえらい学者さんが調査に来たこともあった
んだよ。ところが2年前の大地震でご覧の通りさ。私達の家や職場もぺしゃんこになって、
一時はどうなるかと思ったけど、最近はようやく一段落してね。これからどうしたらいいか
皆で相談したんだが、町の復興のシンボルとしてこの建物を再建することにしたんだ。まだ
生活は苦しいけど、皆でちょっとずつお金を出し合って、足りない材料のあてもつけて、
ようやく再建する目処がついたんだ。皆で建物を建て直してるところだよ」
 いい話ですね。私とアーくんもお手伝いすることにしました。
 私の背中のアームは普段はカタナを振るのに使いますが、こんな時にはクレーンのかわり
になります。木材を掴んで高いところに運んであげると、人力だけでやるより作業効率が
格段に上がります。
 夕方まで一生懸命働きました。
 監督さんはお礼だと言って、泊めてくれました。といってもプレハブでざこ寝です。
食事もいただきました。といっても大鍋で煮た芋汁を村民全員と一緒に食べただけです。
お金がないんじゃ、しょうがないですね。
 でも監督さんの家族はみんな明るい顔です。あの建物を作り直せば明るい未来がくると
信じてるんですね。
 次の日の朝、監督さんから「もうちょっと手伝ってくれないか」と頼まれましたが、次
のバトルの予定があるからと言って村を離れました。


96 :伝統と誇りと:2007/01/16(火) 21:40:29 ID:???
 半日ほど行くと、また村が見えてきました。バラックのような簡素な建物が多いです。
 一段高くなったところに瓦礫の山があり、大勢の人たちが働いています。
 私達は近づいて、何をしているのか尋ねました。
「旅人さんは知らないと思うけど、ここには以前、領主さんの住んでいた立派な館があった
んだよ」
と言って、現場監督らしいおじさんが一枚の写真を見せてくれました。どこかで見たような、
白塗りの壁の美しい、独特の立派な建物が映っていました。
「建築方法がこの地方特有で珍しくてね、首都のえらい学者さんが調査に来たこともあった
んだよ。ところが2年前の大地震でご覧の通りさ。私達の家や職場もぺしゃんこになって
財政的にも苦しくて、一時はどうなるかと思ったけど、じつは最近、このガレキの山を買い
取りたいという話があってね、町のシンボルだった建物だから撤去するのは心苦しいんだ
けど、このまま放置しておいてもしょうがないし、売ったお金を皆で分ければ生活はかなり
楽になる。こうやってばらして使える材料を分別しているんだよ」
 いい話ですね。私とアーくんもお手伝いすることにしました。
 私の背中のアームは普段はカタナを振るのに使いますが、こんな時にはクレーンのかわり
になります。大きな木材を支えたり作業の補助をしてあげるだけで、人力だけでやるより
作業効率が格段に上がります。
 夕方まで一生懸命働きました。
 監督さんはお礼だと言って、泊めてくれました。といってもプレハブでざこ寝です。
食事もいただきました。といっても大鍋で煮た芋汁を村民全員と一緒に食べただけです。
「あの建物の残骸を売れれば家も建て替えられる。以前のような食事もできる」
みんな、希望に満ちた明るい顔をしています。
 次の日の朝、監督さんから「もうちょっと手伝ってくれないか」と頼まれましたが、次
のバトルの予定があるからと言って村を離れました。

あの二つの村の人達は今はどうなんたんでしょうね。

二人の旅はまだまだ続きます。

97 :地上最強のジャーナリスト 1 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/16(火) 22:19:36 ID:???
高度文明圏のある街に“スルーメ=イーカ”と言うゾイド乗りがいた。
彼はシールドライガーを駆り、各種トーナメント等の賞金マッチに出場しては連戦連勝。
イケメンである事もあって女性ファンも多く、現在最も人気と実力を兼ね備えた
ゾイド乗りであると言えた。しかし、残念ながら今回の物語の主人公は彼ではない。

「つまんない男・・・。結構普通じゃない。」
「!?」
またもゾイドバトルトーナメントで優勝し大勢の取材陣からのヒーローインタビューを
受けていたスルーメをその一言が硬直させた。声は一人の若いフリーのジャーナリスト
から発せられた物であり、スルーメ以下その場にいた者が声の主を注目した。
「俺の何処がつまらないと?この大会のチャンプだぞ。」
連戦連勝であり、マスコミ等からもチヤホヤされていた為だろう。スルーメもに奢り
高ぶった所があった。しかし、若いジャーナリストはそれにも全く屈する事は無かった。
「所詮ヨーイドンでしか戦えないくせに馬鹿言ってんじゃないの。それを除いて考えても
結構ただの男じゃない。つまらないわ。ま、一応これも仕事だからきちんと普通の人が
満足する程度の記事にはするけどさ。」
「俺のどこがただの男だとぉ!?」
頭に血が上ったスルーメはジャーナリストの襟首を掴んで持ち上げようとした。が、
その瞬間には既にジャーナリストはスルーメの背後に回り込み、後ろから彼の右手を
捻り上げていた。
「いだ!あだだだだ!」
「ほら、私なんかに負けるような男の何処が凄いの?私が本当に取材して、記事にしたい
のは“常識を遥かに超越した規格外の存在”なの。くやしかったら最低でも単機で戦局を
覆して見せるような凄い事をやってみなさいよ。どうせその程度の実力じゃ無理だけど。」
「・・・。」
ジャーナリストは手を離すとその場から立ち去ったが、スルーメやそのファン、及び
各取材陣は唖然とするしかなかった。

98 :地上最強のジャーナリスト 2 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/16(火) 22:21:52 ID:???
「本当つまらない。今最も評判のゾイド乗りって言うからどんなのか見てみたら
何の事は無いただの男じゃない。私が取材したいのはそんなんじゃないのよ。」
若きフリーの女性ジャーナリスト“ハーリッヒ=スーミャ”(15)。この若さで早くも
かなり優秀なジャーナリストとして数えられる程の逸材なのだが、この通りの性格の
せいで周囲からは奇人変人扱いされていた。彼女は常識を遥かに超越した規格外の存在を
取材し、記事にするのが夢だった。しかしその様な者がそう簡単に見付かる分けがない。
そして規格外の存在が見付からない事を自分の無力さと解釈し、落ち込んでいた。
だがその日、彼女はその後の運命を大きく変える出会いを果たす事となる。

「どっか本当凄いのいないかな〜。宇宙人(地球人除く)とか異次元人とか、古代文明の
超兵器とか・・・百歩譲って超人でも良いんだけどな〜。」
ハーリッヒは失意のまま夜の街を歩き、人通りの少ない裏路地に入っていた。
「あ〜あ〜・・・。ここで漫画みたいに怪物がバーッて襲って来たら面白いのに。」
その時だった。突然正面の壁を突き破って怪物が現れたのは・・・
「?」
余りにも意外過ぎる展開にハーリッヒの目は丸くなった。無理も無い。怪物が出たら
良いな〜と冗談交じりで言っていたら突然怪物が現れるのだから。これは真っ当な人間
とて目を疑う光景である。
「え?ちょっと・・・え・・・?」
ハーリッヒは手に持ったカメラを怪物に向けながら後ずさりした。怪物は3メートル位
あり、全身の筋肉ははちきれんばかりに肥大化し、頭には二本の硬そうな角に醜悪な
形相に下顎から生えた巨大な牙、全身から不潔感が漂うようにモジャモジャに生えた毛
など、見るからに怪物と形容せざる得ない姿をしており、まるで鬼の様でさえあった。
「シーゲル=ミズーキのゴゴゴの機太郎じゃないんだからさ・・・。」
ハーリッヒは苦笑いしていたが、案の定鬼の様な怪物は襲い掛かって来た。が、その時
横から物凄い速度で突っ込んで来た何かがハーリッヒの身体を抱き上げて飛んでいた。

99 :地上最強のジャーナリスト 3 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/16(火) 22:27:13 ID:???
「え!?」
「ミスリルガトリング!」
ハーリッヒを抱き上げ者の片腕がガトリング砲に変形し、怪物を忽ち蜂の巣にしながら
吹き飛ばしていた。飛び散る血と肉。ハーリッヒの危機を救った者こそ、人の心を持つ
ロボットであり、一部の人間からは“機械仕掛けの女神”とも呼ばれている
“SBHI−04 ミスリル”その人だった。
「大丈夫ですか?」
「あ・・・ありがとう・・・で・・・でも貴女のその体・・・。腕がガトリング砲になって・・・。」
「何って私はロボットですから機械で出来てるのは当たり前でしょう?」
ハーリッヒは驚愕しており、ミスリルも仕方ないと言った様な顔になっていた。
「(仕方ないですよね〜。いきなり怪物に襲われた上に今度はロボットである私が
助けに入ったワケですから・・・。怖がっても仕方ないですよね・・・。)」
「す・・・すごぉぉぉぉい!ここまでよく出来たロボットは私初めて見たわ!これこそ
私の求める規格外の存在よぉ!」
「ええ!?」
一転して今度は目を輝かせたハーリッヒにミスリルは焦った。さらにハーリッヒは
怪物の屍を指差した。
「で、さっきのは魔界から来た妖怪で、貴女はそれと人知れず戦う正義の味方なのね!?」
「いえ、違いますよ。あれは別に魔界から来た物じゃありません。ただの遺伝子操作で
それっぽく作られた人造生命体です。それに私はお金を貰って戦っているので、正義の
味方じゃありませんよ。」
「またまたそんな事言っちゃって〜。分かってる。私には分かってるよ。あんまり表沙汰
にしたくないからごまかしてるんでしょう?」
「は〜・・・。」
勝手に変な方向に解釈するハーリッヒにミスリルは呆れてしまっていたが、ミスリルは
既に全身が吹き飛びグチャグチャになっていた怪物の屍を指差した。

100 :地上最強のジャーナリスト 4 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/20(土) 22:13:41 ID:???
「いいですか?って貴女の名前は?」
「ああ、私はハーリッヒ=スーミャ。フリーのジャーナリストよ!」
「そうですか。私は何でも屋“ドールチーム”責任者のSBHI−04ミスリルです。
で、話を戻しますが、ハーリッヒさん。あの怪物はもう死んでますよね?」
「見ればわかるじゃない。」
「でもですね、本物の妖怪の場合は死なないんですよこれが。でもこっちは遺伝子操作で
作られたイミテイションで、れっきとした生物だから死ぬんです。まあ、これでも並の
人間にとっては脅威なのでしょうけど・・・。」
「そうなの〜?って事は貴女は本物の妖怪と会った事があるって事よね!?良いな!
私もそういうの見てみたいの!普通の人間には興味無い!私が真に取材したいのは
貴女やあの怪物のような規格外の存在なのよ!」
「言わなきゃ良かった・・・。」
物凄い気迫さえ発するハーリッヒにミスリルも気圧されていたが、そんな時に
向こう側から小さな少女が走って来た。だが、それは良く見ると人形であった。
それこそドールチームに所属する呪いの人形“ティア=ロレンス”。元々彼女は
人間だったのだが、死んで霊だけになった為に現在少女人形を器として使っていた。
「ミスリルあのねあのね、さっき怪物に殺された人のお話を聞いて来たんだけど、
あの怪物を作った所の手がかりは分からなかったのよ。」
「キャァァァ!今度は喋るお人形さん!?可愛い!」
「ええ!?何々!?」
いきなり抱きしめて来たハーリッヒにティアも困惑していたが、人形は器に過ぎず、
霊が本体であるティアは他の霊とコンタクトする事が出来た(ただし成仏しておらずに
この世に残っている霊に限る)。元々幼くして亡くなった身である為にミスリルに面倒を
掛ける事も多いが、彼女の能力のおかげで情報収集が楽になったと言う側面もあった。
と、その時だった。突然横道に生えていた木の陰から何かが飛び去ったのだ。
それは鬼の顔を持つ蝶のような怪物だった。

101 :地上最強のジャーナリスト 5 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/20(土) 22:15:53 ID:???
「あ!あれを追えば連中の場所が分かるかも!」
「うん!」
「待って私も連れてって!私の勘が言ってるわ!貴女達に付いて行けば沢山の規格外に
会えるって・・・。」
話の途中でミスリルとティアは怪物を追って飛んで行ってしまった。ミスリルは
マグネッサーシステムとブースターの併用で、ティアは霊力によって飛ぶ事が出来た。
「わぁ!空も飛べるんだぁ!って待ってよぉぉ!」
ハーリッヒは必死になって後を追ったが、その速度に雲泥の差があった。
「こうなったら何としても付いて行ってやるんだから!スクープマスター!!」
ハーリッヒが叫んだ時、何処からか一体のスナイプマスターが走って来た。
これこそ彼女の愛機“スクープマスター”である。スナイプマスターをベースに
スナイパーズスコープを高性能カメラに、スナイパーズシートを各種機器に交換し、
武装は左腕に自衛用のビームガンのみと言うジャーナリストらしい改造が成されていた。
それ故にスクープマスターと言う名が付けられていたのだが、実際はスクープらしい
スクープは無かった(ハーリッヒにとって)。だが今は違う。やっとめぐり合う事の出来た
ハーリッヒの求める規格外との邂逅にスクープマスターも何処か燃えている様であった。
「さあ行くのよ!あれを追って!」
ハーリッヒを乗せてスクープマスターは走り出した。

ドールチームはある国の要人から極秘にある依頼を受けていた。ある反政府組織が
遺伝子操作で作り上げた怪物によるクーデターを画策しており、それを事前に組織ごと
潰して欲しいと言う依頼だった。国からの直接の依頼なだけに報酬の額もかなりの物で、
ミスリルも気合が入っていた。そしてミスリルの愛機であり脚であり剣であり盾である
特機型ギルドラゴン“大龍神”はティアの愛機であるLBアイアンコング“ゴーストン”
を背に乗せ、いずこへ向けて飛び去っていく怪物を追っていた。

怪物を追跡した大龍神とゴーストンの向かった先は街から遠く離れた山奥にひっそりと
立つ研究所の様にも思える建物を見下ろせる場所であった。森の奥深くに隠れるように
建てられた研究所は月も雲に隠れた深夜である事もあって相当に不気味だった。

102 :地上最強のジャーナリスト 6 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/20(土) 22:21:20 ID:???
「怪物が向かった先はあそこね。」
「とっても不気味なのよ〜。」
ティアがやや怖がっていたが、ミスリルは己の両眼であるカメラアイのズーム機能を
使って研究所の様子を良く見た。するとその研究所はボロボロに朽ち果て、怪物の巣窟と
なっていた。そして彼方此方に転がる人骨。遺伝子操作で怪物を作り上げたは良いが制御
出来ず、研究に携わっていた者達は怪物に殺されてしまった事は想像に難くなかった。
「さて、ここはドラゴンミサイルで一気に蹴散らしましょうかね。」
大龍神の装甲が開き一発のミサイルが姿を現す。並の相手なら一撃で部隊まるごと破壊
出来る程強力なドラゴンミサイルである。そして研究所に狙いを付けようとした時・・・
「凄いわ凄いわ!怪物があんなに沢山・・・。それに貴女が乗ってるゾイドも凄い!
ギルタイプなんてこの目で見るのは初めてよ!」
「ってうわぁ!何でこんな所にいるんですかハーリッヒさぁん!」
突如何の脈絡も無く現れてカメラを回すハーリッヒのスクープマスターに驚いた
ミスリルと大龍神は思い切り横転。それによって狙いの外れたドラゴンミサイルは
研究所の向こう側にそびえる山に直撃し、頂上部を吹き飛ばしていた。
「何でこんな所まで付いて来るんですか!?危ないですよ!?」
「そうなのよ。怪物は凄く強いのよ。お姉ちゃん殺されちゃうのよ。」
「何を言いますか!目の前に私の求めた規格外がゴロゴロしていると言うのに!」
ハーリッヒはますます目を輝かせていたが、先程のドラゴンミサイルでこちらに
気付いた怪物達がこちらへ向かって来た。遺伝子操作によって伝承などに登場する
妖怪っぽく再現した物や単純にグロテスクにした物など、色んなタイプがいた。
「ホラホラ来た来たぁ!」
「気持ち悪いのよ〜。」
「わぁ凄い凄い!」
怪物の大半は精々が3メートル程度の大きさであり、グロテスクで強そうな外見に反して
大した事は無かった為(もっともそれはミスリル達の基準であり、並の人間から見れば
恐ろしい相手であるのは間違いない)、大龍神とゴーストンは次々に蹴散らし、その光景を
スクープマスターが撮影していた。

103 :地上最強のジャーナリスト 7 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/27(土) 10:30:06 ID:???
「凄い凄い!凄いわ!この世の物とは思えぬ恐ろしい怪物を圧倒する白いギルタイプと
LBアイアンコングMK−U!これこそ私の求める規格外の存在よぉ!」
「ハーリッヒさん・・・。良い加減帰らないと怪物に襲われても今度は助けませんよ。」
ハーリッヒは相変わらず興奮しており、ミスリルは呆れるばかりだった。だが、気を取り
直して再度怪物達の住処となっている研究所へ向けてドラゴンミサイルを発射した。
今度は見事に命中。大爆発と共に周囲の怪物ごと研究所を吹き飛ばし、焼き払った。
「ふう・・・これでお仕事終了ですね。」
「え〜!?もうお終いなの?もっとこー凄い怪物のボスみたいなのが出て来てギルタイプ
と壮絶な格闘戦とか期待してたのに〜。」
「ハーリッヒさん・・・相手はただの遺伝子操作で作られた大した事無い人工生命体
なんですから・・・。」
あっさりした結末にハーリッヒはがっかりしていたが、その時だった。突如地震が発生、
さらに研究所のあった地点を中心に地崩れが起きた。
「わっわっ!」
「地震よ地震よ!隠れないと危ないのよ〜。」
「きっとこれから起こる新展開の予兆よー!」
大龍神さえ大きく揺さぶられる地震に皆は慌てるが、直後ミスリルは研究所の地下から
高エネルギー反応を感知した。
「こ・・・これは・・・ハーリッヒさんの仰った事が本当になるかもしれません・・・。」
「え!?」
ミスリルが苦笑いした瞬間、研究所跡が大きく吹き飛び、爆風の中から巨大な何かが
姿を現した。それは大龍神以上に巨大な蜘蛛の身体を持つ鬼だった。鬼は大きく裂けた口
からおぞましい咆哮をあげ、蜘蛛特有の八本の脚先を地面に突き刺しながらゆっくりと
大龍神らに近寄って来た。
「うわぁ!やっぱりいたんじゃない怪物のボスがぁ!」
「あれはシーゲル=ミズーキ先生の本で見た事があります。恐らく“牛鬼”と言う妖怪を
参考に作った遺伝子操作生物なのでしょう・・・。でもあのサイズでこのグロさは勘弁して
欲しいです・・・。」
「怖いのよ〜・・・。」

104 :地上最強のジャーナリスト 8 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/27(土) 10:31:46 ID:???
相手は本物の妖怪ではなく、あくまでも遺伝子操作でそれっぽい形に作られた生物に
過ぎないとは言え、牛鬼の迫力は凄まじかった。蜘蛛のごとき体から生える八本の脚の
各部が微妙に脈打ち、関節の隙間から筋肉の様な物を痙攣させながらゆっくりと
こちらへ向けて近付いて来ており、その光景は不気味だった。
「うわ・・・こ・・・怖い・・・。」
相手は本物の妖怪と違い、普通に倒せる相手であるのは分かっていても、グロテスクな
様相はミスリルさえ退かせていた。そうして大龍神が一歩一歩じりじりと後退していたの
だが、対照的にハーリッヒのスクープマスターは牛鬼目掛けて飛び出していた。
「あんな凄い怪物は是非とももっと近くからカメラに収めないと一生後悔するわ!」
「ああ!ハーリッヒさん危ないですよ!」
背に搭載したカメラを回しながら牛鬼目掛けて突撃するスクープマスターに案の定
牛鬼の脚が襲った。先端部に固く鋭い爪の生えた恐ろしい脚である。が、何と言う事か
牛鬼の脚が地面に突き刺さる寸前の所でやや横に移動するという最小限の運動で
スクープマスターは軽やかに回避していたのである。
「凄いわ凄いわ!一体どんな生態をしているの!?」
「本当に凄いのは貴女の様な気がします・・・ハーリッヒさん・・・。」
牛鬼の動きは決して鈍くは無い。普通のゾイド&パイロットが相手なら確実に一撃で息の
根を止められている。それを何でもない様な顔であっさりと避けて見せるハーリッヒの
技術は凄まじかった。しかし、何時までもそれに感心してはいられない。
「ハーリッヒさん!これから攻撃に入りますから下がって下さい!」
「危ないのよ〜!」
「ええ〜?もっと撮りたかったな〜。でも仕方ないか・・・。」
愚痴りながらも何だかんだで話の分かる面もあったらしく、ハーリッヒはスクープ
マスターを下がらせた。と同時に大龍神のドラゴニックプラズマ砲とゴーストンの
ビームランチャーがそれぞれ向けられた。
「食らいなさい!」
だがその時だ。大きくジャンプした牛鬼はプラズマ砲とビームランチャーの砲撃の
両方をかわし、大龍神めがけて降下して来たのである。

105 :地上最強のジャーナリスト 9 ◆h/gi4ACT2A :2007/01/27(土) 10:34:26 ID:???
「うわぁ!こ・・・怖い!」
降下の勢いに加えて襲い掛かる爪の一撃は凄まじかった。とっさに前脚のドラゴンクロー
で受け止めるが威力の余り前脚が大きく揺らぎ、その振動はミスリルにまで届く程だった。
「み・・・見かけより力ありますね?」
「ミスリル危ないのよ!」
八本の脚を駆使して大龍神を締め付ける牛鬼に対しゴーストンがビーム・ミサイルを
発射するが相手は巨大な為にダメージは浅く、逆に脚で跳ね飛ばされてしまった。
「キャァ!」
「ティアちゃん!」
吹っ飛ばされ地面に強く叩き付けられたゴーストンにミスリルの気が反れた隙を突いて
牛鬼が大龍神の首目掛けて噛み付いて来た。牛鬼の牙は固く、顎の筋肉の力も加わって
TMO(チタン・ミスリル・オリハルコン)特殊超鋼材製の強固なボディーがきしんだ。
「うわぁ!これはやばいです!」
ミスリルが焦った時だった。突然スクープマスターが牛鬼の頭の上に乗りかかり、
両腕のザンスマッシャーで牛鬼の目を潰したのである。忽ち目から大量の血を吹き、
その口も大龍神の首から離れた。
「ハーリッヒさん!?」
牛鬼は頭の上のスクープマスター目掛けて爪を突き立てた。しかし、スクープマスターは
それをかわし、牛鬼の蜘蛛の様な体を滑り降りながらザンスマッシャーで斬り裂いていた。
牛鬼は体から血を吹きながらも追撃するが、スクープマスターは軽やかにかわして行く。
「何をしてるのミスリルさん!?早くやっちゃいなさい!」
「あ!ご・・・ごめんなさい!それじゃあジャイアントドラゴンカノン!」
大龍神のボディーの内部から超大型砲が姿を現し、そこから放たれる極太かつ超高出力の
プラズマ粒子は牛鬼の巨体を一瞬にして焼き払った。

106 : ◆.X9.4WzziA :2007/02/01(木) 01:29:01 ID:0XMWodWk
定期age。運営スレにて告知済み。

107 :サクセサー[放狼記]:2007/02/06(火) 22:18:47 ID:???
 土埃が視界を遮ぎる。むせかえるような硝煙の匂い、多くのゾイドが入り乱
れ、足元には銃や弾薬を抱えた男達が右往左往している。
 ここは地獄の一丁目、人はここを戦場と呼ぶ。
 ゾイドファイターは軍人ではない。だから戦場にいるのは場違いだ。だがここ
に俺がいるのは、目の前の城の中にいる、ある男に用があるからだ。

 話はさかのぼるが、中央大陸南東部のコルネロ地方はコルネリウス伯の領地
である。ゼネバス帝国は貴族制度があり(それが帝制を維持する所以でもある)、
彼らが諸侯として帝国領を分割統治している。といっても政治や軍事などとい
う瑣末なことに貴族自らが采配を振るうことはない。大半は優秀な補佐官が実
務を担当する。
 コルネロがコルネリウス伯領であることは既に述べた通りだが、彼の下には
ゼン=サーナという補佐官がいた。政治手腕に長けた人物で帝国内でも有名で
あったが、人柄の良い領主を慕ってよく仕えたため、非常に統治がスムーズに
いき、帝国内の地方行政の模範と言われるほどであった。
 コルネリウス伯は人柄も優しく家臣にも領民にも慕われていたが、残念ながら
子宝には恵まれなかった。初老に近くなってから出来たひとり息子を彼が溺愛
したのは当然のなりゆきであった。帝都の大学に進学してからは悪い遊びに
はまり、飲む打つ買うは当たり前、「コルネリウスの放蕩息子」と帝都では知ら
ぬものはない有名人となり、噂を聞いた親が慌てて帰郷させたがもう遅い。
 既にヘリック共和国との最後の戦闘から数年を経過、世の中は安定している
ように見えても政情は不安定である。いつ戦争が再開されてもおかしくはない。
そんな中、既に老境のコルネリアス伯は息子の行く末を案じながら、片腕である
ゼンに後事を託して息を引き取ってしまう。

108 :サクセサーA:2007/02/06(火) 22:24:27 ID:???
 実質的に諸侯の一人となった小コルネリアスは新領主として自分の思うような
政治をしようとするが、重鎮筆頭のゼンには頭が上がらない。若い領主と熟年
の補佐官との間には険悪な雰囲気が漂っていた。
 そんなある日、小コルネリアスからゼンに領地替えの命令があった。ゼンは
コルネロの中でも山岳地帯とそこに建つ城を領地として預かっていたが、その
山岳地帯の領地を召し上げ、かわりに平地のより肥沃な領地を与えようと言う。
 悪くない話ではあるがゼンは一蹴した。もともとこの地域は生産力に乏しく、
住民も為政者に反抗的な性格である。長年に亙る努力の結果として住民の暮ら
しも向上し、領主に対して親交的な態度をとるようになってきたとはいえ、小
コルネリアスの配下で彼以外に統治できる器量をもつ者はいなかった。
 理由を言って断ったゼンであるが、小コルネリアスは執拗だった。何度目か
のやりとりの後、小コルネリアスから「私が悪かった。あの話はなかったこと
にして欲しい。ついては仲直りに酒宴を開きたい」という手紙が来た。
 そしてゼンは小コルネリアスの居城に行き、そのまま帰ってはこなかった。
酒に毒が入っていたとも側近に刺殺されたとも言われるが真相は定かではない。


109 :サクセサーB:2007/02/06(火) 22:31:55 ID:???
 小コルネリアスはゼンを誹謗する弾劾状を発表し、彼の領地を差し押さえに
かかったが、この事あるのを予想していたゼンは、いち早く彼の家族と家来一同
を領地の城に帰して篭城の態勢を取らせていた。小コルネリアスはすぐに自前
の軍隊を差し向けた。兵士五百名、戦闘用ゾイド二百機(その他に補給などの支
援部隊がいる)に対し、防御する城方は非戦闘要員も含めて三百名、工事用を
含めてもゾイド五十機。彼我の戦力差は明らかで、城は簡単に落とされると思
われたが、これが容易に落ちなかった。攻撃側は数を恃みに気楽に攻めかかった
のに対し、守備側は命がけである。気構えが違う。この城の城壁が古代ゾイド
文明の遺跡で防御力に優れている事や、攻城戦で威力を発揮するはずの飛行ゾイド
が戦闘序盤にずさんな作戦で全て撃墜させられた事も原因である。
 城方もただ単に閉じこもっているわけではなく、ときどき城門を開いて打っ
て出る。たかだか十数機のゾイドはみな闘志にあふれており、コルネリアス側
に多大な被害を与えていた。
 ちなみに近隣諸侯に応援を要請したが「正義なき派兵はできぬ」と断られ、
帝国軍東部方面駐留基地の司令官は「自治権の侵害になる」と言って断った。
誰も彼も若い領主の横槍が不当なものだと考え、関わり合いになるのを避けた。

110 :サクセサーC:2007/02/06(火) 22:39:22 ID:???
 窮した小コルネリアスは、領下および近隣のゾイドバトル協会を通じてゾイド
ファイターに募集をかけた。高額の報酬につられて集まったファイターは五十人
にも満たなかったが全員がゾイド持参で、コロシアム限定とはいえ戦闘には慣れ
ている。
 この欲に目がくらんだゾイドファイターの即席傭兵部隊が、城門を開いて出
てきたゾイドを返り討ちにした。今までにない被害を出した城方は以後、城壁
の中に籠もったきり出てこない。それからは壁を挟んでの消極的な砲撃戦が続
いている。

 で、俺はコマンドウルフのコクピットに座って、ぼけ〜っと戦況を眺めてい
る。ウルフの背中にはいつものカタナではなくロングレンジライフルを装着し
ており、一定間隔で砲撃を続けている。今日は前脚両側にも八連装ミサイル
ポッドを装着した砲撃戦仕様である。
 砲撃自体は俺が指示を出さなくても相棒のユーリが勝手にやってくれる。狂
気の科学者にゾイドと融合させられた、俺の幼馴染でありパートナーでもある。
俺がゾイドファイターをしながら旅を続けているのはユーリに人間としての生
活が出来るよう、このゾイドの中から出してやることだが、一向に手がかりは
得られない。
 しかし今回はその手がかり探しが目的ではない。


111 :サクセサーD:2007/02/06(火) 22:51:51 ID:???
「アーくん、本営から通達。砲撃中のゾイドは全機東南東に五度、仰角三度修
正、だってさ」
「アー君て呼ぶな。勝手にやっといてくれ」
 城壁が堅牢過ぎてビームのように直線的な攻撃兵器が役に立たないため、傭
兵も含めて実弾を発射できるゾイドは全て砲撃に駆り出されている。弾道軌道
を描いて城壁の内側に実弾を撃ち込むわけだが、対象が見えないためにメクラ
撃ち。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとばかりに、砲弾だけは腐るほど用意され
ている。機種もまちまちだが多数のゾイドが一列に並んで砲撃するさまは、な
かなか壮観である。
 砲撃をユーリに任せて俺が考えていたことは、城壁の内側にいる、ある男の
ことだ。名をグラハム・メッチェと言う。俺の師匠レイノルズ・ササキは地球
の剣術の一派、巌流の後継者にして瑞巌流の創始者でもある。彼が弟子をとった
のは後にも先にも俺一人だが、ゼネバス帝国の将校だった時、部下達に剣術を
教えたそうだ。たとえゾイド乗りといえど白兵戦をやる時はある。部下の生存
率を高めるために指導したのだろう。そんな優しい面をもつ男である。
 その中でもグラハムはかなり「強かった」そうで、「アイツと立ち会ったら試合
なら俺が必ず勝つが、真剣なら五分といったところ。お前ならどうかな?」と
師匠が言っていたのを覚えている。

112 :サクセサーE:2007/02/06(火) 22:57:03 ID:???
 その男は共和国首都をめぐる共和国軍との一連の戦闘の後、叔父であるゼン
・サーナの補佐としてこの城に入っていた。そして今は篭城しているゼンの
部隊を実質的に指揮しているらしい。
 俺は城の中に入って兄弟子であるグラハムを説得し、この城から脱出させる
つもりだった。もし師匠がいれば、必ず彼を助ける手段を講じるはずだからだ。
あいにく師匠は海を越えたエウロぺにいる(何故それを俺が知っているかとい
うのは別の機会に話そう)。たまたま近くにいた俺が、代わりにやるのが同門の
つとめというものだ。
 城の中に入りたいのはやまやまだか、既にコルネリアス軍が城の周りを囲ん
でいた。おり良くゾイドバトル協会の募集に応じて攻撃側の陣地に入ったのは
いいが、城の中に入る機会がない。
 だが、ここ数日、こちらから定期的に繰り返される砲撃に対し、城中から撃
ち返される砲撃は日毎に減少していた。城壁が堅固すぎるためビームなどの
直線的な武器が使えず、双方とも放物線を描いて飛ぶ実弾兵器だけの打ち合い
を続けているのだが、こちらが城壁内をしらみつぶしに砲撃し続けている効果
が出てきたのか、弾薬が尽きたか、いずれにせよ返ってくる砲撃は日に日に
減少している。
(この調子だと、明日あたり総攻撃かな?)
だとすれば、忍び込む機会は今夜しかない。


113 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 17:11:44 ID:???
 “母”の目覚め。
 刻が来るのを待っていた、と言わんばかりの覚醒は、そこに何者かの作為を秘めて。
 作り出された冬の中心にて王は待つ。己が存在をかけて、倒すべき敵を。
 すべての事象は神の呼ぶ声に曳かれ、世界樹の根のもとへ――。

 一刻の猶予もない状況。最低限の荷物を揃え、ゾイドを整備するのに掛かる時間から、
ニクスへの船出は明日ということに決まった。
 ――唐突に訪れた決戦前夜。雇えるだけの技師を結集して全員のゾイドを修理に掛かる
が、騎士との戦いで損傷が大きい機体を完全に直すことは不可能である。

 そんな慌しい格納庫、異彩を放つ武骨な機体――クァッドライガーのコックピットには
男が二人。パイロットと、機体の建造を主導した者。
「クァッドの能力を最大限に引き出すためには、最大の特徴であるQT換装システムによる
多彩な武装を状況に応じて使い分けることが必要です。これによって、万能機に様々な
特化能力を付加できると言うコンセプトで設計されています」
 初乗り、それも調整が不完全な状態での実戦をたった一回経験しただけではどんなゾイド
も乗りこなせない。勉強は苦手だと言う、多くの学生に当てはまる意識を人一倍持つオリ
バーがアレックスの解説をおとなしく聞いているのは、騎士との決戦に敗北は許されない
からだ。死線を潜り抜けてきた今なら解る。かつては気にも留めなかった『死』は、いつ
も足元で大口を開けて待ち構えているのだと言うことが。
「センサー連動のプラズマフィールド・ドライブも大いに活用すべきです。防げない攻撃
を見極められるなら、敵の反撃を意にも介さず一方的な攻撃が可能になる。
 とは言え、軽量化で装甲が薄くなったのを補うための防御システムですから、過信は禁
物ですよ。相手は騎士です。どんな攻撃を仕掛けてくるか知れたものじゃない。もし一発
でも直撃をもらえば、それで一巻の終わりになりかねません」

 元々がデスザウラーと言うきわめて優秀な機体だ。パワーにしても、ゴジュラス級の重
ゾイドを腕の一振りで吹き飛ばしたり、引き裂いたりと伝説になるほどの活躍を残してい
る。しかもこの年代に作られた機体であれば既にロールアウト当時とは内部が完全な別物
になっていることだろう。

114 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 17:16:46 ID:???
 それをもとに常人には扱えないようなカスタムが施されているとあれば、一撃の攻撃力
が軽量の高速機を一撃で屠るに充分足るであろうことは想像に難くない。
 そうしたパワーを持つ機体を手足のように操る騎士の技量も、推して知るべし――だ。

「武装の種類は、揃えられたもので93種類です。全て使うことはまずないでしょうから、
あなたの戦い方に合わせて最適なものを瞬時に出せるようにすることが肝要です。
 彼らの本拠地は地下と言うことですから、ミサイルやグレネードは避けたほうが良さそ
うですね……どうでしょう、アサルトライフルで牽制しつつスプライト・ドライバーとか」
「連中のフレームは強化されてるんだろ? 装甲を抜ける威力があっても、体勢が崩れな
いと牽制にならないぜ。それに、一発でこかせる奴がいい――」

 この様子、じつは差し入れを運んできたエルフリーデ・ラッセルに見られているのだが
彼女は微笑ましくも永遠に理解できそうもない謎を抱えることとなる。
 どうして男は武器の話で盛り上がるのだろう?――という謎だ。

「ちょっといいか、オリバー」
 徹夜で武器の調整と戦術の構築を終えた彼は、真面目な顔で自分を呼び出すリニアの態
度に緊張を覚えていた。思えば修行も中断しっぱなしで決戦まで来てしまった師弟だ。
なにかしらの心得とか、奥義とかを教えられるのかと思っていた。
 だから、表情を変えずに彼女が放った第一声に戸惑った。
「私は、正直お前のことが好きなのかどうか判らなかった」
「は……はい?」
 奇声で答えられ、初めて彼女は表情を崩す――いつ見ても綺麗なその笑顔。
「確かに私はお前に心惹かれていたのかも知れない。だが、それは結局ルガールの代わり
を探していただけ――お前のアンバランスさの中に、彼を見ていただけだったんだ。
 すまない――お前と彼は違うのにな」
 今言わねば、永遠に言えなくなるかも知れないから。辛くとも、彼女の中でけじめをつ
ける意味で避けては通れない告白だった。自分もオリバーも、中途半端な気持ちを抱えた
まま戦いに赴くべきではない。

115 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 17:26:37 ID:???
「ひどい女だと思われても仕方がないだろうな、実際そうなんだから。無意識に色目を使
って妙な誤解を与えたかもしれない……なじってくれて構わない。師匠失格だ。
 だが、お前と一緒にいて……まるで弟ができたみたい、そう思ってもいた。私はいつも
『妹』だったから、年下の誰かと暮らすのは新鮮で楽しかったよ」
 まるで遠い昔を偲ぶように、戻らない日々の思い出を語るようにその声音が震える。
「だから、虫のいい話だと思うがこれだけは信じて欲しい――私は確かにお前を愛してい
るんだ。恋人にはなれない愛情だが、その気持ちに嘘は無かった」

 オリバーの口から飛び出しかけたいくつかの叫びは、それぞれが正反対の方向を向いた
彼自身の心が言霊となったもの。
「ふざけるな! 俺は生まれて初めて本気になりかけてたのに――」
 それは幼くして真実の愛を失くした、孤独な少年の怒り。
「そんなこと、謝るのは俺の方だよ。自分が本当に好きなのが誰かも判らないまま、師匠
やエルにもどかしい思いをさせ続けて――」
 それは刹那の恋心に戸惑った、純粋な少年の赦し。
「関係ないさ、師匠は師匠だ――」
 それは年に似合わぬ大人を演じる、仮面の少年のごまかし。
 だが、そのどれもが口から出て行こうとはしない。悲しみと怒りと、憎しみと、喜びと、
衝動と自制と――すべての感情、意思がない交ぜになって彼を絡めとる。
 自分の作った巣に捕らえられた蜘蛛が、それでもたった一言自由にした言葉は。
「――俺も、なんだか姉ができたみたいだって思ってたのかな」
 問いかけの形で放り上げられた本音。糸に捉われた蛹が羽化を遂げ、美しい蝶になって
ひらひらと舞い上がっていくように、沈黙の中にさえ余韻を残す呟き。
 放たれた蝶は決して蜘蛛の巣には還らない。だから蜘蛛は、また蝶を自由にする。

116 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 17:34:45 ID:???
「俺には兄弟なんていなかったから、それがどんなものだか解らなかったんだ。多分俺は
未知のものを求める好奇心と、恋心の区別もつかなかったんだろうな。幼稚……だろ」

 決して届かぬ空を舞い遊ぶ蝶たちは彼の記憶だった。彼の意思だった。自分の心の一部
を自由にすることで、自分自身に縛られて決して望みえぬ本当の自由を垣間見たいと望む。
 矮小な希望は、大きな絶望の――諦めの影。彼は己が戦いの道具として生きる道を選ん
だ日から、諦めの錘を胸に抱えて生きてきた。それは少年に早すぎる安定を与え、代償に
信じることをも否定させた。信じずして誰かを愛することなど、不可能だった。
 生まれ持った容姿を売り物に、歳も様々な女たちと肌を重ねるたびに飢餓感が増してい
く。金と快楽のやりとりしか知らない少年が本当の愛を感じることなど、できないのだと
心の奥底で諦めていた。

 だから、新鮮な輝きに飛びついたのだろうか。

 自分になびくそぶりも見せず、自分よりも強いリニアに。「これが本気の恋か」などと
仄青い勘違いにひとり舞い上がり、本当に彼を想う人をないがしろにした。
 自分に嘘をついた。リニアの方が眩しく見えたから、エルフリーデに支えられる自分を
無視してきた。だが――それは間違いだった。リニアに感じていた想いは恋慕などではな
く、幼い弟が優秀な姉に対して覚えるアンビバレンツな憧憬のようなものだった。
 そんな自分が断罪など、まして人の懺悔に赦しを与えるなど!
「痛々しくて笑えてくるぜ、プレイボーイ気取りが自分の感情も相手の気持ちも解ってな
かったんだからな。ホント、幼稚以外の言葉が見つからねえや」

「――いいんじゃないか、まだ幼稚でも」
 いつの間にやら頬を伝って流れていた涙を、リニアの指がそっとすくい取る。
「幼いことは常に罪か? 稚いことは常に悪なのか? そうじゃないだろう……お前も私
も、忘れているようだがまだ子供なんだ。背伸びして生きようなんて思うより、短い子供
時代を子供らしく生きる方がよほど健全だと思うよ。
 もっとも、これはルガールからの受け売りなんだがな」
 これ以上ない単純な事実。だが、オリバーは今の今までそれを意識したことはなかった。

117 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 17:37:50 ID:???
 死んだ親を除けば、彼の周りに行動の手本となる大人は居なかったのだ。たまに話す大人
といえば、共同作戦で肩を並べて戦う友軍ぐらいのものだった。
「私は最愛の人を失った後で、どれほどその想いが強かったかを知った愚か者だ。それに
比べてお前は失う前に気付けただけ優秀じゃないか。多くの人間が私と同じく、失くして
初めてそれがどれだけ大切だったかに気づくんだからな。
 師として、友として、そして……『姉』として言う。必ず彼女を守ってやれよ」
 これまで支えられてきた分も、そしてこれから支えられるであろう分も。
「ありがとう……。この戦い、必ず生き延びよう――えーと、『姉ちゃん』」
「……バカ。破門した覚えもなし、師匠でいい」
 彼女は気恥ずかしそうにルガールの“ピコハン”でオリバーの頭を叩いたが、穴が開い
たのか気が抜けるような音しか出ない。思わず二人して盛大に笑う。窓の外には、雪に反
射してキラキラと眩しい陽光が射しつつあった。

「よいのですか、彼らと共に居なくて」
「ああ。俺の目的はあくまで能力者のために騎士を討つこと――ルガールの借り以外に、
奴らとの繋がりはねえからな」
 オリバーの主張を聞いていたなら激しく反発したであろう彼、オレーグ・カーティスは
確かに不特定多数の人間のために戦う者だった。同胞意識か、差別への反発か。いずれに
せよ二人とも間違ってはいない。

 オリバーの言う『身近な理由で戦う者』は持てる力量に関わらず『普通の人間』であり、
オレーグのように『そこから外れた者』は愚者となるか英雄となるかの二択である。
 もっとも、彼は英雄になろうなどと望んで戦ってはいなかった。動機が己に降りかかっ
た火の粉であるなら、彼もまたオリバーの定義に当てはまるのかもしれない。

「ディープグラウンドの復興、進んでるのか」
 相手の顔も見ずに放られた質問に答えるのは、三人の腹心の紅一点「シヴァ」。かつて
は氷のように無機質な少女だった彼女も、幼き日に失くした人間らしさをルガールによっ
て幾分かは取り戻している。オレーグの『借り』には勿論彼女のことも含まれているのだ。

118 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 17:40:43 ID:???
「はい。ただ、爆心地を中心に異常磁場、重力偏差などの残留効果が発生しており、思う
ようには捗っていないのが現状です」
「磁場はまだしも重力偏差とはな。空間の位相を歪めるほどのエネルギーを一点に集中さ
せやがったのか、あいつら」

 重力の発生と空間の歪曲は相互に関連している。中心に無限の重力が発生するブラック
ホールなどは、強い重力が空間を目に見える形で歪めている好例だ。逆に言えば、空間の
位相をずらすほどのエネルギーを放出すればそこに重力偏差が生みだされる。そうした歪
みは時間の経過と共に元の位相へ戻っていくものだが、これほどの長期にわたって偏差が
残っているとなると、どれだけのエネルギーがあの時解き放たれたのかは想像もできない。

「そこまでの歪みになると、時間軸も確実に乱れてるだろうな。どうだ、現場でいきなり
老けたり若返ったりした奴が居たんじゃないか」
「笑い事ではありませんよ、ボス。そんなエネルギーがろくな制御もなしに解放されてい
たら、今頃惑星Ziは星系全域を巻き込んで色とりどりの光に分解されていたはずです」
「だが現実はそうじゃない。騎士の野郎どもがきっちり有効範囲を抑えてくれたおかげで
俺達は生きてるし、この星も文字通りの『星屑』にはなってねえ。だろ?」
 この人に危険性を説明するのに、仮定の話は役に立たないな――シヴァは降参を決め込
んだ。そもそも話が本筋からずれている。
 同じことを彼女の上司も考えていたらしく、ふと一人笑いをやめて切り出した。
「住居の復興が遅くとも、人が居ればそこに集落はできる。もともと流れモンの多い街だ
ったし、減った分の人口はすぐに埋まるだろう」

 減った分の人口、については考えない。彼らはあの都市での最大勢力というだけであり、
住民の命について言及する立場ではなかった。酷薄なようだが、それが地図にない街に住
む者の暗黙の了解である。哀悼も葬送も、やりたい奴がやればいい。

「そこでだ、流れ込んでくる奴らの中から情報屋を抜き出して、家賃ってことで政府軍の
動向に関する情報をタダでせしめてきた――」
 部下三人のリーダー格である少年「イフリート」は右手で顔を覆った。
「……あなたって人は。タックの所じゃ駄目なんですか」

119 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 17:43:14 ID:???
「復興に金を割いてる以上、あのオタク野郎に支払う法外な情報料は出せないモンでね。
奴のよりもだいぶ質は落ちるだろうが……見ろ、必要なものは手に入った」
 三人のコックピットにそれぞれファイルが送信されてくる。パスを打ち込み開封すると、
暫定政府がすでに“市街”常駐戦力の三割を動かし暗黒大陸に向かわせた――といった旨
のことが記されていた。
「実際には現地の兵員も加えるだろうから、もっと多くなるはずだ。タックがこの情報を
掴んでいないはずはないから、知己であるオリバーたちも当然向かうだろう。そこで我々
も現地に飛び、政府軍に加勢する」
 イフリートは己の耳を疑った。いま、どこに加勢するといった?

 聞きなおしてみると、やはり間違いではなかった。オレーグは確かに「政府軍に」加勢
するつもりなのだと言う。
「オリバーたちは政府軍に協力しようなんて夢にも思うまいよ。タックの頭なら、そんな
愚策は取らずに奴らを囮に使い、自分たちは敵の頭を潰しに行こうとするはずだ」
 オレーグらもまた、騎士の後ろで糸を引くものの存在は意識しているのだ。
「だが、この策には致命的な欠陥がある」
「……何でしょう。敵とて大軍に目を奪われて、他方からの敵には気付かないのではない
でしょうか? 陽動としては上策に思えますが」

 そうではないだろう。お前も理由を知っているはずだ――オレーグは心中で呟く。
「これはな、政府軍の連中が『囮としてまともに機能する』ことを前提として立てられた
作戦なんだよ。だから、騎士が奴らをさっさと全滅させちまったら、オリバーたちは敵の
本拠地で挟み撃ちになる」
「いくら騎士といっても、この数を相手に早々と全滅などできるものでしょうか? 我ら
が全員で掛かれば善戦できる程度のものです。能力者も数十人単位で編入されているでし
ょうし、私はむしろ彼らだけで充分なように思うのですが……」
 シヴァの言うことは正論だ。強力なゾイドと能力者であっても、圧倒的な物量差には抗
し切れない。だからこそ、通常の軍隊が能力者の反乱を鎮圧することが可能なのだ。

 しかし、それは常識内の話である。

120 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 17:48:55 ID:???
 騎士の力はそこいらの能力者とは桁が違う。まだ力が未知数な騎士もいる以上、どんな
怪物が出てきても不思議ではない。さらに、オレーグには一つの懸念があった。以前彼ら
がアーサーと戦ったときに感じた、言い知れぬ不安。一つの予測が頭の中で像を結びつつ
ある。もしかしたら、アーサーの能力は――。
「……馬鹿馬鹿しい。そんな野郎が敵なら、もう手の打ち様がないじゃねえか。そんな無
意味な予測をして何になる」
「? 何か言われましたか、ボス」
 思ったことが小声で出ていたらしい。気が緩んでるな――とオレーグは自嘲した。
「いや、なんでもない。とにかく、これは言ってみれば保険だ。政府の連中がお前の言う
とおり騎士を圧倒してるようなら、オリバーたちの援護に戦力を割くさ。それでいいだろ」
 とりあえずは納得した様子で頷く部下達の顔を見ながら、不思議と自身の懸念を微塵も
疑う気にはなれないオレーグだった。

 ――彼の懸念は既に、現実のものとなりつつあった。
 暗黒大陸ニクス。原初の混沌より生まれし、恐るべき夜の女神の名を与えられた大地。
 元々が寒冷な気候であったのが、作為的に生み出された極低温の中心を有するに至って
防寒装備無しには人間が外を出歩けないような、異常に澄んだ冷たい大気が広がっている。

 暫定政府が送り込んだ混成部隊とニクス駐在の現地軍はイグトラシル山脈の麓に大規模
なキャンプを展開し、突入準備を整えていた。兵士達に言わせれば、準備はそこそこにし
てさっさと温かい地下に突入させて欲しいものである。混迷の時代に軍人となった以上、
戦場で敵と戦って死ぬ覚悟はあったが、敵と戦いもせぬうちに凍死などという不名誉な死
を望むものは一人としていなかったのである。上官たちもそれは百も承知で、士気が落ち
ないうちに突入を決行したいと戦力再編を急がせてはいたが、送り出した斥候が一隊とし
て戻ってこないことから最適な部隊編成が行えないのが現状だった。

121 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 17:55:27 ID:???
 そして、肩を震わせつつ雲ひとつない星空の下で待たされる雑兵の仕事と言えば、作業
ゾイドで組み上げた簡易格納庫に入りきらないゾイドや車両の関節・燃料が凍りつかない
ように発熱シートを貼って回るぐらいのものである。

「俺ぁこのエレファンダーのシートを貼りかえるのは三回目だぞ。鼻先の馬鹿げたピンク
の塗装は見間違えようもねえや」
「けっ、どいつもこいつも自分の戦功をアピールしたくて極彩色のカラーリングを施して
るじゃねえか。俺に言わせりゃ、むしろそいつは正常に近いね」

 愚痴を垂れながら、動きにくい防寒服をねじ伏せてシートを剥がし、新しいものを貼る。
整備兵のみならず、突撃兵や能力者でさえもこうしたシート貼りに追われている状況だ。
 こんな仕事の最中でも冗談を言う余裕があるのは彼らのようなベテランだけで、まだほ
とんどが成人していない能力者などにはこの作業は辛すぎる。彼らの横でガンスナイパー
ワイルドウィーゼルに取り付いている少女など、十五になっているかどうか。いつ倒れて
もおかしくないように見える。

「おい、大丈夫か嬢ちゃん。そいつは突起が多くて貼りにくいだろうが、砲身にはあまり
数を割かなくていいぞ。下側にシートを付けるときはな、横着せずに脚立を動かして下に
潜り込め。この間、AZライフルの先っちょから落ちて頭を打った間抜けがいてよ――」
「誰が間抜けだてめえ! 俺は脚立が届かねえから仕方なく砲身伝いにだな――」
 いい年の男二人が絶妙の呼吸で繰り出す掛け合いに、寒さで震えていた少女の顔がふと
笑顔を咲かせた。自分を励ましてくれているのだと解ると、その稀有なやさしさに冷え切
った心が暖められるのをはっきりと感じる。反面、不思議でもある。

「“市街”で私たちの仲間があんなことをして――暴動や衝突があって――それなのに、
あなたたちは能力者の私を気遣ってくださるんですか」
「おや、君が能力者とは知らなかったねぇ」
「見え透いてるぞタコ。この行軍に参加してる十八歳以下の兵士は八割がた能力者だろうが。
――お嬢ちゃんよ、世間じゃ『人間と能力者に決定的な確執か』なんて騒いでるがな、
俺らに言わせりゃ能力者なんて同じ人間の中で人種が違う程度のもんだし、誰だって本当
は気付いてることだ」

122 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 17:59:53 ID:???
「そうそう。俺としちゃあこっちに来て合流した現地軍の連中のがよっぽど異世界の生物
だぜ。嬢ちゃんはもうニクスの公用語喋れるのかい? 俺なんてまだ『七<ゼプト>』と
『十七<ゼプツェン>』を聞き間違えるなんてのがしょっちゅうでよ――」
「やかましい! 横槍入れたいだけならあのシュバルツバルトとかいう堅物でもかき回し
に行って来い! ――とにかく、だ。世論に流されてる連中だって、本当は能力者ってカ
テゴリそのものに当たるのは理不尽だってわかってるのさ。ただ人間ってのはニブい生き
物だから、イライラをぶつけたくてしょうがない時に適当なネタが与えられれば、それを
叩きに行っちまう。例えその『ネタ』が同じ空気を吸って生きる人間でもだ。
 だが、絶望するには及ばないぜ。馬鹿だらけの世界だが、いいことだって探せばいくら
でもあるもんだ。いいこと探して世界を歩き回る。人生を楽しむにはこれに尽きるね」

 それを聞くと少女はガンスナイパーの足の上に座り込み、泣き出してしまった。親を亡
くし、ずっと同年代の仲間達と共に兵器として生きてきた年月の長さ。いつしか親を顧み
て泣くことも無くなっていた――だが、名も知らぬ男達の父性が戦士の鎧にひびを入れた。
氷の鎧の下から現れたのは、ずっと隠してきた少女としての弱さだったのである。

 さめざめと泣き続ける少女の肩に手をかけたのは、ずっと茶々を入れていた方の男。
「この寒さじゃ、きれいな涙が凍っちまうぜ。後は俺がやっとくから、ひとまず建物ん中
に戻りな。女の子の顔に凍傷なんざ、見栄えのいいモンじゃねえからな」
 小さく頷き、足場を降りて彼女は駆け去っていった。暖かい室内に入る直前、ぺこりと
頭を下げた少女を見送りつつ、男達の会話は再開する。

「……珍しく気の効いたことを言うじゃねえか。寒さで頭がおかしくなったか」
「いやー、可愛い子だと思ってなぁ。正直タイプだぜ」
「ロリコンか、てめえ! 俺のささやかな感動を返せ!」

123 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 18:03:18 ID:???
 投げつけられたシートを、肩をすくめつつ華麗に回避。
「いいじゃねえか。今や伝説の“マエストロ”だって、ロリコンだったらしいぜ」
「“マエストロ・ルガール”か……」
 彼の呟きは乾燥しきった虚空に反響もなく吸い込まれ、溜息だけが残る。

 ――ロリコンでもペドでもなんでもいいが、賽銭ばかり欲しがる神さまより俺はアンタ
に力を貸して欲しいぜ、ルガールさんよ。

 死地を潜り抜けること数回。今度ばかりは、親友との軽口にも毒が足りないように感じ
る。最後の会話がツッコミ代わりの罵声などという悲劇を回避するため――とは、意地で
も考えたくないのであった。

 中々戻ってこない斥候隊は、上官を徒に待たせていた訳ではなかった。
「どうして……どうして無線が通じない! ジャミングの可能性を考えて、電波に頼らな
いアーテ ィファクトの通信装備を持ってきたんだぞ!」
 炎に巻かれながら、隊長がコックピット内で絶叫する。原理まで理解していなくば、超
技術で造られた通信機が通じぬ理由など彼にはわかるまい――きわめて頑丈に作られた本
体は破壊されていなかったが、外付けの冷却機が壊れれば通信は不可能となる。EPRパラ
ドックスを利用したその通信機は傍受・盗聴が不可能で、どれほどの距離や障害物が対応
する通信機同士を隔てていてもリアルタイムでの会話を可能とする。だが、素子に使われ
ている粒子は熱を得るとそれ自体での情報が明らかになってしまい通信が不可能になる。
(EPR通信は『粒子1がAなら粒子2はB』という非局所的な相関関係を利用して行われる
ため、一方が熱を得て単体で情報が確定してしまうともう一方も確定してしまい、通信機
能が誤作動を起こす)
 それを防ぐために装甲部には断熱処理が施され、外付けの冷却機があるのだが、如何せん
完全な形で発掘されなかったために冷却機まで内蔵はできず、弱点をさらけ出していた。

 ――もっとも、最大の敗因は敵襲を打電する暇すら与えられなかった事にある。
 彼は確かに敵がレーダーに捉えられるなり、その旨をベースキャンプに報告しようとし
た。だが、彼の指がボタンに触れる前に――否、レーダーのエコー波が返ってくるより速
く、彼の機体は大破させられていたのだ。

124 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 18:06:58 ID:???
 何が起きたのか理解が追いつかない。比喩でも誇張でもなく、瞬きを一度する間に味方
は全滅していた。その殲滅速度に比べれば、糸が切れたように一斉に吹っ飛んでいく偵察
ゾイド部隊の様子はひどく遅く見えるのだった。
 彼らが壁や天井に激突し、炎上しながら落ちてくるその時、隊長は敵の姿を見た。

 それはマゼンタに染めた巨躯と手にした細身の剣がアンバランスな優美さを演出する機
体。原型であるデスザウラーよりもだいぶ細身で、顔も小さい。外見的にはフューラー系
の機体が大型化したような印象を受ける。
 だが、その立ち姿は彼にもっと別の何かを感じさせた。放つ殺気にはどこか女性的な妖
艶さと、かすかな――憂い? 悲しみだろうか? そうしたものが織り交ぜられている。
炎を背に骸の山を見下ろすその姿は、まさに高貴なる魔性。
 斥候隊長は炎の中、その美しくも恐ろしいシルエットを目に焼きつけたまま絶命した。

 彼らを葬った唯一の女騎士・リノーは己の剣“オートクレール”を鞘に収め、その場を
後にする。
「馬鹿な奴ら! 偵察任務なのにこんな奥まで入るから――」
 自分がいつになく苛立っているのは解っていたが、その理由が解らないことが余計に彼
女を苛立たせていた。

 仲間の死がこれほど自分を揺さぶるとは! 能力者狩りを始めた頃には思いつきもしな
かった『悲しみ』という感情がいつの間にか心の隙間に忍び入り、あるのかどうかも知れ
ない良心を叩き続ける。それも、ジークフリートが死んだと言われたその時には感じなか
ったことだ。その事実は時が重なるに連れて徐々に彼女を締め付ける。

「バカバカしい、人間でもない私がどうして感傷的になる必要があるのよ」
 悲しみも愛情も、人間のものだ。それは尊くかつ愚かなもの。騎士たる自分には必要な
い感情。そうした自己抑圧さえとても人間らしい感情だということを、彼女は知らない。
 死せる仲間だけがその揺らぎの根源ではないであろうことも、彼女は解っていた。だか
らこそ自分に腹が立つ。別にナルシスト野郎のセラードが壊れようと死のうとどうでもい
いはずなのに――ああいう男が一番嫌いなはずなのに。

125 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/02/07(水) 18:08:20 ID:???
 彼は任務の失敗をアーサーに嘲られて以来、狂ったように殺戮に精を出している。能力
者以外を巻き込んでも顔色一つ変えず、毎朝自分の顔を鏡で確認してニヤニヤする気色悪
い習性もなくしてしまった。見るたびに苦笑いがこみ上げる光景だったが、いざ見られな
くなると寂しく思うのは何故だろう。

 その感情を表すたった一文字の言葉も、彼女は知らない。いや――言葉は知っていても、
独力でそこに思い至ることができなかっただけだろうか。

                          <続く>

126 :地上最強のジャーナリスト 10 ◆h/gi4ACT2A :2007/02/07(水) 23:13:12 ID:???
「ごめん・・・ジャーナリストがこんな事するの本当はいけない事なんだけど・・・正直
見てられなかった。でも本当に凄いわ。あんな怪物を一撃で倒しちゃうんだもん。」
「私としては貴女の方が凄いと思いますよ・・・。」
牛鬼の息の根が止められた後、怪物はもう現れる事は無かった。研究所跡の地下から
怪物の研究に使われたりしたと思われる怪物の入れられた試験管などが多数発見されたが
それもハーリッヒがカメラに収めた後で爆破処分され、仕事は終了した。そうして
三人が山を降りようとした時、麓の方から多数のゾイド部隊が姿を現した。それは
今回の仕事に関してドールチームのスポンサーとなった国の正規軍の物であった。
「怪物退治ありがとうミスリル君。」
「それで、こんなに大勢引き連れてどうしたんですか?」
ゾイド部隊の後方に位置する指令ゾイド・ウルトラザウルスのブリッジにはミスリルに
今回の仕事を直接依頼した国の要人が乗っていた。
「な〜に、今回の仕事の後片付けに参上したまでだよ。」
「でも何故やたらに砲撃用のゾイドばかり揃えてるんですか?後片付けならスピノサパー
とか工兵ゾイドの方が良いでしょう?」
ミスリルは疑惑の目で通信映像ごしに要人の目を見つめるが、要人は突然頭を下げた。
「実は君に謝らねばならない事がある。実はあの怪物を作った研究所は反政府組織が
怪物を使ったクーデターを起こす為に作った物では無い。あれ本当は元々政府直轄の
機関だったのだよ?」
「え?」
「軍事用遺伝子操作生物の研究を行っていたが、制御出来ずに研究者も殺されて計画は
頓挫。この事が公になれば国民はパニックを起こすし、大スキャンダルで現政府の立場が
悪くなるのは目に見えている。だからその前に闇に葬ろうと君達を雇ったんだ。
だまして済まなかった。」
「で、次はその事を知ってしまった私達も消そうって事ですね?」
直後、要人は不敵な笑みを浮かべた。

127 :地上最強のジャーナリスト 11 ◆h/gi4ACT2A :2007/02/07(水) 23:14:58 ID:???
「流石は機械仕掛けの女神と呼ばれるだけの事はある。そう、君達は秘密を知って
しまった故に死なねばならない。これから私達が君に送る砲弾こそが今回の仕事の報酬だ。
もう君達にお金など必要無いのだからね。勿論そこの無謀なジャーナリストもね・・・。」
「冗談じゃないわ!せっかく私の望む規格外を取材したと言うのにこんな所で死んで
たまるもんですか!」
ハーリッヒは力一杯反論していたが、スクープマスターとゴーストンの二機を守るかの
様に大龍神が前に出ていた。
「いや〜全く参りましたね〜。それだけの部隊を動員するのは大変だったでしょう・・・。」
ミスリルは蔓延の微笑を浮かべて彼らを迎えていた。しかしその直後、突如として
目の色は真っ赤に光り、物凄い形相に変化したのだった。
『下等な有機生命体ごときが私をハメて生きて帰れると思うなよクソジジィ!』
「み・・・ミスリル!?」
「終わったの・・・。もうこうなったミスリルは誰にも止められないのよ・・・。」
直後、声にエコーがかかる程にまで激怒したミスリルの怒りに呼応した大龍神の全身から
おぞましい数のミサイル・ビームが放たれた。これだけの力を牛鬼にぶつければもっと
楽に勝てたんじゃないのか?と突っ込みたくなる程・・・
「えええ!?ってわぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
山は光に包まれ、展開していた大部隊は要人ごとあっという間に消し飛ばされた。

128 :地上最強のジャーナリスト 12 ◆h/gi4ACT2A :2007/02/07(水) 23:16:54 ID:???
「やっぱり貴女凄いわ・・・。でも結局あの怪物って皆遺伝子操作で作られたのよね・・・。」
「それがどうかしました?」
あれだけの豹変っぷりと大量破壊を見せ付けたミスリルを全く恐れずに話しかける
ハーリッヒの肝はかなり据わってると思われるが、彼女は一つの疑問があるようだった。
「じゃああれは一体何だったんだろう・・・。」
「どうしたの?」
「いや実はね、怪物の中に紛れて白い着物を着た女の子がいたのよ。」
「そ・・・そんなのいたんですか?」
ハーリッヒがカメラで撮った映像を見せると、確かに怪物の中に混じって、怪物とは
全く異なる雰囲気を放った白い着物を着た黒髪に白い肌の少女が写っており、
あろう事か牛鬼の足元にもその姿が見られた。
「こ・・・これって・・・まさか・・・。」
「ほ・・・本物なの・・・?」
「え・・・?」
直後、ミスリルとティアの血の気が一気に引いた。血なんて最初から無いけど。
「凄い!やっぱり本物の妖怪もいたのね!早速探さなきゃ!」
硬直する二人を尻目にハーリッヒはスクープマスターに乗り込んだ。
「私はここで行かせてもらうけど、いつか貴女達も本格的に取材するからね!」
そう言い残してハーリッヒとスクープマスターは山の奥へと消えた。そして、その光景を
遠くから見詰める、写真に写った和服の少女もまた闇夜に消えて行った。

結局今回の仕事はドールチームにとってただ働きになってしまったが、
ミスリルの頭脳であるコンピューター内の超人クラスデータベースが更新され、
“地上最強のジャーナリスト”として“ハーリッヒ=スーミャ”の名が書き加えられた。
                  おわり

129 :サクセサーF:2007/02/10(土) 09:21:47 ID:???
「いやあ、明日はついに総攻撃ですな」
「我等の腕のみせどころですぞ」
大きなテントの中で男達が気勢をあげている。
 総攻撃と言っているが、要は今日までのように城壁を挟んだ砲撃戦ではなく、
城の扉を破って中に入り、残敵の掃討作戦を展開するわけだ。主体は歩兵部隊
と援護のゾイドだから、我々のような傭兵部隊の活躍する機会はあまりない。
ここは傭兵部隊にあてがわれた宿泊用のテントである。数十人が一度に寝ら
れるだけあって、かなり広い。普段は夜間でも交代で砲撃するため(城方の人
間に安眠させないため)全員が集まることはないのだが、今夜だけは「明朝の
総攻撃のために、鋭気を養っておくように」との通達が出ている。
 ここにいるゾイドファイターの大半が地元出身である。『ゾイドジャーナル』
その他に名前がのるようなメジャーは俺を除けば一人もいない。地元チャンピ
オンなど名のあるクラスは生死を賭けて戦ういわれもなく「正義なき戦いには
加担しない」と表明する者までいる。ここにいるのは金に困っているか道徳心
が欠落しているか、どちらかだ。
 さらに言えば俺はエウロペでゲリラ掃討の手伝いなどもしてそれなりに軍事
経験があったが、コロシアム以外で戦ったことのある者は一人もいない。
「上手くいけば仕官待遇でコルネリウス卿に雇ってもらえるかもしれませんか
らな」
貧相な男の言葉に数人が感嘆のうめきをもらす。気持ちは分からなくもない。
ゾイドファイターは見た目は華やかだが、実際は過酷な職業である。ファイト
料は安いのにゾイドのメンテナンス代と修理代は常にかかる、怪我をしても危
険職だから生命保険にも入れない等々。引退してもトレーナーやマッチメーカ
ーとして業界に残れればましな方で、大半は全く違う業界で働くことになる。
有力貴族の部下であれば給料も世間体もいいし、再就職先としては悪くない。

130 :サクセサーG:2007/02/10(土) 09:25:30 ID:???
「ゾイドが壊れちまったんで明日は俺様の腕を披露できないが、保証金をたん
まり貰えるからな。ようし、ライガーゼロ買うぞ!」
ひょうきんな男の言葉に、まわりにいた連中がどっと笑う。片手に持って振り
回しているのはZAR−18ライフル、軍からの支給品である。コルネリアス
の正規歩兵部隊はもっと軽いフルオートライフルを使っているのに、傭兵部隊
に支給されたのはこんな火薬式の旧式ライフルだ。その辺からも我々の置かれ
ている立場の微妙さが分かる。ちなみにゾイドがないって事は、明日は生身で
銃の撃ち合いをやらされるって事だけど、自覚してるんだろうか?
「城の中の連中はもう動けるゾイドは少ないだろうな」
「とはいえ、連中も命がけで最後の抵抗をしてくるだろうから、油断できんぞ」
「なあに、俺たちには瑞巌流の名手、『五百勝』のアレス殿がいるではないか」
と誰かが言うと、一同示し合わせたように俺の方を見た。
「おぉ、貴殿と同じ部隊にいるとはまことに心強い」
「噂に聞く剣の腕前、ぜひ披露してくだされ」
と口々に言い立てる。
 なんのことはない、この連中、他人頼みをしていたわけだ。年齢も背格好も
ばらばらな男達が、どうしてこうも同じ目をすることが出来るのだろう。自分
の力で何とか道を開こうと考えているのは一人もいない。俺の後について行っ
て、手柄のおこぼれを貰う算段らしい。
 さすがに気持ちが悪くなってきた。小用に行くふりをして、その場を立ち去る。


131 :サクセサーH:2007/02/10(土) 09:38:26 ID:???
 テントを出ると、駐機場に行き愛機のコマンドウルフに乗り込み、ユーリと
明日の打ち合わせをする。俺がいなくて逃亡したと思われるのはまずいので、
ウルフはユーリに動かさせる。キャノピーにスモークをかけて、ユーリが俺の
声真似を合成して喋れば大抵の人は騙せる。俺は夜蔭に乗じて城に潜入し、兄
弟子のグラハムを見つける。朝になれば城門を破ってゾイド部隊が突入するか
ら、どさくさに紛れてユーリと合流、脱出する。大まかな段取りだが、あとは
通信機を使って臨機応変に対応していくしかない。
 愛刀の井上真改二尺六寸を片手にウルフから降りると、今度は城の方に向かっ
て歩いていった。既に夜はふけ、明日の総攻撃に向けて大半の兵士は熟睡して
いる。こんな時に城方が攻撃してきたらひとたまりもないと思うが、城方も連日
の攻撃で疲弊しているのだろう。一発の弾丸も飛んでこない。
 巡回している兵士もいたが、俺の顔はひろく知られているようで「城の様子
を見てくるところだ」と言えば、みな無条件で通してくれた。
 城壁は、暗闇のなかにさらに黒々とした威容をもってそびえていた。ゼン公
がこの城に入った時、遺跡の土壁に白土を塗り、内部にも地球の欧風の城郭を
建てたためその美しさは数キロメートル先からも見え、かつては中央大陸の名
所百選にも選らばれたと云うが、たび重なる攻撃を受けて城土は剥がれ、無残
な土色をさらしている。高さ三十メートルの土の壁は、見た目も成分も普通の
土だが、古代ゾイド人はいかなる技術を使ったのか、あらゆる攻撃が通じなか
った。ジェノザウラーの荷電粒子砲すら通用しなかったと云う。
 ただし、例外はあるようで、俺の目の前の壁には一本の鉄棒が壁から生えて
いる。パイルバンカーの槍だ。弾幕を突破して壁に近づいてパイルバンカーを
打ち込んだ強者がいたのだ。ただし、その強者は愛機のレブラプターと共に、
俺の目の前の堀の中に半分沈んで無残な姿をさらしている。

132 :相応不相応 1 ◆h/gi4ACT2A :2007/02/13(火) 01:06:46 ID:???
「強いゾイドが欲しい」
これはゾイド乗りであるなら誰でも一度は望む事であろう。しかし、パイロットの技術や
体力がそれに見合っているのか?と言う事も忘れてはならない。強力なゾイドであれば
それだけ乗り手の腕も問われるし、高機動ゾイドになればその分発生するGも強力故に
Gに耐える体力も必要となる。だから例え高性能であろうともパイロットの力量が
それに見合わなかった為に性能が発揮されなかった物もあるし、逆に性能は低くとも
パイロットの力量がそれに見合っていた為に良い働きをする事が出来た物もある。
今回のお話は己の力量に見合わない高性能ゾイドを無理に操縦した為に死亡する事に
なってしまったパイロットの悲劇である。

日が高く上った日差しの強い真昼。超高空を飛び交う二体の龍の姿があった。
一機は白銀に輝き、もう片方は漆黒に黒光りする龍だった。二体は色こそ違えど同型。
俗に“ギルタイプ”と呼ばれるシリーズのゾイドであり、双方は戦っている様であった。

漆黒龍から放たれた光が白銀の龍をかすめ、失速した白銀龍を漆黒龍がたたみかけようと
突撃するも白銀龍はギリギリの所でかわしていた。
「痛いですよ〜もう。無茶しちゃって〜。」
「流石は同型!今まで雲の上の存在だった奴が大した事無く見えるぜ!」
“ビーフジャ=アーキー”と言う名のゾイド乗りがいた。彼は世界最強のゾイド乗りを
目指しているけど実力は結構大した事無いと言う、まあ何処にでも良くいそうなタイプの
ゾイド乗りだった。これまた良くあるパターンで、ビーフジャは最強になる為には
何よりも最強のゾイドこそが必要だと考えていた。普通ならその様な物はそう簡単に
見付かるワケは無く、素直に諦めるか、自分なりに改造して最強と言える物を作るか、
パイロットとしての腕を磨いて操縦技術で最強を目指すと言う者が多いのだが、彼は
幸いにも地の底に埋まっていたギルベイダーを発見した。だが、これは考えように
よっては彼を破滅へと誘う不幸な事だったのかもしれない。

133 :相応不相応 2 ◆h/gi4ACT2A :2007/02/13(火) 01:07:58 ID:???
お世辞にも保存状態は良くなかった故に修理の必要があり、その為に必要な基礎技術の
問題もあって性能を随分と落とす事になってしまったが、それでもギルベイダーの性能は
ビーフジャにとって魅力的だった。スピードもパワーも装甲も火力も、少なくとも
彼の知りうる範囲内では間違いなく右に出るゾイドは存在しない。そして彼が最強を
目指す上では絶対に乗り越えなければならないと考えていた障害に対しても五分に
渡り合える自信を持たせるに十分だった。その障害とは“SBHI−04 ミスリル”。
現在確認出来る限りでは唯一“心”と呼べる物を持った女性型の自律ロボットである。
特殊な改造が施された特機型ギルドラゴン“大龍神”を駆って如何なる暴力や権力、体制
にも縛られる事無く好き勝手に生きる彼女は多くの人間、特に国家の首脳に位置する人間
や自称正義の味方な者達にとって目障りな存在であり、また他にも彼女を倒せば名を上げ
られると信じて無謀な挑戦をして若い命を散らせる身の程知らずな若きゾイド乗り達も後
を断たなかった。だがそのミスリルと大龍神に挑戦しようとビーフジャは心に決めた。
ギルベイダーを手に入れた事が彼に異常な自信を付けさせたのだろう。
「同じギルタイプなら俺にも勝機はある!」

超高空を超音速で飛行する大龍神をギルベイダーが追撃する。その速度は既にマッハ3を
超えており、ギルベイダーはプラズマ粒子砲やビームスマッシャーを大龍神目掛け
矢継ぎ早に発射し続けていた。と、こう見るとビーフジャのギルベイダーが大龍神を
押している様に見えるが実際はそうでは無かった。
「うげっはぁ!」
突然ビーフジャが大量の血を吐き、忽ちコックピット中が真っ赤に染まった。
「ほ〜ら言わんこっちゃないです。その程度の力量で無理するから・・・。」
大龍神からの通信。ミスリルはなおも吐血を続けるビーフジャを困った顔で見詰めていた。
「まず貴方は身体を鍛えるべきです。無理は身を滅ぼしますよ。」
「なんだとこの・・・うげばぁ!」

134 :相応不相応 3 ◆h/gi4ACT2A :2007/02/13(火) 01:09:16 ID:???
またもビーフジャは血を吐いた。超音速で飛行するゾイドは速い分発生するGも強力で
あり、パイロットにも大きな負担が掛かる。ましてやノーマル機でもマッハ4と言う
ゾイドとしては破格の速度を出せるギルタイプではなおさらである。その為飛行ゾイドを
操縦するにはGに耐えうる強靭な体が必要となり、その耐久力を養う為の厳しい訓練を
しなければならない。ガイロス帝国が配備していた元祖ギルベイダーも、そのパイロット
になる為には地獄のごとき猛訓練をクリアする必要があり、さらに対ショックスーツを
着用しなければならなかった。操縦技術に関しても体にかかる負担を最小限にする為の
微妙な速度調節が必要になると言う、ギルベイダーの華やかな活躍の陰には相当な血と
汗と努力の姿があった。それに対しビーフジャはそれ相応の訓練は積んまずにいきなり
搭乗していたし、特殊なスーツの着用もしていなかった。操縦技術に関してもギルタイプ
を操縦して良いレベルに達しているワケが無い。これではGに耐えられずに血を吐くのも
無理の無い話だった。しかも彼は吐血のみならず、全身の痙攣さえ起こしていた。
「あの〜・・・。無理せずにスピードを落とした方が良いと思いますよ私。」
「う・・・うるせぇ・・・。お前を倒して最強になる為にはこの位の苦しみなんて・・・うげは!」
またもビーフジャは血を吐いた。しかし彼は速度を落とす所かますます速度を上げて
大龍神を追撃し続けていた。身の程をわきまえない行為はそのまま彼に返って来る。
もう血を吐くだけの事では済まない。強烈なGによって彼の体はどんどんとシートに
食い込んで行くと共に顔は物凄い物へ変形し、全身の痙攣はますます酷くなっていった。
「あの〜・・・真面目な話・・・やっぱり無理はしない方が良いと思いますよ・・・。」
「う・・・うるへぇ・・・ううう・・・。」
「は〜・・・。」
何が何でも徹底抗戦を訴えるビーフジャにミスリルは呆れてしまっていた。
「分かりました・・・。なら少しだけ本気を出しますよ。死んでも文句は無しですよ?」
「い!?・・・今までのは・・・お遊びだったと・・・?」

135 :サクセサーI:2007/02/14(水) 20:26:24 ID:???
 城壁の周囲には幅十メートルの堀がある。堀の水は城の背後の山(切り立っ
た崖)から湧き出しており、見た目より水量も多いし流れも速い。落ちれば泳
ぐのは不可能で、麓まで流されるしかない。このため歩兵が城壁を登って中に
入るのを困難にしているわけだ。俺は城壁の方に助走をつけて、堀の手前で跳
躍する。沈みかけのレブラプターを踏み台にして更に跳躍、水面から高さ五メー
トルのところにある鉄槍に両手をかけ、勢いをつけてくるりと回ると鉄槍の
上に立つ。誰にも見られてなかったようた。
 そのまま、手のひらで壁の状態を確認する。予想通りだ。この一帯は最も交
戦の激しかった地域で、破壊できないとはいえ土壁には攻撃による弾痕が無数
にある。深さは二、三センチ程度だが、俺には十分だ。指の第一関節が引っか
かる深さがあればいい。
(よし)
 指先に力を込め、肘を曲げると身体が浮いた。そのまま右手左手と交互に上に
伸ばしていくことで、腕の力だけで壁を登っていった。
 俺は忍者ではないが、修練次第でこの程度のことは出来る。
 壁との格闘を続けること数分、ようやく指の第二関節まで平面を掴んだ。壁
の頂上に到達したらしい。一、二の三で壁の頂上に乗ると、周囲を確認する。

136 :サクセサーJ:2007/02/14(水) 20:32:33 ID:???
 まずは、見張りを見つけることだ。見張りの人間に声を出されると面倒だか
らだ。向こうに気づかれる前にこちらが気づいて、気絶させるか何かで口を封
じる必要があった。
 いた!二十メートル先に、壁にもたれている人影を見つけた。立ったまま居
眠りでもしているのか、全く動かない。足音を立てないように素早く近づき、
当身をくらわせようとした瞬間、愕然とした。
 立っていた男は、寝ていたわけじゃない。胸には直径五センチほどの鉄の棒
が突き刺さり、貫通したそれは壁に刺さって男を固定していたのだ。
 予想外の事態に頭が混乱しそうになるが、すぐに立ち直った。こんな得物は
生身の人間に扱える代物ではない。ゾイドの仕業だ。だが何故?味方同士でこ
んな無残なことはしないだろう。ということは、城の外から誰かが侵入して、
この殺害に及んだわけだ。壁を登る技術があって目立たないゾイド、そういえ
ばコルネリアスの本隊にランドセルを背負った見慣れないゴーレムがあった。
(特殊部隊か!)
師匠から聞いたことがある。城攻めの時、夜陰に乗じて数機の小型ゾイドを城
に送り込み、内部撹乱を図る戦術があった。この「ニードル」と呼ばれる特殊
部隊の最終目的は城方の重要人物の暗殺である。ただし、生還率がきわめて低
いため、隕石衝突の大異変以後は使われることのない戦術だと聞いていたが。
 足音を消す余裕もなく走る。むしろ足音で城内の人間が警戒態勢をとってく
れた方がありがたい。

137 :サクセサーK:2007/02/14(水) 20:37:50 ID:???
 城壁の内側には地面まで降りれるよう随所に石段が設けてあった。一番近い
石段を駆け降りると、目の前には幾つかの崩壊しかけた建物が並んでおり、さ
らに奥にひときわ大きい建物が見えた。おそらくあれが本丸だろう。
 その大きな建物に向かって走っていくと、手前は庭になっており、建物の玄
関には一人の男が立っていた。
 大きい。身長は7尺(約2m10cm)はあるだろう。そして自分の身長と
同じくらいの長さの剣を両手で持っている。
 ヒュン、風切り音と共に虚空から鉄の棒が男に放たれる。いや、何もないと
思っていたがよく見ると空間が微妙に湾曲してるのが分かる。光学迷彩が不十
分なのだ。だが昼間ならともかく、夜間では見分けがつきにくい。
 大男は見かけによらず素早い動きで鉄棒をかわす。そのままずんずんと歩き、
最後に放たれた鉄棒は剣をわずかに動かしてはじく。そのまま大上段に構えると、
「むん!」
静かな気合と共に振り下ろす。ビシッという音と共に、真っ二つになったゴー
レムが姿を現した。
 続けざまに庭の中央付近に向かって駆けてゆき、今度は剣を横薙ぎに払う。
やはり空間からゴーレムが現れ、上半身が地面にどさりと落ちると、下半身は
数歩歩いて、停止する。

138 :サクセサーL:2007/02/14(水) 20:46:51 ID:???
「お見事」
と俺がつぶやくと、大男はようやく俺の存在に気づいたようだ。改めて剣を構
えなおすと、こちらに疾走してきた。
 俺は黙って刀を腰から外すと、鞘ごと前に置き、地面に胡坐をかいた。その
態度に大男の疾走が止まる。あと一歩踏み出し、剣を振り下ろせば俺を切れる
間合で。
「どういうつもりだ」
 俺はなおも黙ったまま、今度は刀の鞘を持ち、作法どおり柄を大男の方に向
ける。
「見ろ、というのか」
 大男は俺の刀を受け取ると、自分の剣を地面に突き立て、刀を鞘から抜いた。
素早く無駄のない動きだ。その間も目は油断無く俺の方を見ている。
 だが刀を抜いた瞬間、その顔は驚愕に変わっていた。
「これは・・・井上真改!なぜこの刀をお前が持っている!」
 目の前にいる大男とは初対面で写真すら見たことはなかったが、俺には確信
があった。かつて師匠にその容貌を問うたとき「見りゃわかる」としか聞かな
かったが・・・間違いない。俺の目の前にいる大男こそ、捜していたグラハム・
メッチェその人であった。

139 :相応不相応 4 ◆h/gi4ACT2A :2007/02/17(土) 23:13:15 ID:???
ビーフジャが一瞬驚いた直後、大龍神が加速した。その速度はカタログスペック上に
おけるギルベイダーの最高速度であるマッハ4を容易く超えた。だがそこで終わらない。
マッハ5・・・マッハ6・・・と、どんどんと速度は増して行き、ついにはマッハ7にまで
到達していた。
「ふう・・・これだけ力の差を見せれば諦めるでしょうね・・・って・・・。」
ミスリルが後を向いた時唖然とした。なおもビーフジャのギルベイダーは追って来るのだ。
「ま・・・負けるかぁ・・・うげぅ・・・。」
「ああもう本当止めて!あんまり無理しな・・・。」
通信機越しに伝わってくるビーフジャの苦しみを悟ったミスリルが本気で焦って説得
しようとした時だった。通信機越しに骨の折れる様な心地の悪い鈍い音と共に肉が潰れ、
内蔵が弾ける様な気持ちの悪い音が聞こえたのは・・・
「ま・・・まさか・・・。」
大龍神は大慌てでギルベイダーと同じ速度に減速し、恐る恐るコックピットを覗いた。
「う・・・うわぁ!気持ち悪い!」
ミスリルは思わず手で両目を覆い隠した。ギルベイダーのスピードが生み出すGに
耐え切れず、ビーフジャの体は潰れてしまったのである。肋骨が肉と皮膚を突き破って
露出し、内蔵まで飛び出す惨状。もうギルベイダーのコクピットは見るも耐えない程に
まで血で真っ赤に染まってしまっていた。
「だから無理しないでと言ったのに・・・。それに私なんかが最強なんて・・・。生身でも
私より強い、いわゆる“超人クラス”と言う人だって沢山いるのに・・・。」
大龍神は減速反転し、遠い所に置いてきた仲間の所へと帰って行ったが、かつて
ビーフジャと言う名の人間であった肉の固まりを乗せたギルベイダーはそのまま
減速する事無く直進を続け、虚空の彼方へ消え去った。

140 :相応不相応 5 ◆h/gi4ACT2A :2007/02/17(土) 23:14:39 ID:???
「な・・・何だこの滅茶苦茶なセッティングは!こんなの生身の人間が操縦出来るわけが
無い!確実にGで潰れて死ぬか狂うぞ!・・・と思ったが、ああなるほど。あんたなら
問題は無いか。」
これは大龍神の構造を拝見したある科学者の残した言葉である。初めからスーパーが
付く程強力かつ強靭に作られたロボットであるミスリルが操縦する事を前提に作られた
大龍神はパイロットの負担を考慮する必要が無い為、ノーマルのギルベイダーとは
比べ物にならない以前に完全に別物と言った方が良い程のカスタマイズが施されている。
その上でミスリル自身による改良や調整が行われ、完全にミスリルの為のゾイドとして
仕上がっていた。だからこそ大龍神は己のポテンシャルを存分に引き出す事が出来るし、
通常機ではパイロットの負担の関係で不可能な急加速や減速、急旋回なども可能だった。
だがビーフジャは違う。彼は脆弱な生身の人間である。生身の人間がそれ相応の訓練に
よって鍛えず、かつ対ショックスーツも無しにギルベイダーを操縦すればどうなるか・・・
それはこのお話を見ての通りである。性能を追求する事は悪くは無い。だが、有人機で
ある以上はパイロットの力量がそれに見合っているかと言う事も考えに入れなくては
ならない。ビーフジャはそれを見誤ったが為に亡くなった。

分不相応な性能のゾイドを無理に操縦したが為に死亡してしまったパイロットの悲劇。
無理をせずに性能を加減するか、己の力量に見合った性能のゾイドを操縦する事が
一番良いのかもしれない。
                  おわり

141 :サクセサーM:2007/02/20(火) 00:49:22 ID:???
 俺は建物の一室に案内された。この建物も城壁と同様の技術で作られており、連日の砲
撃にも肝心の壁や柱はびくともしていない。ただ壁紙などの装飾は振動のため剥がれて、
茶色の地肌がむき出しになっている。
 広さは地球流でいえば12畳ほど。簡素な机とソファしかなく、どうしようもなく散らかって
いるあたり、男のひとり暮らしであることは一目瞭然だ。
 俺がレイノルズ・ササキの弟子だと知った途端、大男の態度は非常に親しげなものに変
わった。落とし穴に落ちていた、間抜けな最後のゴーレムにとどめを刺すと、この部屋に
案内され、ちょっと待てと言って出かけたきり、十分は経つのに帰ってこない。
 やがて・・・ドタドタと複数の足音と共に、数人の男を従えてグラハムが帰ってきた。
左手には籐製のバスケット(中にはアルミ製のカップが入っている)、右肩にはなにやら
大きな木製の樽を担いでいる。後についてきた男達は不審な顔つきで、俺とグラハムの顔
を交互に見ている。グラハムはいたずらを思いついた子供のような表情で、やけに嬉しそ
うだ。どうやら事情を説明しないで男達を連れてきたらしい。
「紹介しよう。右からアンリ、ザイン、ジャック・・・・」
と順番に紹介してくれるのはいいが、俺には相変わらず意味が分からない。
「そしてこちらがアレス・サージェス。聞いた事があるよな?これが我らがササキ大尉の
秘蔵っ子だ。我々の弟弟子になるわけだ」
 その説明で、男達からおおっ、という感嘆の声が上がった。俺もなんとなく理解できた。
「それでは、ササキの親爺の代理が来たんで、第4機甲師団第4大隊第13高速中隊の
臨時同窓会を始めようか」


142 :サクセサーN:2007/02/21(水) 00:22:52 ID:???
 宴会は他の部屋に遠慮して控えめに、だが和やかな雰囲気で行われた。
 男達は俺を囲んで酒杯を傾けながら、師匠の話をせがんだ。師匠は除隊以降、あまり
連絡をとっていなかったらしく、俺が師匠と出会って数年間の話を、興味深そうに、時折
あいづちを打ったり感心したりしながら聞いていた。
 それにしても、みな酒が強い。師匠は酒好きで、米で出来た酒を日に三升は飲んでいた。
「酒に呑まれて剣先が鈍るようでは男じゃない」と言われてさんざん飲まされたおかげで、
俺も今では五升は飲んでも平衡感覚や反射神経に影響はない。この人達も負けず劣らず飲
んでいる。
 ちなみに飲んでいるのは葡萄酒で、ゼンが産業育成のために数年前から葡萄の栽培と
並行して醸造もやっていたそうだ。
「何年も苦労してようやく来年あたりは商品化できる予定だったのになぁ。せめて俺達で
おいしく飲んでやるのが供養ってもんだ」
というのが、樽ごと持ってきたグラハムの説明だ。
 宴が続いて流れ解散となり、半分は自分の部屋に帰っていき、残りはどうしようもない
酔っ払いが転がっている部屋で、俺とグラハムはサシで飲んでいた。
「ところで、何でここに来たのかまだ聞いてなかったなぁ」
と言いながら俺の杯に酒を注ぐ。相変わらず酔ったように見えない。
「迎えにきました、脱出の手配は私がしますから、ここから逃げてください、と言うつも
りだったんですがね」
「ま、俺一人なら何とかなったかもしれんが」
俺の返杯をぐいっと飲み干して、にやりと笑う。

143 :サクセサーO:2007/02/21(水) 00:27:26 ID:???
 まさか師匠の知り合いがこんなにいるとは予想していなかった。この人数をこっそり
脱出させるのは不可能だ。
 それに、根本的に勘違いしていた。てっきりこの男はなりゆきで篭城させられて、周り
に祭り上げられて司令官をやらされてると思っていた。師匠がお人好しで、さんざんトラ
ブルに巻き込まれたのを見ていただけに、同類のお人好しだろうと思ったのだが、どうや
ら事情が違う。
「たとえ俺一人だったとしても脱出する気なんてないんだよ。ゼンのおっさんには義理が
ある。残された家族も俺の親戚だ。一緒に戦って死んでいった俺の部下達にも申し訳ない
しな」
「だが、お前が今日ここに来たのはゾイドイブのお導きかもしれん」
そう言うとグラハムは、懐からぶ厚い封筒を取り出す。
「何ですかそれ」
「この一連の騒動、原因は何だと思う」
「若い貴族と年配の家臣とのジェネレーションギャップだというのが世間の見解ですが」
「間違ってはいないが核心は別のところにある」
と言う。促されるままに封筒の中身を出してみる。中身は紙の束で、表紙には『地質調査
報告書』と書いてあった。


144 :サクセサーP:2007/02/25(日) 11:22:21 ID:???
「先々月のことだ。この城から二キロ離れた草地で、とある農夫が井戸を掘ろうとした。と
ころが百メートルほど掘ったところで、掘削機が止まっちまってそれ以上はほれなくなった。
場所を変えても同様で、その農夫は専門家に調査を依頼し、専門家は地下千メートルまで調査
した。その報告書がこれだ。地下水脈が五百メートルのところにあるのは分かったが、調査代
が予想外に高くついたと言って、その農夫、領主であるゼンのおっさんに無心に来やがった。
で、報告書を見たおっさんは調査代を払う代わりにこの報告書を取り上げ、誰にも言わない
よう口止めした」
 俺は書類に目を通す。専門知識がないので分からないところも多いが、十一頁目以降の地層
ごとの元素分布に目がとまる。地下百メートルから百五十メートルの地層に、鉄、ニッケル、
コバルトなどの金属元素が高濃度に、密集して分布しているのが分かる。
「他の地点での調査も含めると、この地層は約五十ヘクタールに亙るらしい。ゾイド製造に
必要不可欠な金属ばかり、こんなに密集して存在している例は他にない。ざっと十万体の
ゾイドに相当する量だ」
「へえ、文字通り、お宝の山ですね」

145 :サクセサーQ:2007/02/25(日) 11:28:56 ID:???
「これは尋常な量じゃない。一見、我々にもゼネバス帝国にも良いことのようだが、考えて
みろ、もしこの事をヘリックの連中が知ったら、どうする?」
 俺はしばらく考えてから、答える。
「現在は双方の戦力が微妙なバランスを保っていますよね。もしこれを使ってゾイドを大量
製造できれば戦力は大きくゼネバス側に傾くことになります。共和国としては掘り出される
前に奪うのがベストでしょう。ここは国境からも遠くない」
「そうだ。俺だってそうする。資源問題はやっこさんの方が深刻だから、喉から手が出るほ
ど欲しかろう。この静かでのどかで何もないけど平和な土地をめぐって再び戦争が始まる。
だからゼンのおっさんはこの情報を闇に葬ろうとした。農夫と調査員もおっさんを尊敬して
たから、黙ってろと言えば死ぬまで喋らん連中だ。実は俺もおっさんがあのコルネリアスの
小孺(こぞう)のところに死を覚悟して出かける寸前まで、全く知らなかった」
 言い終えるとグラハムは手にしていた杯をぐっとあおり、また俺に返してくる。
「なるほど。しかしそうすると妙ですね」俺も酒を飲み干すと、直ぐに返す。
「そうなんだよなぁ」やっぱり一息でぐいと煽り、どちらともなく、大きなため息をつく。
「いったい誰が、あのボンボンに情報を洩らしたんだ?」


146 :心持つ機械、心無き人間 1 ◆h/gi4ACT2A :2007/02/25(日) 22:13:20 ID:???
「あいたっ!」
荒野のど真ん中に白き巨龍が墜落して地面に思い切り叩き付けられた。
何でも屋“ドールチーム”の責任者である人の心を持つ女性型自律ロボット
“SBHI−04 ミスリル”の操る特機型ギルドラゴン“大龍神”である。
「あいたたた・・・無茶やっちゃって〜・・・。」
大急ぎで大龍神を起き上がらせるミスリルだが、その時には既に5機のゾイドに
取り囲まれてしまっていた。それはシールドライガー、ブレードライガー、ライガーゼロ
(タイプゼロ)、ライガーゼロファルコン、ムラサメライガーだった。
「全くそんな粗末なゾイドで私を追い詰めるなんて恐れ入りますよ。何とか言ったら
どうです?」
「・・・。」
5機のライガーのパイロットは返事をする事無く大龍神を攻めた。シールドライガー、
ブレードライガーが注意を引いた後、各所の死角から残り三機が攻める。恐るべき
チームワーク。だがそれだけではない。攻撃時の僅かな隙を突くと言う的確な攻撃も
可能であり、個々の実力も侮れなかった。

「君は確かに素晴らしいよ。君を作った者が一体どうやって機械に人の心を宿らせたの
かは分からないが、君に使われている技術はどの国にも存在しない実に画期的な物だと
言えるだろう。だが・・・君はあまりにも人間臭すぎる。」
地平線の彼方にかすかに見えるホバーカーゴブリッジからライガー5機の指揮をしている
男が大龍神へ通信を送っていた。だがその男は軍服ではなく白衣に身を包んでおり、
まるで科学者の様であった。そして彼の背後にいた軍服の男が彼に尋ねる。

147 :心持つ機械、心無き人間 2 ◆h/gi4ACT2A :2007/02/25(日) 22:14:38 ID:???
「いや〜凄いですな。一個大隊で攻めても足りないホワイトドラゴンをたった5機で
圧倒している。彼等は一体何者なのです?」
「我が研究所で長年研究が行われていた“最高の兵士”を作り上げる為の研究成果だよ。
心や感情を完璧に殺し、ただただ任務遂行の為に全てを捧げる。まさに最高の兵士さ。
所詮機械に心を持たせる事などナンセンスなんだよ。それは彼等の戦いぶりを見ていれば
君達にだって分かるだろう。機械が心を持つ事はそれすなわち人間並の“うっかり”に
よる失敗もしてしまう事になる。全く持って非効率。現に彼女の様な機械に人の心を
持たせると言う研究が行われていると言う話は未だ聞かないし、先史文明の遺産の中にも
彼女と同種の存在は未だ確認されていない。これこそが機械に心を持たせる行為が
いかにおろかで無意味な事の証拠だと言える。」
「ではあやつを作った者とは・・・?」
「これはこれで天才である事には違いないが、“馬鹿と天才は紙一重”と言う言葉も
あるからな。相当な変人だったのだろう。」

「敵ハ空ヲ飛ブ事ガ出来ル・・・。地上ニイル内に破壊セヨ。」
「了解・・・。」
感情の篭っていない棒読みにも感じられる程の抑揚の無い声。5機のライガーは
僅か15歳の少年達が操縦していた。物心付く以前から特殊な研究機関によって
最高の兵士となるべくしての英才教育を受けてきた5人の少年達。
彼等に心や喜怒哀楽と言う感情は無い。最高の兵士となる為には邪魔な物と判断した
研究機関によってそれを押し殺す為の研究、訓練が行われて来たのである。結果彼等は
コンピューターの様にクールに任務を遂行し、如何なる相手であろうとも躊躇無く
撃ち殺す“生きた戦闘マシーン”となったのである。そして“生きた戦闘マシーン”
である少年達はクールで的確な操縦に加え、寸分の狂いも無いチームワークで
ミスリルと大龍神を圧倒していた。
「感情を捨て生きた戦闘マシーンですか・・・そんな人生楽しいですか?ってあいた!」

148 :心持つ機械、心無き人間 3 ◆h/gi4ACT2A :2007/02/25(日) 22:15:47 ID:???
セリフの途中でブレードライガーの爪が大龍神の下顎に横薙ぎの形で叩き付けられ
コックピットの存在する頭部が大きく揺さぶられた。大急ぎで体勢を立て直すミスリル
だが、5機のライガーは大龍神を中心として半径100メートルの位置から取り囲む形で
高速で駆け出していた。そのスピードは残像が生み出される域にまで到達しており、
その都度5方向からビームの雨を叩き込んでいた。
「あーもーうざったい!」
大龍神がプラズマ砲で一機を迎撃しようとしても、別のライガーによる死角からの
攻撃で妨害されてしまうし、そうでなくても残像を産む出す程のスピードによって
すり抜けられてしまう。5機のライガーの攻撃によるダメージはそれほど大きな物では
無いが、ミスリルの精神的な疲労は大きく、焦っていた。
「何が悲しくて別に超人クラスと言うワケでも無いこんなしょーもないのに
圧倒されなきゃならないんですか?」

「見たまえ。奴は焦っているぞ。これこそが奴の最大の欠点だ。なまじ心と言う物を
持ってしまったが為に、精神状態の変化によって能率が変動してしまう。それに対し我等
が育てた戦士達はどのような状況になろうとも一定のペースをキープしているだろう。」
「まったく先生のおっしゃる通りですな。」
後方に待機するホバーカーゴの中で白衣の男と軍人が不敵な笑みを浮かべていたが、
その時だった。ホバーカーゴに一発のミサイルが直撃した。致命傷にはならなかったが、
ホバーカーゴの側面部分には一体のLBアイアンコングMK−Uの姿があった。
それこそドールチームに所属する、少女人形の身体を持つ幽霊少女“ティア=ロレンス”
が操縦する“ゴーストン”であった。
「これ以上ミスリルはやらせないのよ!」
「ホワイトドラゴンの仲間のLBコングか。報告書には霊が取り付いた人形が動かして
いると書かれていたが実に非科学的で馬鹿馬鹿しい話だ。まあ奴はホワイトドラゴンの
おまけに過ぎんが一応迎撃はしておけ。」
白衣の男の命令によってホバーカーゴの主砲がゴーストン目掛けて発射された。直撃こそ
免れたが爆発は大きく、軽量なゴーストンは忽ち爆風によって天高く飛ばされてしまった。
「あら〜私の出番これだけなの〜!?そんなの嫌なのよ〜!」

149 :心持つ機械、心無き人間 4 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/01(木) 09:55:36 ID:???
一方精神的疲労の溜まったミスリルと大龍神に対し、5機のライガーが最後の勝負に
出ようとしていた。
「戦術プログラム・・・パターン5・・・コードネーム“獅子の牙”」
「了解・・・。」
直後ブレードライガーとゼロファルコンが下がり、対照的に残りの3機が高速で
突っ込んで来た。とっさにプラズマ砲で迎撃するが、砲の角度から照準を読んだ少年達の
手によって全て避けられる。瞬く間に接近した3機のライガーは高速で繰り出される
大龍神のドラゴンクローやドラゴンウィングカッターを微妙に体の位置を横にずらす動作
でかわし、シールドライガーとライガーゼロ(タイプゼロ)は大龍神の脚部の肘及び膝の
関節に爪を叩き付け、ムラサメライガーは空中で高速前転しながら背の大刀で大龍神の
背を斬り付けた。
「本当もうあっちからこっちからチクチクとうざったい!」
大龍神は全身の力を込めて3機を吹っ飛ばすが、大龍神がパワー全開で放つ攻撃を
風を受けた柳の様に軽やかに受け流し、ダメージを最小限にしていた。だが、この後
さらに恐ろしい事が起こる事となる。
「はっ!」
後方に下がっていたブレードライガーがEシールドを全開にして突撃して来た。
小細工無しの一発勝負を挑むのだろう。
「この手の攻撃をしてきた連中は今まで吐いて捨てる程いましたが・・・ん!」
ミスリルはさらにある事に気付いた。それはブレードライガーの真後ろにゼロファルコン
が待機していた事である。そしてそのゼロファルコンの背負うジェットファルコンの
バスタークローから極太のビームが放たれる。このビームで牽制を行い、その後で
ブレードライガーが突撃するのだとミスリルは悟り、とっさに身構えるが、極太ビームが
直撃したのは大龍神では無くブレードライガーだった。誤爆?誤射?いいや違った。
なんとブレードライガーはバスタークロービームを後方にまで展開したEシールドで
受け止め、推進力にしたのだ。その一瞬の内に瞬く間に超音速に達する程の急激な
加速をしたブレードライガーは真っ直ぐに大龍神へ突っ込んだ。

150 :心持つ機械、心無き人間 5 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/01(木) 09:57:33 ID:???
「いっ!?」
ミスリルの目は丸くなった。バスタークロービームを推進力として加速したブレード
ライガーの突撃は大龍神を押し飛ばし、数キロ離れた岩山に叩き付けていたのである。
「い・・・いつつ・・・そりゃ無いですよ・・・。」
まだ大龍神は辛うじて無事であったが、5機のライガーが追い討ちを掛けてくるのは
目に見えており、ミスリル共々に風前の灯であった。が、その時だった。
「待った!そこまでなのよ!」
先程ホバーカーゴの砲撃によって天高く吹っ飛ばされたゴーストンが大龍神の背に
ちょこんと着地していた。そして手を大きく5機に対して突き出していた。
「お兄ちゃん達は相当頭が良い見たいだけど、それなら私の出す問題も簡単に
解けちゃうよね?」
「ティアちゃん?」
「・・・。」
場の空気を読んでいないとしか思えないティアの発言に皆あっけに取られていたが、
ティアは構わず続けた。
「それじゃあ問題行くのよ。お布団はお空を飛ぶ?飛ばない?」
「寝具ニ空ヲ飛ブ等ト言ウ機能ハ無イ以前ニソノ様ナ機能ヲ持タセルノ無意味・・・。」
「ブッブー!答えはお布団は飛ぶのよ〜。だって布団が吹っ飛んだ〜って言うじゃない。」
「駄洒落ですか!?」
ティアの無茶苦茶な解答にミスリルも唖然とするばかりであったが、5人の少年達に
対しては意外な効果を発揮する事となる。
「布団ガ吹ッ飛ンダ・・・駄洒落・・・理解不能理解不能・・・。」
「我々ノ理解ノ範疇ヲ超エテイル・・・。」
「え?どしたの?」
それまで正確無比で的確な行動を取っていた5機のライガーの動きがぎこちなくなり、
今までのギャップにミスリルも思わず戸惑った。

「大変です!彼等の脳体温が急上昇しています!」
「何!?一体何が起こったのだ!?」
ホバーカーゴにおいても変化が起こっていた。5人の状態の報告を担当するオペレーター
の報告により、それまで余裕を見せていた白衣の男の表情が変わったのだ。

151 :心持つ機械、心無き人間 6 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/01(木) 09:58:56 ID:???
「彼等の脳体温はなおも上昇。脳波にも異常が見られます!」
「何!?私が育てた彼等はいかなる事に対してもそのような事は・・・一体何が・・・。」
とその時だった。前線で何が起こっているかの映像がホバーカーゴのブリッジに
鮮明に映し出されたのは・・・

「1と1を合わせたらどうなるの?」
「1+1ノ答エハ2以外ニアリ得ナイ。」
「ブッブ〜!また外れ〜。1と1を合わせたら11になるのよ〜。」
「アリ得ナイ。1+1=2デアリ、11ニナルナドアリ得ナイ・・・。」
「私は1と1を合わせたらって言ったのよ。1+1なんて言ってないのよ〜。」
「理解不能理解不能。」

「こ・・・これは・・・。」
白衣の男や軍人達は唖然とした。ティアの他愛も無い子供じみた意地悪なぞなぞによって
完璧に訓練されたはずの5人の少年達は圧倒されてしまっていたのだ。
「一体どうなっているんです?」
軍人は白衣の男の肩を掴んで揺する。白衣の男はそれ以上に焦っていた。
「馬鹿ぁ!落ち着け!奴の話を真面目に聞くなぁ!」

5人の少年達は心と感情を殺し、ただただコンピューターの様に正確無比の戦いを
するべくして訓練されて来た。それゆえに“なぞなぞ”と言う概念は衝撃的だったに
違いない。理知的かつ高度な計算による思考をするように訓練された彼等は
その計算による思考によってなぞなぞを解こうとすればする程に矛盾が生じ、
彼等の思考は滅茶苦茶になってしまっていた。
「理解不能理解不能。」
「リカイフノウリカイフノウ」
「ワカラナイワカラナイ・・・。」
5人の少年達の混乱によって動きの鈍った5機のライガーをティアは確認し、
ゴーストンが大龍神の背を軽く2度叩いた。
「今なのよミスリル!」
「何が何なのか分かりませんが恩に着ます!」

152 :心持つ機械、心無き人間 7 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/01(木) 10:00:39 ID:???
大龍神が立ち上がった。5機のライガーも体勢を立て直していたがパイロットである
少年達の脳に混乱の残った状態である為、若干動きが鈍い。それでも大龍神を取り囲んで
周囲を駆けると言う戦法を披露していたが、今のミスリルにはもう通用しなかった。
「チームワークに大きく依存すると言うチームは1機潰すと戦力がガタ落ちになります。
それに、周囲を高速でグルグル回る戦法も・・・脚を引っ掛けてやれば良いだけです。」
直後大龍神は前に出て脚を突き出した。それだけの行動で1機が躓いて転び、そこから
ドミノ倒しのように5機全てが大きく転んでしまっていた。5機は素早く起き上がり
1機が大龍神の正面から攻撃を仕掛け、それを迎撃しようとした時に死角を付いて
妨害すると言う戦法を行おうとする。が、次の瞬間大龍神の背後に回りこんだライガー
ゼロが大龍神の尾によって腹部を貫かれてしまっていた。尾からゼロを引き抜いた
大龍神は続いて一番手近にいたシールドライガー目掛けて突撃を掛けた。これが普通の
突撃であるならば動きを読まれて簡単に回避されていただろう。しかし、大龍神は突如
シールドライガーの手前で大きく躓いた。これによってリズムを狂わされたシールド
ライガーに乗っていた少年はどうすれば良いのか分からなくなり、その時には既に
先程の躓きによって大きく前転した大龍神の後ろ足に潰されていた。
「そして貴方達の攻撃は余りにも的確で無駄が無く、正確無比過ぎます。それ故に
何処に攻撃が来るのか読み易いですし、逆に余りにも予想外で突拍子のない無駄な動作を
やられると対処に戸惑うと言う脆さ。ぶっちゃけ貴方方の思考はTVゲームの
敵キャラの行動パターン以下です!それに中々気付かなかった私が言える立場では
無いのかもしれませんが・・・。」
「・・・。」

153 :名無しさん@おなかいっぱい:2007/03/01(木) 12:12:44 ID:Ssryi8Er
ぬるぬる お姉さん。
http://xxx-uploader.myphotos.cc/src/1172090521062.jpg
http://xxx-uploader.myphotos.cc/src/1174967679753.jpg

154 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/03/01(木) 16:04:06 ID:???
 赤毛の騎士・ラインハルトは居心地の悪さを隠そうともしなかった。
 先ほどから自分を様々な角度からためつすがめつする肥満児、デイビッドの執拗さと
何やら生理的嫌悪感を伴う体臭、ブツブツと何事かを呟く不気味さがその根源である。
「……それにしても『ラインハルト』とはねぇ。外見的にはどうみてもキ○ヒアイスの目
つきが悪くなっただけのその赤毛がよりにもよってラインハルトと名乗りやがりますかこ
の野郎。貴様が金髪だったら両目の色が違う某元帥より美しい発音(+若本ヴォイス)で
『わが皇帝<マイン・カイザー>』とシャウトしてやっても良かったと言うのにッ!」

 いやあの、この野郎とか言われても。そもそもキルヒア○スって誰だ。俺の名前は何故
か生まれた時から覚えてたモンだが、何か問題でも?
 彼には一生理解できないであろう疑問。深く考えた時点で既に彼は負けていた。
「おい、俺の名前になんか文句でも?」
「いやさー、俺の大好きなアニメの……お前にゃ解らんか。漫画やアニメ、ゲームと言った
輝かしい文化に無垢なまま触れ得る少年時代というものを、栄養ドリンク漬けで生きてきた
奴には……」
 やたら人を見下す態度にプッツン来てもおかしくなかったのだが、どうも怒りを一足で飛
び越えて呆れてしまったようで声を荒げる気にもなれない。
「しかもなぁ、ジークフリートはもう死んでるっていう奇妙な符合。フヒヒ! まあ金髪
の主君を庇って死んじまった方は“ジークフリード”だった気もするけどね」
「なあ、おい、お前も明日は一緒に来るのかよ?」
 一人でなにやら悦に入っていたデイビッドは瞬時に向き直り、肉のついた親指を立てる。
「当然ナリよぉ!(コ○助ヴォイス) 俺様こう見えてもゾイド弄りはプラモ改造の延長
と捉えてるのでね、改造にはひとしおのこだわりがあるのだッ!
 名が売れてきて仕事の報酬もかなりの額になった。その莫大な金のつぎ込み先はゲーム、
漫画、アニメのダウンロード、ネゲーのRMT、キャラグッズや同人といった物にも優先して
わが愛機のグレードアップに使われている! 明日……というよりはもう今日の朝だが、
その時貴様は初めてタック謹製宇宙最強ゾイドの神々しい姿を目の当たりにするであろう
――いやまて、貴様にだけは先に見せてしんぜよう」

155 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/03/01(木) 16:15:11 ID:???
 おもむろに腕をつかまれ、何処かへと引っ張られていく俺。見せてしんぜようって言う
か誰も頼んでないぞ! プラモと同じ感覚で改造したゾイドなんてのは……
「さて、ここが俺様秘密の格納庫。覚悟はできたか? 出来てなくとも開けるぞ」
 アレックスとか言うメガネの屋敷からはるか遠くに出てきてしまっているわけだが。つ
うか、見た目は完全に廃墟じゃねーか。
 しかしその重そうな扉がおデブ君の持ったスイッチで開くと、そこにはズラリと並んだ
ゾイドの列! 珍しいゾイドの博物館と言ってもいい。

 そしてマジで居やがったのさ。“それ”が。騎士の一人たるこの俺でさえ見たことのな
いブツが廃墟の一番奥に鎮座している。っていうかコレ改造前のゾイド何だ? 見たこと
無いというよりむしろ、こんな代物が世界に二つとあったら旧支配者降臨とかいうレベル
じゃなく全世界規模で大衆のSAN値が急降下すると思われ。……なんでそんな言葉知って
るんだろう、俺。
 しかしその威容を実際目の前にした俺は、この世の記号では表せない絶叫を上げるしか
自我の崩壊を防ぐ術がなかった。傍らでデブが誇らしげにニヤニヤ笑っている。その喜悦
の顔すら常軌を逸したものに見えて怖い。お前本当に人間か? ふと顔を上げると、窓の
外に居たりするヤツじゃなかろうな?

「ノーブルよ、ワシはな」
 老人がひとり。傍らに、その孫といっても通じるであろう少年がひとり。
「何です、ワンさん」
「ワシはな……ずっと、死に場所を探していた」
「――!」
 見上げる星空は眠らない市街<シティ>の灯りに照らされ、暗さを削がれて濃紺の色彩
を見せている。それでも星がよく見えるのは、異常な低温ゆえに空気が澄み渡っているか
らだ。
「兵士は腕を上げるほど、熟練するほど、戦いの中にしか生きられなくなる。麻薬と同じ
だよ、ノーブル。長らく戦わねば手が震え、己を包み込む穏やかな日常に苛立ちが沸いて
くるのだ。歳は違えど、ルガールもそうであった――」

156 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/03/01(木) 16:20:12 ID:???
「自称、戦闘狂でしたものね」
「狂、か。それも正しい。じゃが、ワシには他にも戦いの中に身を置きたい理由があった」
「それが……死に場所探し、と?」
「そうじゃな。ワシは……あの長い、暗い、狂気はびこる戦争を生き延びてしまったのだ。
戦友たちはみな死に、講和が行われる前にあの大破壊が起きた。戦争はどこの国が勝利した
でもなく、ただ無数の死者とそれに倍する遺族を濫造しただけ。全ての国が、敗戦国だった」

 『Ignorance Catastroph』――無知なる大破壊。デス・メテオの爆発が引き起こした
爆発によってまず一つの都市が消滅し、続いて惑星規模の量子撹乱が発生。戦地、非戦地
を問わず量子通信の回路網がズタズタに寸断され、古典的な電波通信も使用不能。有線通
信がほぼ廃れていた時代にあって、これら無線通信の途絶はネットワークの破壊を意味す
る。誰からともなく前線の兵士達は銃を取り落とし、期せずして終戦は訪れた。希望と
喝采ではなく、絶望と世界の崩壊を伴って――。

「戦後、戦う以外の仕事を見つけられた連中は幸せだ。戦場で死ねた者は、もっといい。
しかしワシはおめおめと生き延び、あげく戦うことしか出来ない男だったからな」
 一時はスラムに身を落としもした。数年後、やっと彼が見つけた働き口は、“市街”で
生まれた新生児の一部――能力者と呼ばれる子供達を束ねて、野良ゾイドや凶悪な犯罪者
を取り締まる暫定政府公認の機関“ギルド”だった。入隊試験官という役職は、ギルドの
部隊に加わる能力者が戦力足りうるか否かを戦って判断することが仕事となる。そこには
ゾイドバトルのようなルールも無く、常に死の危険が傍らに待ち構えていた。

 だが彼はその生活を受け入れた。思えばこの頃から既に、死に場所を求めていたのか。
戦場にしか生きられない男は、戦場が無くなればどうなる? 戦友たちの後を追いたいと
当時のワンは偏に『死』を求めていたのだ。
「不思議じゃな――戦争中は泥まみれになって砲火を掻い潜り、生き延びることを一つの
目標にもしていたと言うのに、終戦後は光溢れる死後の世界などというものを夢想する」

157 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/03/01(木) 16:23:03 ID:???
 そんなことを言わないでください――エメットの正直な心の声はそう叫んだ。だが彼は
老兵が積年溜め込んできた悩みを感情に任せて否定できるほど厚顔無恥な少年ではない。
 それでも――。
「ワンさん、僕のような若輩者にはこんなことを言う資格はないと思うけれど……あなた
が後を追いたいと望んだ戦友たちは、きっと最期の瞬間まで生を求めていたはずです。
 これは僕のわがままです。でも、それでも僕は――あなたに生きていて欲しい」
 少年が決して目を逸らそうとしないのを見て、ワンの口元に皺が増えた。
「戦友たちのためにも生きろ、と? 三流ドラマの見すぎだぞ、ノーブル。ワシはもう充分
生きたと思っている。戦いに倦み疲れたじじいにまだ働かせるのか」
「いいえ違います。“僕のために”生きてください」
 今度こそ老兵はぎょっとした。こんな台詞を吐けるほど、強かな子であったか。
「もっとも、三流ドラマのべたな台詞にしては良くできていると思いますけどね――」
 それだけ言ってエメットは踵を返し、借り部屋へと消えた。月光が照らす窓際に取り残
されたワンは、硝煙と血の匂いが漂う過去へと意識を遡らせる。

 幾度、戦友の死を見送ったであろう。
 幾度、『死ぬな』と叫んだであろう。
 かき抱いた腕の内から死神が彼らの魂を攫ってゆく刹那、決まって遺言はこうだった。
『おまえは、生きろ』――と。

「生きたさ――パトリック、ラチェット、スタイン。だが、今じゃ俺はお前らが羨ましくて
ならねえ。五体満足で死ねた奴なんざ居やしなかったが、お迎えのバスはきっちりお前ら
を乗せて行ってくれたじゃねえか。
 俺は生き延びた。生き延びて何になった? 教養もクソもねえ能力者のガキどもにいた
ぶられて、会社が潰れりゃお次はコロッセオで見世物やってる。
 俺なんかより、お前達こそが生き延びるべきだったんだ!」
 最期を看取った同僚の名を呼ぶ。問いかける。叫ぶ。
 どいつも自分より若かった。夢もあった。そんな連中が死んで、『生きろ』と言われる
がまま自分は生き残ってしまった。そして不届きにも死にたがっている。

158 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/03/01(木) 16:27:37 ID:???
「俺が無為に過ごした『今日』は、お前達が生きたかった『明日』だったのに――だから
それは俺のモノじゃない。俺のモノじゃないんだ……」
 壁にもたれ、一人すすり泣くワンをエメットはドアの隙間から見ていた。そして彼もま
た悲しみに暮れる。

 ――やはり、僕ではあなたをこの世に繋ぎとめておくことはできないのか。

 何も出来ない。両親を亡くした時も、二年前のあの時も……僕はいつだって無力だ。
 そんな自分への憤りが繊細な心を蝕み、睫毛を伝ってひと雫。
 悔し涙が床に落ち、カーペットに吸い込まれて消えた。

                        <続く>

159 :サクセサーR:2007/03/04(日) 01:19:27 ID:???
 ちょうどその頃、コルネリアス軍のほぼ中央に建てられたテントの中で、二人の男が
会話をしていた。
 テーブルの上には城と周辺の地形を記した地図が置いてある。つい先刻まで上位の指揮
官のみを集めて、明日の総攻撃についての軍議が行われていた。連日の砲撃で城方は反撃
する力を失っている。城壁は堅固だが、出入りするための扉はそれほどでもない。昼のう
ちに扉を破るためのヘビーライモスも到着している。夜明けと共に正面から扉を破って城
内に侵入、ゾイド部隊で周辺を制圧しつつ、歩兵部隊が建築物内の反抗勢力を潰していく
という作戦だ。大雑把なようだが戦力差が大きい時には正面からの力押しが最も利に適っ
ている。
 二人のうち一人は華美な衣装に身を包んだ若者だ。ゼネバス帝国の軍服をアレンジして
いる。これが小コルネリアスことルッソ=ドヴォーク=フォン=コルネリアス現当主であ
る。勝利は目前でもっと喜んでいてもいいはずだが、その表情は固い。その原因が目の前
の男にあるのは間違いない。
 その男は逆に上機嫌でニコニコしている。中肉中背、黒い髪を丁寧に整え、上下紺色の
スーツに白いワイシャツとネクタイというリクルートカラー、戦場という雰囲気には全く
そぐわないが本人は一向に気にしていない。
「いよいよ明日で決着がつくわけですな、閣下」
「まあな、高くついたぞ。お前が持ってきた地質データ、あれを掘り起こせば全てが帳消
しになる上に大層なおつりがくると分かってなかったら、途中で投げ出してたかもしれん。
お前はこれで大儲けで結構なことだな」
 実はこの二人、以前からの知り合いである。小コルネリアスが帝都の大学に通っていた
時、この男は既に社会人ながらMBA取得のために休職して大学に通っていた。実は小コ
ルネリアスに悪い遊びを教えたのもこの男だ。金がなくなると出してやり「出世払いで結
構ですよ」と言っていた。小コルネリアスは単なる善意だと思っており、まさか実家に帰
って家督を継いだときに再び現れ、あの時立て替えた金を払って欲しいと請求書が出てく
るとは予想もしていなかった。

160 :サクセサーS:2007/03/04(日) 01:23:45 ID:???
 だからあの時の貸しを返すため、今回の滞陣中の武器弾薬から食事や備品調達に至るまで、
全てこの男の会社から購入している。ゆりかごから墓石まで何でも扱っていると豪語するだ
けあって、ヘビーライモスすらどこかから調達してきた。
「この地を直轄地にした暁には、採掘権を当社にお任せいただく件、お忘れになりませぬよう」
「分かっておる。ところで、あの資料だが、どこでどうやって手に入れた」
「そうですな。内緒でお教えしましょう。先日私がお渡しした資料ですが、あれを調査した
のは当社の採掘機です。ちなみに採掘機のみならず、殆どの作業機械がOSのメンテナンス
を半年ないし一年単位で受けているのはご存知ですよね。じつはあの時、OSをチェックす
るだけではなく、機械が蓄積しているデータを吸い上げているんです。どういう使い方をし
てどういう状態になったかが分かれば次の改善に役立つわけです。その事は公にしてません
がね」
「なるほど、それは便利だな」
「先月、この地方の地質調査機械がメンテナンスを受け、メモリーに残っていた地質調査デ
ータが当社に回収され、地区担当である私に資料が回ってきた、というわけです。
ところで、私は地層学もかじったことがあるので、このデータの異常性に直ぐに気がつきま
した。自然ではこういう鉱脈の出来方はしません」
「どういう意味か分からんな」
「誰かが意図的に鉱脈を作ったのか?ナンセンスですね。最も可能性の高いのは、これはゾ
イドの原料が埋まっているのではなく、ゾイドそのものが埋まっている、という事ですよ」
「な、なんと!」


161 :サクセサー 21:2007/03/04(日) 01:26:59 ID:???
「埋もれているとすれば五百年前の地殻変動よりさらに昔、古代ゾイド人が作ったものと
いう事になります。ご存知の通り、古代ゾイド人は現代でも再現不可能なテクノロジーを
数多く持っていました。ごくまれに出土するゾイドは現代の科学でも再現不可能なものも
含め、例外なく高いスペックを持っています。地中に埋もれたゾイドもとんでもない能力
を秘めているに違いありません。そして、もし地下にあるゾイドのコアがまだ生きている
とすれば?」
「とんでもない価値があるな」
「金銭的価値だけではありません。これらの技術を応用すれば、帝国のゾイドの性能は飛
躍的に向上するでしょう」
「そうなれば、共和国の連中にでかい顔をさせることはなくなるな」
「さようです。共和国を打倒し、中央大陸を平定し、いずれは暗黒大陸から西方、東方大
陸も版図とし、ゼネバス帝国がこの星の全てを統べることも不可能ではありますまい。そ
の時、最大の功労者は誰か?おめでとうございます!閣下は歴史に名を残す英雄になるの
ですよ」
「私が、英雄か。いつも親父と比較して俺を馬鹿にしていた年寄連中の鼻をあかしてやる
には十分だな・・・」
 さっきまで不機嫌だった小コルネリアスも、ようやく機嫌が良くなったようだ。
「そうそう、特殊部隊用のゴーレムですが、どうやら途中で破壊されたようですね。まあ
試作品ですのであんなものでしょう。試験委託の分は弾薬代の請求から引かせていただき
ますよ」
 何が面白いのか、大笑いする二人であった。ゴーレムが破壊されたと云うことはパイロ
ットが死亡したことを意味するが、気にした様子はない。
 そのテントのすぐ脇には大きな塊がジッとうずくまっていた。家ほどもあるその存在は
あきらかに不自然だったが、奇妙なことに歩哨も含めて誰も気づかなかった。



162 :心持つ機械、心無き人間 8 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/05(月) 22:11:05 ID:???
ティアの意地悪なぞなぞによって脳が混乱した上にチームワークも砕かれた残り3人と
3機のライガーはミスリルと大龍神の敵ではなかった。これが心と感情を持つ者ならば
その場の判断で何とかする事もあるのだろうが、そういう要素を拒絶する教育を受けて
来た少年達は余りにも無力だった。
「それでは続きです!」
大龍神はプラズマ砲をムラサメライガーに向ける、それによって咄嗟にムラサメは
横に回避するがプラズマ砲はフェイントであり、次の瞬間ゴーストンの背の
ビームランチャーによって腹部を貫かれていた。
「・・・。」
残りはゼロファルコンとブレードライガーの2機となったが、彼等にも最後の手があった。
バスタークロービームをEシールドで受け止め、急加速したブレードライガーが突撃する、
大龍神に大きなダメージを与えた強力な技である。だが、ミスリルは既にその攻略法を
編み出していた。そして大龍神は大きく横に跳ぶ。ブレードライガーはそれを追尾し、
ゼロファルコンもブレードへ向けてバスタークロービームを発射し、それを受け止めて
急加速したブレードライガーは大龍神へ向けて正確に突き進んだ。が・・・
「良いのかな〜そんな事しちゃって〜。」
ミスリルはせせら笑い、大龍神は真上へ跳んだ。無論ブレードライガーは大龍神の
真下を素通りする事になるのだが、その先にはなんと彼等の母艦であるホバーカーゴの
姿があった。

「わぁぁ!こっちに来るぅ!」
「回避ぃぃぃ!」
超高速で突っ込んでくるブレードライガーにホバーカーゴ側は大混乱に陥り、回避を
急ぐが空しくブレードライガーはホバーカーゴのブリッジを突き破り、そのブレード
ライガーも崩れ落ちるホバーカーゴの瓦礫の下敷きになってしまい、最後に残った
ゼロファルコンも結局プラズマ砲の餌食となってしまった。

163 :心持つ機械、心無き人間 9 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/05(月) 22:12:10 ID:???
戦いが終わった後、大龍神の足元にミスリルは寄りかかっていた。
「あ〜あ〜結局今回もただ働きですか・・・。」
「命があるだけでも儲け物なのよ〜。」
失意に沈むミスリルをティアは慰めようとしていたが、ミスリルは彼女の頭に優しく手を
添えた。
「今回はティアちゃんのおかげで勝てたよ。ありがとう。でも何であのなぞなぞが
あんなに効いたのかしら・・・。」
「私がまだ生きていた時、ある映画であったのよ。人間を支配するコンピューターが
人間が出したなぞなぞを無理に解こうとするけどショートして壊れちゃうって言うのが。
だからきっとあのお兄ちゃん達もそうなっちゃうのかな〜って思ったのよ。」
「私も壊れるかもとは思わなかったの?」
「それは心配なかったのよ。だってミスリルはそんな事気にする程頭良くないもの!」
「・・・。」
ミスリルはやや呆れていたが、いずれにせよ今回はティアのおかげで助かった。
そしてドールチームの道中はまだまだ続く。

一方ホバーカーゴの残骸の方では、辛うじて生き残った物達が救助を待っていた。
「とりあえず救助は来るみたいだけど・・・先生・・・。」
軍人が悲しげな目で隣を見ると白衣の男は笑っていた。
「あっひゃっひゃっひゃっひゃ!あんなあんなあんな心なんか持った非効率な機械
なんかに!非効率な機械なんかに私が手塩に掛けた最強の戦士達があっひゃっひゃっ
ひゃっひゃ!」
可哀想にミスリルとティアに5人の少年達が負けたショックで狂ってしまったのだろう。
彼はそのまま皆が呆れる程にまで笑い続けていた。
                 おわり

164 :サクセサー 22:2007/03/07(水) 22:20:57 ID:???
 場所はふたたび城の中に戻る。
「こいつをお前に預ける。帝都に行って中央司令部のブレックナー中将にその資料を渡し
てくれ。あの爺さんは俺達の遠い親戚でな、爵位も持ってる。頑固者だが義理堅い性格だ
から何とかしてくれるはずだ。お前一人ならここを脱出するのは簡単だろ?」
「分かりました。確かにお預かりします」
これで俺がここに来たことは無駄ではなくなった。
「ところで、先刻の刀、あれは何ですか」
ずっと気になっていたのだが、この大男がゴーレムを一刀両断した刀は尋常ではなかった。
「おおそうか、気になったか、そうかそうか。いやぁ、こいつはいいぞぉ」
 無邪気な笑顔で、俺の眼前に刀を突き出してくる。玩具を見せびらかす子供と変らない。
とにかくでかい。刀身だけでも六尺以上はあり、柄も合わせると八尺を超える。このサイズ
は俺を含めた大半の人間には扱えそうにない。日本刀よりも肉厚だが、Zi伝統の幅広い
両刃の剣と比べると細身な上、片刃である。持ってみると、妙に軽い。
「抜いてみていいですか」
「抜けるもんなら抜いてみろよ」
 刀身の長さが俺が両手の幅より長いのだから、理論上は抜けるはずがない。だが、長刀
の扱いは瑞巌流の秘伝のひとつである。じゃっと鞘音を立てて一息に抜いてみせると、豪快
な大男もううむと唸ったきり、声も出ない。抜いた刀を垂直に立てて、灯にかざしてみる。
この刀は鉄じゃない。鞘から抜かれた刀身は、青くもあり黄色くもあり、微妙な色彩を放っ
ている。
「Metal−Zi製の刀だ。ちゃんと『四方詰め』で打ってあるんだぜ。お前の日本刀
もいいもんだが、こいつは俺専用だ。オーダーメイドだぞ、へっへっへ、いいだろ〜」
「バランスもいいですね。先寄りのとこをやや重くしてあるみたいですが」
「おっ、分かってくれるか、嬉しいねぇ」

165 :サクセサー 23:2007/03/07(水) 22:24:44 ID:???
 ちなみに四方詰めとは伝統的な日本刀の鍛造法である。Ziで打てる職人は五指に満た
ない。これを打ったのが誰にせよ、相当な価値がある。
「そいつはな、ササキのおっさんが送ってくれたのよ。何年前だっけか?ああそうそう、
おっさんがMOZ(モッズ)になった年だ。宅配便でな。手紙も何もついてなかった」
師匠らしい。女にはまめな人だったが、男にはぶっきらぼうだった。
「詳しいことは聞かないが、お前、ササキのおっさんに会ってるか?たまには手紙でも書
いてやれよ。一応、お前が後継者なんだし」
「何でですか。それを言うなら先輩の方が師匠との付き合いは古いでしょうに」
「俺を含めて、瑞巌流48手の全てを教わった者などいない。俺ですらせいぜい30手ど
まりだ。お前だけなんだよ、全て教えて貰えたのは、な。相当に目をかけられてた証拠だぞ」
「正確には47手ですね。48手目は机上の空論ですから」
だが、俺は師匠がなぜ彼らに全ての技を教えなかったか知っている。技を全て教えれば、
免許皆伝である。免許皆伝となれば、もう軍隊の上司部下でなくより親密な人間関係であ
る。少なくとも周囲の人間は見そう見る。それが彼等の出世の妨げになると師匠は考えて
いた。「俺も敵が多いからな」というのが口癖だった。
 それに、さきほどの太刀筋を見て分かったのだが、惜しいかな、このグラハムは肉体的
に恵まれすぎていた。もともと武術は肉体的に劣る人間が自分より強い人間を倒すために
工夫するところから生まれている。膂力があって単純に剣を振るだけで事足りるような人
間には必要性がなく、必要性がないものはいくら努力しても身にはつかない。
「何年前になるかなぁ、お前が弟子入りした直後に珍しく手紙を送ってきた事があった。
一言「弟子ができた」としか書いてなかったが、ありゃ相当うれしかったんだと思うぞ」
まだ続くのかこの話は。いい加減勘弁して欲しい。
「まあいいや、せっかくの機会だ。お前、ゾイドバトルは強いそうじゃないか。どんなや
つと戦ったんだ」
 辛気臭い話より、こっちの方がよっぽどいい。身振り手振りを交えつつ、相変わらずの
差しつ差さされつ。明日のことなど忘れて夜は更けていった。


166 :Full metal president180 ◆5QD88rLPDw :2007/03/12(月) 02:34:49 ID:???
マクレガーは不審な状態に改めて気付かされる。
数が非常に多い。行きよりも遥かに立ちはだかるホムンクルスの数が多い…。

「数が多すぎる。館内にはこれ程のホムンクルスはいなかった筈です。」
それでも何とか年上の人にはなるべく敬語という言葉が出る。
「そうですね。ホムンクルス同士でも生殖は一応条件付きで可能です。
でもホムンクルスの生態モデルは人間ですから急に数が増える事はありません。
何処かから送り込んで来たのでしょうね…
あのゴジュラスもどきの召喚光線辺りでしょう…。」
外の状況に疎い状態のマクレガーはファインの言葉に凍りつく。
遠距離召喚なんて技術は政府関連の情報筋ではそういた技術に目を通している。
しかしそれを実際に目にする事になるのはともかく弾数が多すぎるのである。
「武器庫に寄って行きますか…残念ながら弾は無限ではありません。」
「と?言うと?残りはどれくらい望めるのですか?」
マクレガーの問いに非常に申し訳ないと言う顔でファインはこう答える。
「約3tですが弾の劣化や効果の低下を考えて定期的に売り払って買い換えます。
最近はそろそろそう言った時期のような気がするので…。」
「当てに成りませんね…はぁ…。」
二つの人影が武器庫へひた走る。

「中心を…コアを狙って!行けっ!」
そんな言葉がコクピット内に響くと海上で様子を伺っている月の獣は爆散する。
「ほう…光速徹甲弾か。相手には何が起こったか?確認がとり難いだろうな。」
再生は始まっているが行動中心を司るコアの撃破はその速度を極端に遅らせている。
エリーゼは基本を知らない。ゾイドの操縦うんぬん程度なら何とかなるが、
このベルゼンラーヴェの主力兵装である装気術式専用ジェネレータは稼働率9%程。
本来矢継ぎ早に行動を起こす事を前提としてる高位階の魔術師専用の装備。
使いきれなければ急速チャージ領域はまるまる無駄の極みである。
「おい孫!少しは連射できんのか?折角のチャージ領域が泣いているぞ?」
「そげんことば言わんでも…。」
「黙れ。」
何故か何処かの方言で切り返したエリーゼにザクサルの反応は非常に冷たかった。

167 :Full metal president181 ◆5QD88rLPDw :2007/03/12(月) 03:13:09 ID:???
海中で半分漫才まじりのやり取り(当事者は間違いなく本気)は続く。
突然機体に乗りたいと駄々をこねそれが成功したという時点では勝ち組、
の筈のエリーゼではあるが教官にあたる人間がザクサルという非常に困った状況…。
しかもとりあえずできる事をやるだけやれと言う課題に難儀している。
月の獣はどうやら水がお嫌いらしく、
姿がしっかり見える浅い海中に居るベルゼンラーヴェに手を出してこない。
飛び道具を使わない事には攻撃が不可能なようである。

「とりゃ!えいや!てぇ〜りゃ〜!」
イメージフィードバック方式の術式発動機を搭載しているという情報は…
エリーゼも知っていたがこれ程使い難い物だとは思っても見なかったらしい。
それでも詠唱やら発動をゾイドの側から行ってくれるので、
海上に三桁を越す小型の光弾が出てきた。
が…数に物を言わせすぎてチャージ領域を全部使用。直ぐに消えてしまう。
「こら!孫!確りゲージを見ろ!限度って物があるだろ。頭でっかちめが…。」
「はふぅ〜…目の前がクラクラする…。」
「寝るな!寝たら死ぬぞ!ここは戦場だ!起きろ!孫!…っとシャットダウンだな。
全くしょうのない小娘だ。ものには限度というものが在るというのに。
仕方がないなぁ!他人の褌で相撲を取るのは控えてきたが…やってみるかぁ!」
途中から妙に言葉の語尾が上がり明らかに嬉しそうなのは性格故だろう。
エリーゼを操縦スペースからどかしエクステラにエリーゼを預けると…。
「運が無かったな。諦めろ。ばぁ〜〜〜〜〜ん!」
その言葉が終わるか終わらないか内に月の獣はベルゼンラーヴェに引き裂かれる。
意識が薄れつつあるエリーゼが最後に見たものは、
自分が結局倒すことができなかった化け物を紙切れを引き裂くようにバラす…
ザクサル操縦のベルゼンラーヴェだった。

「さて…VMー78ショットガン3挺。ERMー12マシンガン2挺。
ST−36アサルトライフル1挺…こんなところでしょうか?大統領。」
「そうですね…急ぎましょう。それっ!」
早速何とか使えたショットガンでホムンクルスの頭部を打ち抜き素早く走り去る。
前にもまして数が増えたホムンクルスの所為で沈没が早まっている。

168 :Full metal president182 ◆5QD88rLPDw :2007/03/12(月) 04:57:22 ID:???
「うえ…みっ見るんじゃなかった…。なんという光景だ。」
バハムート内の”爪”を手に入れるべく時間稼ぎとしてホムンクルスを…
大量に召喚しては見たもののゼクトールは正直な気持ちで失敗したと思う。
艦内は夥しい黒い血で真っ黒に染まりそこを無人の野の如く走る人影二つ。
大切な事を忘れていた…そこにいる二人は一人で兵士100人。
ミサイル一発よりも遥かに超える戦果生身をあげる存在だった事を。

「こちらマジシャン1!これより格納庫に突入する!」
「プレジデント2了解!プレジデント2!これより機体に帰投する!」
「マジシャン1よりプレジデント2へ!そちらにグレムリンが接近中!」
「了解!プレジデント2これよりグレムリンを始末する!」
銃撃の音と何かが砕けたり裂かれたりするような音が格納庫に響く。
いつの間にか両者現役時代に浸りながら軽快にホムンクルスを料理している。
密集陣形が災いしたホムンクルス達は何もできないまま銃火にさらされるのみ。
「…一般人を狙うより楽か。時代は温くなったものですねぇ。」
「そう言って一般人を撃ったことが御有ですか?マスター?」
「いえ…スコープで狙いを付けるだけです。それだけ動きが鈍いと言う事ですよ。」

マクレガーは順調にパープルオーガに近付くが目の前を大型の固体に阻まれる。
「シット!こんなところで足止めを喰っている暇はないというのに!」
ショットガンが弾切れを起こしアサルトライフルも役に立たない。
そんなおりに突然大型ホムンクルスが胴体辺りから突き出した歪な物に両断される。
「どうですか?見た目の痛い感じが良いでしょう?チェーンソーと大鎌を混ぜた物。」
切り倒された上半身の向こうにはチュイ〜〜〜〜ンと生理的不快音を立てる…
大鎌を肩に構えたファインの姿が見える。
殆ど黒装束の姿に鎌。それは死神にしか見えない物騒な姿である。

それを横目に素早くパープルオーガに取り付き駆け上がりコクピットに飛び込むと…
「ムギュッ!?」
何かが潰れたような悲鳴を上げるものがコクピットに居た…。
足元に居たのは小型のホムンクルス。何故か涙目でマクレガーを見ており、
まるで親に縋るように抱き着いて来たのは想定外の出来事だった。

169 :地獄の火山島戦役 1 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/17(土) 11:07:24 ID:???
人の心を持つ女性型ロボット“SBHI−04 ミスリル”とドールの身体を持つ
幽霊少女“ティア=ロレンス”の二人で構成される何でも屋“ドールチーム”は今
満身創痍な状態だった。ミスリルが操る特機型ギルドラゴン“大龍神”はティアの
LBアイアンコングMK−U“ゴーストン”を背に乗せて飛んでいたのだが、二機ともに
彼方此方の装甲にヒビが入ると共に高熱によって溶けた場所や焦げ後等も多数見られて
おり、いつ墜落しても可笑しくない程にまで弱々しく飛んでいた。

「ふあ〜・・・死ぬかと思いましたよ。私も大龍神もゴーストンも大幅な修理が必要ですね。」
「怖かったのよ〜・・・。」
ゾイドのみならず、コックピット内のミスリルとティアの二人も全身がボロボロだった。
チタンを主成分に、ミスリル銀とオリハルコンと言う二大レアメタルを融合させる事で
異常とも言える強度の超金属として誕生した超々合金“TMO特殊超鋼材”のボディーを
持ち、並の火器では傷も付けられない程頑丈なミスリルの体の彼方此方がヒビ割れ、
メインカメラである目も片方が無くなっていた。同じくTMO特殊超鋼材製の特殊繊維で
織られた服も彼方此方が破けていたし、ティアなど人形の体は完全に失われ、本体である
霊だけになってしまっていた。一応ミスリル・大龍神・ゴーストンともに自力で修理及び
修復の可能なレベルの損傷だったし、ティアに関しては新しく人形の身体を買えば解決
する程度の問題ではあったのだが、今回の物語は何故ドールチームがこの様な被害を
受けたのかという事に焦点を当てて行きたい。

ある二つの大国が何十年にも渡り、戦争を行っていた。戦況は膠着状態であったが、
それを打破する為に両国は決戦に出た。決戦の舞台となったのは火山島“ボルケーノ
アイランド“。何十にも及ぶ活火山が乱立し、噴火など日常茶飯事。辛うじて存在する
平地においても間欠泉が不規則に噴出すると言うまさに地獄の様な島で両国の大部隊が
激突した。後に“地獄の火山島戦役”と呼ばれる事になるこの戦いにドールチームも
傭兵として参加していた。

170 :地獄の火山島戦役 2 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/17(土) 11:08:46 ID:???
「うわ〜・・・よくもこんな滅茶苦茶な所を戦場に選んだもんです。」
早くも島の彼方此方で戦闘が繰り広げられており、ゴーストンを背に乗せた大龍神は
その上空を旋廻していたが、余りの惨状にミスリルは呆れてしまっていた。
確かにその戦いは大国同士の決戦とも言うだけあって、両軍共に相当な数の兵員・ゾイド、
その他様々な要員が参加していたし、同時に今が稼ぎ時とばかりにミスリルとティアを
含め、世界中から数多くの傭兵が参加しており、実にゾイドの見本市と呼んで良い位に
まで様々な技術系統のゾイドが入り乱れた乱戦状態となっていた。無論その戦闘は
両軍共に数多くの死傷者を出す程苛烈な物であったのだが、同時に戦場となった
ボルケーノアイランドの厳しい自然環境と言う障害も存在し、島中から不規則に噴出す
間欠泉をモロに浴びて大火傷を負う者や、火山から噴出す硫黄を大量に吸い込んで
しまった為に倒れてしまう物、溶岩に落ちて死亡する者など、様々な被害が出ていた。
これらの環境的な問題はミスリルとティアにとっては別にどうと言う事は無かったが、
逆に影響を強く受ける人間がこの状況でお互い退かずに戦っていると言う状況が
理解出来なかった。
「何故こんな場所を戦場に選んだのか・・・本当に理解出来ません。人間にとってここは
真に地獄と言える環境なはずなのに・・・。」

ボルケーノアイランドが戦場に選ばれたのは戦況が膠着しているからに他ならない。
その膠着状態を打破し、互いに活路を見出そうとするからこそ故意に厳しい環境条件下
のボルケーノアイランドを戦場に選んだ。確かに人間が戦うには辛く苦しい場所であるが、
それは相手にとっても同様であり、この厳しい環境を逆に味方に付けて活路を見出そうと
言うのが互いの思惑だった。

「まったくここは酷いですね。ただでさえそんなに広くない島に両軍共に何万もの兵が
集まって戦ってるなんて・・・。」
火山灰にまみれながらも戦う両軍の兵士達の姿を上空から見下ろすミスリルは呆れていた。

171 :地獄の火山島戦役 3 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/17(土) 11:13:05 ID:???
戦いそのものを否定するつもりは無い以前にどちらかと言うと肯定する方である彼女だが、
弱い者が無理をしてまで戦う事はどうしても理解が出来なかった。これまでの戦いもそう。
弱いくせに出世欲だけは旺盛で、名を上げんとミスリルと大龍神に突っかかっては返り
討ちにされ、若い命を散らした者がどれだけいた事か。無論中にはそこそこに強かった者
もいるが、大半は身の程を知らない無謀な者達ばかりだった。この戦いだってそうだ。
ボルケーノアイランドの環境は人間が戦うには厳しすぎる。当然多くの者は苦しんでいた
のだが、それでも皆戦っている。何故そうまでして無理をするのか理解に耐えなかった。
「ま、これも仕事ですから・・・やれと言われればやりますけど・・・。」
大龍神は敵軍上空を低速で飛行しつつドラゴンナパームによる爆撃を行った。一発で
半径100メートル以上もの広範囲を吹き飛ばす事の出来る恐ろしいナパーム弾である。
そして大龍神の背に乗るゴーストンがビームランチャーやパルスレーザーで対空攻撃を
担当している。この一連の攻撃で敵軍が次々に吹き飛んで行ったが、戦局を動かすには
程遠い物だった。敵の数が多すぎると言う事もあるのだが、それ以上に味方の数も多い事
がドールチームにとって戦い難い状況を作り出していた。今までなら自分VS敵大軍団と
言う周囲の被害は気にせずに戦える状況が多かったし、どんな大軍団が相手であろうとも
簡単に蹴散らす事の出来る超広域破壊兵器の数々を大龍神は満載している。だが今回は
違う。あくまで一傭兵として参加しているだけに味方の数も多い。それが島中に敵味方が
入り乱れて戦っている状況では大龍神の装備する超広域破壊兵器が生かせない。
流石に味方ごと吹き飛ばすわけにはいかないからだ。だからミスリルは少しでも味方の
数が少なく、かつ敵の多い地点を探して攻撃を仕掛けると言った作業を行っていたのだが、
どうも埒が明かなかった。そうやってちまちまと島中を慌しく飛びまわる自分達の姿は
ミスリルとティアにとっても情けなく写っていた。

172 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/03/20(火) 18:10:05 ID:???
 ガラス張りの温室には彩り鮮やかな草花が咲き乱れ、エアコンディショナーがもたらす
とこしえの春を謳歌している。複合ガラス一枚隔てた外に極寒の世界が広がっているなど
とは考えられない、原初の楽園<エデン>のミニチュア。ここは展望テラスも兼ねている。

 そこでアレックス・ハル=スミスは夜を徹して疑い、考え、悩む。
 何を? それは一時的におさめたイヴへの疑念だ。

 今回の敵、イヴの補器が三千年前に彼女を襲い機能停止に追い込んだのであれば、当然
漆黒のフィールドに包まれてひっそりと眠っていた彼女の存在にも気付いている筈である。
にもかかわらずイヴは無事に彼らの元へ現れた。しかも、この時期に目覚めるというのが
胡散臭くてならない。例えば――
「敵が目的のために敢えてイヴを破壊せず、機能停止させたままこの時代まで保存するこ
とを目的として襲撃を行った……そして、何らかの必要が生じて彼女を解放した」
 考えすぎだろうな、と自嘲する。相手は論理を第一に考える自律知性だ。不確定要素の
多すぎる計画を実行しようとは思うまい。
 究極的には否定を取ろうとするアレックスの判断傾向が、このとき掴みかけた真実の果
実から彼の手を逸れさせた。否定し得ない明晰さと非凡な才覚をもってしても、情報を得
る手段が無いのでは敵の行動を完全に察知することなど不可能だったのだ。

「若社長さん、さてはアナタも決戦を前にして頭が冴えてきちゃったクチね?」
 耳に快いこの声。ごまんと居る孤児の一人であったなら、即座に養子として思考活動の
活性化に一役買ってもらったであろう――などと埒も無い考えを抱かせた十歳の少女。

 レティシア・メルキアート=フォイアーシュタインの顔は二律背反な要素が相互に乗算
された神秘の美だ、と彼は思う。顔の造形は幼く、そこに重ねあわされた『表情』という
見えざるマスクは成熟した女性の如く艶美。矛盾するはずの美しさが至高の芸術を生み出
すことは絵画や彫刻にも見られる手法だが、よもやそれがこんな少女に宿ろうとは。
 もし彼女が父の後を継いで政治の道を志したなら、その外見は彼女にカリスマ性を与え
るだろう。支持されぬならそれも良し、問題は愚策を講じた政治家が支持されること――。

173 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/03/20(火) 18:14:33 ID:???
 などと一人、幼女の顔を睨みながら思索に没入する男の姿はプレッシャーを与える類の
ものだったらしく。睨まれた方はおもむろに金貨を取り出すと、それをアレックスに投げつ
けて目を覚まさせるという暴挙に出る。この金銭感覚を矯正せねば、懸念は現実となろう。

「やあ、レティシア嬢。『あなたも』ということはご自分も同類であると?」
「子供は早く寝るもの、とか言う太古の慣習を乳母が妄信してたせいもあってね。反抗し
てたらすっかり夜更かしが癖になっちゃったみたいで……やれやれだわ」
 厳しい環境で育った子供ほど精神の成長が早い、というのは文明社会の発展を求め続け
る人類に対する神からの皮肉であろうか。この時代には大人以上の経験に裏打ちされた思
考力を持った子供も珍しくは無いが、甘やかされて育つ環境にあったはずのレティシアが
そうした歳に不相応な思考回路をしていることはアレックスの興味を大いに引くのである。
「そりゃ、月が一つしかなくて人類社会が生活のサイクルを昼夜で分けていた星の受け売
りでしょうからね。公営民営問わず企業、法人は一日中活動してるのが普通な今のZiには
適用するのが野暮と言わざるを得ません」
「話が分かる人で助かるわ。あなたのような人が父親なら……ううん、せめて兄に居たら。
私だってこんな家出娘にならなくて済んだかも知れないのに」
 家出は自分の意思でしたことだろう、とは言わないことにした。この言葉は彼女自身に
向けられている。
「年齢的には兄の方が現実的ですね。もっとも……私があなたの家に生まれていたなら、
アルフレッド議長に何を吹き込まれて育ったやら。想像したくありませんがね」
「叔父と一緒に暗殺部隊でもやってるんじゃないかしら」
 ひとしきり二人で笑う。
「……それで、何か大事なことを言いに来たんじゃありませんか」
 どうして解るの、と少女が瞳で問う。
 勘ですよ、と青年は微笑みで返す。
「――私、あなた達が北へ発ったら父のところへ戻るわ」
 驚いたふうでもなく、彼は淡々と告げる。
「死罪は無いにせよ、きついお叱りや鞭の一回二回は覚悟しなければなりませんよ?
より現実的に考えれば、オリバーを助け出した独房にあなたが入ることになります。
 行きますか――それでも」

174 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/03/20(火) 18:19:17 ID:???
 少女の視線は揺らがない。その決意もまた、同じ。
「ええ。今の父が為政者の志を持っているようには思えないから――」
 暫定政府は名が示すとおり、戦前の社会体制を復興することが第一目的となって設立
された急造の権力機構だ。そのため発足から十数年経つ今でも足並みに協調性を欠き、
中央集権になりがちである。過大な権力を与えられた議長アルフレッドが私兵集団など
を持って専横を振るい、能力者の保護や異常気象への対策に積極性が見られない現状は、
娘に父への疑念を抱かせるのに充分な条件であった。
「父が何のために最高議長という地位を手に入れたのか、私は知らない。けど、彼の真意
が解らないうちは実の親を信じられそうにないの。――それに、私はここにいてもアナタ
達に付いていっても、出来ることがないから」
「決意は固い、というわけですね」
 明答を得たアレックスの顔に、ふと柔和な笑みが戻る。
「……何にせよ、子は親と共にあるのが一番だと私も思います。覚悟があるなら賛成です」
 親孝行は、それをする子とされる親が生きていて初めて出来るのだから――“ギルド”に
入社した矢先、まだ少年であった自分と莫大な資産を遺して感染症により急逝した両親の
ひたすらに遠く、温かい思い出を省みながら青年は語る。悲しみも憂いも、微笑みに隠して。
「ま、勘当されるようでしたらうちへどうぞ。部屋はあり余ってますからね」
「うん……ありがとう。心強いわ」
 感謝の言葉と共に彼女は視界から消えた。最後の一言だけは、歳相応の少女の声音であ
ったように感じるのは気のせいだろうか。

                             <続く>

175 :サクセサー 24:2007/03/21(水) 12:01:00 ID:???
 ドーン、ドーンという音と微妙な振動で、目がさめた。頬にあたる床がひんやりして気
持ち悪い。いつにないことだが、眠っていたようだ。ここは標高が高くて酔いがまわりや
すいのを、すっかり忘れていた。
 上半身を起こす。普段からの修練で、寝起きでも直ぐに頭をすっきりさせる。「おお、
ようやく起きたか」
声のした方を見ると、グラハムが立っていた。先祖代々の品物らしい、古めかしい甲冑を
着ている。標準的な体格に合わせて作られた甲冑はこの大男には小さすぎた。太ももは草
摺りからはみ出し、胴体はブラジャーの如く胸を覆うだけで腹部はへそが出ている。だが、
その滑稽ないでたちも、妙に格好いいと思えた。
「他の皆さんは?」
夜半過ぎに床に寝転がっていた酔っ払い達は綺麗に姿を消していた。
「あいつらは各場所の指揮をしなきゃならんからな。もう行った」
そう言うと、壁に設けてある棚に置いてあった白木の箱に、カップに注いだ葡萄酒を置く。
「最後の一杯だ。味わってやってくれ」
箱に語りかけると、胸の前で聖印を切る。
「この箱の中には、ゼンの息子、俺の従弟の首が入ってる。ゼンの親族で女子供は某所に
匿って貰ったが、こいつだけは「私には後継ぎとして最後まで見届ける義務があります」
と言い張ってなぁ。ついて来たのはいいが、一昨日の砲撃で破片を食らって死んじまった。
せめて墓でも建ててやりたくて首だけは取っておいたんだが」
続けてとんでもないことを言う。
「コルネリアスの小孺にとっては『敵の総大将の首』だ。有効に使え」
「分かりました」
会ったこともない人間の死体に敬意を払う感傷は、俺にはない。むしろ何かに利用できる
なら利用させてもらおう。

176 :サクセサー 25:2007/03/21(水) 12:04:15 ID:???
「今の音は、正門の扉が破られた音じゃないですか」
「多分な。こっちは使えるゾイドは数えるほどしかないが、城の中に入ればこちらの思う
つぼだ。地雷や落とし穴や、いろんな仕掛けを用意してあるぞ。簡単に勝たせてもらえる
と思うなよぉ」
と不敵に笑う。その顔には凄みがあった。そして、外へ向かって歩いていこうとするが、
俺はふと思いついてその背中に声をかける。
「ちょっと待ってください」
「なんだ」
「これは師匠の代理として、私からの餞別です」
そう言うと、右手に鞘を持ち、親指で鯉口を切る。左手で柄を握ると、軽く腰を落とす。
「瑞巌流、“鞘継(さやつぐ)”」

「以上です」
型を終えた後、左手に持った鞘に刀を戻す。グラハムはまばたき一つしていなかったが、
ぱちん、という音と共に呪縛から逃れたように大きく息を吸う。
「今のは・・・何だ?途中までは意味もなく吸い寄せられるような気分だった。途中で切
られても不思議ではなかった。だが・・・最後まで見たから分かる。無駄だらけ隙だらけ、
今ならたやすく避けることができるだろう。これが48番目の奥義だというのか!」
「そう。最後までご覧になったから分かるでしょう。でも、これが初めてで、もし私の前
に立っていたとしたら?」
「そりゃ何もできずに斬られているだろう・・・あっ!」
やっと気づいたようだ。

177 :サクセサー 26:2007/03/21(水) 12:11:43 ID:???
「そうか!一度見れば対応できるから、二度とは見せられない。だから『理論上』なのか」
「そうです。この技は人間の深層心理の盲点を突いた技です。一連の動作には催眠効果も
あります。いかなる人間も絶対に逆らうことはできず、刀に吸い寄せられるように自から
進んで斬られるという魔の技。でも、繊細ゆえにほんのわずかでも乱れれば全く効きませ
ん。技の意味をあらかじめ知っている相手にも、やはり効きません。迂闊に使えば、逆に
こちらが斬られます。だから余程の強敵でないと使えません。いくら研鑽を積んでも生涯
で使えるのは一度、あるかないか」
「では何故、そんな技がある?」
「『武士道といふは、死ぬ事と見付けたり。二つ二つの場にて、早く死ぬ方に片付くばか
りなり。別に子細なし。胸すわつて進むなり。図に当らず犬死などといふ事は、上方風の
撃ち上がりたる武道なるべし。二つ二つの場にて、図に当るやうにすることは、及ばざる
ことなり。
 我人、生くる方がすきなり。多分すきの方に理が付くべし。若し図にはづれて生きたら
ば、腰抜けなり。この境危ふきなり。図にはづれて死にたらば、犬死氣違なり。恥にはな
らず。これが武道に丈夫なり。毎朝毎夕、改めては死に死に、常住死身になりて居る時は、
武道に自由を得、一生越度なく、家職を仕果すべきなり』
地球の古文書の一節です」
「死と紙一重の生き様か。それだけの心構えが必要。そういうことか」
 ないことに、この大男が神妙な顔で、顔を紅潮させている。そう、師匠は瑞巌流の全て
は伝えきれなかった。だからせめて、剣の道の心構えだけでも知っておいて貰いたかった。
敢えてこの技を使って見せたことで、俺の信頼感を言葉ではなく体で表したかったという
気持ちもある。
「武の道の奥深さ、ようやく見えた気がする。なるほど、確かにお前が瑞巌流の後継者だよ」


178 :地獄の火山島戦役 4 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/22(木) 21:23:10 ID:???
「何か凄く情けないと思いません?」
「私もそう思うのよ。味方なんかいなければ敵なんてこんな島ごと吹き飛ばせるのに・・・。
ねえねえミスリル、敵と味方を識別して攻撃出来るような広域破壊兵器は無いの?
ドラゴンフラァァッシュ!! とか言って結構ありそうな気がするのに・・・。」
「それはちょっと・・・風の精霊の力でも借りない限り無理ですね。まあいずれそういう
武器の研究開発も行いたいと思いますけど・・・。」
二人ともに深く溜息を付いていた直後、それ以上にミスリルと大龍神が戦局を変える事の
出来ない理由となりうる存在の襲撃を受ける事となる。

「きゃぁ!」
突如側面から物凄い衝撃に襲われた大龍神は火山の斜面に突き落とされてしまった。
「あいたたた・・・一体何?」
「突然何かが突っ込んで来たのよ・・・。」
ミスリルは大龍神を起き上がらせると、正面百メートル先に存在する45度の坂と
なっていた斜面に立つ一体のイグアンの姿があった。
「い・・・イグアン? まさか・・・。」
ミスリルは我が目を疑った。幾らなんでもイグアンが飛行中の大龍神を落とす事など
不可能だからだ。だが、その考えは直ぐに改まった。何故なら眼前のイグアンから
おぞましい程の気を感じ取っていたからである。
「この人間離れした気は・・・ってキャァ!」
直後、大龍神の体が大きく浮き上がった。一瞬の内に肉薄したイグアンが大龍神を
蹴り飛ばしていたのである。ギルタイプという枠組みの中でも抜きん出た存在である
大龍神をイグアンが吹き飛ばす事などあり得ない事である。普通ならば・・・
「まさか・・・あのイグアンのパイロット・・・超人クラス!?」
“超人クラス”。生身の人間でありながら常識を超越し、時には物理法則さえ無視する
力や技・能力などを持ち、まさに超人としか言い様の無い者達の事をミスリルは尊敬と
畏怖を込めてそう呼んでいた。少なくともイグアンで大龍神を蹴り飛ばす様な芸当は
超人クラスでなければ不可能である。そして目の前のイグアンはさらなる追い討ちを
かけんとしていた。

179 :地獄の火山島戦役 5 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/22(木) 21:24:28 ID:???
「ティアちゃんしっかり大龍神に掴まってて! 全力で逃げるから!」
「え!? 逃げるの!?」
「相手は超人クラスですよ! 私の力量で敵う相手ではありません!」
ティアもやや戸惑っているようだったが、ゴーストンは大龍神の背に力一杯しがみ付き、
大龍神は大きく羽ばたくと共に天高く舞い上がった。上空に飛べば流石に追って来る事は
出来ないと思われたが、イグアンは構わず空まで飛んで追ってくるではないか。
「うそぉ!?」
並みの飛行ゾイドを凌駕するはずの大龍神の常勝速度さえ上回る速度で迫るイグアンに
ミスリルとティアは走馬灯を見る思いとなった。だが、その時だった。大龍神の背後から
一体のゴドスが飛び出し、イグアンに蹴りを放ったのである。識別信号からして味方で
ある様子であったが、そんな事などどうでも良くなる程そのゴドスも強かった。そして
唖然とするドールチームを尻目に、空中で激しいパンチやキックの応酬が繰り広げられて
いたのである。おまけに金色のオーラまで発しながら・・・
「冗談はよして下さいよ。ドラ○ン○ールじゃないだからさ・・・。」
「ねえミスリル! 超人クラスって何なの?」
「ああ言う冗談の様な人達の事ですよ・・・。全く人間とは分からないものです。弱いのも
多い一方であんな冗談みたいな人達もいるんですから・・・。」
イグアンとゴドスはそれ以降、戦争の流れなどお構いなしに自分達の世界に入り込んで
戦い続けており、ドールチームも邪魔にならない様にと言うか、相手にするとこっちが
やられるのでそそくさとその場から離れた。しかし、ミスリルの言う“超人クラス”に
該当する実力の持ち主はその他にも沢山いるようだった。現に島の彼方此方でそうとしか
思えない者達が冗談の様な技で敵の大群を次々に蹴散らしているのが見えたからである。
「普段は滅多にお会い出来ないのに・・・何故こういう日に限って大挙現れますかね・・・
超人クラス・・・。」
ミスリルは呆れを通り越して感心さえする思いだった。だが、その超人クラスの者達も
両軍に均等に所属しているようで、また超人クラス同士が押さえ合う光景が多く見られる
為に戦況を動かす様な事にはなっていないようだった。

180 :地獄の火山島戦役 6 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/22(木) 21:25:21 ID:???
「ふう・・・まあ皆頑張ってると言う事ですね・・・。さあティアちゃん行きましょう。私達は
私達でやらねばならない事があるんですから・・・。でも超人クラスは可能な限り相手に
しないようにね・・・。じゃないと私達が持ちませんから。」
「ミスリルにも怖いものがあったのね・・・でも、あれじゃ仕方ないのよ・・・。」

戦闘はまだまだ続いており、ドールチームは現状の力量ではどうあがいても勝ち目の無い
超人クラスには可能な限り手を出さない様に戦っていた。島中に分散した友軍の被害を
考慮し、大龍神の広域破壊兵器を使用出来ないのは前述した通りであるが、その現状で
ドールチームが出来る事は己の力量で勝てるレベルで、かつ友軍の障害になりうる強力な
ゾイドを集中して倒す事に専念していた。そして多少の爆発を物ともせず、足元の敵雑兵
を蹴散らしながら大地を爆走する大龍神の向かう先にはバイオティラノの姿があった。
「な〜に? あの気持ち悪いの。」
「あ、ティアちゃんはバイオゾイドを見るのは初めてね。バイオゾイドというのは
海の向こうの空遠くにある田舎大陸で作られた通常とは別機軸のゾイドですよ。
でもそれを作った国は何十年も昔に崩壊してなくなったはずなのに何故あんな物がここに
あるんでしょう・・・。」
バイオゾイドの開発国であるディガルド武国は既に討伐軍との戦争によって崩壊した。
その後、第二のディガルドの誕生を恐れた討伐軍によって技術者の大量粛清が行われる
のであったが、ディガルドでバイオゾイドの開発を行っていた技術者の一人がその追撃
から逃れ、別大陸に亡命する事に成功した。そして彼の手によってバイオゾイドの血脈は
途絶えずに存続し続けていたのである。
「うぉぉぉぉ! 壊れろ壊れろ壊れろぉ!」
大陸外の高度な技術を取り込んで強化されたバイオディラノはバイオ粒子砲の連射さえ
可能にしていた。その巨大で禍々しい口から矢継ぎ早に放たれる神の雷によって大量の
友軍機が光の中に消えて行ったが、全周囲を覆う超高出力バリア“ドラゴンバリアー”を
展開した大龍神は光の中を構わずに突破し、バイオティラノの眼前へ肉薄していた。
「うおぉ! 何なんだ貴様はぁ!」
「ドラゴンウィングカッタァァ!!」

181 :地獄の火山島戦役 7 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/22(木) 21:26:41 ID:???
体格こそバイオティラノの方が一回りも二周りも巨大であったが、パワーは大龍神の方が
遥かに上手であった。大龍神を押さえ込まんとバイオティラノは両腕と副腕による
合計4つの腕を突き出すが大龍神は止まらない。逆に大龍神の切断翼によって爪ごとその
太い首を斬り落とされ、最後に剥き出しになったコア目掛け大龍神の背に乗るゴーストン
のビームランチャーによるダメ押しが行われ、一つの戦いの幕が閉じられた。超人クラス
には歯が立たずとも、そうでない者達に対して大龍神は圧倒的だった。
「やったね!」
「でもまだ安心は出来ません。戦いはまだ続いています・・・。」
とその時、ドールチームのスポンサーである国の上層部からの通信が来ていた。
『大急ぎで本陣に戻って来てくれ! 敵の大部隊の奇襲だ! 急いでくれ頼む!』
「了解了解。それじゃあ行きましょうか?」
「全く息付く暇も無いのよ。」
そうして勝利の余韻に浸る間も無く、大龍神はゴーストンを背に乗せ飛び立った。

戦場は島そのもののみならず、島周辺の海域や上空においても壮絶な戦闘が繰り広げ
られていた。周辺海域では両軍の海軍が、上空では空軍による激戦が行われ、特に
味方本陣へ向けて飛行中の大龍神は敵空軍による攻撃を受けた。その空域には味方も
沢山いた故に大龍神に集中して行われているわけではないが、そうでなくとも雨の様な
弾幕が360度あらゆる方向から飛んできて大龍神くらい頑丈でなければ馬鹿馬鹿しくて
やってられない程の地獄だった。
「ええい! 邪魔だから退いてくださぁぁい!」
一々攻撃をかわす余裕さえないドールチームは両軍空軍の戦闘の真っ只中に突っ込んだ。
弾丸や敵ゾイドを弾き、突き破りながら突き進む大龍神であるが、その行く手には
“ボムホエール”の大軍団が待ち構えていた。“ボムホエール”とはホエールキングを
80メートルクラスにまでダウンサイジングし、輸送力と引き換えに爆撃力を高めた
超大型爆撃ゾイドとして作られた鯨型ゾイドである。それが周辺空域を多数飛びまわり
地上の敵にはナパーム弾の雨を、空の敵にはミサイルの雨を浴びせていた。大龍神は
急いでいたとは言え、ボムホエールの爆撃の激しい所の突っ込んできていた為に
集中砲撃を受けてしまった。

182 :サクセサー 27:2007/03/25(日) 12:53:11 ID:???
 俺達は廊下を抜け、建物の玄関に出てきた。既にあちこちから銃声と爆発音が聞こえて
いるが、山間地特有の朝霧がおりて十メートルほど先からは見通しがきかない。戦況はさ
っぱり分からない。
「いい天気だなぁ。死ぬにはいい日和だ」
グラハムは上機嫌だった。空が曇っていればこんなに濃い霧にはならない。
「いい忘れていたが、メッチェ家の男は寝室では死なないという奇妙な誇りがあってな、
俺の親父も2101年にヴァルハラで戦死した。俺が先祖代々の伝統を壊すんじゃないか
と心配していたが、どうやら杞憂に終わったな。それだけがあの小孺に感謝することだ」
お互い、目を合わせる。
「思えば、俺もササキの親爺も家族には縁がなかった。一晩だけだが、弟ができたみたい
で嬉しかったよ」
男同士で余計な言葉は無粋というものだ。もはや引きとめもすまい。ただ一言。
「ご武運を」
言い終えるやいなや、白いカーテンを破って無粋な侵入者が現れた。モルガが二機。帝国
軍の先鋒といえばこいつらに決まっている。顎部のレーザーカッターをがちがちと鳴らし、
胴体両脇の多足がうねうねと動く様は、いかにも昆虫で、見ていてあまり気持ちのいいも
のではない。
 グラハムはMetal−Zi製の刀の鞘を払うと右肩に担いだ姿勢で、
「瑞巌流、グラハム=メッチェ、参る!」

183 :サクセサー 28:2007/03/25(日) 12:57:16 ID:???
 モルガに向かって疾走を始める。モルガも自分達に向かってくる男に気がついてマシン
ガンを乱射するが、当たらない。またたく間に距離を詰めるとグラハムはモルガの側面に
回りこみ、硬い頭部と腹部の隙間に刀を降り降ろした。「むん!」胴体と頭は切断されはし
ないものの半分近くが斬られる。その延長にあるコクピットにも刃が届いたようで、モル
ガはわずかに痙攣すると、動きを止める。続いて隣のモルガは胴体部を上下に斬られる。
今度は両断され、それと共に腹部に収納されているミサイルが爆発する。その爆発力でモ
ルガの上半身はバランスを崩し、ごろごろと転がる。この時すでにグラハムは爆発の死角
に移動しているためダメージは全くない。仰向けになって必死に起き上がろうとするモル
ガに歩みより、刀を頭の脇に構えなおし、まっすぐ突き出す。上側に比べて比較的柔らか
い下側装甲をやすやすと貫いた刃は、正確にゾイドコアのある部分に付き刺さり、その機
能を停止させる。最初の口上からここまで、十数秒。
 グラハムの疾走はまだ終わらない。雄叫びをあげながら中庭の方に疾走を続ける。その
背中は霧の中に溶けていき、瞬く間に見えなくなってしまった。
 グラハムは最後に「瑞巌流」と名乗った。指揮官ではなく軍人でもなく、一介の戦士と
して死ぬ道を選んだのだ。俺の心の中には清清しいような、嬉しいような、寂しいような、
複雑なもので満たされていた。ふと気がつくと、服の襟が濡れていた。襟を濡らした原因
は頬を濡らし、その上の目からあふれていた。泣いている?この俺が?そんな感情はとっ
くに失くしたはずだ。必要とあれば人殺しも辞さない人生を送ってきた。これは埃が目に
入ったために起きた生理現象に違いない。だが俺のそんな褪めた理性とはうらはらに、涙
は次から次へとあふれ出していた。


184 :地獄の火山島戦役 8 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/28(水) 23:19:55 ID:???
「うわぁ! 何あれ!? 大龍神より大きいのよ!」
「ティアちゃんしっかり掴まってて! 手荒に行くから!」
前述の通り、本陣の救援に向かわねばならないドールチームにボムホエール隊の相手を
している余裕は無い。この状況でミスリルの取った手は一つ・・・
「行きますよ! 久し振りの・・・必殺ブルーライトドラゴン!!」
“ブルーライトドラゴン”。両翼と背に合計4つ装備された強化型ビームスマッシャー
“ドラゴンスマッシャー”を超高速回転させ、そこから発生するエネルギーを全身に
纏って放つ必殺技。その時の大龍神が青い光を纏っている事からブルーライトドラゴンと
言う名が付いた。そのままの体当たりでも十分強い大龍神が全身に高エネルギーを
纏って突っ込む事はすなわち、さらなる威力の向上になる上に己の保護も可能。
ミスリルと大龍神はこの技で幾多の敵を倒してきた。なお、必殺技と言う扱いになって
いるのは、厳密には武器として装備されている物ではなく、あくまでミスリルが考案した
“技”として分類されているからである。
「死にたくなかったら退いて退いて退いてぇ!」
「うわぁ! 何か怖いのが来る!」
青く輝く龍は雨のごとき弾幕を弾き、行く手を阻むボムホエール軍団さえ次々に
突き破って行った。目的地はただ一つ。敵の奇襲でピンチに陥っている味方本陣である。

島の一角に建設された友軍本陣とも言える基地に一機のホバーカーゴが特攻を掛けていた。
ホバーカーゴは被弾しているようであり、後部から煙を噴出していた。もう後が無い故に
最後の勝負に出たのだろう。ここで本陣が潰れれば戦局が変わる。友軍が次々にホバー
カーゴに砲撃を加えるが止まらない。そしてホバーカーゴのブリッジには傷だらけの
艦長が一人残って舵を取っていた。
「皆無事に退艦したな? よし・・・。」
ホバーカーゴは敵弾の直撃に揺らぐが艦長は揺るぎもせずに舵を握る。ふと艦長の手には
小さな女の子が写された一枚の写真が握られていた。
「娘よ・・・パパはもうダメかもしれん。すまんな・・・。だが、これが成功すればお前を
これ以上戦災に巻き込まずに済むんだ・・・許してくれ・・・。うぉぉぉぉぉ!!」

185 :地獄の火山島戦役 9 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/28(水) 23:21:20 ID:???
艦長は舵を力一杯握り締め、ホバーカーゴの速度を上げた。目指すは本陣。本陣に
突っ込めるだけ突っ込み、その後でホバーカーゴを自爆させるつもりだったが・・・
突然ホバーカーゴが急停止し、衝撃で艦長は前に放り出されてしまった。
「な・・・何だ!? 何故行き成り止まる!? エンジンに直撃を受けたのなら
爆発するはずだし・・・。ってはっ!」
艦長がブリッジから正面を見下ろすと、そこにはホバーカーゴの突撃を真っ向から
受け止める大龍神の姿があった。
「ホバーカーゴの全力をたった一機で止めるだとぉ!? 何なんだあいつはぁ!?」
艦長が驚愕するが、それまでだった。大龍神の背に乗っていたゴーストンがホバーカーゴ
ブリッジと同じ高さまで跳び上がり、ブリッジに右肩のビームランチャーを向けていた。
「おじちゃんごめんね・・・。」
艦長ごとブリッジは一撃の下に撃ち抜かれ、ホバーカーゴも完全に大龍神に押し
飛ばされた所をプラズマ砲の一撃で吹き飛ばされた。
「ふぅ・・・いや〜危なかったですね〜・・・。」
『アホ! 何が危なかっただ! 後100メートルだったんだぞ!?』
「助かったんだから良いじゃないですか?」
本陣で踏ん反り返っていた上層部の言う通り、ホバーカーゴは本陣まで100メートルと
言う所まで迫っており、来るのが遅いとミスリルを怒鳴り散らしていたが、ミスリルには
何処吹く風と言った様子だった。

とりあえず本陣の危機は去ったが、戦いはまだまだ続く。そしてこの戦いにおける敵は
敵軍のみにあらず。火山島であるボルケーノアイランドそのものの厳しい自然環境も
手ごわい敵だった。戦いの真っ最中に火山の噴火が起こり、大量の火山弾や溶岩の波が
両軍に襲い掛かり、数多くのゾイドが火山弾の直撃を受け、溶岩に飲み込まれた。
しかし、それでも皆戦いをやめないのである。

186 :地獄の火山島戦役 10 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/28(水) 23:22:55 ID:???
「あ〜怖い怖い。こういう状況になってまで戦い続ける人達の気が知れません。」
「キャッ! せめて噴火が収まるまで休戦しても良いのに・・・。」
ゴーストンを背に乗せ、大龍神は火山弾の雨の中を多数の友軍機と共に駆けていたが、
この状況になってまで戦い続ける人の業と言う物が本当に理解出来なかった。
「出来ない事を無理にやろうとしても自滅するだけなのに・・・。こういうのは出来る人だけ
でやって欲しいですよ・・・。例えばあんな人達とか・・・。」
ミスリルが眉を細めながら遠くに目を向けると、この地獄にあって水を得た魚の様に
活き活きと戦う者達の姿があった。超人クラスの者達にとってはこの地獄も全く意を
成さず、あのイグアンとゴドスも黄金のオーラを発しながら未だに空中で壮絶な格闘戦を
繰り広げていたし、他所でも他の様々な超人クラス傭兵が大暴れしているようだった。
ここまで来るともはやギャグの領域にまで達している。
「本当住んでる世界が違うとしか言い様の無い彼等くらい強ければ別に問題は無いの
ですけど・・・やっぱり弱者が無理して戦うのはどうも見てて辛い物がありますよね・・・。」
「そんな事より早く退いた方が良いと思うのよ。あれミスリルでも勝てないんでしょ?」
「超人クラスには超人クラス同士の因縁があって私達含めて他にはあまり眼中に無いと
言うのがせめてもの救いですね・・・。」
超人クラスの戦いに巻き込まれないように大龍神が後退しようとしたその時だった。
正面から巨大な何かが両軍のゾイドを弾き飛ばしながら突っ込んで来ていたのである。
一応モルガの様ではあったが、普通のモルガではない。頭部のサイズだけでもホバー
カーゴ程のサイズがある超巨大モルガだった。
「うわぁ何あれ!?」
「あんな大きなモルガ一体何処の誰が作ったの!?」
二人が超巨大モルガに驚いた時、間髪射れずに突如として超巨大モルガが何かに貫かれ
弾け飛んだ。
「え?」
一瞬何が起こったのか分からずあっけに取られる二人であったが、ミスリルが超高速で
周囲を飛び回り激突する二つの気配を感じ取った。

187 :地獄の火山島戦役 11 ◆h/gi4ACT2A :2007/03/28(水) 23:30:53 ID:???
「何かいる!? さっきの巨大モルガを破壊したのはソイツの仕業ですよ!」
「え? それらしいのは何も見えないのよ!?」
周囲を飛び回り戦う二つの気配を感じ取ってはいたが、それが何なのかはミスリルにも
皆目検討が突かなかった。ミスリルの目をしても見えないのである。空を切る音と
金属同士がぶつかり合う音が不気味に響き渡り、大龍神は恐る恐る後退していた。
「とにかくこんな事が出来るのは超人クラスだけです・・・。ってあっ!」
突如大龍神の正面300メートルの距離にブレードライガーとジェノブレイカーが
姿を現した。そしてミスリルの感じた気配はこの二機から発せられていた。
「うわぁ! 相当殺気立ってますよ! 逃げないとこちらも巻き込まれますよ!」
「ああ待って!」
大龍神はなりふり構わず逃げ出し、ゴーストンも振り落とされまいと必死に背に
しがみ付いていたがもう遅かった。超人クラスによって操縦されるブレードライガーと
ジェノブレイカーの人知を超えた超高速戦闘からくる強烈な風圧によって瞬く間に
巨大な竜巻が発生し、周囲の数多くのゾイドと共に大龍神とゴーストンもそれに
巻き込まれてしまった。
「キャァァァァ! もう無茶苦茶ぁぁぁ!」
「一体何なのよぉぉぉぉ!」
もうギャグとしか言い様の無い程無茶苦茶な光景がその場に展開されていた時、
ミスリルの目には一瞬他の竜巻に巻き込まれたゾイドの中にメタリックグリーンカラーの
ゴジュラスギガの姿が見えた様な気がしたが、それを気に出来る程の余裕はなかった。

188 :サクセサー 29:2007/03/29(木) 22:38:25 ID:???
 払暁、ブラックライモスにより正門の扉が破壊されると、コルネリウス軍のゾイドは我
先に城内に突入した。
 ところが、ここで予想外の状態に陥る。城内の見取り図も持たず、霧のため視界が悪い
ため、各ゾイドはどこを攻めたらいいのか、どこに行ったらいいのか、さっぱり分からな
いのだ。仕方なく小隊単位で敵を求めて城内を探し回ることになる。
 ところで、ゾイドの最大の武器はなんだろう。強力な火器?ぶ厚い装甲?実は機動力こ
そが最大の武器である。鈍重といわれるカノントータスですら最高時速は百キロだ。普通
に狙いをつけて攻撃しようとも、そう簡単に攻撃が当たらるものではない。ところが、行
くべき方向も分からず周囲の状況も分からないのでは、走るわけにもいかず、ときどき止
まって周囲を確認したりする。全く、いいカモである。城方は各処の建物の影に潜み、立
ち止まったところを、膝などの関節に携帯式のロケットランチャーで攻撃した。関節を破
壊されて身動きできなくなったところで、コクピットを狙撃されて完全に動かなくなるゾ
イド達。
 歩兵が主体となって各建物を制圧し、ゾイドがそのサポートをするようなフォーメーシ
ョンのであれば、こんな被害を受けることはなかった。小コルネリウスの鶴の一声で、ゾ
イドだけが先行して城内に入っていた。士官達も全員若い。彼より年上はごく僅かで、年
配かつ戦場経験者は一人もいない。小コルネリアスが年配の部下を全員、解雇してしまっ
たためだ。異を唱えるような知識や度量のある者は一人もいなかった。

189 :サクセサー 30:2007/03/29(木) 22:41:41 ID:???
 霧がやや晴れてくると、今度は闖入者は新たな脅威にさらされることになる。斜め上か
らのビーム攻撃により、近距離から狙撃されるのだ。だがいくら目をこらして見ても、城
の壁しかない。その何もないはずの壁に攻撃されるのだ。
 実はこれは、メガレオンの仕業である。大戦時に共和国軍から鹵獲したものを、ゼン公
は秘匿し、いざという時のためにとっておいたのだ。緒戦でコルネリウス軍のレドラー部
隊が簡単に撃墜されたのも、このメガレオンの存在を把握してなかったためだ。野外戦闘
には向かないため城内に残され、結果として城方の最後のゾイドとなっていた。
 だがやがて、この活躍も終焉を迎える。またもや活躍したのは臨時雇いの傭兵部隊であ
る。彼らは正規兵なんぞよりずる賢く、したたかだった。数機でごそごそと密談したかと
思うと、じゃんけんを始める。勝ったやつから順番に列を組んで行進を始めた。なぜ負け
た奴が最後尾なのかと言えば「送り狼は背後から襲う」という鉄則に従ったのだ。だから
前を見ているふりをして後方にばかり注意をしていた。はたして・・・そうして一列縦隊
で城内をうろついているうちに、最後尾の運の悪いゾイドが被弾した。
「それっ!あそこだ!」他のゾイド乗りはビームの発射位置を特定すると、その辺に照準
もつけずにビームやライフルを撃ちまくった。すると、蜂の巣になったメガレオンが正体
をあらわすと、壁から剥がれて落ちる。仲間を犠牲にした見事な戦法である。勿論、囮役
になった者も損ではない。成果報酬は仲間内のなかで多めに配分される約束だ。死んでな
ければ、だが。
 こうして、最後の城方のゾイドも次々に破壊されたわけだが、これで城方の士気が落ち
るかと思いきや、ますます闘志盛んになっていた。とはいえ、数の差はあまりに大きく、
数々のトラップも攻撃側に被害を与えてはいたが、城方は即席の防御陣地を次々に放棄し
ながら後退を余儀なくされていった。


190 :サクセサー 31:2007/04/01(日) 18:11:46 ID:???
 それからの俺はどこをどう歩いたのか、気がついた時には城門の近くにいた。白い箱を
右手に提げているところを見ると、一度グラハムの部屋に戻ったらしい。
 早朝にあれほど濃かった霧はすっかり消えて、天には青空が広がっている。視界の悪さ
は城方に味方していたはずだが、その利も消えたことになる。既に城内から聞こえる銃声
は少なくなっており、抵抗は時間の問題と思われた。
「止まれ、そこにいる奴」
 背後からの声はどうやら自分を呼び止めたいのだと気づき、後ろを振り向く。イグアン
に乗った男がこちらをにらんでいた。イグアンは両腕を失っている。コクピットにいるの
は見覚えのある顔だった。小隊長格の一人だ。
「俺に何か用か」
「おお、これはアレス殿、いや失礼した。どちらへ行かれるのですか。そちらに行っては
城の外に出てしまいますぞ」
 俺は右手に持った白い包みを掲げて見せて、
「閣下に戦利品を見てもらおうと思ってね」
「何ですかな、それは」
「ゼン=サーナの息子、敵の総大将の首さ」
「げぇっ!!」
リアルに生首を想像したようで嫌悪感をあわらにするが、すぐに気をとりなおして、
「おお、それはめでたい。コルネリウス閣下もさぞかしお喜びになるでしょう。それでは
案内しますので、私のイグアンにお乗り下さい」
 こいつの考えていることは容易に読めた。俺について行ってコルネリアス公のところに
行けば、二人で協力して首をとったように見えるじゃないか。おこぼれちょうだいしたい
わけだ。この男の愛想笑いを見ているうちに、なんだが空しくなってきた。こんな連中に、
あの人のいい男達は殺されたのか!

191 :サクセサー 32:2007/04/01(日) 18:14:11 ID:???
 どうやら俗世に帰ってきたようだ。このくそったれな人間世界に。だがまあ、いつもの
ことだ、しょうがない。
「ユーリ、来い!」
 ポケットから通信機を出して、ユーリを呼ぶ。近くで待機していたのだろう、十秒と待
たず、俺の目の前にコマンドウルフが現れる。
「アーくん、遅いよ。私がどれだけ苦労したと思ってるのよ」
「文句なら後だ。とっとと行くぞ」
「え?戦闘はまだ終わってないよ」
「終わったんだ。少なくとも、俺にとってはな」
 さっさと乗り込む俺に、イグアンの男はなにやら言おうとするので
「面倒だ、くれてやる」
 手に持っていた白い包みをイグアンのコクピットに放り込む。城門をくぐって外に出る
と、そのまま本隊のわきを通り過ぎて西へ向かった。

 城方は頑強に抵抗して各所で銃撃戦を展開したが、その日の昼すぎには戦闘は終了した。
城方に降伏した者は一人もおらず、全て射殺されるという壮絶な戦いぶりに、攻撃した側
の兵士達も賛辞を惜しまなかったという。


192 :Full metal president183 ◆5QD88rLPDw :2007/04/01(日) 23:41:15 ID:???
「ほっホワッツ!?君は〇イケ〇なのかいっ!?」
よもやどこのマ〇ケ〇だか解らないような質問をホムンクルスに返す大統領。
「つめ!つめ!つめ!つめがあぶないよっ!」
話が全く噛み合わないのだがどうやら”爪”と言うものが危ないらしい…。
「こちらプレジデント2。爪が危ない模様。以上。」
多分彼方になら思い当たる節が有りそうだと言うことでそのまま爪のことを話す。

「つめ?…爪…爪…爪…って!?アーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
目の前にそれが在ったことに気付いた魔術師の方はというと…
一瞬の隙を突かれ大統領そっくりの男に…
「秘伝!3001年と4ヶ月殺し!」
直撃を喰らって床にへばりヒクヒクしている。
どんなに言葉を言い繕って何をされたかは歴然としている…
…”かんちょう”を喰らった。と言う事である。
そして…”かんちょう”をした方はと言うと?
「ゲフッゲフッゲボン!何を食べたら目に痛い屁が出るんだっ!?」
こっちも目を押さえて床をのた打ち回っていた。
ダブルノックアウトの状態になっていたという。

しかし…その屁は威力がきちがいじみていたらしい。
周囲に居るホムンクルスさえバタバタ倒れていく様相は…
BC兵器を祭りの人込みに撃ち込んだ様に見えているので慌ててキャノピーを閉める。
「大蒜だろうか?確か魔除けの効果が在るとは言うが…?
それは吸血鬼やらのアンデッドだけじゃないのか?」
自らの持つ知識をフル回転させてマクレガーは考えるのだが当然答えは出ない。
しかし折角の好機と言うことでしがみついているホムンクルスの言葉に答え?
その”爪”を回収しようとパープルオーガを移動させる。
「本当にこれが”爪”なのだろうか?オーバーサイズ甚だしい気もするな。」
ゴジュラスギガの背丈の4分の3も在る三股4本の爪。
「これを普通にサイズ比で考えれば…100m強。
ナマケモノのような爪が極端に長い物でも50メートル強。相当の代物だ。」
現実離れした質感に包まれた怪しい照り返しはそれの異常性を際立たせる。

193 :Full metal president184 ◆5QD88rLPDw :2007/04/02(月) 00:41:59 ID:???
「し、しまった!?奇襲を恐れて先にこっちを相手にした方が不味かったか!」
マクレガーにそっくりの男は突然後方に大ジャンプする。
本来はそんな角度でジャンプすれば機材に突き刺さりスプラッタな状況だが、
現実はスプラッタよりも微妙で気味の悪い状況を見せる。
機材を擦り抜け隔壁の奥に消えていくその男の姿は後に続く面倒の始まりでもある。
「消えた…壁抜けの術。だが魔術および術式感知センサーに異状は無い。
発動を隠す必要のないものに術式ステルスは使用しない筈。ならば?」

「うえ!うえ!うえ!あぶない!」
またホムンクルスが騒ぎ出すのに合わせて素早くその場から逃げ出すパープルオーガ。
その数秒も立たない内に光線が元居た場所を貫く。
「外した!?野生の感では気付かれないようにワイルドステルスを装備したビーム砲が?
成らば!格闘戦で!」
バハムートの隔壁を破って両腕を失ったスタッグドレイクが侵入する。
巨大なクワガタの大顎を閃かせ思い切り挟みきろうとするのだが…
軽い衝突音に響き渡る不協和音無しの金属同士がぶつかり遇う音。
パープルオーガは素早く”爪”を両手に持ち腕をクロスさせる様に振るっていた。
「まっ間に合った!」
ゼクトールとマクレガーはこの時初めてこの”爪”の姿を確認する事になるのだが…
それは大きさはともかく制作に関わった者がどういった者であるか明らかだった。
「「これは…エクスブレイカーの刃!厚みと長さ先端の鋸刃はともかくこの形!」」

そんなやり取りを行っている間に3001年と4ヶ月殺しの痛みから立ち直った方は、
何やら見つけた魔方陣を消しに掛かっている。
「幾らガーディアンとして作ったからと言って心中はあんまりでありましょうに…
これだから聞き齧り程度で術式やら魔術を使う輩は怖いんです。
過去にだって幾らでも困った事は在りましたし。特に…
呪殺系列の術のトラップは問題が多過ぎますね〜これにも仕掛けて在りますし。
えいや!これで良しと…。解呪!」
魔方陣の消滅と共に艦内からホムンクルスの姿が霧の様にかき消えていく。
本来居るべき場所に帰るのだ。今回のホムンクルスの生成方法はコストが安上がり。
意志を持たせるにもそこらに漂う自我の欠片を詰めるだけのお手軽な方法である。

194 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:29:11 ID:???
☆☆ 魔装竜外伝第十一話「魔女の小指で、たぐる糸」 ☆☆

【前回まで】

 不可解な理由でゾイドウォリアーへの道を閉ざされた少年、ギルガメス(ギル)。再起
の旅の途中、伝説の魔装竜ジェノブレイカーと一太刀交えたことが切っ掛けで、額に得体
の知れぬ「刻印」が浮かぶようになった。謎の美女エステルを加え、二人と一匹で旅を再
開する。
 新人王戦を制したギルは、フェイに乞われ獣勇士筆頭レガックと面会した。レガックは
ファーム・ワイバーンへスカウトするがギルは断わった。一転、彼らを拉致に掛かるレガ
ック。ブレイカーにはガイロス公国の失われたゾイド技術が秘められているからだ…!

 夢破れた少年がいた。
 愛を亡くした魔女がいた。
 友に飢えた竜がいた。
 大事なものを取り戻すため、結集した彼らの名はチーム・ギルガメス!

【第一章】

 満天の星空はゾイド達のお気に入り。光輝の波に巨体を浴す。
 さて百鬼の宴は今や最高潮。雑草の緑が彩りを添える荒野の下に、対峙するはゾイド五
匹。いずれも民家や倉・社にもまさる体格ながら、風貌は地球の獣・小動物によく似た不
思議な者達だ。まずは東の帳で身構える狼二匹。純白の鎧に身を固め、物干竿のような銃
器二門を背負ったその名も王狼ケーニッヒウルフ。その右手に続くひと回り小さな浅葱色
の狼は重騎狼グラビティウルフだ。いずれも水の軍団・暗殺ゾイド部隊が誇る精鋭である。
 一方西の帳には、個性的な面々が仁王立ち。背中より羽根のような鎌が生えた小豆色の
二足竜は、喪門小竜レブラプター。解剖図のように半透明な頭部を持つ黒蜥蜴は骸頭石竜
(がいとうせきりゅう)ヘルディガンナー。そして赤銅色した皮膚の上に鋼鉄色の鎧を纏
った巨大な猿(ましら)が鉄猩(てっしょう)アイアンコング。ガイロス公国(旧帝国)
特殊部隊シュバルツセイバーの精鋭・獣勇士の駆るゾイド達だ。

195 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:31:16 ID:???
 そして肝心の本編主役ゾイドは、この鋼の猿(ましら)の左肩に抱え上げられていた。
二枚の翼、六本の鶏冠を背負いし深紅の竜。魔装竜ジェノブレイカー…主人は単に「ブレ
イカー」と呼ぶこの勇敢なゾイドは、ぐったりしたまま回復の兆しを見せない。鋼の猿
(ましら)が放った大技「コングブリーカー」は不意打ち気味ではあったが、それでも深
紅の竜を完璧に捉えた。かくして意識を失い、獣勇士の虜囚と成り果てた主従。ままなら
ぬ時間の経過に、かき乱される彼らの命運。
 五匹の間に漂う静寂。だが彼らの頭部・コクピット内に鎮座する主人達は、押し黙った
まま共通の音声を耳にしていた。…狭い室内に響く、落ち着いた男性の声。斯様な辺境の
地であるにも関わらずノイズは思いのほか少ない。
「共和国軍広報部は先程、今日までにヴォルケン・シュバルツ氏を連続テロ事件の首謀者
として逮捕し尋問中であると発表しました。シュバルツ氏はガイロス公国からの国費留学
生であり、一連のテロ事件を始め様々な学生運動との繋がりも噂されております。
 一部学生や市民の間では抗議の声が広がっており、暴動の発生が懸念されます」
 背広を着て居住まいを正した男性アナウンサーが、淡々と職務をこなす。平和な世界よ
りの公共電波を横目で睨むはテンガロンハットを被った中年男性。ゾイド操縦をする上で
邪魔な情報は正面一杯に広がるモニターの片隅でパスポート程度の大きさに縮小され、映
し出されていた。神妙な面持ちで顎鬚・鼻鬚を撫でる彼こそ人呼んで銃神ブロンコ。
「大捕物だな。暗殺ゾイド部隊の一員としては不本意この上ないが、それでも水の総大将
様には感謝せねばなるまい」
 ガイロス公国の名門シュバルツ家が三男ヴォルケンの逮捕は、元々共和国政府が各地で
引き起こされるテロを牽制するために必要なカードの一枚に過ぎなかった。それが今日、
発動されたのは目前に立つ個性的な面々…獣勇士が目先のテロなど問題にしない遠大な計
画の下、動いてきたからである。

196 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:32:55 ID:???
「水の総大将様のお力をもってしても倒せなかったチーム・ギルガメスは、遂にゾイドバ
トルの新人王戦を制するまでに成長した。箔がついたこの辺りで彼らを手中に収め、慢性
的に不足したゾイド技術を獲得するのが貴様らの狙いなら、我ら水の軍団は次代の技術者
であり指導者とも目されるヴォルケン・シュバルツ氏を人質に取る。
 さあ、どうする獣勇士。技術を選ぶか、それとも頭脳を選ぶか?」
 真暗闇のコクピット内に響き渡る銃神の低い声。不敵な笑みを浮かべた彼の鬚面を映し
出す端末は見受けられない。それもその筈、映像はこの暗い室内に着席するパイロットの
義眼に直接映し出されているからだ。優男は肌に密着した黒の上下を纏い、憮然たる表情
を浮かべている。獣勇士筆頭レガック・ミステルは苛立ちを隠さないが、さりとて感情に
押し流される風でもない。酷い状況に陥ってはいるが、それすらも予想通りと言いたげだ。
「どうするんだ、レガック兄ぃ?」
 優男の左眼に別の映像が飛び込んできた。伸び放題の長髪を振り乱す悪鬼のような風体
の若者。右の瞼から頬に掛けて刻まれた刀傷が年不相応な戦績を物語る。ヘルディガンナ
ーの透き通るコクピット内から睨みを利かす、獣勇士が一人グラントゥ・トーイ。一見落
ち着いているようだがトリガーのボタンに親指を近付けては離すその仕種に逸る気持ちが
垣間見える。
 表向きは無表情を装った美少年の姿も飛び込んできた。皮のジャンバーは背もたれに引
っ掛け、ブラウスは袖まくりして既に臨戦体勢を整えている。獣勇士が一人フェイ・ルッ
サは赤茶けた髪を右手でかき上げ、額を抑えた。…いや、その長い腕で表情を隠そうとし
ているかのようだ。何しろ彼の目元は腫れ上がり方が酷い。友人に対する裏切りを追及す
れば忽ち感極まってしまいそうだ。

197 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:35:50 ID:???
 不意に、優男の瞬き。すると今度は、左眼に夜空が浮かび上がった。…レガックの相棒
レブラプターはその丸っこい頭部全体が感覚器官になっており、超越した運動神経を支え
ている。そして真っ暗やみのコクピット外周は、本来このゾイドが認識した情報を直に伝
える全方位スクリーンだったのだ。しかし魔装竜ジェノブレイカーに見られるシンクロ技
術はガイロス帝国(当時)が「最後の大戦」に破れた際ヘリック共和国に没収されてしま
ったため、ゾイドが認識した情報にパイロットが対応し切れないという不具合が生じてし
まった(※我らが主人公は刻印の力によって相棒の神速に対応している)。そこでこのゾ
イドの場合、認識した世界を一々パイロットの義眼で認識できる情報に変換するという強
引な手法で少しでも本来の性能に近付ける工夫が施されている。
 左眼に広がるのは星の海を進む黒いシミ。よく眼を凝らせばあれもゾイドだとわかる。
装甲が幾重にも連なり蛇腹状になった胴体。頭部には長い二本の牙と、ヒマワリ状の格納
口が真下についている。人呼んで「具足王虫」アノマロカリス。ガイロス公国が暗黒大陸
の険しい山脈を回避するため伝統的に育て上げた輸送用の飛行ゾイドである。
 アノマロカリスは徐々に高度を下げている。進行方向にはこの飛行ゾイドに駆け寄らん
とぎこちない疾走を続ける石竜(※とかげのこと)の姿が見えた。黒帆を背負った紫色の
体皮。人呼んで幻扇石竜ディメトロドン。深紅の竜とその主人を幻惑してみせた恐るべき
ゾイドも肉弾戦では足手纏い。早々の退却だが、しかし転んでも只では起きないのがゾイ
ド乗りだ。
 義眼の左眼一杯に、突如天女が映し出された。破天荒に結い上げた黒髪。少々ふっくら
とした顔立ちに、施された化粧は何とも艶やか。白地に金銀の模様を施した豪勢な着物を
纏い、首元には己が正体を隠すべく拘束具の形状に宝石をちりばめた首飾りをつけている。
しかし開口一番、発せられた声は余りにも低く太い。
「レガック、気をつけて。上空で飛んでる奴ら、水の軍団の援軍を潰しているわ」

198 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:38:15 ID:???
 彼女の声に応じるよりも先に右眼を瞬き。…網膜にくっきりと映し出されたのは猛禽が
一匹、翼竜が二匹。いずれも灰色の鎧を纏っている。猛禽は深紅の竜に匹敵する翼面積の
持ち主。翼竜達は左程ではないが、網目状の翼に細長い骨のような体格が不気味だ。
「そうなのか。…データベースに同型のゾイドは存在するか?」
 天女は首を横に振った。
 優男は訝しんだ。水の軍団の援軍を葬った以上、彼らの敵であることは間違いあるまい。
だが獣勇士の味方である保証も全く無いのだ(自軍のゾイドを記録するのは同士討ちを避
ける上では当然のこと)。
 一方、首を捻るのは銃神も同様。依然、到着しない援軍。それよりも早くに星空を駆け
回る空戦ゾイド三匹に葬り去られたのではないかという疑念も既に浮かんでいる。しかし
このゾイドが獣勇士の援軍とは言えないことは、数と地形の利を頼みに畳み掛けようとは
してこないことから見て間違いあるまい。彼らは一体、何者なのか。
 両軍の心中に掛かったもやを、最初に晴らそうとしたのは義眼の優男だ。
「…予定通りだ」
 ぽつり、呟いたたった一言。それが他の獣勇士に急な緊張を強いる。
「あ、兄ぃ、そいつはちょっと待ってくれ!」
 悪鬼が表情を強張らせれば、
「レガック、選択肢はまだ他にもあるわ!」
 天女も色めき、説得に掛かる。…只独り、美少年は刮目はするもののじっと三人のやり
取りを耳にしている。
「例えばチーム・ギルガメスを水の軍団に引き渡したとして、その事実はいつ連中のトッ
プに伝わり、いつヴォルケン様は解放されるのか。一日や二日では不可能なこと位、わか
り切ったことではないか。
 それにこういう展開になる可能性は、作戦立案の段階で皆にもよく説明した筈だ」
 二人は返す言葉もない。そして、残る美少年はそもそも言い返すことなど端から念頭に
ないのか、無言でレバーに手を掛けた。

199 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:39:26 ID:???
 主人のレバー捌きに応え、摺り足で左足を踏み出す鋼の猿(ましら)。顎を引き締め、
宿敵に厳しい視線の狙撃。目覚めぬ深紅の竜は左肩に抱え上げたまま、残る右腕で背負い
し二本の棒を引き抜いた。鎖で端と端とを繋いだ棒はその形状から「大根ヌンチャク」と
主人に呼ばれている。戯けた命名だが破壊力は前回を御覧になった方ならおわかりだろう。
猿(ましら)の剛腕にも耐えるこの棒は、本来取り付けられていた猿(ましら)背部の動
力部に取り付けることで必殺技「コング・ブリーカー」を生み出す源となる。
 小豆色した二足竜と黒蜥蜴もこれに追随、地面を削るように始めた摺り足。一歩、又一
歩と距離を縮める度に砂塵が巻上がる。
 宿敵が返した無言の返事に対し、銃神は不敵に、且つ自然に笑みを零した。数の上では
明らかに劣勢だが、歴戦の勇者は脳裏に敗北の二文字など全く浮かばぬ様子。躊躇うこと
なく自身も両腕に抱えたレバーを徐々に引き絞る。
 狼二匹が、猿(ましら)達が一歩、又一歩。狭まる間合い、弾ける視殺戦の火花。乱れ
た砂利の音が、激闘の火薬庫に引火した合図。
 急き立てられるように、まず最初の一歩を踏み込んだ白き狼。半呼吸程遅れて四匹、追
随。星の輝きに彩られた鋼鉄の鎧は瞬く間に地上の稲妻と化し、純白のそれが荒野に爪痕
残さんと跳躍した刹那、形勢は激変した。
 背後からの銃声。ここ一月余り何気なく耳にしていた友軍のそれが、まさか自らに向け
られて発せられるとは思わなかった。だが現実の横暴は、彼に認識を促すよりも速い。
 錐を揉むように横転していく白き狼。自らが弾丸と化す決意はあらぬ方向からねじ曲げ
られた。銃神は不意の事態に歯を食いしばりひたすらレバーを傾け姿勢を戻そうとするが、
悪意の暴風はそう簡単には落ち着きそうにない。
 急変に、獣勇士の三名も瞬き。交差する筈の宿敵が横殴りに倒れ込む姿を目の当たりに
し、一斉にレバーを引き絞る。アクシデントか、それとも絶対不利を覆す秘策なのか。見
極めるためのひと呼吸。
 判断は正解だった。頭上より放たれた爆音は銃撃の洗礼。後を負うように灰色の残像が
目前でU字の軌道を描いていく。土砂が、金属片が水柱のごとく飛び散り、星の輝きが乱
反射。残酷なまでに美しい散華の開花。

200 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:40:11 ID:???
 その後方で、部隊を演出した裏切りの戦士が独り冷ややかな眼差しを投げ掛けていた。
いつも通り、立てた襟に顔の下半分を隠したまま。相棒たる浅葱色の狼も追随し、四肢を
八の字に広げたまま様子を伺う。
 砂が、埃が舞う一帯を凝視する四匹。熱源は何処と様子を伺うが、奇妙な事態に気付く
までそう時間は掛からなかった。…でかい金属片が、見当たらない。あれ程の銃撃とは言
え、相手は相当な巨体だ。解けた氷のように無くなる筈がない。裏切りの戦士が、義眼の
男が首を捻ったその時。
 あらぬ方向からの銃声を耳にした時には遅かった。浅葱色の狼が、小豆色した二足竜が
次々に横転していく。黒蜥蜴は仰向けになり、最後に残った鋼の猿(ましら)は咄嗟に跳
躍を試みるが間に合わない。絡め取られた足。バランスを崩し、左肩に抱えた深紅の竜も
ろとも地面に引き戻され、転げ落ちた。それでも最大の戦利品を決して手放しなどしない
のは流石の執念。腹這いになった猿(ましら)は右腕を荒野に打ち付けて上半身を持ち上
げつつ、銃声の主を探る。
 白き狼は、惨劇の脇で毅然と立ち上がっていた。とは言っても、無傷でないのは明らか
だ。所々凹み、或いは剥がれ落ちた装甲。両肩に取り付けられていた筈のミサイルポッド
はハッチが外れている。よく見れば半分程使用したようだ。猿(ましら)の主人はそれが
いつ使われたのか理解し、舌を撒いた。
(鳳仙花の術かよ…)
 そう、白き狼は空中から銃撃された瞬間ミサイルを地面目掛けて発射したのだ。爆風を
カモフラージュとし、鳳仙花の種のごとく爆心から逃げ難を逃れた。…だが秘術の持ち主
は自らの技をひけらかす余裕など、ある筈もない。
「ジャゼン、どういうつもりだ!」
「くくっ、どうもこうもない…」
 足下ふらつかせながらも立ち上がる浅葱色の狼。何ら動じることなく笑みを浮かべる。
「強敵を内側から切り崩す。これも兵法!」
 言うが速いか、疾走を開始する浅葱色の狼。腹部に抱えた車輪二枚が引き出され、荒野
を滑走。四肢は前後に伸ばし、車輪の加速に全てを委ねた。
「貴様、まさか狼機小隊の同志を!? おのれ、何処の犬だ!」

201 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:41:35 ID:???
 跳躍する白き狼。浅葱色の狼は前輪を持ち上げ、後輪一枚のみで自身を支える。前肢で
の一撃を狙う白き狼だが、前輪を振りかざす裏切り者の突進体勢はさながら回転ノコギリ
を振りかざす殺人鬼。激突する前肢、前輪。火花散り、せめぎあう圧力の攻防は一進一退。
ひとしきり空気震わせた直後、ひとまず引き離れた両者。
「どうした獣勇士! うぬら、獲物を逃したいか!」
 大喝は襟の下からでも聞こえる程。奇怪なる男の声で我に帰った獣勇士達。二足竜が跳
躍、黒蜥蜴が狙撃を開始。竜を抱えた猿(ましら)は一目散に西の星空へと走っていく。
 壁となった三匹の隙間より、猿(ましら)の黒と赤銅色の肉体が遠ざかっていくのが垣
間見える。罵倒の声を上げる銃神。だが言葉になるよりも早く空からまたあの爆音が降り
注がれた。辺りはたちまち土砂と爆炎に包まれていく。
 それでも食い下がる白き狼。民家二軒程はある巨体でバネのごとく飛び跳ねつつ、頭部
後方に倒したスコープを前方に戻し劣悪を極める視界を切り開くが、それは最悪の結末を
目の当たりにする瞬間でもあった。
 炎と煙の彼方で、走り去っていく鋼の猿(ましら)。深紅の竜は左肩に抱えたまま。そ
の目前に、あの黒いシミだった物体が砂塵巻き上げつつ降下を開始しつつある。

 満天の星空の下で、孤独に荒野を飛び進むビークルの姿も見えた。骨董品と言っても良
い無骨な機体をよく見てみれば誰もがおかしなことに気付くだろう。傍目には、人が乗っ
ているようには見えない。
 別に幽霊が操縦しているわけでもないことは、この機体を星明かりが照らす上方から見
れば明らかだ。計器類の表示は極めて正確。スピードメーターはとっくの昔に最高速度を
弾き出したまま、断続的に数値のブレを描画中。コントロールパネルに埋め込まれた小さ
なモニターは緑色した地図と色の違う幾つかの光点を表示している。どうやら自動操縦だ。
恐らくこの機体は一際大きな赤い光点を目指しているに違いない。

202 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:43:36 ID:???
 そして肝心な機体の持ち主は、普段からすれば想像もつかない妙な姿で懸命にもがいて
いた。…いや、この表現では失礼だろう。彼女は着替えという重要な準備を行なっていた
のだ。それも、操縦席シート下でだ。但し彼女はなまじ背が高く、足が長いためにこの狭
い空間内で一層窮屈である。しかしそれもやむを得まい。相当な速度を出している以上、
潜り込んでやらないと折角の衣服が吹っ飛ばされるし、何より風が冷た過ぎる。
 トレードマークの紺の背広やワイシャツはとっくにビニールを開封し、引っ張り出して
いた。当たり前のようにシート下部のトランクに入れておいた予備をつかえることなく身
に纏う姿は、脱皮する蝶の映像を逆回しで見ているよう。着ていた灰色のジャージを代わ
りにトランクへ突っ込むと、早々にシートによじ登りシートベルトを締める。ネクタイと、
履き掛けのズボンはこの後でどうにかするつもりだ。
 ズボンのベルトを、そしてネクタイを凛々しく締めた時、蒼き瞳の持つ優れた視力とビ
ークルのコントロールパネルが、ほぼ同時に反応した。
 エステルは操縦桿を勢い良く傾ける。肩にも届かない黒い短髪をなびかせながら。

 革靴で焦土と化した辺り一帯に降り立つと、脆く崩れる音と共に深い足跡が刻まれた。
 蒼き瞳の魔女とまで恐れられた女性が、ひどく険しい表情を見せる。辺り一帯は焼け野
原。鉄や土の焦げた匂い、立ち篭める煙。そして何より所々当たりにくすぶる残骸。ほん
の十数分も前にここでは戦闘が繰り広げられていた。
 何歩か進む内、不意に走り出した魔女。腰を落とし、ポケットから厚手の手袋を引っ張
り出すと、足下に散らばる残骸をつまむ。…葉書程の欠片は金属片ともガラスや陶器とも
つかない。しかし鮮明な果実の赤色は、煤にまみれながらも依然自己主張を止めぬ。つま
んだ腕が震える。それを支えるようにもう片方の手を添え握り締めるが震えは既に全身を
駆け巡っていた。
 絶望的な感情を押さえ込もうと立ち上がり、星空を見上げる。だがこれほどまでに「で
きる」女は改めて、彼女ら師弟が今や打開など到底困難な状況に立たされていることを思
い知らされた。

203 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:45:03 ID:???
 西の夜空にうごめく黒いシミ。魔女はその視力故に、それがガイロス公国の輸送船アノ
マロカリスだということなどすぐに認識できた。追い討ちを掛けるように、彼女の背後で
ビークルのコントロールパネルが無機質なブザー音を鳴らす。モニターは魔装竜ジェノブ
レイカーの生体反応とアノマロカリスのそれとが同位置にあると示している。
 認識は最後の最後で良いと決めていた。どんな時でも諦めないのが信条だ。しかし現状
は、そんな気持ちなど通用しないところにまで追い込まれている。
 魔女の、顔面蒼白。元々白い肌から精気が抜け、蝋人形と化す。握り締める力さえ失い、
両手からすっぽりと零れ落ちた友達の欠片。
 只、いつもならばきりりとつぐむ口元が歪んだ。開こうにも唇が戦慄き、声にならない。
一歩、二歩と足下ふらつかせ、膝から崩れかけたその時。
 いつのまにか魔女の肌に、瞳に宿った精気。いや、それは憎悪の炎に等しい。顎を引き
締めた彼女の表情、何たる不敵。
「…狙撃するには絶好の、チャンスじゃない?」
 両腕でAZ(対ゾイド)マグナムを構える銃神。両者の間合い、十メートルか、二十メ
ートルか。この程度の距離ならこの男が鮮やかに狙撃を決めてしまうかも知れない。しか
し魔女の超能力も十分な有効射程だ。
「今、欲しいのは戦力だ」
「水の軍団も地に落ちたものね。
 標的を取り返すために、別の標的を脅して従えようというわけ?」
 魔女の蒼き瞳はあくまで冷ややか。
「それで惑星Ziの平和が守られるならばな。決着は、取り返した後でも問題あるまい」
 振り向いた魔女。眼光の斬り付けるような鋭さに、臆すること無く睨み返す銃神。但し
構えていたAZマグナムを左腰のホルスターに仕舞い込むのも同時。
 銃神の肩口から見える白き狼。傷付きながらも健気に立ち上がった王狼ケーニッヒウル
フ、人呼んでテムジン。由来となった遠き星の覇者の名に相応しい威風だ。

 肌寒さはギルガメスが目覚める切っ掛けを与えた。円らな瞳が開かれた時、鼻の下はむ
ず痒く、その上腐ったパンのような匂いが鼻孔を突いてくる。

204 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:46:15 ID:???
 不機嫌そうに目を擦り、瞼を開けた少年。やおら項垂れていた首をもたげてみる。…真
っ暗な室内。辺りが非常に狭いことは先刻承知、何しろ可愛い相棒のコクピット内だ。上
半身は己が相棒に搭乗する際、両肩から降ろされた拘束具でしっかり固定されたまま。ゾ
イド操縦の上では誠に安全だが、安眠には程遠い。徐々に目が慣れてきたところで鼻を突
く匂いの正体を確認した。
(そう言えば…吐いたんだっけ)
 少年と相棒のコンビが予期せぬ戦いを強いられた、その時のものだ(いやそもそも戦い
ですらなく、一方的に攻撃を受けたのが実際のところ)。…彼は肌寒さとは別の悪寒を覚
え、表情を強張らせた。この頼れる相棒のコクピットは稀に見る高い気密性を誇る上に、
快適な気温や換気の維持、外部音声の遮断、果ては内壁は付着した汚れを分解する等々、
パイロットにストレスを感じさせないシステムがふんだんに盛り込まれている。すると肌
寒い上に目前の吐瀉物が未だ分解されずに残っていることは、相棒が著しい体調不良(最
悪、生命の危機)に立たされているのかもしれない。見る間に表情を強張らせた少年。天
井を見上げ、呼び掛けてみる。
「…ブレイカー、大丈夫?」
 輝きを失ったままの全方位スクリーンが忽ち色彩を帯び始めた。ホッと胸を撫で下ろす
少年。だが期待していた映像が中々浮かび上がらない。…やがて代わりに表示されたのは、
簡略化した己が異形の五体だ。三面図で記された頼れる相棒の姿は短かめの首と長い尻尾
を地上に水平に伸ばす二足竜。背中には巨大な二枚の翼と六本の鶏冠が生えている。この
図面に竜の鎧を染める深紅が彩られれば、中々特徴をよく捉えた図面と褒められるところ
かも知れない。
 ふとよく見れば、三面図の至る所に太い矢印が記されている。相棒が置かれる状況をよ
うやく理解した少年は、憂い顔で唇を噛んだ。

205 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:47:42 ID:???
 外側から見た彼の相棒は、うずくまったままじっとしている。いや、動きたくとも動け
ないのだ。竜の首や四肢、翼や鶏冠、尻尾に至るまで、縦横無尽に張り巡らされた鎖。輪
の太さからして人の身長程もあるそれは輸送ゾイドが貨物を牽引する時に使うものだ。数
本あれば百トンを越えるゾイドも引っ張ることができる代物で、深紅の竜はがんじがらめ
にされている。その上、竜の背中に覆い被さる黒い物体を見れば並みのゾイド乗りなら観
念するに違いない。…蛸のように長い腕で竜の胴体に組み付き、押さえ込む鋼の猿(まし
ら)。自慢の翼も鶏冠も、アイアンコングの巨体にのしかかられては動かしようもない。
 その上この二匹からもう数メートルも離れて周囲を見渡せば、主従が置かれる状況が如
何に絶望的か理解できるというもの。…鋼鉄の壁、床、そして天井。深紅の竜が伏せてい
るのは、どこかの倉庫と思われる広い室内。その外周を、ぐるりと他のゾイド達が包囲中
だ。種類は二足竜やら四脚獣やら多彩なれど、いずれも銃口を構え、最悪の事態に備えて
いるのに変わりはない。その上、竜の真正面。紫色した石竜が黒帆を揺らめかせ、立ち塞
がっている。ディメトロドンは催眠音波を発し、深紅の竜を拘束中だ。この音波は周囲を
も平気で巻き込む力を持つが、他のゾイドは何ら問題なく深紅の竜を包囲している。どう
やらパイロットの操縦はいずれもマニュアルなのだろう(※ゾイドを仮死状態にし、パイ
ロットの直接入力のみで操作すること。当然、高い技量が要求される)。そして、竜の主
人の実力は彼らに到底及ばない。
 先程まで項垂れたまま意識を失っていた少年は、目覚めて再び、項垂れた。溜め息とも
嗚咽ともつかないうめき声を発すると、首を左右に振って途方に暮れる。

206 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:49:01 ID:???
 彼は記憶の糸を手繰り遡ってみた。…友人に「会って欲しい人がいる」と頼まれたのだ。
同意した少年が会った相手は強豪ゾイドバトルファームの若きオーナー。この男はスカウ
トを持ち掛けてきたが、少年は断わった。そこから先はもう、何がなんだかわけがわから
ない。まず、水の軍団が乱入してきた。連中にオーナーが実はガイロス公国の重鎮であり、
少年の相棒を軍事的な理由で欲していると知らされたのだ。少年主従が逃亡を決意したの
は当然のことだ。途中、水の軍団に狙われるが謎の空戦ゾイドが葬り、助けられる形に。
それを尻目に逃げようとしたのだが、今度は先程の友人に足留めを仕掛けられた。目前の
コントロールパネル上にぶちまけられた吐瀉物はその名残り。
 少年は友人の、自分より年下のくせに大人びた表情を思い出し、ひどく腹を立てた。結
局、切っ掛けは彼の誘いだ。しかし憎悪は別の気持ちが混ざり込み、数秒も持続しない。
時に少年を助け、時にゾイドバトルの練習相手となり、そして…。
(結婚して下さい!)
(僕はもっと強くなれるし、貴方を幸せにもできる!)
 憧れの女性に対するもやもやとした感情。いつの日にか口にしたい、思いを伝えるのに
相応しい男になりたいと漠然と考えていたのがいきなり脇から現れ、堂々と先を越された
あの時。少年はくやしかったが彼を憎む気になど到底なれなかった。その時の気持ちは結
局、今になっても変わらない。彼が…フェイが少年を売るような真似をしたのにはきっと
何かしらの理由があるからに違いないと、改めて自らに言い聞かせる。
「とにかく今は、脱出することを考えないと。…流石に怒ってるよな」
 自然と、憧れる女性の笑顔が脳裏に浮かんだ。怒ると凍てつく程に厳しい瞳の蒼さが、
この時ばかりは豊穣の女神の懐深さに見える。大体、喉を潤す水は冷たいものだ。師弟関
係を絶縁されない程度には罵られた方が遥かに良い。その先にあるかも知れない未来を見
るためにも。大丈夫、腕時計型端末は先程0時を伝えたばかりだ。

207 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:50:12 ID:???
 座席下部の戸棚から雑巾を引っ張り出し、コントロールパネルにぶちまけられた吐瀉物
を拭う。勿論、視線は現状、余り大した情報を提供してくれない全方位スクリーンへ向け
たまま。映像は徐々に、様々な数値を表示し始め主人の無言の希望に応えた。そのいずれ
もが竜自身のコンディションに関する情報だ。少年も数値を見る度一々頷く。…取り敢え
ずひどく落胆させる情報はないものの、ゾイドコア出力の低さだけは少年を心配させた。
「通常の二割以下って、寝てる時と同じ位か…」
 激戦に疲れ切ったのは少年だけではなかった。竜が全方位スクリーンを通して外界の様
子を表示しない理由もこれで良くわかる。少しでも消耗を抑えてエネルギーを貯えたいの
だ。きっと到来する反撃・脱出の好機を逃さぬためにも。
「ブレイカー、君って奴は…」
 流石に円らな瞳が潤む。相棒の気持ちにも応えなければいけない。着用する白いTシャ
ツの胸元を鷲掴みしたその時。
「お目覚めのようだね、ギルガメス君。私の義眼には君のシルエットが映っているよ」
 落ち着き払った声を耳にし、目を剥いた少年。相棒も流石にエネルギーを気にしている
場合ではないと、スクリーンとスピーカーの出力を決断した。人の瞬きのごとく、水晶体
に覆われた竜の瞳が赤く明滅。スクリーン上にウインドウが開き、映像が広がる。
 目前に立ち塞がるディメトロドンの真正面に、得体の知れぬ集団がズラリ立ち並んだ。
いずれも個性的な集団だが流石にあの美少年の姿は見当たらない。そして集団の中央には
あの義眼の優男が背筋正して立っている。
 そして幽かに聞こえる、鈍い打鐘の連なり。マグネッサードライブの起動音だ、それも
相当な規模の。

208 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/02(月) 15:51:26 ID:???
「ここはガイロスが誇る輸送ゾイド・アノマロカリスの体内だ。既に我々はアンチブルよ
り四百キロ以上離れた。グレイラスト海岸線を越えるのも時間の問題だ。
 ギルガメス君、私は形式にこだわる。さあ、我々ファーム・ワイバーンと契約しようじ
ゃあないか」
 後ろ手を組み、朗々たる調子で問いかける義眼の男。彼の声に応えるかのように、竜の
胸元付近に群がったのは紫色の鎧を着込んだ兵士達。いずれも二の腕程もある銃器を携行
し、その銃口で指差す方角は一緒。うつ伏せたまま屈辱に耐える深紅の竜の、その胸元。
…鎧の深紅によく似合う、落ち着いた深緑色の胸部コクピットハッチ。竜の顎と短い両腕
ですっぽり覆ってはいるが、優男の呼び掛けはそんな鉄壁の守りを無力化しようという呪
文のようにも聞こえる。
 左右の映像に光る銃器を睨み、眉間に皺寄せる少年。雑巾を座席下部の戸棚に戻すとそ
っと両手でレバーを握った。シンクロできぬ今、相棒との繋がりを確かめ合う唯一の手段。
                                (第一章ここまで)

209 :地獄の火山島戦役 12 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/03(火) 09:33:21 ID:???
大龍神は竜巻に舞い上げられた後に超高空から叩き付けられ、おまけに火山弾の雨の
直撃を受けて岩塊の中に埋められてしまった。しかもダメージで何処か回路に異常を
きたしたようで、パワーが出ない。
「とにかく大龍神を掘り出さないと!」
ミスリルはコックピットから外に出ると共にゴーストンと協力して岩を退かし始めた。
体は身長150センチ前後と小柄だがミスリルはスーパーが付く程強力なロボットである。
何十トンもある岩を次々退かして行くが、その時だった。背後から敵の歩兵部隊が
接近してくるではないか。
「あーこのクソ忙しい時に! ティアちゃんはとにかく作業を続けて! 敵の歩兵は
私が相手をするから!」
「うん!」
兵器の技術は日々発展していくが、それはゾイドだけではない。歩兵用の装備も日進月歩
次々と新たな装備が開発されていた。人間が持てるサイズにまで小型化された荷電粒子砲。
そして敵の砲弾を弾き、かつ運動補助機能も付いたパワードスーツなど、それらの
新型歩兵用装備を満載した歩兵部隊が大龍神の方へ向けて接近してきていた。付近に
友軍は殆どおらず救援も期待できない現状では自力で何とかするしか無かった。
「私が相手です! ミスリルトォマホォォォォォォック!!」
ミスリルは歩兵部隊行く手を遮るように正面に飛び出すと、両肩から二本のTMO鋼製の
棒を出した。続けてそれを一本に連結させた後、今度は刃が現れ、棒は三メートルにも
及ぶ巨大な斧となった。しかもそれをミスリルは片手で軽々振り回しているではないか。
「でりゃぁぁぁぁぁ!!」
「お前の体の何処にそんな物が入るスペースがあるんだよ!」
敵歩兵の突っ込みを構わず一蹴し、ミスリルはミスリルトマホークを持って敵を斬って
斬って斬りまくった。確かに歩兵の最新鋭装備も強いがミスリルはそれ以上に強い。
ゾイドをも簡単に斬り潰す速く重い攻撃。同じくミスリルの持つTMO鋼製の身体には
敵の如何なる攻撃も通用しない・・・はずだった。ここでさらなる誤算がミスリルを襲う。
なんと歩兵部隊にも超人クラスがいたのであった。
「おおなんと元気の良い娘さんだ事か・・・。」
おおよそ戦場には不釣り合いな拳法着に身を包んだ髭の中年男がミスリルの正面に立った。

210 :地獄の火山島戦役 13 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/03(火) 09:34:37 ID:???
「ほら帰らないと潰しますよぉ!!」
拳法着の中年髭男をミスリルの斧が襲った。が、中年髭男は斧をかわし、あろう事か
斧の先端に爪先の力だけで立っていたではないか。直後ミスリルは悪寒を感じた。
「こんな大きな物を簡単に振り回すとは・・・いやはや凄い力ですな。」
「(やっば・・・この人・・・超人クラスだ・・・。)」
とっさにミスリルは両眼から破壊光線ミスリルビームを男に向けて発射した。
だが中年髭男は軽く姿勢を低くさせるだけの行動だけで回避し、ミスリルの腹部に
掌底を放った。見かけはただ掌で叩いただけの行為であったのだが・・・
「ッキャァァァァァァァァ!!」
ミスリルは大龍神の埋まった岩塊の山まで吹っ飛ばされてしまった。だがこれは怪力に
よって飛ばされた物ではない。明らかにこれは規格外の特殊な技である。現にこれに
酷似した技をミスリルは知っていた。ミスリルの知り合いの一人である拳法の達人が
使っていた生命エネルギー“気”をコントロールする気功術による技。程度の違いは
あれど、気功を利用している拳法はかなりあるらしい。この超人クラスもそれに当たる
物だったのだろう。しかし、これは逆に言えばミスリルを助ける要因にもなった。
中年髭男に吹っ飛ばされ、岩塊に叩き付けられた際、大龍神を埋めていた岩の多くが
崩れ、回路の損傷でパワーの落ちた今の大龍神でも脱出出来たのである。
「いたたたた・・・。でもおかげで大龍神が出られました! とにかく脱出しますよ!」
「うん!」
ミスリルは大龍神に乗り込むと共にティアのゴーストンが大龍神の背に乗った。
そして出力全開で敵軍の包囲網から離脱しようとした時だった。
「どいたどいたどいたぁぁぁぁぁぁ!!」
「え!? ええええええ!!?」
なんとまあ超人クラスのイグアン&ゴドスの戦いに巻き込まれ、二機ともまとめて
吹っ飛ばされてしまいましたとさ。合掌。

211 :地獄の火山島戦役 14 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/03(火) 09:36:04 ID:???
「ミスリル・・・何処にいるの・・・?」
またも大きく吹っ飛ばされてしまったドールチームだが、ティアとゴーストンは
ミスリルと大龍神とはぐれてしまい、孤立した状況下で死体や残骸で積み上げられた
山の上をトボトボと歩いていた。もう両軍共に恐ろしい程の戦死者が出ている。
それはティアが一番分かっていた。何故なら彼女は既に死んで霊になっている身である故、
霊が見えるのである。そして彼女が辺りを見渡すと彼方此方から戦死者の霊が天に
昇っているのが見られた。だが、生きている者達はまだ戦いをやめないのだ。
「ねぇ・・・何で・・・何でそんなにまでして戦うの・・・? 別にそこまで強くないのに・・・。」
超人クラスの者達は相変わらずの大暴れっぷりだが、彼等はミスリル達以上に強い者達
なので特に問題にはならなかったが、そうではない普通の人間達。つまり弱い者達が
無理をしてまで戦うと言う痛々しい姿を見るのがティアには耐えられなかった。
その時だ。未だ戦いをやめない者達の矛先がゴーストンにさえ向けられたのは。
「キャァ!」
逃げようにもダメージの蓄積により動きの鈍いゴーストンはディバイソンの砲撃の
直撃を受けてしまう。忽ちの内に左肩の装甲が割れる。相手も彼方此方がボロボロで
内部の機械が露出する程痛々しい姿だったが、それでもやはり彼等は戦いをやめない。
「そ・・・そんな・・・。」
ティアの目から涙が溢れた。人形の身体でありながらどういう構造なのかは置いておくと
して、それだけ恐怖していたのは確かである。だが、その時だった。突如ディバイソンの
背後に現れた大龍神が右前脚を持って踏み潰したのは・・・
「ミスリル! 大丈夫だったのって・・・ああ!」
大龍神のダメージも甚大だった。全身の装甲がひび割れ、溶け、穴が開いていた。
そして彼方此方からオイルが噴出し、白い装甲をどす黒く染めていく・・・
TMO鋼の装甲にここまでのダメージを与えられる者は今の所超人クラスのみ。
恐らくティアとはぐれていた間に超人クラスの攻撃を何度も受けていたのだろう。
『お前等ぁぁぁ・・・蛋白質の塊ごときが私をここまでさせて生きて帰れると思うなよ・・・。』
「え!? ミスリル!?」

212 :地獄の火山島戦役 15 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/03(火) 09:37:36 ID:???
鋭くなった両眼を赤く輝かせながらエコーのかかったミスリルの言葉にティアは青ざめた。
これはミスリルが完璧に切れている事を意味していた。こうなったミスリルからは普段の
ですます口調や礼儀正しさは影を失せ、優しさと言う名の理性によって抑えられていた
非情で残虐な本性が全開となる。そして大龍神の首下のプラズマ粒子砲の下に存在する
シャッター部が開き、中型ゾイド一機分にも相当する巨大なミサイルが姿を現した。
『ジャイアントドラゴンミサイル!! 貴様等全員ここからいなくなれぇぇぇぇ!!』
「あああ! ダメぇぇぇ! それ使ったらここにいる人みんな死んじゃうよぉぉぉ!」
ティアはミスリルを止めようとしたが遅かった。既に発射された後だったからだ。
“ジャイアントドラゴンミサイル”。通常のドラゴンミサイルの何十倍もの威力を持つ
メガトン級のミサイルである。ミスリルは以前これでうっかり一つの都市をまるごと
焼き払ってしまった事があり、それが故に禁じ手としていたのだが、それを彼女は
今この場で使ってしまった。それも超人クラス同士の戦いが行われている場所へ・・・

ジャイアントドラゴンミサイルが炸裂した時、何も見えなくなる程の閃光と共に
島中の全てが吹き飛ばされた。そしてこの爆発が島中に存在する活火山を破裂させる
結果となり、連鎖反応によって島中の火山が一斉に噴火、それどころか島周囲の
海底火山さえ噴火させ、火山島ボルケーノアイランドはあっという間に沈没し
地図から消えた。

完全に水没したボルケーノアイランドの真上の海上で何とか生き残った多くの人々が溺れ、
大騒ぎとなっていたのだが、その中を泳ぐ大龍神の姿があった。
「ティアちゃん大丈夫〜?」
「もう! おかげでお人形の身体が全部なくなっちゃったのよ〜。」
「私だって片目が無くなっちゃったんだからあんまり怒らないで下さいよ。
それにしっかり修理できる損傷ですし。」
「でもその原因を作ったのはミスリルでしょ?」
「う・・・。」

213 :地獄の火山島戦役 16 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/03(火) 09:38:47 ID:???
戦闘によるダメージもさることながら、最後のジャイアントドラゴンミサイルの
爆発やそれに伴う周辺火山の連鎖噴火、そしてボルケーノアイランドが沈む大惨事による
ゴタゴタで大龍神もゴーストンもミスリルも全身の装甲が砕け、溶け、ボロボロに
なっていた。それでも自力で修理修復の可能なレベルだったのは不幸中の幸いであろう。

両軍ともに恐ろしい数の戦死者・行方不明者と言う壮絶な被害を出した地獄の火山島戦役。
とりあえずこの戦いにおいてのベストスコアはメガトン級ミサイルで周囲を吹き飛ばし、
さらに噴火を誘発させて島をまるごと沈め、生き残った敵味方の多くを溺死させた
大龍神とミスリルだろう。まあ味方まで巻き込んでしまっては元も子もないのだけど・・・

この戦いの後、両国の意思は戦争続行不可能という判断で一致し、ひとまずの和平が
結ばれた。数十年以上も続いていた戦争を終わらせたと言う意味ではミスリルのやった
事はむしろ良い事だったのかも・・・しれない。悪い事だとしても必要悪くらいにはなる
だろう。ちなみにミスリルの恐れた超人クラスの者達は全員殆ど無傷で故郷に帰ったとさ。
                 おしまい

214 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:14:05 ID:???
【第二章】

 よもや宿敵と共闘することになろうとは思わなかった。但し、驚きの表情を決して見せ
ないのがエステルという女性の強さである。
 彼女の乗るビークルは現在、かの王狼ケーニッヒウルフ「テムジン」の背中に乗ってい
る。折り畳まれた伝家の宝刀・デュアルスナイパーライフルの基部より後ろだ。元々速度
では遥かに勝るこの純白の狼に頼ることで、決戦の好機を掴もうという算段だ。エネルギ
ーも浪費せずにすむし、ここなら強風を正面から喰らうこともない。沈思黙考すべくコン
トロールパネル上のモニターに鋭い眼差しを傾け、頬杖をつく。…地図の中心には大きな
光点が三つの小さな光点を従え点滅している。光点は左方へ…つまり西へと移動中だ。そ
して、それを追い掛けて右方から追随する小さな光点が一つ。
「あの気持ち悪い虫野郎は、高度五千メートル付近を時速六百キロ程度で移動中だ。方角
は、西。どうやらグレイラスト海岸線の突破を目指しているようだ」
 野太い声の主は鬚面の中年男性にして、何度も魔女とその弟子を窮地に追い込んだ男。
しかし今この時間だけは、間違いなく同志だ。それも相当、頼れる。
「随分、遅いのね。それに高度も低い」
「あれはマグネッサーが便りだからな。より空気抵抗の少ない上空を目指すよりも、より
磁気の濃い低空を磁気呼吸して『泳ぐ』方が速いし疲れない。
 只、現状でこの速度だ。そして加速は続いている。このテムジンも今は時速二百キロ程
度を維持するのがやっとである以上、早急に足止め策を講じないと追い付くどころの話し
では無くなる」
 狼の頭部コクピットは分厚い装甲に覆われており、パイロットは前方に張り巡らされた
各種モニターより外部の情報を得る仕組みだ。但し、室内の空気は外界に晒されたビーク
ルのコクピット同様、重苦しい。銃神も魔女も、それぞれ端末を弄って様々な情報をモニ
ターに表示させる。逆転に必要な材料を獲得するためにも…。
「一つ、聞いても良いかしら?」
 魔女の問い掛けに、銃神は鼻を鳴らし、顎鬚を撫でた。
「正確な情報を提供するとは限らんぞ」
「それは私が判断するわ。…貴方達も含めて色々な人間があの子達に接触しようとしてい
る。何故?」

215 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:18:15 ID:???
 闇に染まる荒野を疾走する小型の二足竜達。野生ゾイドの群れは一斉に立ち止まり、ふ
と空を見上げた。狩りにはうってつけの筈だった星空に、浮かぶ黒いうねり。いきなり彼
らを包み込んでしまう程低く飛んでいるわけではないが、食われでもしたら元も子もない。
群れは首を傾け、うねりの行く先を見守っていた。
 具足王虫アノマロカリスが進む星空はマリンスノーが舞い落ちる深海のよう。弾ける泡
の音の代わりに鈍い打鐘を奏で、蛇腹状の腹部をくねらせながら巨大なる虫は空を泳ぐ。
 そして気になるのがこの巨大な虫の後を覆う灰色の空戦ゾイド三匹。猛禽一匹は虫の後
方、翼竜二匹は左右を固め、ぴったり随行している。或いは獲物を横取りしようと伺って
いるのかも知れない。
 さて虫の体内では風雲急を告げた。いつの間にか竜の胸元付近に群がった兵士達。いず
れも紫色のヘルメットに鎧を纏い、両手に携えている銃器はゾイド用のバーナー。撃鉄の
部分よりチューブが伸び、兵士の背負うランドセルのようなエネルギータンクへと続く。
 ギルが彼らの出現を知らされたのは、今は全面的には映し出されないスクリーンに開か
れた小さなウインドウを通じてだ。これには少年も背筋が凍り付いた。あのバーナーでコ
クピットを根元から焼き切るつもりか。無敵の竜の装甲も関節・接続部分はそこまで丈夫
ではない。
 竜の真っ赤な瞳が明滅。短い両腕を胸元に寄せ、コクピットハッチを庇う。それと同時
にスクリーンは水彩絵の具をぶちまけたように様々に輝き、うねり始める。相棒は気持ち
の乱れが抑え切れない。己が心情をも伝える端末でそれが吐き出された。
「ブレイカー、落ち着いて。焦ったらエネルギーを消耗しちゃうよ」
 そう言い聞かせるものの、言っている本人も中々心臓の高鳴りを押さえ切れずにいる。
「手荒な真似はしたくない。私達と契約するなら君とゾイドの自由、そして相応の報酬は
約束する。何しろ君達はゾイドバトルの新人王なのだからな」
 優男の呼び掛けにおいそれと頷くわけにはいかない。彼らは少年達を拉致しようとまで
した。契約は何ら自由を保証するものではないのだ。
(ブレイカーの体力が回復しないと脱出は無理だ)

216 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:20:13 ID:???
 ギルはウインドウを通じて表示される相棒のステータスに目を遣る。…一々見直した後、
改めて途方に暮れた。短時間で回復させるには余りにも低過ぎる、ゾイドコアの出力。
 溜まらず両手で髪を掻きむしり、天井を見上げる。今にも爆発してしまいそうな唇の歪
み。悔恨の涙が頬を伝わりかけた時、少年は悟った。
 スクリーンの明滅。水彩絵の具をぶちまけたような輝きは断続的に映し出されるものの、
そのペースは急激に落ちている。彼の相棒は今必死に、千々に乱れた己が感情を押さえよ
うと努力していた。単なる畜生に過ぎない筈なのに、何故そこまで生真面目になれるのか。
 目許を擦った少年。胸の奥底に眠る勇気を奮い立たせる。
(エステル先生、僕に力を…!)
 一方、優男の後ろから美少年が耳打ちする。
「レガック兄ぃ、余り強く迫ったら却って追い詰めることになるのでは…」
 彼は頭一つ分も高く体格も勝るため、ぐっと背を屈めて呟く様はサーカス団長に飼い馴
らされた猛獣のような趣がある。
「案ずるな、フェイ。彼もまだ若い。友達と一緒にいたいのなら答えは一つだ。ほら…」
 程なくして胸部を庇う両腕の隙間から、ハッチの上がる様子が見えた。
 竜の顎が、両腕が落とす影の中から、静かに現れた少年。Tシャツの純白が映える。
 合図の右手を上げようとした優男。だが彼の義眼は、少年の右手に握られたものを目に
し、刮目を余儀無くされた。掌に余る程大きい、ゾイド猟用のナイフ。少年は透かさずナ
イフを両手で首元に近付ける。ナイフの柄は握った右手の上からがっちりとタオルで縛ら
れており、簡単にはほどけそうにない。
「動くな!」
 一喝にありったけの気持ちを込め、じろり周囲を見渡す。円らな瞳の奥より投げかける
眼光は刃と化した。彼自身は興奮が押さえられそうになく、吐息の乱れも震える両膝も隠
さない。
 優男は眉を潜めつつも両腕を左右に広げた。竜の胴体付近に群がる兵士はぴたり、動き
を止める。…辺りを静寂が覆い尽くした。他に聞こえるのは、彼らを運ぶ輸送ゾイドが奏
でるマグネッサードライブの起動音位。
「…何の真似だ、ギルガメス君」
「今すぐブレイカーを解放して下さい。さもなくば…!」

217 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:22:37 ID:???
 少年の生白い喉に、触れるナイフの切っ先。自らを傷つけんとする主人の姿に深紅の竜
は思わず哭いた。しかし彼は透かさず横目で睨む。
「君は黙ってて!」
 竜は生唾を呑み込んだ。若き主人の厳しい眼差しは円らな瞳で演じるには少々不向きで、
だからこそ竜は理解し、押し黙る。
「レガックさん、僕が死ねばブレイカーも大暴れしたいのを我慢する必要は無くなる。
 …この子の本気を、見たいですか!?」
 事実、深紅の竜は荷電粒子砲を始め鬼神のごとき力の何割かを封印している。戦いの辛
さを分かち合ってくれる少年と、共に生きたいから。…彼がこの世から消え去った時、怒
り狂った竜の暴走を止める要素は皆無と言って良い。
 深紅の竜は只一匹、じっと少年の声に聞き入っていた。赤子のように哭いたりはせず、
口をきりりと閉じて。
 一方、優男や美少年ら居並ぶ者達は困惑の色がありありと伺える。ゾイドが身を挺して
パイロットの命を救った例なら幾らでもある。だが逆の話しなど聞いたこともない。
「ギルガメス君、早まるな。君はゾイド一匹自由にするため命を捨てると言うのか」
「友達が友達を助けるのは当たり前でしょう!? 
 さあ、レガックさん。解放しないのならこのナイフで喉をつくよ!
 ナイフを奪うなら舌を噛み切るよ! 口を塞いだら床に頭を打ち付けるよ!」
 壁に吸い込まれていく絶叫。凍り付く室内の空気。

 浅葱色の狼も又、鋼鉄の壁や床に囲まれた構内でうつ伏せていた。やはりと言おうか、
周囲には紫色した獣や竜達が厳重に囲んでいる。深紅の竜が側にいないことから、ここは
どうやらアノマロカリス内の別の一室のようだ。かの優男に「好機」という土産物を差し
出した奇怪なる男も憮然たる表情を浮かべている。
「うぬら、いつになったら包囲を解くのだ。儂は、貴様らを手助けしたのだぞ」
 モニターに向かって呟くが。
「いずれレガック様が尋問に来る。それまで待たれよ」

218 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:23:54 ID:???
 この一点張りだが、当然といえば当然である。水の軍団暗殺ゾイド部隊の一員に成り済
まし、よもやチーム・ギルガメス捕獲に一役買ったこのジャゼンなる男が獣勇士を裏切ら
ない保証はどこにもない。彼とその相棒を「包囲」程度で済ませ「裏切り者は信用できな
い」とまで言わないのが、獣勇士側が示した最低限の誠意と言える。
(ふん、まあいいさ)
 コントロールパネルを弾いた奇怪なる男。うつ伏せたままの浅葱色の狼が軽く耳を動か
す。モニターに描かれる波形。スピーカーから聞こえるノイズはやがて音声を拾い出した。
流石は狼の眷属、研ぎ澄まされた聴覚は離れた一室の事件さえ聞き付ける。
《友達が友達を…》
 泣き虫の青臭い咆哮を耳にして、立てた襟の下で浮かべる笑みの何と不敵なこと。

 少年の秘策はまずは成功したかに見えた。実際のところ、疲労困憊の深紅の竜が地力で
脱出するのは難しい。そこで少しでも時間を稼ぎ、この優しき相棒を回復させるのが真の
狙いだ。…相手が策に乗れば、の話しだが。
 ふと、美少年の視線が重なった。仏頂面を続けるつもりだった彼は、歪んだ表情に悔し
さを潜ませつつ、再度優男に耳打ちする。
「う、嘘っぱちです!」
「声が大きい」
 優男の即答は睨み付ける一挙動さえ省いた。
「ギルあ…ギルガメスは、時間を稼ぐつもりです。毅然とした態度で臨めば…」
「自決などできないと申すか。二ヶ月近く側で監視した上での読みか?」
 美少年は押し黙った。そこまで根性無しなら狼機小隊に狙われたあの時、一度は敵と疑
った彼を助けただろうか(第八話「裏切りの戦士」参照)。或いは新人王戦優勝の記念メ
ダルをあっさり相棒の食べ物としてくれてやっただろうか(第九話「機獣達の宴」参照)。
 ふと優男は瞬きを繰り返した。彼の義眼がぼんやり明滅したのだが、竜の主人たる少年
にはそこまで気にかける余裕はない。…気にかけはしても、それがまさか字幕だとは思い
もよらないだろう。
《注意せよ。ゾイドコア出力、微弱ながら上昇中》

219 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:24:47 ID:???
 字幕は他ならぬ、黒帆背負った石竜頭部コクピットから発せられたもの。天女がコント
ロールパネル上に引き出された小さなキーボードを琴のごとく優雅に叩く。マリヤード・
ゼクスの任務はこのディメトロドン「バショウ」で深紅の竜を拘束・観察することだ。
「何この坊や、ゾイドにはまあ随分とモテモテじゃない? 啖呵切っただけでこんなんじ
ゃあ、自決されたらどうなるかわからないわよ」
 スクリーンや計器類の輝きに照らされた天女の表情は険しく、折角の美貌が台無しだ。
しかし事態はそれを照れ隠しするどころではない。
 さて優男は両腕を組んだ。余裕綽々とはいかぬが眼光鋭い少年の眼差しに義眼を合わせ
るのは決して止めない。
(成る程、流石に主従関係を結んだだけのことはある。
 そしてギルガメスは気が弱いくせに向こう見ず。ならば…)
 優男の左腕の脇の舌で、指がうごめいた。それは少年や深紅の竜の側から見た限りでは
わからないが、側にいる美少年や後方の石竜に乗る天女はじめ他の面子にははっきり見え
た。指の動きは、極めて規則的だ。そう、彼らが目を見張る位に。
「ギルガメス君、少し私の話しを聞いてくれないか?」
 言いながら一歩、前に出た優男。見た目には丸腰の姿に却ってたじろぐ少年。
「ち、近付くな!」
「考えてもみたまえ、水の軍団と言い我らと言い、強大な軍事組織が何故か子供一人、ゾ
イド一匹を付け狙うのだ。おかしな話しだとは思わないか?」
 少年は声を出しそうになったが、結局は口をつぐんだ。時間を稼ぐ上では魅力的な話し
だが、悪魔の囁きにも聞こえる。迂闊に耳を貸しでもして、果たしてこの土壇場を切り抜
けられるのか…。

 魔女と銃神はスピーカーよりの音声のみを頼りに会話を続けている。いずれもコントロ
ールパネルへの注意を怠らない。
「五十余年前、惑星Ziの全土に渡って繰り広げられた『最後の大戦』は、ヘリック共和
国がガイロス帝国を下して集結した。共和国は四大陸の九割五分を、州或いは民族自治区
という形で併合、世界唯一の超大国となった。ガイロス皇帝にも『人間宣言』を促し、遂
にガイロス帝国は公国と改められた。民主主義の勝利だ」
 魔女は鼻で笑う。

220 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:26:04 ID:???
「ふん、価値観の押し売り大成功というわけね」
「…各国には議会が設置され、議員を選挙する議会制が敷かれた。これで一部の人間によ
る権力の独占は封じられた。
 軍備も積極的に縮小された。我々『水の軍団』も常に目を光らせ、絵空事と思われてい
た平和がようやく形になろうとしたのだ」

 時を同じくして、優男が少年に切り出した話しが銃神らの会話と似ていたのは奇妙な偶
然だ。しかし内容の隔たりはかなりのもの。
「…我が祖国はゾイドのみならず、抱えていた技術の大半を押収され、封印された。その
内訳には、例えば君の相棒に導入されたオーガノイドシステムも含まれる。
 こうして、かつて民主主義の横暴に断固立ち向かったガイロス帝国も、辺境の一小国に
成り下がったのだ。又同じ頃、国籍不明の特殊部隊が世界各地に出没するようになった。
後に『水の軍団』と呼ばれる彼らは潜伏する反ヘリック勢力を見つけ出しては片っ端から
鎮圧していった。ヘリックと水の軍団双方を打倒するためには時間が必要だ。…同胞が相
次いで倒れる中、我が祖国はゾイドバトルファーム『ワイバーン』を結成。兵士育成や財
源確保に努め、雌伏の時期を過ごした。
 そんなある日のことだ。我々とは別に、ヘリックを脅かす国家規模の組織が現れたのだ。
『某国』と呼ばれるこの組織は『B計画』なるものの実現を目指している」
 B計画。その言葉を少年は何度も聞いている。只、水の軍団とは別の勢力に属する者の
口から出てきたことには驚きを隠せない。言葉に掛かる重みが、又増した。
「B計画の最終目標が何なのか、未だにわかってはいない。
 しかし計画の副産物として、惑星Ziが戦乱に明け暮れる中で培われ、そして封印され
てきた数多の技術が軒並み、自由に使えるようになるとの情報を得ている。
 既に一部のゲリラが従来とは一線を画した技術体系のゾイドを使用している。彼らが某
国の支援を受けたことは間違いない(※第七話「竜と群狼と、そして」参照)」
 少年は胡散臭そうに話しを聞いている。無理もない話しだ。
「で、それが僕らとどんな関係にあるんですか? まさか僕らもゲリラ同様、某国の支援
を受けたと疑われているとでも…」

221 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:27:02 ID:???
「そこまで安直な話しではないさ。…ゲリラに提供されたゾイドは、何故か実験段階のも
のばかりだという。恐らくB計画は、未だ完成の域に達してはいないのだ。
 そこで彼らが計画実現のために探し求めているのが…」

 合点したのか、顎に手を当て頷く魔女。
「刻印を持つZi人…」
「我々は『某国』の暗躍を阻止せねばならない。折角封印した技術が使用可能になってし
まったら、五十余年に渡って築き上げてきた平和が水泡に帰してしまう。
 現実問題として、貴様の弟子は刻印を額に宿し、かの魔装竜ジェノブレイカーでさえも
手なずけた。これは俺個人の仮説だが、もし刻印を持つZi人が危険な技術を制御する生
体コンピュータのような役目を果たすというのであれば、貴様や貴様の弟子は導火線のよ
うな存在だ。B計画という火薬庫に触れた時、どれほどの規模で爆発するのかまるっきり
見当がつかない」
 神妙な銃神に対し、魔女は溜め息で返す。
「…危険だ、という理由だけで平凡な少年をも裁こうというわけ?」
「平和は、脆い。維持するには細心の注意と努力が必要だ」
 白き狼は傷付き、錆び付くような音を立てながらも疾駆を止めない。銃神の静かな熱意
を理解できぬ魔女ではないが、彼女にも守るべきものがある。
「…お、動いたぞ」
 モニターを睨む銃神の口調が心持ち、軽く感じられた。
「こちらでも確認したわ。どう? 予想通りでしょう?」
 一方魔女の笑みは悪魔を騙したかのごとく大胆不敵。彼女らがモニターから何を確認し
たのかについてはこの少々後、明らかになる。

「君達についてはレヴニアのテロ事件以降、目をつけていたのだ。魔装竜ジェノブレイカ
ーはガイロスが誇るオーガノイド技術の言わば終着点。メカニズムを解明すればヘリック
との圧倒的な軍備格差が確実に埋まる。
 そこに水の軍団が現れ、漠然とした期待は確信に変わった。彼らが高々子供一名、人一
匹に切り札の暗殺ゾイド部隊を投入したのだからな。君達にはそれだけの価値がある。
 そこで、だ…」
 言いかけたその時、彼らの頭上で鳴り響いた音声。心臓を直接震わすような音量に誰も
が顔をしかめた。…船内放送だ。

222 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:34:16 ID:???
「左15度転換、左15度転換。乗員、直ちに近くの手摺に掴まって下さい」
 すぐさま身構える兵士達。優男や美少年も例外なく身体の重心を下げる。只独り、竜の
主人たる少年を除いて。彼のみは不意の出来事への対処法自体を知らなかった。
 ふらつく足元。バランスを崩し、尻餅をつく少年。背中まで倒れあわや逆さにでんぐり
返しかというところで、両手を左右に広げて受け身を取る。
 大変な隙を見せたと彼が思い知ったのは、仰向けの姿勢を持ち上げた時。見上げてみれ
ば、いつの間にかすぐ側にまで詰め寄っていた義眼の優男。少年を易々と取り押さえられ
る距離まで近付いた末、何をするのかと思えばすっと、差し出した右手。…少年の、ナイ
フを縛り付けた腕と同じ右手だ。
 室内の逆光が、優男を影で覆った。義眼だけは禍々しい輝きを帯び浮かび上がっている。
この威圧感、角や尻尾が生えているか探す余地すら与えない。
「ギルガメス君、今一度君をファーム・ワイバーンにスカウトしたい。君の名誉回復と、
シュバルツセイバーの護衛付きだ」
 少年は反射的に、右手を振り上げた。差し出された優男の手を払い除ける動作を、しか
し、途中で躊躇。掌にゾイド猟用のナイフを縛り付けていたのを視界に入るまで忘れてい
た。慌てて柄の部分を向け、改めて払い除ける。
「こ、断わる!」
「ヘリックの圧政を、水の軍団の横暴を目の当たりにしてもか?」
 少年はちらり、横目で背後を覗いた。…重なった相棒との視線。うつ伏せのまま縛り上
げられながらもピィピィと、深紅の竜は懐いてみせた。良かった、さっきよりは心持ち、
持ち直しているらしい。
「友達を売って良い理由には、ならないでしょう!?」
 やり取りを、優男の後方で見聞きしていた美少年は唇を噛みつつぷいと顔を背けた。
 一方、優男の義眼は冷ややかな白色に輝くと、すぐさま。
「そうか、残念だ。我らは大義を第一とする」
 右手を軽く上げた、それが合図だ。
 破裂音は少年の左後方から。兵士達の更に後方を覗き込めば、小銃を構えた悪鬼の姿が。
グラントゥはしてやったりといった表情で銃口を天井に向ける。

223 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:36:09 ID:???
 不意の響きに背筋を強張らせた少年は、あとに続く疼痛に表情を歪めた。首の辺りに感
じる痛みの源を手探りで引き抜き、まじまじと見つめる。マジック大の筒。先端に伸びる
のは…。
 急激にぼやけた少年の視界。その上ぐるぐると回転を始める。それが時計周りか反時計
周りかも定かではない。それでも少年は懸命に立ち上がろうとする。ナイフを縛り付けた
右手を振り回そうともがくが、そこに優男の長い腕が伸び、透かさず肘を捻り上げるまで
ものの数秒も掛からない。本来ならばひどい痛みで我に帰るところなのかも知れない。し
かし意識の薄れは痛みよりも速かった。
 右腕を捻り上げられたまま、膝から崩れ落ちた少年。主人の一大事を目の当たりにし、
甲高く哭いて呼び覚まそうとする深紅の竜。だが少年の閉じた瞼は鉛のように重い。
「そう慌てなさるな、魔装竜ジェノブレイカー殿。麻酔銃だよ。
 さて御主人様はああ言っているが、貴方はどうお考えかな?」
 深紅の竜は大変なパニック状態に陥った。主人は今、麻酔銃で眠らされている。生きて
はいるが、行動の大部分が制限された半死の状態とも言えるのだ。0でも1でもない、グ
レーゾーン。もし竜が怒り振り絞って暴れでもすれば少年を盾にするかも知れない。逆に
降参したら目覚めた少年が深く絶望するかも知れない。
 紫色の鎧で身を固めた兵士が瞬く間に眠る少年の元へと群がる。急変に慌てて伏せた身
を起こそうともがく深紅の竜。だが透かさずより強力な負荷がのしかかった。鋼の猿(ま
しら)が両腕をがっちりと竜の翼に絡み付かせ、体重を掛けていく。寝技の応酬はアイア
ンコングが圧倒的に有利だ。
 兵士達に少年の身柄を任せ、後方で立ち尽くす美少年の元へ戻ってきた優男。依然唇噛
んだままの彼の肩をポンと叩く。
「お前は気に病むな。元々ヴォルケン様をも見殺す覚悟で仕組んだ作戦、憎まれ役で済む
なら易い」
「…救出部隊は、向かわせてはいないのですか?」
「用意はした。とっておきの奴をな。だが、当てにして作戦を組むわけには…」
 言いかけた時、この広い船室が再び揺れた。
「左20度転換、左20度転換。乗員、直ちに近くの手摺に掴まって下さい!」

224 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:37:38 ID:???
 船内放送は揺れが発生したのとほぼ同時だ。これでは多少慣れていても対応しにくい。
二枚目二人は大股になり辛うじて転倒を防ぐが、鎧の兵士達は何名も尻餅をついた。
 揺れが収まるよりも早く、優男は背後の黒帆背負った石竜の側に駆け寄る。
「マリヤード、ブリッジにつなげ! この揺れは予定には…」
「今やってるわ! ブリッジ、敵襲? ちょっとは状況を伝えなさいよ!」
 言葉とは裏腹に天女は整然とした動きでコントロールパネルを弾く。やがて映し出され
た巨大な光点はシルエットから彼らが乗り込む輸送ゾイド・アノマロカリスとわかったが
、その進行方向である西の方角に幾つもの小さな光点が群がっている。彼女は一目見て正
体を見抜き、理不尽さに声を上げた。
「アンチブル守備隊じゃないの! 全ての巡回ルートをチェックした筈なのに、何故…」

「…最も楽な脱出ルートはね、直進よ。最短距離を進めば時間も掛からない。
 しかしあの輸送ゾイドは進路を曲げた。最短距離を敢えて曲げる理由はたった一つ」
 モニターを睨む魔女。不敵な笑みは蒼き瞳の鋭い輝きを一層倍増させる。
「障害か。成る程、連中は西アンチブルを障害と看做し、進路変更したわけか。
 しかしガイロスとアンチブルは反ヘリック同士、手を結んでいる筈だが…」
 操縦するレバーはしっかり固定したまま、モニターに向かって銃神は返事した。
 両者の睨むモニターには同じ地図が表示されている。巨大な光点(その背後に小さな三
つの光点がピタリと追随している)は西に移動中だが、途中で進路が南西に逸れている。
もし直進したら、数十キロ先には西アンチブルの町にぶつかるだろう。しかしアノマロカ
リスは高度五千メートルを飛行中故、城壁や建物との衝突など万が一にもあり得ない。…
なのに、この輸送ゾイドは進路を変更した。
「積み荷を改められたら同盟破棄どころじゃあ済まないわ。まさか今年の新人王と一戦交
えたなんて口が避けても言えないでしょうね」
 現状の惑星Ziにおいて私闘が御法度なのは、既に本編で何度か描いてきた通りだ。し
かも獣勇士らは特殊部隊とは言えれっきとしたガイロス軍人である以上、許可無しに他国
の領土で武力行使したと看做される。
「そこで連中は都市に近付かないルートを選んだ」

225 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:38:33 ID:???
 この時、アノマロカリス内で生じた揺れをレガックらが簡単に対処できたのは、彼らが
乗り込むゾイドのルートとそれに伴うトラブルを承知していたからだ。
「そういうこと。私達は守備隊に通報。早速巡回中の守備隊が先回りしたから、連中は更
にルートを反らさずにはいられなくなった」
 南西に逸れた光点は更に南方向へと進路を変更している(レガックらが予期せぬ揺れで
転倒しそうになったのがこの辺りだ)。これで倍以上離れていた魔女や銃神らと輸送ゾイ
ドとの距離が一気に縮まったのは言うまでもあるまい。
「さあて、ここからが本番かしらね。レガックって言うの?
 うちの生徒を勝手に連れ出した奴の面、とっくりと拝ませてもらうわ」
 口調とは裏腹に、努めて抑揚を抑えた声。しかし澄んだ空気には良く響く。
 銃神は内心タジタジではあるが、今しばらくの間は頼もしい戦力とも思えた。
(恐ろしい女だ、あの短時間でこうも知恵が回るとはな。それにしても一体何者だ…)
 頭部には主人を、背部には魔女を乗せて白き狼は疾駆を続ける。しかしいずれ直面する
だろう決戦の場が、彼らの想像を越える事態に陥りつつあることまでは、モニターを介し
ても見抜けはしない。

「そろそろかね」
 徐に、立ち上がった浅葱色の狼。奇怪なる男は立てた襟の下で不敵に笑う。
「待たれよジャゼン殿!」
「レガック様の許可なくこの場を離れること、まかりならぬ!」
 包囲していた獣や竜達が透かさず身構え、うなり声を上げる。紫色に彩られた鋼鉄の壁
が発する威圧感。しかし奇怪なる男は何ら動じる様子を見せない。
「儂にも都合があるのでな」
 呟きに呼応するかのように、再び揺れる船内。立ち所に全身使ってバランスを取る紫色
の包囲陣。流石に人を遥かに超越した運動能力を備えるゾイド達故、この程度のアクシデ
ントには何ら動じないが、しかし問題はアクシデントの核心だ。包囲陣のパイロット達は
舌打ちする。
「外の奴、さっさと迎撃できないか…」
「さっき味方ぶっていた奴がもう寝返りやがった!」

226 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/05(木) 22:39:11 ID:???
 そう、銃神の追撃を断ちチーム・ギルガメス拉致に貢献したあの灰色の空戦ゾイド三匹
は、今や鉾先をこの輸送ゾイド・アノマロカリスに改め攻撃中である。猛禽が甲冑のよう
に分厚い胴体を這うように飛んで機獣掃射すれば、翼竜二匹は蛇腹状になった腹部の下に
潜り込み、牽制する。不可解なのは、猛禽は馬鹿でかいミサイルを腹部に一本、翼竜は脇
腹に二本搭載しているのにも関わらず全く使ってこないということ。どうやらこの輸送ゾ
イドを破壊するのが目的ではないらしい。
「シュバルツセイバー獣勇士の諸君、チーム・ギルガメス捕獲のお手並み、お見事。折角
だから獲物は儂が頂くとしよう」
 言うが早いか、浅葱色した狼は腹部に抱えていた車輪を降ろす。透かさず飛び掛かる紫
色の包囲陣。だが狼の挙動は彼らの予想を越えていた。…ふわり、四本の足が地面から離
れたかと思いきや、逆さまにひっくり返った巨体。風船のように急上昇して思いのほか低
い天井にへばりつく。
 獣達があっけに取られる中、狼が腹部に抱えた車輪は勢い良く回転を始めた。天井も床
も、このゾイドには大差なかったのだ! 図々しくも獣達を尻目に疾走を開始。
 我に返った包囲陣は銃撃を開始するが、床ならともかく天井にはゾイド程の障害物はな
い。あるのは導管や照明程度。軽やかに避け、或いは踏み潰す。閉まっていく隔壁を潜り、
壊す。獲物はもうすぐ近くだ。法螺貝のように咆哮する浅葱色した狼の何たる不敵。
                                (第二章ここまで)

227 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/04/07(土) 15:13:33 ID:???
「――荷物の積み込み、完了しましたね」
 運命の日はいつもと変わらず、淡々とやって来た。見送る者、見送られる者の双方が
防寒用の重装備に身を包んでいる。
「……オリバー、気をつけてね」
 彼はエルフリーデを極寒の屋外に出さなくて済むよう玄関で出発の挨拶も済ませたのに
我慢できず出てきてしまった――そんな様子がなんとも可愛らしい。
「ああ。必ず帰ってくるよ」
 防寒着のフードとゴーグルに邪魔されつつキスを交わす恋人達。これを最後の口付けと
はすまい――そう誓うオリバーであった。

「はてさて、お熱いところに水を差して悪いが拙者のゾイドをお披露目してもよろしいか?」
 ……空気読めない指数をグラフにしたら恐らく宇宙の半径を越える、デイビッドの声。
「おい、止せ! 出発前に全員の活力を削ぎ取るつもりか!」
 ラインハルトが何事かを叫んでいるが彼は気にしない。
「逆だ! この大いなる力が味方に付いたとあれば希望の炎が燎原の大火の如く燃え上が
るのは間違いなし――女神サマも照覧あれ、我が宇宙最強ゾイドッ!」
 両手を広げるデイビッドの姿はじつに狂気を感じさせるもので誰もが危機感を感じたの
だが――そんなことには構っていられなくなった。雪と相まって体感温度を気温以上に下
げていた風が止んだのだ。
「……なんだ?」

 雲間から射す光。降りてくる何者か。
 それは十数mの体躯から白銀の鋭い突起を無数に生やし、輝くプラズマの翼を後光とし
て地上に光臨する。瞬時に気化した膨大な雪が周囲の低温によりまた瞬時に凍結、微細な
水滴と氷片が『それ』の姿を覆い隠す。
 ――やがて、顕現せし深淵を覆う霧が晴れた。
 それは森羅万象のイデアを写そうと試み、潰えた混沌の鏡面。
 それは無貌にして無謬なるジャンクの針山地獄。
 それの表面に当たり、跳ね返ってきた光子を視神経が捉えた瞬間にデイビッド以外の全
員が――イヴさえも、存在しないはずの『畏怖』が量子頭脳を走り出すのを感じていた。

228 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/04/07(土) 15:22:29 ID:???
「おい――これがゾイドだって?」
「違うよな? 聞くとしたらまず『コイツはどうやって俺たちの世界にアクセスしたのか?』
 もしくは『あいつはどうやってこんなモノを召喚したのか?』だ」

「ふふん、聞いて驚け? こいつの元になったゾイドは何の変哲も無いゴルヘックスさ」

 目の前に広がる小規模な魔界の創造者が発した言葉に、更なる広がりを見せる混沌。
「何ィ!? ゴルヘックスに何をしたらこんな――ゼ○ギアスみたいな針ネズミに――」
「どっちかっつーとウニだな。原形留めてないのは変わりないが」
「ゾイドがかわいそう……」
「駄目だ、こいつ……早く何とかしないと……」
「こんな邪神みたいなのと空母に乗せられたら、現地到着前に発狂しそうです」
「い いかん……お迎えが……」
「おい! そいつを何とかしないと爺さんが逝っちまう!」
 地獄絵図を大いに楽しんでいたらしいデイビッドは渋々といった様子で怪物をホエール
カイザーの格納庫に滑り込ませる。
 ひとまずは、地上への地獄の現出は終息をみた。
「……まあ、これが味方に付くわけであるから諸君らは安心していいということだよ」
 反省の色は如何なるスキャン技術をもってしても確認できず。
「てっめえ、騎士と戦う前に殺す気か! 脳みそまで脂肪に侵略されてんじゃねえか?」
「オリバー君、彼への糾弾は道中でも出来ます。アクシデントはありましたが……出発です」
 ホエールカイザー、強制出航。呆気に取られていた大気の精霊が慌てて風を復活させる。
 もしかしたら今生の別れとなるかもしれない旅立ちがこんな形で締めくくられてしまっ
たことに対し、残された少女二人が空の彼方へ消え行く空母を見送りつつ、ぽつり。
「……最低ね」
「そうだね……」

 同時刻、目的地では彼らの到着よりも早く全面攻撃が開始されようとしていた。
 斥候隊からの通信が途絶したということは、敵がこちらの布陣を知った可能性がある。
急造のベースキャンプは受身に回る戦いを考慮していない――ここを攻められれば全滅する。

229 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/04/07(土) 15:34:26 ID:???
 彼らは周囲の山林に山火事を起こし過低温を和らげるという暴挙に出るが、結果的には
ゾイド、車両、その他諸々の整備を予定より早く無事に終わらせることに成功。
 現地合流の者達も合わせて、兵員五千人超の大部隊が山麓に開いた巨大な穴へと進軍を
開始する。

「……行っちまったか、せっかちな連中だ。あいつらが来るまで待って欲しかったが……」
 地下へなだれ込んでいくゾイドの影を木陰から見送りつつ、オレーグは舌打ちする。
 オリバーたちと政府軍の突入は、タイミングが同期するほど敵に二正面作戦を強いやす
く有利だ。だが、流れが動き出してしまった以上仕方が無い。
「スキャンの結果、イグトラシル山脈の地下にとんでもなくデカい空間が走ってる。騎士
が作ったにしてはざっくばらんに過ぎるから、恐らくは太古に枯れた地下水脈の跡だ。
 んでもって、政府の連中は一番大きい入り口から足並みそろえて仲良く突入してった訳
だが、同じルートを後から尾けると距離を取る必要が出てきて咄嗟の事態に即応できない。
 そこで、別の入り口から侵入して奴らを監視できる程度の距離を蠢動する」
 『別の入り口』は、森の中で今は巨大なスケートリンクと化している湖のことだ。湖底
には枯れた水脈へ出られる水路の名残が存在しており、水中から地下へ侵入することができる。
「しかし、こんな水温の中を泳いでいったらゾイドでも心停止を起こしますよ。第一、湖
面だけじゃなく水深の半分くらいまでは凍結してるんですから」
「待て待て。いまから水を暖めてやるよ――」
 濃紺と深緑が彩るゴジュラスギガ。元来長所とする格闘性能を敢えて伸ばさず、乗り手
の能力を最大限生かす形で無数の火器を隠し持つ機体。
 その隠し武器の一つ、背びれに仕込まれた広域マイクロ波レーザーが展開する。
 ――イメージしろ。
 ゾイドと一体になり、己の力が及ぶ範囲を限界まで広げ、湖全体を覆う。次に後背から
空へと放射されるマイクロ波をその能力で屈折、集束させ湖へ。乱反射を繰り返すうち、
いつしかそこには巨大な電子レンジが出来上がるのだ。
 十分後には、銀盤は煙立つ温泉へと変貌していた。
「さて、温水プールを渡っていくならゾイドも心地いいだろう。この寒さだしな」

230 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/04/07(土) 15:38:12 ID:???
 標準時午前六時二十分、政府の先頭集団が敵とのファースト・コンタクトを果たす。
 その機体は青みがかった灰色。美的要求の全てを無視した武骨なリアクティブ・アーマー
が輪郭を一回り大きく見せ、手には新雪の如き純白の剣。
「……」
 騎士に多く見られる、圧倒的な力に裏打ちされた饒舌さを美徳とせぬ職務に忠実な男。
 彼こそは寡黙なる厳冬の騎士・セルゲイ。永遠の氷刃『シェヴォル』を持つ者。

 白き剣が放つ光輝。
 気体は液体へ。液体は固体へ。空気に含まれる窒素さえも瞬時にして液化し、急落した
気圧のために前後から空気の塊が殺到する。その圧力だけで機能不全に陥ったゾイドも、
小隊を構成するに足る数はいたであろう。更に一個中隊ほどが駆動部、燃料の凍結によっ
て行動不能に陥り、味方の行動を妨げた。

「低温攻撃……! ヤツの能力は低温攻撃なのか?」
 かつてマンモスやコマンドウルフが装備したという冷凍ガス砲は、超高密度に圧縮され
ていた噴射液が放出される際に急激な体積の膨張を起こし、周囲の熱エネルギーを大量に
奪うことを利用した兵器であった。だがこれはそんな生易しいものではない。
「各隊、遮蔽物を利用して分散! 然る後包囲を試みる!」
 洞窟の内部は入り組んでおり、柱状の岩などが林立している。何にせよまずは物陰を利
用して攻撃をやり過ごすことは有効と考えて正しい。

「第八-第十二小隊は第六小隊を盾に援護射撃!」
 攻撃能力を捨て、防御に特化したゾイドや車両の部隊が横並びに展開する。灰色の機体
が放ってくる第二の極寒波は五重に張り渡された光の壁に遮られ、実害を及ぼすことなく
霧消する。各種の障壁が相互干渉しないよう、緻密に計算されたシールドの発振機構は外
側から電磁シールド、プラズマフィールド、エネルギーシールド、レーザーネット、ナノ
マシン回析格子層の順に堅固な防壁を形成するのだ。
 ――とくれば、敵は当然無益な砲撃を止めにして格闘を挑んでくる。
 騎士の機体の例に漏れず、セルゲイの乗機もデスザウラーベースとは思えない驚異的な
運動性を発揮する。強力無比の脚力で光の壁に迫る灰鱗の巨竜。

231 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/04/07(土) 15:58:03 ID:???
 が、そうなればむろん岩陰に隠れていた部隊の包囲陣形は容易に完了し、背中を狙い撃
つ余裕が生まれるというものだ。
「流石に荷電粒子吸入ファンをむき出しにしておくほど愚かではないか。しかし、その重
装甲を破る手立てを用意していないと思うか!」

 重甲貫徹用マグナイトランス――超硬質金属ゾイ・マグナイトで鍛えられた穂先を装備
した、槍のような超高初速ミサイル。背の砲塔をリニアカタパルトに換装したカノントー
タスが射出器として使用され、その照準はまさに巨竜へと確定する。
 放たれた銀の槍。弾頭が砲身を離れきる前に音速を越え、鋭い穂先で空気の壁を貫いて
竜の背へと吸い込まれ――
 直前で、唐突に、逆制動の一つもかけることなく停止した。
「何だ?」
「やっぱ、一筋縄じゃ行かないってか……」
 柄から切っ先までの中間で刃の幅が変わっている、白光の剣は築かれた壁へ突き立てられ
その輝きを微細な粒子の流れに変えて己が身に吸収し始めた。
「ヤツの剣は物体のエネルギーを奪うことが出来るのだ! その力で熱エネルギーを奪い
去れば低温攻撃に、運動エネルギーを奪い去ればあらゆる攻撃を遮断するバリアになる!」
 戦慄すべき事実に政府軍の面々が気付いた時、絶対の自信を持って組み上げた五重の障
壁はその輝きを失っていた。取り払われたヴェールの下から現れた恐怖の表情は、待ち受
ける運命を暗示するものであっただろうか。

「騒がしくなってきましたネ、そろそろ囮の皆さんが生贄の羊になってる頃ですカ」
「陽動作戦の囮は捨て駒ではない! 彼らの被害が拡大しすぎぬ内に、我々がやらねば」
 ヴィクター・シュバルツバルトは科学者以外の職を持ったことは無い。ゆえに、戦闘に
関しては素人といっていい。そんな彼がヴォルフガング率いる精鋭部隊の隠密行に随伴し
ているのは、何ら実権を持たないお飾りのオブザーバーとしてだった。
 だが、彼にはそれで充分だった。例え自分が手を結んだのが悪魔であっても、GX-00――
“アーサー”と名乗る、憎き人造人間が斃れる瞬間を見る権利が他の誰にあろう。
「シャルロット――今なら解る。私は知らず知らずの内に、半歩遅れて付いてくるきみに
依存していたんだな――失うことで気付きたくは、なかったが」
<続く>

232 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 13:41:38 ID:???
【第三章】

 さて同じ頃、違う地域ではようやく夕闇が迫る時刻だ。
 沈む夕陽の彼方から、翼広げて迫り来るそれは黒衣の悪魔。背負いし翼を風になびかせ、
前傾姿勢で灼け付く空を突き進む。お陰でこの悪魔の全身各所に配色された橙色が空気に
溶け込み、黒衣が醸し出す狂気たるや凄まじい。その上右腕には鋏状した二本の刃、付け
根には銃身二門。左腕には長槍二本。これらを統べる頭部は逆三角形の兜を被り、額には
緑色した巨大な水晶が埋め込まれ、禍々しく光芒放つ。首はなく、胴体上部より突き出て
いる。これほどまでに非常識な風貌なれど、胴体部分に見える銀色と、黒色の立方体群を
視認できればこの悪魔が人造ゾイド・ブロックスの一種であると認識できよう。人呼んで
風王機ロードゲイル。「魔装竜外伝」本編においてこの黒衣の悪魔を鮮やかに乗りこなす
輩は一人しかいない。
 この黒衣の悪魔のコクピットは胴体最上部に埋め込まれている。形状は前後に長く、キ
ャノピー部分から内部を覗き込めば、前後復座式の室内が見て取れるというもの。
 前部座席の主は時折くしゃみを繰り返している。それもその筈、彼の金髪はもみ上げや
襟足に至るまでさっぱりと刈り込まれていたからだ。無精髭も剃り、着込んだパイロット
スーツまでもが卸し立てではないかと思われる位、奇麗にクリーニングが施されている。
初々しいとも言える清潔感は彼の正体を御存知の方なら以前との落差に驚かれただろう。
「スズカ、やっぱり寒いぞ…」
 くしゃみを続ける男は自らの襟足を撫でてみせた。精悍な男前なれど、何とも情けない
表情を浮かべている。
「寒いからこそ、パイロットスーツのボタンもファスナーもきちんと止めるのではござい
ませぬか?」
 後部座席からの返事は女声。滲み出るのは駄々っ子を構ってやる甘さ。声の主は東方大
陸伝来の白き着流しを身に纏い、肌白く彫り深い美貌はかの「蒼き瞳の魔女」に勝るとも
劣らない。しかし彼女の瞳は黒真珠色に彩られた扁桃型。その上黒の長髪は天辺で簡素に
結い、残り髪が腰まで伸びている。そして、両腕に抱える長刀二本。その内一本があの魔
女にさえ手傷を負わせた「機獣斬りの太刀・石動」であるのは言うまでもあるまい。
「そうは言うがなぁ…」

233 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 13:43:59 ID:???
 惚気る二人を余所に、夕闇は風雲急を告げていた。颯爽と躍り出た銀色の翼が数枚。矛
のような頭部を持ち、無骨な推進機関を背負って風と化す翼竜、その名も嵐飛竜ストーム
ソーダー。小翅竜プテラスと共にヘリック共和国の空の要と恐れられる空戦ゾイドだ。
 翼竜の額から黒光りする短剣が伸びた。翼の下からは折り畳まれた短刀が広がる。この
武器ですれ違い様に斬り付ける荒技が自慢であり、それ故に大概、無人機だ。
 ひとたび羽ばたくや否や、決死の特攻を開始する銀色の翼竜。それを黒衣の悪魔は軽や
かに避けてみせる。勿論単に避けるだけではなく目的地へ更なる前進をきちんとこなして
みせるのが金髪の男の実力だ。しかしコクピット内での会話は余りに他愛無い。
「そもそもお館様が『験担ぎ』と申されましたから黙認したのです。ですがあの鼻垂れ坊
やにしてやられたではございませぬか。当たらぬ験など担ぐは無用。清潔な身だしなみあ
ってこそイブも微笑むというものです」
 ここぞとばかりに反撃を喰らい、金髪の男はげんなりしている。一方コクピットの外を
見れば、相変わらず相棒たる黒衣の悪魔は鮮やかに嵐をかいくぐり、一切被弾せぬ有り様。
この男にとって愛する女性の諌言は空戦ゾイドの群れに勝る。
「わかった。わかったからよ…」
 なだめかけた男の目つきが変わった。着流しの美女も同様、殺気をみなぎらせる。それ
ぞれの目前に広がるコントロールパネルが明滅する。
「目標まで百キロを割った。…スズカ、準備は?」
 彼女はあらかじめ計ったかのように、鉢巻きを頭部に撒いたところだ。額の部分には鉄
板が、こめかみに当たる部分には簡単な端末が埋め込まれている。
「いつでも行けます」
「ようし、それじゃあ世間知らずの坊ちゃんを救出に、参ろうか!」
「御意!」
 男の額に起こった異変。立ち所にひび割れ、露出した水色の水晶。眩い閃光を放つ。
 閃光に呼応するかのごとく、速度を高める黒衣の悪魔。翼竜の群れをかいくぐり、猛然
と突き進む。錐を揉みながらも衰えぬ速度は強敵の追随を許さない。



234 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 13:46:36 ID:???
 蛇腹の船が汽笛のように遠吠えするや否や、ぬうと頭部前方より突き出た牙がうねる。
胴体が蛇腹ならこの牙も良く見れば蛇腹。その接合部分が一斉に伸び、隙間から噴出した
白刃の雨。このアノマロカリスは輸送ゾイドではあるものの、最低限の武装は施されてい
る。光学兵器を様々な角度から放つこの牙に死角はない。…勿論相手の実力が白刃をかい
くぐる実力を備えていなければの話しだ。
 灰色の空戦ゾイド達は全く動じる様子も見せず、白刃を自在に避けてみせる。しかし挙
動の不可解なこと。弾道を完全に予測し、極力無駄ない動きで避ける仕種は実に機械的。
 船の内部でも激動は継続していた。麻酔銃で眠らされた少年を、義眼の優男がひょいと
左肩に担ぐ。残る右腕の役目は周囲の面子に指示を送ることだ。
「半数は砲座に戻れ。四分の一で正面ハッチを固め、残る四分の一は『あれ』を警戒せよ。
 マリヤードは兵士を割り振ってくれ。グラントゥは残った面子の指揮を取るんだ」
 言いながら背後でもがく深紅の竜を親指で指し示す。依然として鋼の猿(ましら)が覆
い被さって身動きが取れぬ状況ではあるが、歴戦の兵を甘く見るつもりはない。
「フェイ、録音は済んでいるな?」
 後方に声を掛けると、すぐ後に続く美少年は黙って黒のジャンバーのポケットをまさぐ
った。引っ張り出されたそれは財布よりも小さな箱。美少年が周囲に取り付けられたスイ
ッチを押すと溜め息のようなモーター音が聞こえ、音声が追随する。
『例え、その行く先が…』
 音声はかの蒼き瞳の魔女のものではないか。
「しかし、こんなものでギルあ…ギルガメスの刻印が発動するのでしょうか?」
「わかる限りのデータによれば、な。とにかく一度、坊やに暗示を掛け、この音声を頼り
に刻印を発動させてみよう。駄目なら駄目で、ヒムニーザの刻印を研究させる」
 二人は頷くと、鋭い視線で深紅の竜を睨む。決死の覚悟、或いは狂気ともとれる眼差し
に竜は迷うことなく悲鳴を上げた。…蘇る、過去の記憶。決戦ゾイドとして人工的に生み
出され、無差別虐殺を強要されたトラウマが、竜の胸を締め上げる。
「ジェノブレイカーよ、悪いが唾を付けさせてもらう。我ら全員滅び去ろうと貴様だけは
本国に送り届ける」

235 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 13:50:20 ID:???
 ジリジリと詰め寄る二人。歯ぎしりする深紅の竜。せめて背中からのしかかる鋼の猿
(ましら)をどうにかしたい。だが全身を鎖で拘束された上に、目前の黒帆の石竜に行動
を封じられたこの状況を打開するのは至難の技だ。虚しく前足の爪を鋼鉄の床に突き立て
るより他ない。
 しかし彼らの想像を本当の意味で越える事態はこれから起こった。
「第三船倉、C−2隔壁破損! 第三船倉、C−2隔壁破損!」
 船内のアナウンスに優男らも深紅の竜も天井を見上げる。
「マリヤード!」
 透かさず振り返った優男の声に応じ、背後で石竜が黒帆を震わす。
「B−2隔壁の破損も確認。…来るわ!」
 天女の声が聞こえる頃には、優男も美少年も己が相棒に搭乗を済ませていた。竜の相棒
たる少年は二足竜が両腕で恭しく抱えている。一方、竜達の後方でめきめきと音を立てた
鋼鉄の壁。それも天井付近だけが鼠の住処のごとくひび割れていく。躍り出たのは勿論ネ
ズミよりも遥かに厄介な獣。
 全身を横に捻り、猫のごとく着地した浅葱色の狼。強引な侵入劇を実現させた得物は彼
奴の腹部を見れば一目瞭然だ。…唸り上げる車輪。いや、鋼鉄の床に触れただけで見る間
に凹んでいくこの破壊力はノコギリのよう。
 侵入者の元に、早速獣や竜達が群がる。小豆色した二足竜や黒蜥蜴も一緒だ。
「獣勇士諸君、抜け駆けはいけませんなあ…おっと」
 慇懃無礼な声の主が狼の頭部ハッチから現れたかに見えたが、後方からの銃撃を予想し
たかのようにさっさと閉めた。舌打ちするのは血気逸る悪鬼グラントゥ。
 一方、小豆色した二足竜は一歩前進するも、少年を抱える両腕は胸元に引き寄せ、警戒
を怠らない。
「成る程、確かにジャゼン殿の援護なしには捕らえることは叶わなかったかも知れない。
しかし、人の家に土足で踏みにじる輩に分け前を与える程、我らは寛大ではない」
「レガック殿よ、貴殿は魔装竜の真贋を見極めるべく半年以上時間を費やした。それほど
慎重であるにもかかわらず、ギルガメスの刻印が音声で反応するか試しておらぬと見える」
「何だと…?」
 奇怪なる男は立てた襟の下でほくそ笑む。声色は明らかに、目前でモニターが指し示す
図面と連動していた。…蛇腹の船とそっくりなそれは腹部の辺りで赤く明滅している。

236 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 13:54:22 ID:???
 呼応するかのように、灰色の猛禽は蛇腹の船を弄ぶような動作から一転旋回し、間合い
を離す。と、突如放たれたそれは鋼鉄の槍。今まで使わなかった腹部のミサイルだ。
「刻印が発動しなかったら魔装竜も宝の持ち腐れ。本国に帰還して『風斬り』の御仁でも
解剖しますか?」
「貴様、何故にヒムニーザの事を知っている…!?」
 訝しむ優男だが、奇怪なる男は答えない。自然と浮かんだ笑みは勝利の確信か、左右の
レバーを握り締め、踏ん張ってみせる。
 彼の不振な挙動の理由はものの数秒も経たずに明らかになった。轟音。耳の奥まで響く
破壊音と共に、竜達の右手の壁がひび割れ、鋼鉄の破片が飛び散る。咄嗟に両腕を抱え込
む小豆色の二足竜。少年を生身で晒すわけにはいかぬ。残る竜や獣達も頭部コクピットを
庇うが、続く阿鼻叫喚は破片を外部に吐き出した。…割れた風船が噴出する様子を想像さ
れたい。船の内外では掛かる気圧も違うのだ。踏ん張る獣達。しかし鎧を纏った兵士達は
堪え切れない。手近なものや獣達の身体に掴まった者はどうにか一命を取り留めたが、数
名はあっという間に外部へと吐き出された。
「ゾイドは亀裂に覆い被され!」
 指示を出す優男。早速一部の獣が寄り固まろうとするが、苦心の策は亀裂を作った張本
人によってあっさり封じられた。鉄板にミシン目打つような金属音と共に、壁になろうと
した獣達が吹き飛ばされる。続いて侵入してきた灰色の翼竜二匹。獣達には少々狭いこの
船倉を優雅に旋回。
 残る獣達は迎撃の一斉射撃で手一杯だ。忽ち内壁に無数の弾痕が叩き込まれる。だがこ
の二匹に獣達が気を取られている間に、船外で宙を舞う猛禽がやってのけた異変。…切り
離された、羽根。足が、尾が、首が次々と、壊れた積み木のように外れていく。異様な現
象は残る胴体に注意を凝らせば良く理解できることだ。人の背丈よりは大きい程度の立方
体群。銀色、或いは灰色のそれらには円形の穴がくり抜かれており、内部から青白い光が
漏れている。懸命なるゾイドファン諸氏ならこの立方体群について既にお気付きだろう。
 次々と亀裂を通過していくパーツ。あるパーツは獣達に体当たりし、あるパーツはその
一部に組み込まれた銃器で獣達を狙撃。気持ち悪い位理路整然とした動きは殺人機械の形
容がピタリと当てはまる。

237 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 13:56:23 ID:???
 空戦ゾイド三匹の猛攻は獣勇士らをも襲った。まず鋼の猿(ましら)。いつの間に取り
囲んだ猛禽のパーツ。仕込まれた銃器が正確に、この巨大なるゾイドの関節部分を狙撃。
「ええい鬱陶しい、離れろ! 離れろっての!」
 何とか遠ざけようとレバーを捌く美少年。猿(ましら)は深紅の竜を右腕で押さえ込み
ながら、残る左腕で懸命に払い除けんと試みる。だが多勢に無勢とはまさに今の戦況、猛
禽のパーツは自在に避けてみせると非情にも突いてみせた猿(ましら)の死角。アイアン
コングに限らずゾイドならばいずれも弱点となるであろうその箇所は「腰」だ。
 そこに、突き刺さった猛禽の羽根パーツ。さしもの猿(ましら)も溜まらず仰け反る。
しかし羽根パーツは一枚だけではない。二枚、三枚と次々に刺さる様子はさながら手裏剣
のごとく。遂には鈍い悲鳴を上げる鋼の猿(ましら)。それでも決して使命を忘れず竜を
拘束するのは流石だが、時間の問題とも言える。
 黒帆背負った石竜、そして黒蜥蜴には翼竜二匹が相手だ。しかしこの二対二の勝負は一
方的な内容にならざるを得ない。
「畜生、手の出しようが…!」
 黒蜥蜴の主人たる悪鬼は唇を噛んだ。ヘルディガンナー程のゾイドが備える火力では戦
場と化したこの輸送ゾイド・アノマロカリスの内壁をも破りかねない。しかし悪鬼が手加
減しようと、敵は容赦なしだ。着々と、翼竜の銃撃に追い詰められていく黒蜥蜴。
 一方、石竜の主人たる天女はモニターが弾き出した情報に戦慄していた。懸命に翼竜の
銃撃を躱しつつ、ディメトロドンの自慢の黒帆をなびかせ敵の弱点を分析。手っ取り早い
方法はコクピットを探せば良いのだ。だが弾き出された数値は彼女の手に余った。
「パイロットの生命反応、『極めて微弱』…人ではない!?」
 残る小豆色の二足竜は、浅葱色の狼と剣戟を交えていた。或いは「レブラプター対グラ
ビティウルフ」。しかし現状、「対」の文字を使う程拮抗はしておらず、寧ろ二足竜が一
方的に嬲られるに等しい展開だ。深紅の竜の主人たる少年をその手に抱えた今、背中より
伸びた二本の鎌で狼の爪や噛み付きを払うのが手一杯。
 何度目かの交叉を経て、遂に掴んだ好機はやはり狼の方。二足竜の二の腕に食らい付き、
獲物の目前に躍り出た。
「いざ絶好機!」

238 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 13:57:19 ID:???
 透かさず狼の頭部コクピットから躍り出んとした奇怪なる男。襟を立てたパイロットス
ーツの上にはマグネッサージャケットを羽織っている。
「そう簡単に事が運ぶか。…ブリッジ、まだか?」
 怒鳴る優男。その一方でレバーを巧みに操り、ゾイド同士の引っ張り合いに均衡を呼び
込ませる。彼がブリッジに促した合図は十数秒もせぬ内に、明らかになった。
 震え出した船内。奇怪なる男は上半身に奇妙な軽さを覚え、何が起こったのか思い知ら
された。慌てて降りかけていたコクピットに再度飛び込む。…程なく飛び込んだ船内放送。
「本船はこれより緊急着陸を開始します。本船は…」
 大音量は冷や水と化し、人やゾイドに浴びせられた。そして体感する重力の、急変。

 事態の急変は追いすがる魔女と銃神も察知していた。
「高度四千メートルを割ったわ」
「不時着か、畜生。空戦ゾイド、どうやら船内に潜り込んでドンパチやらかしたようだ」
 忌々し気に舌打ちする銃神を余所に、ハンドルを握り締めた魔女。いつもより心持ち力
を込めて、かすかな震えを押さえ込む。そうやっていつも通りの落ち着きを滲ませるのだ。
 銃神の側からは魔女の表情は伺えてもハンドルの握り加減までは確認できない。だから。
「…随分と、余裕だな」
 銃神の声に魔女は鋭い瞳を丸くした。
「まあね」
 それ以上の事は言わない。必要以上に心情を語るものでもなかろう、相手は刺客だ。
 白き狼が疾駆する彼方に、流れ星が見える。アノマロカリスの姿勢制御エンジンが吐き
出す青白い炎。

 同じ頃、とある共和国軍基地の上空では。
 夕闇を切り裂き、飛来してきた黒衣の悪魔にごった返している。何しろ最初の迎撃部隊
であるストームソーダー隊が出払ってから五分と経過していないのだ。対空砲台が起動し、
照準を定めるまでに基地内への侵入を許す始末。幾ら侵入者がロードゲイルなどというオ
ーバースペックも甚だしいゾイドを駆って挑んできたとは言え、警備の緩さは目に余る。
「出来過ぎだ。罠かも知れないが…」
「尚の事、急ぎましょう。大事なことは早くわかった方が…」
 美女の意見に金髪の男は頷いた。
「そうだな、さっさと終わらせよう。たれ込みによれば、だ…」

239 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 13:58:24 ID:???
 立ち並ぶ灰色の棟。殺風景を夕陽が照らし、醸し出されるは墓標の匂い。放たれる光の
飛礫を、舞い散る落ち葉のごとく黒衣の悪魔は避けてみせる。戯れのごとき舞いは目標確
認のための時間稼ぎ。モニターに開かれたウインドウが特定した目標は、十階程度と決し
て高くはないが回廊のように長い棟。戯れから一転、直立姿勢で棟の屋上に降り立った黒
衣の悪魔。風圧で銃撃する歩兵が何人も吹き飛ばされ、或いは逃げまどう中、悪魔の爪先
は屋上の床に若干の亀裂を刻むに留まった。背負いし翼は左右に広がり、浮遊状態を維持。
 右腕振り上げた黒衣の悪魔。屋上の床を鋏でくわえこめば、コンクリートが豆腐のよう
に切り刻まれる。崩落した天井。内部を走る兵士達は、瓦礫の雨に右往左往するばかり。
「スズカ、今だ!」
「御意!」
 快活に返事するが早いか、悪魔の胴体最上部が開き、中から躍り出た着流しの美女。い
や、その鬼気迫る形相は最早「鬼女」と呼ぶのが相応しかろう。黒真珠色した瞳は輝きを
失い、漆黒の闇色へと変貌を遂げた。
 それにしても黒衣の悪魔とて民家二〜三建て程度の身長はある。その最上部から飛び降
りるのだから自殺行為か、それとも別の秘策でもなければ話しになるまい。
 両腕を広げる鬼女。長刀二本は鞘に収め、左右の腕で握りながら。広がる、裾。内側か
ら金色に輝く光の粒が吐き出されるとは、迎撃に出た兵士達も予想だにしなかった。
「マグネッサージャケットか!?」
 彼らもそういう厄介な代物があること位、軍人に不可欠な知識として承知はしていただ
ろう。しかし東方大陸の民族衣装に組み込んだ例は大概、これが初見である。
 光弾の雨粒が吹き荒れる中を、鬼女は黒衣の悪魔同様軽やかに舞う。途中何度か掠めそ
うになるが、そこは流石に彼女とて歴戦の兵だ。時折裾をはためかせ、白雪を払うかのよ
うに散らしてみせる。原理は簡単だ。
「マグネッサーの反発力か、味な真似を…」
 鬼女は兵士の驚嘆など意に介さず、目標である亀裂の奥へと突き進む。
 金髪の男は愛する女性の頼もしき活躍に溜め息を漏らすばかり。勇敢な働きは頼もしい
が、生身での突撃はいつもハラハラさせられる。
(いいぞ、このまま上手く進んでくれ…)

240 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 14:23:58 ID:???
 悪魔の緑色に輝く瞳を通して、行く末を案じる金髪の男。しかし殺気を背後に感じ、透
かさず右腕を向ける。銃撃一閃、相手に反撃を許さず葬り去る黒衣の悪魔。敵の正体をひ
と睨みして目に焼きつけてみれば、球形の機械に羽根や手足を取り付けたごく簡素なブロ
ックスゾイドだとわかる。中でも最も多く見受けられるのが団栗のような胴体が取り付け
られ、そこから長尺のAZ(対ゾイド)マシンガンが伸びる蜂のような連中だ。俗に「キ
ラービー」とも呼ばれ、小改造が施された亜種が非常に多い。
 蜂達はいつの間にやら悪魔の外周を囲みつつある。
「さっきのストームソーダーより恐いわ。ここからは水の総大将の指揮範囲だろう…」
 スペックでは劣るゾイドを効率良く活躍させるのはあの男の持ち味だ。かつて雇われた
経験がそう確信させる。裏返すなら目標は近い。
「スズカ、そっちは?」
「もう目の前です」
 長刀の鞘は二本とも腰に指し、一本のみ引き抜き立ち回る鬼女。既に返り血を幾重にも
浴び、白の着流しは朱に染まっている。少々、身体に重さを感じるのは染み付いた血の重
さだ。彼女自身は息切れすることなく瓦礫が撒かれた廊下を速歩き。途中、殴り掛かる兵
士は叩っ斬り、銃撃する兵士はあの裾から吐き出す金色の光で一端弾き返しつつ、懐や腿
に潜ませた短刀を飛ばす。命中しようが表情は一切変えず突き進む。
 歩きながら、鬼女は鉢巻きを弄る。こめかみ辺りに縫い込まれた端末から、放たれた光
線。一条の赤い光線が埃舞う室内を貫く。彼女も首を動かしてみれば、やがて端末は小さ
なアラームを鳴らして使用者に合図を送った。光線の指し示す方向目掛け、歩を進める鬼
女。しかしその先に広がる埃が突如、切り開かれる。
 青い体皮が美しい二足竜が、三匹。人よりは背丈のあるこのゾイドは墨小竜バトルロー
バー。胴体部分には鎧を纏った兵士が跨がっていた。左手で手綱を、右手で刀を握り締め、
早速の突撃と相成る。

241 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 14:25:37 ID:???
 無言で睨み返す鬼女。二足竜の突撃にも慌てる素振りは見られない。腰を落とし、ゆっ
くりと歩を進める。三匹は一斉に突撃開始。騎乗の兵士も刀を振りかざす。人と比べれば
圧倒的なバトルローバーの巨体で体当たりし、左右に躱せばその長い両腕で捕まえ、兵士
がとどめを差す。ある種の王道戦法だが、しかしそれは彼女を嘗め過ぎた行為だ。
 それは兵士よりも先に、ゾイドの方が気付いていたかも知れない。何しろ首を傾け、銛
のごとき威容で迫っても大上段の構えを崩さぬ女だ。しかし躊躇する頃には決着はついて
いた。鬼女は軽く右足蹴って踏み込むや否や、中央の竜目掛けてまずは袈裟がけ。大根の
ように切り落とされた竜の首。忽ちバランスを崩し転倒する竜の胴体。前のめりになる騎
乗の兵士には短刀を喉元に投擲する抜かりなさ。
 一匹目が崩れ去るのを尻目に、二の太刀は右側の竜の胴体を輪切りに斬り上げる。騎乗
の兵士はよろめきながらも刀を浴びせようとするが、鬼女が返す刀で放つ水平斬りに遅れ
をとった。一匹残された左側の竜は負けじと上半身を持ち上げ、覆い被さらんとするが鬼
女は怯まず、見事決めた渾身の突き。忽ち刀より鳴り響く、耳を衝くような金属音。ゾイ
ドの生命力を吸い取っていくのがこの「機獣斬りの太刀・石動」の神髄だ。数秒の後、力
を失い倒れ込む二足竜。圧殺される前に太刀を引き抜きいなす鬼女。脇には突き技によっ
て串刺しにされた兵士が倒れ伏した。
「…イスルギを侮るなと言ったのだ、愚か者共め」
 声は二足竜が立ち塞がっていた方角から。埃の海が真っ二つになって現れたものの姿は
鬼女スズカも見覚えがある。全身水色の軍服・マント、そしてベレー帽に身を固めた長身
の男。馬面に、短く刈り揃えた精悍な頭髪。頬はこけ、落ち窪んだ瞳は守宮(やもり)の
ように大きく、全身より発せられる覇気や才気は何とも禍々しい。
 鬼女は今日初めて、太刀を中段に構えた。
「水の…総大将!」
「久し振りだな。もっとも『敗者万死』の暗殺ゾイド部隊に所属していた諸君らとは、予
定外の再会だがね。
 御覧の通り、正規軍は役に立たぬ。結局は私自ら矢面に立たねばなるまい」
 ジリジリと詰め寄る異相の男。鬼女も負けじと中段のまま摺り足。
「ガイロスのお坊っちゃんは何処におられるのか?」

242 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 14:27:14 ID:???
「剣客なら剣客らしい尋ね方があるだろう」
 地を蹴った鬼女。異相の男は臆することなくマントの下に隠したサーベルの柄を握る。
 鐘突くような音と共に鍔迫り合い、睨み合い。その最中、鬼女は異相の男の肩口から目
標を見定めた。…閉じられた鉄の扉。しかし、彼女は依頼者からの情報によりその先に広
がる光景を承知している。
 扉の向こうにはショーケースのようなガラスの筒が幾つも並べられている。ガラスには
針金が埋め込まれており頑丈この上ない。このガラスの筒の下にまで広がる部屋こそ政治
犯専用の牢屋だ。…そのうちの一つの中で、栗色髪の若者がじっと腕組みしている。成人
したかどうか微妙な位、幼い顔立ち。しかし瞳の奥底に見える輝きは何とも穏やかで、老
成と強靱な意志を感じさせる。
 彼の周囲は一面純白の壁で覆われているため、外部は天井付近に広がるガラス張りの壁
から伺うより他ない。この若者…ヴォルケン・シュバルツは天井を見上げると首を振った。
「助かっても助からなくても最悪の事態に変わりなし、か…」
 ガイロスの特殊部隊・シュバルツセイバー獣勇士が企む魔装竜ジェノブレイカー奪取。
それを牽制すべく水の軍団はガイロスの未来の指導者ヴォルケン・シュバルツを捕縛した。
しかしそれで引き下がる獣勇士でないのは今までを御覧の通りだ。遠からず、彼には処刑
宣告が下される。たとえ今、救出されたとしてもヘリック共和国軍がガイロス侵攻の口実
にする。良い未来は何処にも見当たらない。

 蛇腹の船が地面を削る。跳ねる土砂が波涛と化し、ひとたび星空を黄土色に染めるがそ
れもほんの一時の事。運河のごとき道筋の先で、ようやく船は静かに停止した。
 事件の舞台を静寂と暗闇が包み隠す。あらかた輝きを失った照明の下には、ゾイド達が
鋼鉄の床に爪立て至る所にうずくまっていた。高度五千メートルからの不時着故、食い込
む傷跡も深い。
 最初に立ち上がったのは小豆色した二足竜。抱えた右腕を外してみれば、依然眠り覚め
ぬ少年の姿が。頭部コクピット内で凝視した義眼の優男はひとまず胸を撫で下ろす。

243 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 14:28:33 ID:???
 次いで、見渡した周囲。まず、正面には鎖で組み伏せられたままの深紅の竜。そう言え
ば、覆い被さっていた鋼の猿(ましら)は見当たらない。幸い竜の方は意識を失っている
様子だが…。他の頼れる部下はと観察すれば、右手には黒蜥蜴が、左手には黒帆背負った
石竜がうつ伏せている。
「マリヤード、グラントゥ、応答しろ。フェイ、お前どこに…」
 何処かと尋ねようとした時感じた殺気は真後ろから。躊躇わず振り向く二足竜。素手の
左腕を後ろ廻しに突き立てるが、その動作自体は余り効果を為さなかった。
 殺気は鋼鉄の拳が弾いてみせた。勿論鋼の猿(ましら)の腕によるものだ。
「レガック兄ぃ、大丈夫? ギルあ…ギルガメスは?」
 鋼の猿(ましら)は二足竜に背中を合わせつつ仁王立ち。首だけ回転して後方を伺う猿
(ましら)に対し、二足竜は自らの左掌に眠る少年を見せてみせた。
「この通りだ、お前は早くジェノブレイカーを拘束し直せ」
「そうもいきません。彼奴がいます」
 二足竜の背後、即ち猿(ましら)の前方には浅葱色した狼の姿が。
「レガック殿の言う通りになさった方が良いですよ、フェイ・ルッサ君。
 魔装竜ジェノブレイカーの横取り、まさか秘策の一つも用意せずに挑んだとは…思って
ませんかねえ?」
 奇怪なる男が襟を立ててほくそ笑む。義眼でモニターを睨み、忽ち顔色を変えた優男。
「フェイ、空戦ゾイドがいないぞ!」
 首をもたげ、左右に振る猿(ましら)と二足竜。…と、天井を横切り旋回する灰色の翼
竜二匹の姿が。間合いを十分に離し、速度を落としたところで遂に放った腹部のミサイル。
射出方向は深紅の竜。…それが竜の肩に、腿に突き刺さった時、何故今まで翼竜がこの武
器を使わなかったのかはっきりした。ミサイルの後方には太いワイヤーが伸びている。
「我が陣営の手で発掘した『グラビティホイール』の底力、お目に掛けよう」
 翼竜の腹部を良く見れば、円盤状のパーツが埋め込まれている。既視感を覚えた優男と
美少年は気付いた。浅葱色した狼の腹部にも同様の意匠があることを。
 翼竜の腹部から発せられた爆音は、金属が擦り切れるよう。コクピット内にも聞こえる
騒音に二人は溜まらず耳を押さえるが、眼前にはそれ以上の異変が起ころうとしている。

244 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 14:29:28 ID:???
 引きちぎられる、鎖。一本、又一本。じたばたともがく深紅の竜など全く意に介さず、
翼竜二匹は着々と引っ張っていく。徐々に浮き始めた竜の巨体。目指すは当然、先程彼ら
が侵入した際に開けた風穴だ。
「ば、馬鹿な。ブレイカーの巨体をこうもあっさりと引っ張り上げるなんて…」
「B計画が実現すれば、こういう未知の技術も実現する」
 させるかとばかりに躍り出た鋼の猿(ましら)。幾らあの翼竜が馬鹿力でも、本体やワ
イヤーにそこまでの耐久力はない筈だ。しかし猿(ましら)の主人はもう少し注意すべき
だった。さっきまで蛮勇を振るっていたゾイドの羽根が、鉈のごとく猿(ましら)の背中
に叩き付けられる。仰け反る猿(ましら)をあざ笑う猛禽は、天井で逆さにへばりついて
いた。しかもブロックスゾイドらしく首だけは逆さに回転させて。
 駆け寄ろうとした二足竜の正面には浅葱色した狼が立ち塞がる。
「あとは刻印の少年を戴くのみ」
 ジリジリと間合いを詰める狼。二足竜の主人は弱り果てた。右腕に抱える少年こそは絶
対死守せねばならぬが、それ故に満足に戦える状況ではない。頭部コクピット内に叩き込
むのが安全だが、そんな余裕は果たしてあるか。何とか打つ手を弾き出すべく暗黒のコク
ピット内を左右に見渡した、その時。
 乾いた破裂音が、何発も。音は二種類。より低い方が聞こえると共に、狼が、猛禽が、
翼竜が一匹、又一匹と破裂した風船のごとく弾ける。張り手のように高い音が小刻みな響
きを重ねた時、深紅の竜を拘束した鎖はちぎれていた。全身が軽くなり、驚いた竜は四肢
を支えに伏せた姿勢を持ち上げる。
 流れ星が船倉に入ったのかと、深紅の竜は錯覚した。星の輝きが差し込む風穴から、飛
び込んできたヘッドライトの閃光は太陽よりも眩しい。竜は星を駆る魔女のシルエットに
感激し、溜まらず声を上げる。
「ブレイカー!? ギルは…」
 竜は振り向きざま、低く跳躍。これも魔女が翼竜の拘束を断ち切ってくれたからこそ。
太い鎖の欠片をまき散らしつつ、目指すは小豆色した二足竜の真正面。巨体が羽毛のごと
く舞い、爪先が床に触れる音だけ谺するこの繊細な動き。透かさず自らの半分程もない二
足竜の右腕を掴み、捻り上げる。
「しまった!」

245 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 14:30:41 ID:???
 優男の悲鳴など、お構いなしに深紅の竜はもう片方の腕を伸ばす。根元から簡単に折れ
る二足竜の指。握力から解放された若き主人の小さな身体を、竜は透かさず掌で受け止め
る。指先で人の涙を拭ってみせる繊細且つ器用なゾイドだからこそ為せる技。
 深紅の竜は大事な宝物を手にするや否や、今度は激しく蹴り込んだ鉄の床。二足竜に投
げ掛けた視線は見逃してやるとでも言いたげだ。背後には勿論、頼れる魔女の駆るビーク
ルが控えている。
「ギル!」
 竜の胸元につけたビークル。身を乗り出し、長い両腕伸ばす魔女。抱き上げられた少年
は眉間に深い皺を寄せた状態のまま、依然深い眠りから覚められずにいる。魔女はふと、
少年の首の後ろに奇妙な手触りを感じ、触れた掌をじっと凝視。小さな身体をそっと傾け、
計器類を照明代わりに感触の正体を確認する。…凝固しかかった血液。意外と小さな傷口
に魔女は少年の受けたダメージを理解した。
「我慢しなさいね」
 己が額に指を当てると、忽ち浮かんだ刻印の輝き。眠る少年に投げかける蒼き瞳の眼差
しは澄み切った空のごとく。
「例え、その行く先が。いばらの道であっても、私は、戦う」
 指を今度は少年の額に翳す。実質二〜三秒、体感では数分の間を置き、遂に彼の額にも
宿った刻印。瞬き数度、眠たげに開かれた少年の円らな瞳は潤んでいた。
 不完全な「刻印」を宿したZi人の少年・ギルガメスは、古代ゾイド人・エステルの
「詠唱」によって力を解放される。「刻印の力」を備えたギルは、魔装竜ブレイカーと限
り無く同調できるようになるのだ!
「え…エステル、先生!? ここは…痛っ!」
 痛みは首ではなく、額を襲った。麻酔を刻印の力で強引に中和したのだから無理もない。
 一方、優男や美少年の表情には落胆の色がありありと伺える。

246 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/10(火) 14:31:12 ID:???
「眠っているのに刻印が発動しただと?」
「音声は関係なかったのか、畜生」
 美少年は小型の録音機器を床に叩き付けた。そんな彼らのことなどお構いなく、継続す
る師弟の会話。
「ここがどこかだなんて、私が聞きたいわよ。とにかく脱出しましょう」
「ここから…」
 未だ麻酔が抜け切らぬだるい身体を持ち上げはしたが、それよりも厳しい問題が少年を
硬直させる。
「フェイは…フェイは…!?」
「ギルガメス!」
 声の方角を見遣る師弟と竜。こちらもよろめきながら立ち上がった鋼の猿(ましら)。
背中に突き刺さった猛禽の羽根を一本、又一本引き抜く。その度吹き出るどす黒い油。
 深紅の竜はそっと胸部コクピットハッチを開けた。首を傾け師弟に視線を投げ掛ける。
相棒が促す決戦の時。
                                (第三章ここまで)

247 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/13(金) 23:30:38 ID:???
【第四章】

「待てよ…待てよギルガメス。話しはまだ、終わっちゃあいない。
 エステルさん! 獣勇士フェイ・ルッサ、シュバルツセイバーとしてチーム・ギルガメ
スの力をお借りしたい」
 スピーカーを通して発せられる凛とした声は星明かりが頼りの室内によく響いた。猛禽
の翼をことごとく引き抜いた鋼の猿(ましら)は両腕を鉄の床につき、懸命に全身を支え
ている。頭部コクピット内では美少年フェイが肩を怒らせ、懸命に左右のレバーを握って
いた。今にも暴発しそうな、涙目。
 シュバルツセイバー。その名を耳にした時、刮目した魔女エステル。軽く鼻で息すると、
意外にも返した微笑みは美しいが、それは抜き身の太刀に魅入られるようなもの。魔女の
腕に抱かれたギルもハッと息を呑む。
「そう。本当のこと、話してくれてありがとう。一つ聞きたいのだけど、良いかしら?」
 困惑の表情は意外な肩透かしによるもの。美少年は無言で魔女の質問を待つ。
「…貴方達に協力した後も、フェイ君、貴方はギルの友達でいてくれる?」
 声を失った美少年。二秒、三秒、答えを胸の奥で探す。しかし捜索はあっさりと潰えた。
 猿(ましら)のスピーカーは沈黙を余儀無くされた。フェイはコントロールパネルに両
肘つき、彫刻のような容貌を掌で覆う。…彼の中で、ギルガメスは次代の英雄である。だ
がいざ「ファーム・ワイバーン」所属名義でブレイカーの技術がガイロスに供与された場
合、この英雄とどう接するつもりか一度でも考えたことがあったか。取ってつけたような
答えを返す程、彼は歳を重ねてはいない。
 さしもの魔女も、少し意地悪な質問だったかと苦笑した。慰めるように告げる。
「…貴方が心から友達になると言えるなら、きっと悪い選択じゃあないわ。
 その時が来たら、又お話しましょう。ギル、ブレイカー、行きましょう?」
 深紅の竜は胸元で抱える若き主人と顔を見合わせた。さっきまで彼らがもがいた迷路の
出口が、あっさりと開けたかに見える。
 ビークルのハンドルを廻す魔女。エンジンを吹かし、颯爽とビークルを旋回させる予定
だったが、それで物事が住む程甘くはなかった。
「ま、待った! ギルガメス、逃げるな!」

248 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/13(金) 23:32:43 ID:???
 鋼の猿(ましら)は背負いし二本の棒に手を廻した。一見するとミサイルのようなそれ
こそ鉄猩アイアンコングの切り札。引き抜かれた棒は鎖で繋がれている。美少年が戯けて
「大根ヌンチャク」と名付けた武器だ。
「友達ではなくなろうとも、僕は君達を連れ帰らなければいけない。
 祖国で皆が待っているんだ!」
 猿(ましら)の緑色の瞳がぎらり、明滅。
 魔女の手中に抱かれた不肖の弟子は、よろめきながらも傷付いた上半身を持ち上げる。
驚いて彼の小さな身体を抱き寄せる魔女。
「ギル、無理したら駄目。早くこの場から立ち去らないと…」
「フェイに、伝えなきゃいけないことがあるんです。お願いです、先生」
 魔女はやや呆れ顔で溜め息をつくと、頭上を見上げた。二人の様子を見守る竜の首は間
近。竜は鼻先を降ろしてきた。胸元を細長い頭部で覆い隠し、その内部に導くためだ。
 魔女の肩を借りながら、竜の胸部コクピット内に乗り込んだ少年。着席と共に拘束器具
が肩に降りる。ナイフを縛り付けた右腕のタオルを解きつつ、遂に映し出された全方位ス
クリーンを睨む。
 翼を水平に広げた深紅の竜。側から離れるビークル。魔女の心配を余所に対峙する二匹。
「ギル、一分で済ませなさい」
 口調は思いのほか、穏やか。少年は頭を掻くも、やがて至った表情は苦虫を噛んだよう。
 だが苛立ちは、不意に脳裏に侵入してきたイメージによってかき消された。激しく明滅
する、少年の刻印。それと共に、拘束具に逆らうように左の脇腹を押さえる。熱い痛み。
まるで火傷でもしたかのような…。彼は相棒との正常なシンクロを確認し、安堵の笑みが
痛みを上回った。そして、それ以上に怒濤の勢いで流入してくる激しい感情のデータに心
底、申し訳なくも思った。…誰がチーム・ギルガメスに罠を仕掛けたのか。少年と魔女
(或いは女教師)を分断したのか。相棒が間近で見つめていながらも抗うことができず、
若き主人も中々状況を理解してくれなかった。そんな悔しさが否応無しに入り込んでくる。
「ブレイカー、ごめん。悪かった。…悪かったから、もう怒るなって!
 それより、どうすれば良い?」
 声に応じ、全方位スクリーンに広がるウインドウ。映像にしばし魅入る少年。
「凄いな、(エネルギー)回復中も考えてたの?」

249 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/13(金) 23:33:36 ID:???
 返事は勢い良く広げられた二枚の翼に代えられた。いつも通りの低い姿勢で身構える。
 一方、美少年は苛立ちを抑え切れない。
「どういうつもりだ。やると言うなら、もう一度眠らせるぞ」
 重心をゆっくり落とす鋼の猿(ましら)。左前に構え、後肢を前後に大きく開いた。左
腕は前方に伸ばし、掌を一杯に広げる。右腕は先程引き抜いたヌンチャクの片方を握り、
台風のごとく頭上で振り回す。かくして聞こえる、空気切り裂く旋回音。
 深紅の竜対鋼の猿(ましら)。或いは魔装竜ジェノブレイカー対鉄猩アイアンコング。
古代剣闘士の戦いにも似た意地と意地とのぶつかり合い。
 だが神聖な勝負に漁夫の利を見い出そうという者もいる。ふらふらと起き上がった浅葱
色の狼。目前を睨めば先程まで拘束を余儀無くされていた深紅の竜が今や自由のみ。しか
しこの場を離れず一対一の勝負とは、これはとんだお人好しだ。
「愚かなり、ジェノブレイカー。今一度、縛につけ!」
 奇怪なる男は立てた襟の下で吠えたが、しかし引き絞る筈のレバーは全身を衝撃から支
えるのに手一杯となった。浅葱色の狼、数度横転。横倒しになった腹部は装甲が剥がれ、
ゾイドコアがむき出しになっている。
「な、何奴!?」
「ジャゼン、裏切りの代償はその身で購え」
 微かに差し込む星明かりを背負い、仁王立ちする白き狼。主人は己が顎鬚を撫でた。
「銃神…ブロンコ!? よもやアノマロカリスに追い付くとは…」
「貴様がガイロスと共闘したように、俺は蒼き瞳の魔女と共闘した」
 銃神は眉間の深過ぎる皺以外、努めて無表情だ。
「ふはは、そこまでするとは予測できませんでした。…しかぁし!」
 吸い込まれるような暗闇広がる天井へと、再び舞い上がった翼竜、そして猛禽。放物線
の軌道は鋭く、花びらを描くように中心の白き狼を目指す。だが白き狼は余裕綽々、首の
後ろに倒したスコープが眼前へ覆い被さるのと、背中に折り畳んだ大砲二門が前方に伸び
るのはほぼ同時。あとは必殺必中の射撃を披露するだけだ。背中の砲塔がぐるり、旋回。
三百六十度回転の間に業火三発、これで十分だ。
 硝煙が円を描き、大砲の残像と共に咲いた散華の花、三輪。その間、中央に立ったまま
微動だにしない。これが王狼ケーニッヒウルフの底力だ。
「こ、小癪な…!」

250 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/13(金) 23:34:56 ID:???
 よろよろと立ち上がる浅葱色の狼。これが最後の一撃とばかりに腹部の車輪を引き出す。
猛然たる回転と共に狼、突進。敵の目前で前輪を持ち上げるが、その時奇怪なる男は自分
が取り返しのつかない失策をしたことに気がついた。…前輪そして上半身が持ち上がった
時には、白き狼の大砲が既に火を吹いていたことに。それが彼の、最後の認識だ。
 白き狼の頭上を、先程まで浅葱色の狼だった鉄塊が火だるまになりながら飛び越えてい
く。後方に着地するまでに鉄塊は爆発、四散した。
「暗殺ゾイド部隊に二度も同じ手は通用しないのは承知の筈だ」
 銃神は一瞥もしなかった。するわけにはいかなかった。最大の獲物が置かれる状況を把
握するのが先。それは彼の使命からすれば当然なれど、後に彼を後悔させることともなる。
 さて白き狼が睨む方角には、今まさに太刀交えんとする両雄の姿。狭い歩幅で横歩きし、
鉄の床に着々と円を描く。
 そんな中、うごめいた鉄塊は両雄の背景と化しつつあったもの。黒帆がしなる。星明か
りに半透明の頭部が反射する。
「冗談じゃあないわ、ここまで来て獲物に逃げられるなんて…」
「決闘を気取るな、フェイ!」
 天女が、悪鬼が、両雄に水を差さんと相棒を奮い立たせようとする。横取りは許すまじ
とレバーを捌きに掛かる銃神。だが彼の判断は取越し苦労に終わった。空気切り裂く砲声
はたった二発だ。両雄を囲みリングを作るように飛ぶビークル。再び四肢の力が緩み、鉄
塊へと逆戻りのディメトロドンにヘルディガンナー。しかし機上の魔女は素っ気無い。
「ギル、ブレイカー、急ぎなさい」
 魔女の冷ややかな眼差し。若き主人はつられて「はい」と返事をしたが、しかし彼は気
付いていない。命運尽きるやも知れないこの戦いにおいて「勝ちなさい」などとは一言も
言わないのだ。果たして勝利の確信なのか、それとも本当に急かしているだけなのか。
 大きく息を吸ったのは少年も美少年もほぼ同時。吐き出す時、発生するエネルギーは爆
発的なレバー裁きを生み出す。

251 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/13(金) 23:36:09 ID:???
 竜の右翼が、猿(ましら)の右腕が描く弧は鋭い。右翼の裏側からは双剣が展開される
が、その程度は予定なりと猿(ましら)もヌンチャクを勢い良く振り回す。轟音、そして
飛び散る火花。しかしこの瞬間では猿(ましら)に軍配が上がる。がっちりと、双剣に絡
み付いた大根ヌンチャク。
 吠える美少年。見た目などかなぐり捨てた雄叫びこそ勝利の確信。伸びる怒声と共に猿
(ましら)の頭上まで跳ね上がる深紅の竜。鋭い放物線。この頂上に標的が達するまでに
はヌンチャクを解き、背負いし箱に接続する手早さこそが奥義の真骨頂。
「コング・ブリーカー!」
 必殺技を名乗る時、パイロットと相棒の呼吸は揃う。今回もそうだと、美少年が感じた
無常。最初からこうなることはわかっていた、これから全身に受ける軽い振動こそが、相
棒ガイエンが獲物の胴体を背負いし箱の上に叩きつけた証。あとは両腕でがっちりと押さ
え込みながら、先程までヌンチャクだったあの二本の棒が剣と化して高速回転、竜の胴体
に衝撃を与えて全ては終わり。そこまで…そこまで描いたイメージが、数秒も経ずに根底
から崩れ去った。
「揺れが…弱い!?」
 弱い筈だ。深紅の竜は、二本剣を左の脇腹にがっちりと抱え込んでいる。必殺技完成の
寸前で、標的は自ら的を外れたのだ。今度は竜達主従が呼吸を揃える番。
「ブレイカー、魔装剣!」
 少年が、深紅の竜が吠える。首しならせつつ、額に畳んだ鶏冠を前方に伸ばせば忽ち伝
家の宝刀完成。放たれた矢のごとく猿(ましら)の胴体に突き刺さる。
「1、2、3、4、5、これでどうだ!」
 傷口からほとばしる光。鋼の猿(ましら)は背負いし竜を振り解かんと、さっきまで抱
え込んでいた両腕でもがく。しかし竜は爪を立て、二本剣の根元にがっちと突き立てた。
勝利をつなぎ止める決死の杭。猿(ましら)は今まで竜を抱えていた両腕で、振り解こう
と懸命にもがく。腕力は猿(ましら)が断然上だが、しかし竜としてはこの爪立てで五秒、
粘れば済むこと。
 猿(ましら)の力む指が、突如弛んだ。膝からがくりと崩れ落ちる。肩に抱え込まれて
いた竜は強敵の重い両腕を解きつつ、猫のような身軽さで着地。一瞬鉄の床すれすれまで
腹這いになるも、透かさずバネのごとく膝を伸ばした。…勝利の雄叫びは、ない。

252 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/13(金) 23:38:35 ID:???
 美少年には最早ひとかけらの余裕もない。ひたすらレバーを動かし、コントロールパネ
ルを叩き、何とか相棒の意識を回復させようと試みる。しかしその程度で立ち直れる程、
竜の切り札は甘くなかった。
「何故躱した!? 躱せた!? スペックか、それとも僕の力不足か…」
「ブレイカーが『考えていた』のさ、フェイ」
 開いた竜の、胸部ハッチ。竜の主人は上半身の拘束を解き、その身を晒した。…思わぬ
事態に眼光ほとばしらせた者がこの場に何人もいる。まず丁度裏切り者を葬り去った銃神
ブロンコ。ギルガメスを、魔装竜ジェノブレイカーを葬り去るには絶好機。首をさり気な
く傾ける白き狼。だがその視界にふわり、飛び込んできたビークル一台。機上の魔女が鋭
い眼差しで斬りつける。この女性はゾイドとの睨み合を平気でこなすのだ。銃神は思うと
ころあったのか、握り締めたレバーを緩めた。やむなく緑色の眼光を若干外す白き狼。魔
女も厳しい表情を崩さぬまま少年達の方角へと視線を移す。
 少年は着ていた白いTシャツをぐいと、持ち上げてみせる。…左の脇腹にくっきり浮か
んだ紫色のあざ二つ。美少年は目を剥いた。…もし必殺のコング・ブリーカーが決まって
いたら、少年はシンクロの副作用で丁度同じ位置に傷が再現されただろう。しかし先程の
戦い、コング・ブリーカーは不発に終わったのだ。そして最初に技が決まった時、少年は
相棒とのシンクロを果たせていない。ではこの傷は一体…。
「ブレイカーは回復中もコング・ブリーカーを破る秘策をずっと考えていた。
 僕は理解するために、こいつの痛みも、悔しさも全て分かち合った。腹の傷はその証さ」
 美少年は、両腕を己が腿に叩き付けた。深紅の竜は拉致されてから恐らくつい先程まで、
コング・ブリーカー対策をひたすらシミュレーションしていたのだ。それだけなら体力も
左程消耗するまい。そうして精度を高めた対策を、この若き主人とシンクロして熟知させ
たのだ。…だがそのために、相棒が受けた傷までも再現させる必要があるのか?
「『共に分かち合う』…良い心掛けね、ギル」
 暗闇を震わす響きは澄み切っていた。ビークルはヘッドライトを伸ばし、二匹の周囲を
旋回中。機上の魔女も鋭い眼差しで暗闇を切り裂く。
「エステル先生…」

253 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/13(金) 23:39:34 ID:???
「ギル、早く中に戻りなさい。手負いの狼だっているのよ?」
 言われて少年は、初めてスクリーンを介さぬ視界をきょろきょろと見渡す。主人の意外
と低い緊張感に、見かねた竜は両腕で胸元に蓋をした。しぶしぶ引き篭った少年は、しか
し胸部ハッチの閉鎖と共に全方位スクリーンに映し出されたウインドウを見て凍り付いた。
「王狼…ケーニッヒウルフ、『テムジン』!?」
「蒼き瞳の魔女よ、用件は済んだか?」
 白き狼の頭部より、スピーカー越しに会話が試みられる。
「ええ。御協力、感謝します」
 素頓狂な声が竜のスピーカーから発せられた。少年は混乱をきたしている。よもや憧れ
の女教師が宿敵『水の軍団・暗殺ゾイド部隊」と手を組むなんて。それも相手は彼らを何
度も窮地に立たせた銃神ブロンコだ。何が起こったのか、彼にはさっぱりわからない。竜
は主人の品が無い音声を斬ると、代弁者として狼を睨み付け、暗に説明を促す。しかし狼
が告げたのは別のことだ。
「シュバルツセイバー獣勇士の諸君、吉報だ。
 君達の主人は、処罰を免れた」
 今度は美少年が、部屋の片隅で相棒と共にうちひしがれていた優男らが声を上げる。早
速繋がれた通信回線、少年達は様子を見守るより他ない。

 水の総大将と猟兵スズカの激闘も佳境に差し掛かろうとしていた。交わる太刀とサーベ
ル。その度弾ける火花こそ、互いが決定打を欠いたまま刻々と時間が過ぎていく証。何度
目かの鍔迫り合いも隙らしい隙が伺えず、結局は離れて中段に構え直す。それにしても、
と鬼女と化したスズカは内心舌を巻いた。惑星Ziの戦いにおいてスペックに頼るのは愚
かなことだが、だとしても太刀と交わり折れぬサーベルとはどうしたことか。しかもこち
らは「機獣斬りの太刀・石動」だというのに。
 一方水の総大将は守宮(やもり)のごとき禍々しい眼差しを反らさぬまま、余裕綽々。
「流石は猟兵にして『風斬り』の片腕だな。しかし、時間はないぞ?」
 この異相の男の言う通りだ。風王機ロードゲイルを用いたからこそなし得た奇襲だが、
奇襲は仕掛人が脱出に成功して初めて奇襲たり得るのだ。しかも今回は、救出せねばなら
ない人物がいる。
「左様ですね。では…」

254 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/13(金) 23:40:39 ID:???
 鬼女は遂に大上段に構えた。これぞ「蒼き瞳の魔女」をもってしても受け切れなかった
「合掌の構え」だ。裂帛の気合いを吐き、周囲の空気を、埃までも釘付けにし、いざ間合
いを詰めんと一歩踏み出そうとしたその時。
『そこまで、そこまで!』
 窓の外、亀裂の向こうにちらり、ちらりと鋼鉄の蜂が見える。続々と集結するキラービ
ーの大軍。音声はそのいずれかのスピーカー越しに放たれたようだ。殺気は一切伺えない。
それは黒衣の悪魔・ロードゲイル「ジンプゥ」の周囲も同様。胴体最上部からキャノピー
越しに上空を見渡す金髪の男ヒムニーザは溜め息をついた。夕陽に照らされ銅色と影色で
染め上げられた蜂の群れは砂漠に並ぶ墓標にも似た。
 一方異相の男は憮然たる表情。奥歯を噛み締め、感情を押し殺すように呟く。
「これは…どうしたことだ」
『水の総大将殿、ヴォルケン・シュバルツ氏を釈放せよとの通達がありました。今すぐ武
器を収め『使者』に引き渡し願います」
 使者と名指されて鬼女は刮目。却って目前の強敵が暴走でもせぬかと注意を向ける。
「誰の命令だ?」
『水の総大将殿、貴殿に命令できる者などこの星に一人しかおりません』

 黒衣の悪魔は夕闇を我が庭のごとく悠然と舞い上がった。周囲は依然として鋼鉄の蜂が
群れを為すが、彼らも羽根を振動させながら着々と道を開けていく。敵に見送られるとは
まさにこのこと。ヴォルケン・シュバルツ救出作戦はヘリック共和国軍が自ら差し出すと
いう形で幕を降ろした。呆気無いと言うには余りに出来過ぎた話しだ。
 悪魔の胴体上部は満席である。定員二名のところに三名。前部座席に着席するヒムニー
ザはともかく、スズカとヴォルケンが相席だ。二人とも貧相な体格ではないだけに中々苦
しいものがある。ヒムニーザは気が気でない。何しろスズカは血塗れになった着流しを脱
ぎ、さらしの上にバスタオル一枚と来た。臨席の若者が変な気でも起こしやしないか心配
この上ない。
 だが、肝心の若者は美女が臨席しているのにも関わらず憂鬱な表情を浮かべた。
「残念です…」
 金髪の男も闘志冷めた美女も首を傾げた。
「チーム・ギルガメス獲得も、拉致も失敗です」
「な、何だって!?」

255 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/13(金) 23:55:55 ID:???
 男女は息を呑んだ。彼らは連続テロ事件首謀者の嫌疑を掛けられたヴォルケンを救出せ
よとの命令しか受けてはいない。
「成功していたら僕は引き渡されなどしなかった。人質となった僕は拉致を断念させるた
めの切り札ですからね。
 失敗したらその価値も無くなってしまいます。だからヘリックは、僕を手放してガイロ
スに恩を売った」
「ちょっと待った、あんた程の人物だ、拘束すればゲリラへの強力な牽制にならないか?」
 ヴォルケンは薄く笑った。
「ヘリックの上層部が皆、ゲリラやテロを殲滅したいと思っているわけではありませんよ」
 顔を見合わせた男女。それはヘリックの上層部がテロリズムを巡って二分されている可
能性を示唆するものだ。

 両腕にビークル抱え、大地滑る深紅の竜。いつものように翼を水平に翳し、六本の鶏冠
を背中一杯に広げながら。しかし加速時に見せる地面への蹴り込みは見られない。全ては
余力を蓄えるためだ。体力が完全に回復したわけではないし、何より後方には何故かあの
宿敵が追走を続けている。…白き狼。今はすっかり泥まみれ、油まみれだがそれでくたび
れる仕種も見せない。流石に王狼との徒名を戴いた気品だ。ちらり、ちらりと全方位スク
リーンの後方を伺いながら、少年はレバーを握り締める。
 ひとまずギル達主従は脱出に成功したかに見えた。それにしても、脱出を最終的に決定
付けたのが彼らとは一見無縁な報道にあるとは少年もにわかには理解しがたい。
「共和国軍広報部は先程、ヴォルケン・シュバルツ氏を釈放したと発表しました。シュバ
ルツ氏はガイロス公国からの国費留学生であり、連続テロ事件の首謀者として正午に逮捕、
尋問中だったところです(※ギル達とヴォルケンの現在地とでは相当な時差がある)。
 又、政府は内閣を緊急召集し、一連の事件への対応を協議するとのことです。連続テロ
事件容疑者が僅か六時間で釈放されたことからお粗末な逮捕劇に内外から批判が集中して
おり、軍トップクラスの処罰は避けられない見通しです」
 全方位スクリーンの片隅に開かれた小さなウインドウは、テレビのニュース番組。音量
の低さがそのまま現状への強い警戒心を表わしている。それ故に、割り込んできた音声は
いとも簡単にアナウンサーの声をかき消した。

256 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/13(金) 23:57:12 ID:???
「ギル、ごめんね」
 ニュース番組とは反対側に、遠慮がちに開かれたウインドウ。少年は驚いたが早速コン
トロールパネルを弄り拡大させた。女教師は沈痛な面持ち。滅多に表情を崩さないことも
あってか相当な一大事にも見える。
「せ、先生…わ、悪いのは、僕です! 僕がフェイの誘いに乗らなければ…」
「その話しは初耳よ」
 少年は唇を噛んだ。よく考えてみれば、今回の件で彼女といつ情報交換したというのだ。
「私は貴方を助けるために、一時的に後ろの人と手を組んだ」
 後ろの人…白き狼の頭部コクピット内、銃神ブロンコにも彼女の声は聞こえてくる。
「『共に分かち合う』という貴方の気持ちは正しい。でも私は、貴方を救出するために
『共に分かち合う』気持ちなど始めから捨てている人達と手を組んだ。
 銃神ブロンコ、御協力感謝します。貴方の願い、そろそろお聞かせ頂けませんか?」
 女教師のウインドウが隅に追いやられ、代わりに開いたウインドウには鬚面が大写し。
「殊勝な心掛けだな、蒼き瞳の魔女よ。俺もお前の協力で同志の仇を討ち、恥をすすいだ。
宿敵ながら感謝している。
 ギルガメスよ、俺の悲願は貴様を倒すことだ」
 深紅の竜はおもむろに、低い姿勢を一層低く屈めた。弓を引き絞るように背筋を丸め、
爪先で踏ん張れば踵より土砂の飛沫が舞い上がる。それを被らぬように、白き狼も徐々に
速度を落とす。かくて両雄の間に生じた間合いには遠方の夜景が彩りを添えた。
 銃神の眼差しは徒名のごとく少年の心を打ち抜いた。背筋を襲う悪寒がその証。
「今…やらなければいけないのですか」
「今やらなければ、いつやる? 俺はこの機会を得るため、宿敵と手を結ぶ恥さえ忍んだ」
「銃神殿、願いを叶えるなどとは一言も言ってませんよ?」
 竜の掌から蝶のごとくビークルが飛び去る。そのまま背後に回り込むとAZ(アンチゾ
イド)ライフルを機体後方より伸ばし、魔女と一体の守護神と化した。
「エステル先生!?」
「ギル、行きなさい。ずるい奴はずるい奴同士で殺し合うべきだわ」

257 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/14(土) 00:00:21 ID:???
 少年は後悔した。他人の気持ちをわかってなどいないのは自分も同じではないか。何故
かはわからぬが少年を守るためにいつも超人的な奮闘を見せる魔女エステル。彼女は愛弟
子を助けるために敢えて敵と手を結んだ。そこまでしてみせるこの女性と共に分かち合お
うと考えたか?
 翼をマントのごとく翻し、振り返った深紅の竜。背後にいたビークルの左側につける。
端正な唇を真一文字に結ぶ魔女。
「ギル…」
「ごめんなさい。もっと、もっと強くなります。だから…」
 明滅する額の刻印。周期の乱れが激しい。代わりに今は涙を堪えた。何故なら、二人の
会話を切り裂く宿敵が真正面から砲撃したからだ。

 不時着したアノマロカリス内では撤収・船体の修理作業が進められている。最後の切り
札であった鋼の猿(ましら)・鉄猩アイアンコング「ガイエン」が破れ去った今、獣勇士
らのジェノブレイカー拉致作戦は完全に頓挫した。だが彼らの使命はまだ終わっていない。
アンチブル守備隊がやってくる前にこの場を離れなければ取り調べは必至だ。
 風穴の近辺では小型の竜型ゾイドが数匹掛かりで敵機の残骸を外へ放り投げている。そ
の側に集められたゾイド用の分厚いビニールシート。残骸を捨てたらゾイド達を傷口近辺
に並べさせ、ビニールシートで無理矢理隙間を埋める狙いだ。そんな中、この場での最後
の事件が起こった。
 拾い上げたら外に出すという単純作業の中、竜の一匹が手にしたそれは銀色の立方体だ。
人造ゾイド・ブロックスのコア。生命反応の有無は各面に開いた穴から光が溢れるか、否
か。だから全体をぐるぐる見渡し、確認しなければいけない。この立方体の輝きはとうの
昔に失われていた。だから竜も、当たり前のように外へと投げ捨てた。 他の残骸同様地表
を傷付けつつゴミとなる筈だった立方体。だが土の弾ける鈍い音は聞こえない。代わりに
各面から突如吐き出された青い光線は、満天の星の一つをこの場に引き摺り降ろしたよう。

258 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/14(土) 00:01:47 ID:???
 だが異変はそれだけでは済まなかった。あっけに取られた竜の背後より、一個又一個と
残骸が駆け抜けていく。脱出に成功した残骸は、瞬く間に本来の形を構成すると甲高い鳴
き声を上げた。竜は腹部に取り付けられた機銃を乱射させるが、それらが残骸に命中する
ことはなかった。全身が青い輝きで包まれた残骸の塊は早々に飛び去り、星明かりの中へ
と消えていった。目指すところは只一つ。

 翼を前面に展開する深紅の竜。後肢で目一杯踏ん張れば、忽ち吹き上がる土砂の飛沫。
傷付いた地面を余所に跳躍するが、頭上には既に白き狼が必殺の爪を振りかざしていた。
竜が双剣を浴びせるよりも早く、肩に突き刺さった狼の爪。哀れ、地面へと逆戻りの竜は
受け身さえ取れない。対する狼、ゴム毬のように跳ね戻ると透かさず背負いし大砲を宿敵
に向ける。そうはさせじと背後より襲い掛かる光弾、数発。ビークルが虚空に弧を描き、
AZライフルの銃撃が描く散華の花。並みのゾイド乗りならば形勢傾くであろう正確な銃
撃も、銃神主従の前では小賢しい策に過ぎなかった。全身バネのごとく狼、跳躍。埃は瞬
く間にビークルの頭上まで軌跡を描く。それを魔女が確認した頃、狼は背中を海老のよう
に丸め、砲塔を地表に向けていた。
「ギル、避けて!」
 星空より放たれた流星は二条。一条はビークル目掛け、もう一条は竜目掛け。魔女は自
らも避けてみせつつ愛弟子の安否をその鋭い瞳で追うことを忘れない。幸い竜は翼を地面
に叩き付けた。反動で巨体持ち上げ、横転と共に姿勢を正す。
 着地した狼には疲労も、呼吸の乱れも確認できない。
「『三人』掛かりだというのに…」
 竜も少年も、肩で息。前日は新人王戦、今晩はソードウルフ「アルパ」戦、二度のガイ
エン戦を経ての決戦だ。疲労はとっくの昔にピークを迎えている。だからこそ魔女は、愛
弟子を戦わせたくはなかった。しかしここまで来て彼らを退却などできないだろうし、銃
神も許しはしまい。
 一方銃神といえば圧倒的な勝勢にも関わらず眉一つ動かさない。だが彼のレバー捌き一
つ一つには情念が叩き込まれている。だから。
「これはジンザの分」

259 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/14(土) 00:02:44 ID:???
 今度の跳躍は竜の頭上を越えた。背負いし鶏冠広げる竜。だが蒼炎吹き出すのと、狼が
宙返りしながら銃口を鶏冠の先端に向けるのはほぼ同時だ。
 吐き出される蒼炎の高熱で砲弾、誘爆。竜は前転を数回、強要された。それでも立ち上
がろうともがくが。
「これはグレゴルの分だ」
 ジグザグに、走って迫る白き狼。竜の目前を横切るまでには砲塔を背に向け、通過と共
に追いすがる竜を狙い撃ち。
「これはワッジ、そしてこれは狼機小隊の分だ」
 火を吹く両肩のミサイルポッド。誘導弾は戦死者の魂のごとく竜に襲い掛かる。負けじ
と竜も双剣を展開するが、波の飛沫を斬る集中力は二太刀で潰えた。三太刀目には間に合
わぬと翼を前面に展開。誘導弾の容赦ない洗礼を凌ぎ、爆風の中で地を蹴る。高々と上げ
た反撃の狼煙も、爆風に飛び込んできた狼の爪が鮮やかに消し去った。離れた両者、しか
しながら竜は仰向けに倒れてピクリともせず、狼は助走の姿勢取りつつ背負いし砲塔を向
ける余裕さえある。
 狼が間合いを詰めようとしたその時、やはりビークルが割って入った。機上で魔女が、
肩を怒らせる。
「ギル、ギル、聞こえて?」
「せ、先生…?」
 魔女の苦笑は寂しげだ。
「返事する気力があるなら、逃げなさい。命令よ」
 対する銃神はこの場に至っても眉を動かさなかった。
「これで暗殺ゾイド部隊の悲願も達成される。この世から消え去れ、チーム・ギルガメス」
 向けられた砲身はビークルも、その先の竜達主従をも捉えた。…もしブロンコが集中力
に欠ける男なら、却って周囲の異変に気付いたかも知れない。それ程までに目前の敵を葬
り去ることに全身全霊を傾けていたからこそ、勝利の女神は逃げた。
 仰向けの少年は星空に流星を見た。(イブよ!)流星が落ちるまでに願掛けする風習は
惑星Ziでも一般的だ。只、彼の願いごとは少々歪んだ形で叶えられた。風が、全身を通
り過ぎていく熱い。これは爆風だ。と、今度星空に見えたのはビークルだ。

260 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/14(土) 00:04:10 ID:???
 我に返った少年。レバーを引けば仰向けの竜も追随、短い腕を伸ばす。届きそうにない
のはわかっていたから、鶏冠を吹かすまで数秒も掛からない。蒼炎吐き出し地表を滑る深
紅の竜。ビークルの落下地点にまで早々に到達すると両腕でがっちり受け止め、そのまま
うつ伏せになる。
「先生!? エステル先生!?」
 さしもの機上の魔女も顔を引きつらせていた。爆風であわやビークルごと地面に叩き付
けられていたかも知れないのだ。魔女は苦笑と溜め息を同時にこなす。それで心持ち和ん
だ二人と一匹は、爆風の発生源を見守った。
 炎上する狼。白き装甲は炎で橙色に染め上げられ、吹き出る体液の引火がそれを助長し
ている。少年は似たような光景を数時間前に見ていた。狼機小隊一の牙・デンガンと彼操
る剣狼ソードウルフ「アルパ」との戦いは上空からの突然の攻撃で相手が同様に倒れた。
ならば仕掛けた者は…!
「アハハハハ、ちーむ・ぎるがめすノ諸君、命拾イシタナ!」
 炎の上空から泳ぐように降り立ったそれは灰色の猛禽。先程アノマロカリスから脱出し
たそれこそが声の主。それにしても、ヘリウムを吸った直後のように甲高い声だ。
「フェニックス!? こんなブロックス、まだ現存していたなんて…」
「諸君ラニハ何トシテモ生キ延ビテモラウ。B計画成就ノタメニナ。又会オウ」
 星の中に消え行く猛禽。不条理に釈然とせぬまま、それでも明日の朝日は拝めそうな二
人と一匹だけが残った。少年はスクリーン越しに竜の掌中をちらり、ちらりと見つめる。
魔女の眼差しが依然吸い込まれそうな程蒼いことに、少年は安堵の溜め息をついた。

 キャムフォード宮殿はヘリック共和国首都ヘリックシティ郊外に建てられた大統領官邸
である。高さ百メートルの城壁に四方を囲まれた敷地内は百平方キロに渡り、官邸以外に
も議会や省庁を始めとする政治施設が一通り収められている。その上広過ぎる庭にはゴジ
ュラス級ゾイドを常時十数匹放飼いするなど、規模たるや小都市並みだ。さて星の裏側で
死闘が終焉を迎えた頃、真昼間の宮殿に独り、乗り込んだ男がいる。
「総大将様、どうかお引き取り下さい!」

261 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/14(土) 00:07:22 ID:???
 大理石の柱が立ち並ぶ廊下を、つかつかと進み行く異相の男。彼の目前には警護の兵士
や一般職員など数十名が並び生きた防壁と化すが、この男は意に介することもなければ屈
することもない。そのまま廊下の奥に到着すると兵士達をかき分け、己が背丈以上もある
扉をこじ開けに掛かる。必死の抵抗が続く中、扉の中より嗄れた声が聞こえた。
「通して差し上げなさい」
 昼の陽射しがシルエットを作った。ガラス張り、広い室内の奥には巨大な木の机が一つ。
そこに座る者もシルエットのみ。
「何故ヴォルケン・シュバルツを釈放した?」
「チーム・ギルガメス拉致に失敗、シュバルツ氏まで刑死となればガイロスは窮鼠と化す。
間をとれば彼らも暴挙には出まい」
 低い声と嗄れた声が交差した。だが重なる気配はないようだ。
「鼠を蹴散らすのは我らが務め。他者の介入を許せば平和は曲げられるぞ、大統領殿」
 異相の男は退出した。兵士や職員一同が胸を撫で下ろす中、もと来た廊下を抜けていく。
 異相の男が歩むに連れ、いつしか廊下は彼一人が占有していた。と、彼は立ち止まる。
大理石の柱の影から現れ出た影が数名。
「水の総大将様、ブロンコが破れ去りました」
 異相の男は守宮のような瞳を心持ち開けた。
「某国が調子に乗り始めた。至急チーム・ギルガメスを葬り去れ、彼らの手に渡る前に。
 惑星Ziの!」
「『平和のために!』」
 影達は消え去り、男は只独り廊下を抜けていく。
 ここに来て、ようやく水の軍団及び水の総大将なる男の背景が明らかになった。彼らは
大統領直属の特殊部隊であり、総大将は指揮官であった。しかし絶大な権力をもつ筈の彼
は、決して現在の大統領と良好な関係を築けてはいない。そこにこの物語の謎を解く鍵が
あるのだが、今しばらくは読者の御想像にお任せしたいと思う。何故なら彼も後方の扉を
一瞥するのを決して忘れなかったからだ。

                                      (了)



262 :魔装竜外伝第十一話 ◆.X9.4WzziA :2007/04/14(土) 00:08:18 ID:???
【次回予告】

「ギルガメスは自分の独善に今更ながら唇噛み締めるのかも知れない。
 気をつけろ、ギル! お前が浸る頃、『B』は覚醒する。
 次回、魔装竜外伝第十二話『思い出に、還れ』 ギルガメス、覚悟!」

魔装竜外伝第十話の書き込みレス番号は以下の通りです。
(第一章)194-208 (第二章)214-226 (第三章)232-246 (第四章)247-262
魔装竜外伝まとめサイトはこちら ttp://masouryu.hp.infoseek.co.jp/

263 :エスパー 1 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/14(土) 10:27:52 ID:???
多種多様な兵器の研究開発は各国で行われている事だが、兵士そのものの強化もそうだ。
超人的な鍛錬によって超人的な身体能力を養おうとした者、サイボーグ化によって肉体を
強化した者、薬物投与、遺伝子操作・・・。様々な兵士強化プランが打ち立てられていたが、
中には精神面の強化を行った者達もいた。

「超能力兵士? 超能力っつーと一昔前に流行ったスプーン曲げとか?」
「そうです。馬鹿らしいと思いますか? しかし我々は真面目に研究に取り組んでいる
のですよ。」
「しかしスプーン曲げても軍事には役には立たないと思うのだが・・・。」
「別にスプーンを曲げる事にこだわらなくても・・・。」
さる大国に超能力研究を行っている研究機関“エスパリアン機関”があった。他の者達が
身体的に兵士を強化しようとしているのに対し、彼等は精神性を強化する事で超能力を
実現させようと研究していた。その手のオカルト的な物は常識的には眉唾物であり、
多くの人々が冗談でやってるトンデモ研究に見ていたのだが、そのイメージを払拭する
べく、機関は一人の少年を軍に売り込んだ。
「我々はついに超能力を実現させる事が出来ました。彼です。」
機関の科学者は軍から派遣された将校に一人の少年を紹介した。
「はじめまして。アールス=イオンです。」
「君が・・・超能力者なのかい・・・? その辺にいそうなただの子供にしか見えないが・・・。」
このアールスという少年。確かに超能力者ですと言われてもとても信じられない
ごく平凡な15歳の少年であった。茶髪の短髪で顔も特別美男子とは言えない、いたって
何処にでもいそうな少年である。しかし・・・
「ん? ってああ!」
将校は唖然とした。自身が腰のホルスターに指していた拳銃が突如として宙に浮いたから
である。当然糸で吊ったりなど、仕掛けがあろうはずも無い。
「分かりましたか? これが彼の力、“サイコキネシス”です。」
「さ・・・さいこ・・・何?」
「簡単に言えば手に触れずに物を動かす力です。アールスにはその力があるのです。」
「ん・・・んん・・・。」

264 :エスパー 2 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/14(土) 10:28:43 ID:???
将校はまだ信じられないと言った顔をしていた。まあそれも無理も無い話である。
「疑い深いですね。ならば彼の超能力によってもっとしっかりした実績を残せば
貴方達とて文句は言えなくなるでしょう。」
「実績と言うと?」
「あ〜アレですよ。アレ。何ていったかな? ほら、白いギルタイプを使って世界中で
ブイブイ言わせてるロボットの女の子。単機で国も破壊出来るって言われてる奴ですよ。」
「ドールチームのミスリルの事か?」
「そうそう。アールスが超能力を持って見事に奴を倒して見せれば君達だって我々の研究
を真面目に信じる気になるでしょう。」
科学者にそう言われて将校はどう反応すれば良いか分からず腕組みし悩みこんでしまった。
「う〜ん・・・。奴は言わば制御出来ない超兵器が世界中好き勝手に飛びまわってるような
もんだから我が国としても放ってはおけないから奴を倒せるに越した事は無いが・・・
奴を真剣に怒らせてしまった為に滅んだ国もあるからな〜・・・。」
「大丈夫ですよ。彼の能力を持ってすればね・・・。それに我々にも策があります。」
科学者がアールスの方を見ると、彼は己のサイコキネシスで部屋に置かれた机や椅子など
を浮かせていた。

場所はエスパリアン機関から遠く離れたとある荒野に移る。彼方此方に岩山が乱立し、
平地にさえ草一本生えぬ荒野の中に存在する岩山の谷間を超高速で走る者がいた。
彼女こそ世界を旅する人の心を持つ機械にして、何でも屋ドールチームの裂こう責任者
“SBHI−04 ミスリル”である。険しく切り立った山々を彼女はものともせずに
高速で跳び、駆け抜けていく。と、その時周囲の崖から多数の岩が落ちて来た。
しかし彼女は10メートルはあろうかと言う巨岩を構わず殴り砕き、蹴り砕いた。
“チタン・ミスリル・オリハルコン特殊超鋼材”、略して“TMO鋼”で身を固めた
彼女に岩程度では意味を成さず、彼女の全身に搭載された多種多様な砲、ミサイル、
ビームなどの各種兵装によって落岩は全て破壊された。
「よし! 私の体の調整はこんな物かな? ティアちゃん降りて来て良いよ。」
「うん。」

265 :エスパー 3 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/14(土) 10:29:15 ID:???
ミスリルに言われ岩山の上で岩を落としていたLBアイアンコングMK−U“ゴーストン”
に乗るドールチーム構成員であるドールの身体を持つ幽霊少女ティア=ロレンスは
ゴーストン共々にミスリルのいる所まで降りて来た。
「これでドールチームのお仕事も再開出来るね。」
「まだまだ。大龍神の馴らしが終わってませんよ。」

“地獄の火山島戦役”から早くも一ヶ月。彼女等をもってしても相当な被害を被る程の
激戦であったが何とか傷も癒え、元通り戦えるようになった。そして岩山から出て荒野で
同じく地獄の火山島戦役で大きな傷を負うも何とか修理が完了した、ミスリルの盾であり
剣であり脚である特機型ギルドラゴン“大龍神”の馴らし運転を行おうとした時だった。
突如として巨大な岩が散弾銃の様に多数飛んできたのである。
「痛い痛い! いきなり何ですか!?」
口では痛いと言っても大龍神の装甲には傷一つ付いていなかったが、突然飛んで来た
多数の巨大な岩にミスリルは戸惑っていた。突然の不意打ち的な攻撃もそうだが、砲弾や
ビームの類ではなく岩と言う意外な攻撃はワケが分からなかった。そして彼女はさらに
恐ろしい光景を目の当たりにする。
「い!?」
「い・・・岩が浮いてるの・・・。」
大龍神を襲うも大したダメージを与えられずに弾かれ、地面に落ちたはずの岩が二人の
目の前で宙に浮かび、再び大龍神を襲ったではないか。であるにも関わらずその岩は
何かを岩に偽装した物と言う形跡は見られず、紛れも無いただの岩だったのである。
「キャァ! 痛い痛い! 何でいきなり岩が襲ってくるんですか!? まさか私が
岩を壊したりするからこの辺りの山に住んでる精霊か悪霊が怒ったりしたの!?」
「違うよミスリル! あれからは霊的な物は感じないの! でも何で岩が浮いてるのか
私にも皆目見当が付かないのよ!」
ティアはドールを体として使っているが、既に死んで霊となっている為に霊的な存在を
視認し、コンタクトを取る事が出来た。それによって既に死亡して成仏していない霊から
情報を仕入れるなどと言う事も可能だったのだが、この浮遊岩襲撃現象の正体は
皆目検討が付かなかった。

266 :サクセサー 33:2007/04/16(月) 06:50:27 ID:???
 銃声が途絶えてしばらくして・・・
 西の方からゾイドの部隊が接近していた。コルネリアスの部隊はすでに疲労困憊、見張
りも出していなかったためこの新手の部隊に全く気づかなかった。
「コルネリアス伯はいずれにおられる。こちらは帝国軍近衛軍第六師団、シュナイゼル大
佐の部隊である。皇帝陛下の名代として参った。勅使であるぞ。早よう案内せよ!」
 先行していた飛行型ゾイドのうち一機が着陸して先触れの言葉を伝える。だが、周辺の
兵士は無反応。戦闘疲れで反応が鈍っているのもあるが、何より、勅使などというものに
どう対応していいのやら見当がつなかいのだ。
 やがて、ゾイド部隊の姿が見えてきた。速度を優先するためか、セイバータイガーと
ライガーゼロで構成された、高速ゾイド部隊である。二十機という数は少なく思われるか
もしれないが、パイロットはゼネバス軍の中でも一騎当千の選りすぐられたパイロット揃
いで、通常の一個師団に相当する戦闘力を有すると云われる。さらに上空には哨戒のため、
さきほどの飛行型ゾイドが数機、旋回していた。この大型飛行ゾイドは帝国軍では他では
見られないタイプだ。ほぼ赤一色で統一された集団の中で青緑色のタイガーが目をひく。
金色の唐草模様を各所にあしらい、品格の漂う意匠を凝らしたこのタイガーこそ、この部
隊の総指揮官であり勅使であるケビン・シュナイゼル子爵の乗機であろう。中央大陸戦争
時代からシュナイゼル家の歴代頭首が乗り継ぎ、常に部隊の先頭に立って戦いながら未だ
に大きな傷を負うことなく現役で稼動しているサーベルタイガーとして、ゾイド通に知ら
れている名機だ。


267 :サクセサー 34:2007/04/16(月) 21:53:53 ID:???
 いや、更に目をひく機体があった。鮮やかなマリンブルーに塗られ、頭部は背中と横に
向かって大きく広がる独特のデザイン。帝国製ゾイドの集団のなかでは異彩を放つのは、
ブレードライガーである。だが、その代名詞たる両脇のレーザーブレードがない。かわり
に、背中に一本の剣を背負っている。通常の剣よりも極端に細く極端に長い。見るものが
見れば、それが日本刀であるとわかるだろう。肩の共和国軍のエンブレムは削られ、そこ
には四角形を四つ組み合わせて作った紋様が彫り込まれている。
 このライガーに乗る初老の男は、ついこの間までニクス大陸の北のはずれにいたのだ。
戦闘の情報を聞き、通常なら一ヶ月以上かかる旅程を半分で踏破し、一昨日には帝都に到
着、皇帝陛下に謁見して勅使の派遣を要請し、勅書を書かせ、それを持って付近で演習中
の近衛師団の駐屯地に現れたのが今朝のことだ。(正確には、演習名目で情報収集および
有事の際の待機をしていた部隊。皇帝といえども貴族の自治権を侵害することは憚られる)
 だが、その労力も無駄になりそうだった。城から昇っている煙は細く、遠方からも戦闘
が終了していることは容易にうかがえる。
 タイガーのコクピットに座るシュナイゼル公は、傍らのブレードライガーに目をやる。
ライガーは開放型キャノピーから密閉型に改造してあるため、中のパイロットの表情を窺
うことは出来ない。だが、篭城していた兵士の数人が彼の元部下であることは既に知って
いる。彼は戦闘を止めるため、世界の半分を驚異的な早さで踏破し、皇帝をも動かした。
だが現実という名の無慈悲な壁は厚かった。
 大戦後の緊張状態はまだ世界中に残っており、情報伝達や交通網は厳しく規制されてい
る。もっと早く知ることができれば、もっと早く移動できたなら・・・だが、今更そんな
繰り言を言ってみてもはじまらない。人間に出来ることは限られているのだ。
「行きましょう、ササキ殿。見届けるために」

ひとつの戦闘が終わった。だが、俺の戦いはまだ終わっちゃいなかった。


268 :エスパー 4 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/17(火) 09:38:21 ID:???
「フフフ・・・彼女等も僕の力の前には流石にキリキリ舞いしているみたいだね・・・。」
ドールチームのいる地点から数十キロ近く離れた岩山の上に構える一機のゴルドスの中で、
コンピューターとコードで直結したヘルメットを被ったアールスが不敵な笑みを浮かべ
ながら座っており、後方に待機するグスタフの中に付き添いの科学者と将校の姿があった。
「あのゴルドスには我がエスパリアン機関が開発した精神波増幅装置が搭載されており、
アールスの精神波を何十倍何百倍に増幅させて発射する事が出来るのです。多数の岩を
白いギルタイプへ襲わせると言う行為も精神波増幅装置でアールスの精神波を増幅させて
始めて可能になった事なのです。」
「それはともかく何故ゴルドスなのだ?」
「残念ながら精神波増幅装置の小型化はまだ進んで無いんですよ。故にどうしても大型
ゾイドに搭載せざる得ないのです。それとゴルドスは元々電子戦用のゾイドですから
精神波増幅装置で増幅した精神波を発射する装置を搭載し易かったし、またそれを相手に
悟られない程の遠距離から可能にするのに都合が良かったと言うのもあります。」
「ふ〜ん・・・。」
専門的な単語はどうも将校には理解し難かったが、そうしている間にもアールスの
サイコキネシスによって操られた岩は大龍神とゴーストンに襲い掛かっていた。

「痛い痛い! 一体何なんですかこれはぁ!」
「得体が知れなくて怖いのよ〜!」
アールスのサイコキネシスによる物とは知る由も無い二人はなおも襲い続ける岩に
翻弄されっぱなしであった。何しろ幾ら壊しても、新たな岩が浮遊して襲い掛かって
来るし、避けても追ってくる。小さい欠片なども襲って来るのだから埒が明かなかった。
そうして大龍神とゴーストンは次々襲い掛かる岩から逃げ回っていたのだが、ついに
ゴーストンが巨岩の直撃を受けてしまい、地面に激しく打ち付けられながら数百メートル
転がると共に動かなくなってしまった。
「ティアちゃん!? せっかく修理が完了したのに・・・よくもティアちゃんを!
誰が何の目的でどうやってやったのかは分かりませんが・・・許せない!」
大龍神の首下に装備されたプラズマ砲が多数の浮遊岩を吹き飛ばした。しかし、いくら
消し飛ばそうとも新たな岩が襲い掛かってくるだけだった。

269 :エスパー 5 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/17(火) 09:38:59 ID:???
「いくら岩を壊したって無駄だよ。そんな事しても僕には全く影響ないのだから・・・。」
ミスリルと大龍神が多数の浮遊岩と戦っている場所より、遥か超遠距離からアールスの
サイコキネシスによって浮遊岩を操っているゴルドスは上空から現場を監視する偵察衛星
とリンクしており、状況を事細かく確認する事が出来た。モニターに表示される大龍神の
戦いを見つめながらアールスは己の精神波によって周囲の岩をコントロールし、攻撃を
続けていた。ただ、ゴーストンの方はもう動かなくなった事もあり、完全に倒したと判断
して手出しはしていないようだった。

「ミスリル・・・少しだけ我慢してね。私が正体を突き止めて見せるから・・・。」
ゴーストンは動かなくなった理由。それは単純にティアが停止させていただけだった。
そしてティアはと言うと、己が体としているドールからも離れて霊だけになった状態で
周囲の探索を始めた。この状態ならば霊能者でも無い限り彼女を確認する事は出来ない。
それで周囲を飛びまわっていると、不毛の荒野であるにも関わらずそのど真ん中で
のん気に昼寝している老人がいるではないか。と思ったらその老人も霊だった。
「ねえそこのお爺さん?」
「何だいお嬢ちゃん?」
「この辺りの岩って勝手に浮いて襲ってきたりするの?」
「馬鹿言っちゃいかん。わしゃここに長い事住んでるけど、そんな事は今まで一度も
無かったな〜。でもあらら〜本当に飛んでるよ〜おっかしいな〜。」
老人の霊も浮遊岩と戦っている大龍神の姿を見てやや驚いた顔をしていた。
「おっかしいな〜。別に霊が憑いてるワケでも無いし・・・ん?」
「どうしたの? お爺さん。」
何かに気付いたかのように老人の霊は遠くの岩山の方を指差した。
「何かよーわからんけどよ、あの山の向こうから・・・なんかこ〜念の様なもんを感じる
んじゃが・・・なんじゃろうな〜。」
「念? ありがとうお爺さん。とりあえず調べてみるの。お元気で。」
「おお、お嬢ちゃんも何か良く分からんけど元気でな〜。」
老人の霊は再び昼寝を始めたが、ティアは老人が先程指差した岩山へ飛んだ。

270 :エスパー 6 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/17(火) 09:39:43 ID:???
「あ! 何でこんな所にゴルドスが?」
岩山を幾つか飛び超えた後、ティアはアールスの操縦するゴルドスを確認した。
残念ながら老人の霊と違ってティアは念を感じる事が出来なかった故、たまたま
その場に居合わせたゴルドスだと思って先を急ごうとした・・・その時である。すれ違った
際にティアの目には見えたのである。ゴルドスのコックピットモニターから浮遊岩に
追い駆け回され、打ち付けられる大龍神の姿が映し出されていたのが・・・
「ハッハッハッ! 踊れ踊れ! 何が機械仕掛けの女神だ! 僕の超能力には手も足も
出ないだろう!」
「え? 超能力? どう言う事? 一体どう言う事かは分からないけど・・・とにかく
このゴルドスが関係してる事は確かなのよ!」
霊であるティアの存在はゴルドスに搭載された探知機にも偵察衛星にも引っかから
なかったし、アールスも気付かなかったが、辛うじて事実を知ったティアは大急ぎで
倒れたままになっているゴーストンの所へ戻って、体であるドールに憑依し直すと共に
ゴーストンを大龍神の方へ走らせた。
「ミスリル! あの岩山なの! あの岩山の向こうにいるゴルドスが多分犯人なの!」
「ティアちゃん無事だったの!?」
「うん! ちょっと幽体離脱してただけなのよ。」
「で、岩山の向こうがどうかしたの?」
「どういう手を使ったのかは私も良く分からないんだけど・・・とにかくあの岩山の
向こうにいるゴルドスが岩を操ってる犯人なのよ!」
そう言ってティアの言葉に呼応するようにゴーストンは岩山の方を指差した。
「良くは分かりませんが・・・流石にこのまま岩と戦い続けるワケにも行きませんよね・・・。」
大龍神はゴーストンを背に乗せて飛んだ。なおも襲い掛かり続ける多数の浮遊岩を
かわし、弾き飛ばし、振り切り、忽ちの内に高空へ達した。だがその時だった・・・
「ん!? 何!?」
突然目に見えない力で押さえつけられたかのように大龍神が失速したではないか。
さらに後ろから追撃して来た多数の浮遊岩に撃ち付けられてしまう。
「痛い痛い! 何で・・・何なんですかぁぁ!?」
「キャァァァァ!」

271 :エスパー 7 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/19(木) 16:24:22 ID:???
「危ない危ない。どうやってこっちの場所が分かったのかは分からないけど・・・
やはり単純にパワーが凄いだけの貴女が僕の超能力に勝つ事は出来ないよ。」
大龍神が失速したのもアールスのサイコキネシスによる物だった。とはいえ、流石に
完全に動きを止める事は出来ないようであり、そこは彼としても不満だったようだ。
「流石にあれだけのパワーを完全に止めるのは無理か・・・。精神波増幅装置の出力も
一杯一杯だし・・・。しかもなんて頑丈なんだろう。あれだけ岩をぶつけてもまるで
ビクともしてないし、僕の超能力で押し付けても全く潰れないなんて・・・。」
アールスにもやや焦りが出ていた。理由は分からないが、とにかく居場所が見付かって
しまった事もそうだが、ミスリルと大龍神が想像以上にタフだった事も挙げられる。
そして何より、アールス自身にも疲労が溜まっていた。彼の超能力は強烈な精神力に
よるものなのだが、運動をすれば肉体が疲れるように、超能力を使えばその分脳や
精神が疲れてしまうのである。
「く・・・流石にあれだけの岩を飛ばすのと奴を押さえるのを同時にやるのはキツイか・・・。」
アールスはふと脳に力を抜いた。だが・・・それがいけなかった

「あれ? 何か急に押さえ付けられる力が弱くなったような・・・。」
「岩の攻撃も緩んだのよ。」
アールスが脳を休ませると言う事はその分超能力も休んでしまうと言う事である。
それ故に大龍神も、まだ圧迫感は残っているとはいえ構わず飛ぶ事が出来たし、
浮遊岩の攻撃もかなり弱まってしまっていた。
「何か良く分からないけど今のうちに!」
大龍神はスピードを上げた。下に広がる岩山を一つ越し、二つ越し、ついに三つ目に
差し掛かった時、その頂上に構えるアールスのゴルドスの存在を確認した。
「あれあれ! あのゴルドスなのよ!」
「そう? とにかく行きますよ!」
大龍神はアールスのゴルドスへ向けて急降下した。そうなれば当然アールスのゴルドスの
背後に構えていたグスタフに乗っていた科学者と将校は滅茶苦茶に慌てるわけである。

272 :エスパー 8 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/19(木) 16:24:59 ID:???
「ああ! ついにばれてしまったじゃないか!」
「何故ばれたんだ!?」
「二人ともご安心を・・・。」
アールスは脳に力を入れた。そこから発せられる精神波をゴルドスの精神波増幅装置が
増幅し、より強大化したサイコキネシスが大龍神の突進を弾いた。
「うっ! またこれ・・・。どんな手を使ったのかは分かりませんが・・・あのゴルドスの
仕業と言うのはあながち間違ってはいないようですね・・・。」
体勢を立て直した後ゴルドスの方を見ると、ゴルドスを守る様に多数の岩が浮遊していた。
「いやぁ、ついに見付かってしまいましたね。はじめまして。僕はエスパリアン機関に
所属している“アールス=イオン”と言います。ミスリルさん・・・。」
「そりゃどうも・・・。そこまで自己紹介をするなら岩が浮いたりする件に関しても
種明かしとかしてくれますよね?」
「それは当然ですよ。僕はちょっとした超能力者でね・・・今日貴女達が体験した摩訶不思議
な現象は全て僕の超能力・・・サイコキネシスによるものなのですよ。」
「!」
アールスの告白にミスリルは驚きと感心の混じった顔になった。
「あ! な〜るほど・・・。幽霊とか妖怪変化とか色々見て来たから、いつかは来ると思い
ましたけど・・・ついに来ましたか超能力者。ハーリッヒさんが聞いたら喜ぶでしょうね。」
と、ミスリルとティアは一緒に軽く手を叩いていたが、直後ミスリルは呆れの表情で
アールスを見つめた。
「でも・・・またいつもの私を倒して名を上げようってパターンなんですよね? もうその
ネタは飽きました。確かに人間は弱い(超人クラスを除く)分、色々と工夫して来るん
ですけど、相手する私の身にもなってくださいよ。こっちだって疲れるんですよ。」
「そ・・・それは済みませんね。(ロボットのくせに何て人間臭い奴なんだ・・・。)」
ミスリルの愚痴にアールスは一瞬拍子抜けしてしまったが、すぐさま体勢を立て直した。
「しかし・・・貴女が嫌だと言っても僕は君を倒すつもりです。行きますよ! ん!
サイキックホォォォォォォォルドォォォ!!」
「え!?」

273 :エスパー 9 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/19(木) 16:26:11 ID:???
大龍神の動きが止まった。まるで目に見えない力に押さえつけられる感触を感じ、さらに
そこから見えない力は大龍神を押し潰そうとしていたのである。
「う! 動けない・・・やっぱりこれは・・・。」
「至近距離からのこれは超遠距離からのそれと違ってキツイでしょう?」
アールスのサイコキネシスを増幅させたゴルドスのサイキックホールドは恐るべき力に
よって大龍神を押さえ込み続け、ついには軋む音がかすかに聞こえてきていた。
「く・・・こんな物・・・力で押し切って・・・。」
ミスリルは何とかパワーで強引にサイキックホールドを撃ち破ろうとするが体が動かない。
だが、必死なのはアールスも同様だった。
「く・・・なんて頑丈な奴なんだ・・・。やはり半端じゃない・・・このままじゃ・・・。」
戦いはサイキックホールドによって大龍神を押さえ込むアールスが優勢に見えていたが、
実際はそれで一杯一杯だった。アールスも全力で精神波を出していたし、精神波増幅装置
の出力も全開。これで大龍神の動きを押さえるのが精一杯であり、さらに浮遊岩を
ぶつけると言った行為を行う事が出来なかった。そして、アールスが大龍神の相手に
集中してティアとゴーストンの存在を忘れていた事が後に大きく響いてくる。
「とりあえずこっちは私に任せるの〜!」
「わぁぁぁ! 助けてくれぇぇ!」
大龍神とアールスゴルドスの激闘が行われている隙にゴーストンは科学者と将校の乗った
グスタフを持ち上げ、山の頂上から下へ落っことしていた。
「ああ! 危ない!」
それに気付いたアールスが大急ぎでグスタフにサイコキネシスを当てて救い上げようと
するが、それによって大龍神を押さえ込んでいたサイキックホールドの力が弱まった。
「ん!? 何か良く分かりませんが・・・力が急に弱まりました? よぅしこれなら!」
サイキックホールドから脱した大龍神は全速力でゴルドスへ突っ込んだ。アールスも再度
精神波を当てようとするが、グスタフも助けねばならぬ状況ではどうしようも無かった。
「あ! やばい! この状況じゃどっちを優先させれば・・・ってああ!」
「必殺大龍神ぶちかましぃ!」
必殺と言ってもただの体当たりだが、大龍神のぶちかましを食らったゴルドスは忽ち
砕け散り、爆散してしまった。

274 :エスパー 10 ◆h/gi4ACT2A :2007/04/19(木) 16:27:09 ID:???
「ふぅ・・・超能力ってのもやっかいな物ですね・・・。今回もティアちゃんがいなかったら
勝てませんでしたよ・・・。でもまあおかげで大龍神の馴らし運転も出来て元の調子を
取り戻す事が出来ましたから良しとしましょう。それじゃあティアちゃん行きますよ。」
「うん。」
戦いも終わり、大龍神はゴーストンを乗せて旅立った。ドールチーム営業再開である。

その後、岩山の細い道をボロボロになったグスタフが何とか走っている姿が見られた。
アールスと科学者と将校は死んではいなかった。流石に怪我はしていたが・・・
「やはり奴は半端では無かったか・・・だが今回の事で良いデータが取れた。後々この
データを基に精神波増幅装置をより小型高性能化させ、再び奴に挑むぞ。」
「うん。僕ももっと強い精神波を連続して出せるように練習に励むよ。」
「いや・・・お前らもう良いよ・・・。」
諦めるどころかより闘志を燃やしていた科学者とアールスに将校も呆れていた。
                 おわり

275 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/04/19(木) 19:29:53 ID:???
「――なんて寒さだ。冷蔵庫に入ってたほうがまだ暖かいぞ」
「ああそうかい、試してみやがれ。俺は遠慮するぜ」
 軽口でも叩かねばやっていられないような寒さだった。
 そこは騎士の力が生み出した巨大な低気圧の中心。地下空洞へと続くいくつもの入り口
の一つが雪に侵されず、ぽっかりと口をあけている。
「戦力を分散させるのは危険です――固まって行動しましょう」
 七機のゾイドが空母から発進し、雪上に降り立つ。アレックスの命令に従って、ホエー
ルカイザーは安全なポイントを見つけ次第そこに着陸して待つため何処かへと飛び去る。
「! これは……微かですが、洞窟の奥から残留荷電粒子が流れてきます。既に戦闘が始
まっているものと考えるべきでしょう」
「ほんじゃ、とっとと潜ろう。正直言って、俺様の見解によると政府軍の連中はそう長く
持たないはずだからな」
「なんだって? おい――あれだけの兵力だぞ、騎士だってこんな閉鎖空間じゃそこまで
好きなように暴れられないはずだ。過大評価じゃないのか」
「過小評価するよりはマシだと思うねぇ。何にせよ、兵は神速を尊ぶ――さ」
 デイビッドはあてずっぽうでそうした懸念を口にしたのではなかった。脂肪と頭蓋骨の
二重包装に守られた彼の頭脳はラインハルトから得た情報を元に敵の戦術を様々な角度か
ら予測しようと試みていたのだが、可能性が一つ増えるたびに対処法も考えねばならない
のである。中には、完全にお手上げと言わざるを得ないようなものもいくつかあった。
 もちろん、それらは単なる推測であって確定情報ではないのだが……。

「しかし、解せんな。騎士とて、狭い場所では消耗戦になることが分かっているはずだ。
逆に閉所ならば常に相対する敵は少数で済む、というメリットを狙ったのか……」
「考えにくいな。俺たち騎士は元々集団を相手にする戦いが得意なはずだ。打って出る訳
には行かない理由があったんじゃないか」

<――ご明察、しかし三十秒ばかり気付くのが遅かったようだ>

 通信に割り込んできた、聞き知らぬ声。会敵を察知すると同時に目の前で異変が起こる。

276 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/04/19(木) 19:37:21 ID:???
「これは……なんだ、この壁は! どこから沸いてきた!?」
 何もない空間に現れたのは強固な壁。騎士の剣の力と踏み、リニアが反能力を解き放つ
が銀青色の障壁は一向に揺るぐ気配を見せず。

 見回せば、同じように壁を破壊しようと試みて失敗したらしいエナジーライガー=アレ
ックスが居るのみで残りの面々は見当たらない。壁の向こうに居るのだろうか?
「く……っ、分断されたか! だが、剣の能力でないとすると今のは一体……?」
「トラップの類でしょうか……初めから我々を分断することが目的だったのかもしれませ
ん。見てください、後ろに通路があります」
「なるほど? 枝分かれした通路に分断した我々を誘い込んで各個撃破しようと言う訳か」
 壁の向こうには通信も届かず、熱紋も見えない。周囲の壁を崩すことも出来ないように、
未知の金属は周到な配置で整然と並べられていた。
「罠と解っていてそれに乗らざるを得ない。戦術の基本だが、掛かる方としては迷惑だ」

 こちらが戦力を集中して、政府軍に対する守りを固める騎士を各個撃破する戦略だった
のが早くも崩された。かくなる上は、早急に彼らと合流する路を探すべきだ。
 とはいえ、この罠を仕組んだのが騎士であるなら、そんな逃げ道を用意してくれている
とも思えないが――。
「トラップに注意して、行って差しあげましょう。マッド・ティー・パーティーの会場は
遥か穴ぐらの底、私たちには案内役のウサギも居ませんからね」

「やっぱりダメか。ちくしょう、通信が出来ないばかりかサーモまで遮断するなんて……」
「熱紋、コア固有波形、重力偏差探知、どいつを使っても駄目だな。破壊もできねぇ。し
かし連中、俺たちがここから来るって解ってたのかねぇ」

 銀色の壁はここにオリバーとラインハルトの二人をも孤立させていた。後ろを向けばそ
こには通路、行く場所は他にない。
「通路の方には壁がないぜ。ここを掘ってみるってのは?」
「やめた方がいい。この洞窟は水分が多くて土がゆるい……生き埋めになる可能性が高す
ぎる。ここは、お膳立てに乗ってやるしか無さそうだ」

277 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/04/19(木) 19:39:34 ID:???
 更なる地の底へと続く長い回廊はその先を闇に隠して見せようとしない。
「まあ、ここの構造ならだいたいコイツが――俺のスリンガーが覚えてる。案内は任せろ」
「ホントなら、みんなお前の案内を期待してた所なんだけどなぁ」
 獅子と竜の奇妙な似た者同士は闇の中へ消えていく。

 こちらも同じ状況ながら、エメットとワンの二人は他の者たちより決断が早かった。既に
ガンブラスターとサイクスは細長い下り坂を下り始めている。息の合ったチームとしてやっ
てきた実績が、互いに落ち着きを与えたのかもしれなかった。
「ふうむ、身体の芯がざわついてきよる。敵が近いということだな」
「歴戦の兵士が持つ勘……というヤツですか?」
 言外に含まれた微かな笑気を感じ取り、老人は鼻を鳴らしつつ流し目をくれた。
「能力者なんてものがまかり通ってるご時世に、勘を馬鹿にするやつがあるか。だいたい
お前さんは非科学やらオカルトやらの精髄たる当の能力者じゃろう」
「すみません、馬鹿にするつもりじゃ……ルガールさんも似たようなことを言ってたもの
ですから、つい思い出してしまって」
「あやつはサイコロを振る前に願掛けをするよりは、ばれないようにイカサマを働く方法
を探そうとするタイプだと思っとったのだがな」
 会話はそこで打ち切られた。彼らの前途に開けた空間が見えてきたからだ。

「因果なこったなー。女神サマも自分の運命に関するルーレットは操れないようで」
「……私の記憶が正常なら、運命の女神と呼ばれる存在は目隠しをしてルーレットを回し
ている、という伝承だったはずよ。これは地球の話だけどね」
 デイビッドの周囲を取り囲む多種多様な画面の一つには、如何なる手段を用いたものか
四つに分けられたグループのゾイドたちが赤い光点として正確な位置を映し出されていた。
不幸にも彼と同じ区画に残されたイヴも、壁の向こうの土や大気に含まれる自身の一部か
ら情報を得ることが出来ずに悩んでいたところだったのだが……。
「とりあえず全ペアに与えられた道は一つずつ。ラストダンジョンの演出としてはちょい
と古い感じも否めないけどね。俺はこういうレトロゲー臭い雰囲気も好きだぜ」
 Zi公用語でOK。無理ならいっそ喋らないでくれ、そう呟きたくなる女神であった。

278 :Innocent World2 円卓の騎士:2007/04/19(木) 19:49:03 ID:???
「ところであんた、命令が効かないゾイドに対して自力で戦えるかい?」
「やろうと思えば……けど、著しく機能が限定されてるからあまり助けにはなれないわ。
少なくとも、騎士を一人で相手取るのは無理よ」
「ふうん……? さしあたり俺様とこの……宇宙最(中略)ゾイドが戦闘を引き受けるか
らあまり心配は要りませぬっと。むしろ俺様の戦い方をあなた様の量子コンにしっかり刻
んで後世に伝えて頂戴な。語り部がシェヘラザードの職業だったろ?」
「その変な物体が本当にゾイドだなんて、私にはまだ信じられないのだけれど。子供が怪
物に変身してしまった母親みたいな気分よ」
「子供が神に昇華したんならどうだい? 『!? お母さんうれしい! ふしぎ!』って
Zchのコピペみたいな返事を返してくれると面白いんだが」
「返しません」
 不毛な掛け合いを供に、女神と邪神も潜行を開始。

 八人が四分割され、それぞれが行動を開始した頃。
 なおも気温が下がり続ける地上、“市街”ではもはや誰一人として屋外に出られない。
そんな中、誰からともなく人々は窓越しに空を見上げる。
「あ……」
「あれ、何?」
 エルフリーデ・ラッセルが見上げた空にも『それ』は変わらず存在していた。

 ――銀河に浮かぶ光の蛇。

 それはごく小さく見えたが、徐々に形を変え、大きくなりつつあるように思われた。
その変化に伴って胸中に湧き上がりつつある不安は何だろう?
 その輝きが青白く見えたのは、『それ』が高速で惑星Ziに接近しつつあり、ドップラー
効果によって光のスペクトルが偏移したためだったのだが、彼女にそれを知る術はない。
 同様に、その光が見せる姿は「いつ」のものだったのかも解りようがなかったはずなの
だが――どういうわけかそれを目にした人々は確信するのである。
 「あれはかなり大きい」と。

279 :Full metal president185 ◆5QD88rLPDw :2007/04/22(日) 00:26:52 ID:???
「ジェネレーターの処理も完了と。しかし本格的に沈み始めた様です。
しかし…あの人孫共々ベルゼンラーヴェで乗り逃げしてしまいましたし…。
本当に困った困った…はっはっはっはっは。」
本来致命的な状況の筈だが老人は笑うのみ。
「おや?この音は…こんな所に居ましたか。」
戦闘を避けるようにバハムートの外側にファインは逃げると、
海にそのまま足からダイブする。
舞い降りたのも束の間巨大な黒い影が彼を攫っていく。
偶々の遭遇らしいがきっととある事件の関係者が居たのなら驚いたであろう。

「「(くっ…攻めづらい。爪のせいでもあるがそれ以上に相手の実力だ。)」」
両者完全に有効な攻め手を失った状態での戦闘がバハムート体内で繰り広げられる。
両者共に実力的には10本の指に入るであろう強者同士。
軽快な金属音が断続的に続き…
終いには両者の頭の中で一定のリズムの周期で思わず打ち合ってしまう。
そんな状況が続くためお互いに絶対に否定したい在る可能性が脳裏を過る。
その途端両者は壮絶に怒号を上げて勝負に出る事にする。
「「躍らされてたまるものかああ!」」
今回は両者別々の場所に攻撃が届き機体を傷つける。
スタッグドレイクはパープルオーガの背鰭数枚を撥ね飛ばし…
パープルオーガの振るう”爪”はスタッグドレイクのクワガタの擬頭を引き裂く。

「(失敗。修復プログラムヲ一時停止。対象データヲパージ。
セントラルワイザーニ指示ヲ求ム。)」
「(セントラルワイザーヨリデストロイド2ヘ。大壊竜ジェノサイラノ修復計画ヲ一時断念。
リジェネレイトスナッチヲ行イゴジュラスギガヲシエンセヨ。)」
「(デストロイド2了解。ダミーノ処理ヲ乞ウ。)」
「(セントラルワイザー了解。ダミーヲ消去スル。)」
その時ゼクトールが持ち帰ったゾイドが爆散する…
だがそこには既に人影も無くダミーのデータを別室で興味深く除く女性の姿があった。
「ふふん…大したダミーね。これでもデスザウラーを軽く凌ぐゴジュラスタイプ。
ノイ・コアブロックなんて世界を滅ぼす気だったのかしらねぇ?」

280 :Full metal president186 ◆5QD88rLPDw :2007/04/22(日) 01:37:59 ID:???
一向に帰ってこない合方ゼクトールを無視してレインはデータを調べ出す。
「”ノイ・コアブロック”。
封印戦役中に開発されたブロックス技術の到達点の一つ。
これを搭載したゾイドを一般に”ノイの血統”と呼称。通常のゾイドコアと同等の本能。
それによるコアブロックの発電効率、コンデンサー容量の劇的な増大。
それで本来の頭部存在によるモーションデータのダウンロード機能。
同じくブロックス同士の経験の共有可能と…。
生産組織が一つに限られていた為に詳細は不明だが推定範囲で総数4000体。
その全てのコアがスペルキャスターの能力保有。
…これで今の時代があること自体が或る意味奇跡ね。」
酷い話である。彼女の思うにこれだけの戦力でその組織が敗北した。
こんな事が無ければ自分達はわざわざ世界の壁を越えてこの世界に来る事も無かった。
そしてこんな日陰仕事に徹する必要もなかったのである。
きっとそれを指揮していた者の指揮能力は…語るべくもなくだ。

「帝国製ゴジュラスギガ!?デスメテオVか!」
マクレガーは兜を排しその姿を表した存在を見て正直驚きを隠せない。
現役中何度か会敵した最悪の敵兵器の姿がそこに在るのだ。
鼻先の大型モノスコープの無機質な表情は忘れることは絶対にできない。
OSの影響で凶暴化したデスザウラーを大人しくさせるための通称メテオシステム。
それを搭載した3機種目のゾイド。唯の操り人形と化した元同胞の異形の姿。
両者は沈み行く艦内で微動だにせず構える。

そんな中パープルオーガの背鰭が突然瞬間修復すると、
その二対が急速に変異しギが専用ウェポンバックに変わる。
その内一つの両側に”爪”が接続されると…
いつの間にか足元に転がっていたショックマシンガンがもう一つに付いている。
「…相当危ない代物だな。この”爪”は。物体に姿と質量までコントロールできるなんて。
よし…逃げよう!目的は果たした!」
対峙より1分も経たぬ内にパープルオーガは現状からの逃避を開始。
「こっちも帰るか…ここにもう用は無い。相手が逃がしてくれるならそれで良い。」
デスメテオVも残った羽を羽ばたかせその場を離れる。

281 :Full metal president187 ◆5QD88rLPDw :2007/04/22(日) 02:28:04 ID:???
沈み行くバハムート。
そこには既に彼のコア以外生命は無く静かに海に抱かれ沈んでいく。
世界は妙な出会いをマクレガーにもたらし、
仲々引退できないファインは孫娘と嘗ての天敵に機体を乗り逃げされる。
他の世界からこの世界へ来る羽目になった者には骨折り損のくたびれ儲け。
ゼクトールの放った招喚光線を皮切りに始まった妙な争奪戦は、
その舞台を沈めて終結するに至った。

世界に意思が在るというのなら?
きっと世界は喜劇と悲劇をまだ見足りないのであろう…。
だから世界はまだ明後日の方向へ…
惑星Ziの歴史は本来と離れた方向へ直走る真っ最中である。
本当なら…この星は、少なくともデルポイ周辺とうに平和である筈なのだから…。

ー 閃光の封印存在 終 ー

282 : ◆.X9.4WzziA :2007/04/23(月) 20:51:18 ID:???
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自分でバトルストーリーを書いてみようVol.25
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